— 24 —
化 学
第1問 次の文章を読み,問ア ~コ に答えよ。必要があれば以下の値を用いよ。
アボガドロ定数 N A = 6.0 × 10 23 m o l − 1
気体定数 R = 8.31 × 10 3 P a · L · K − 1 · m o l − 1 ,2 = 1.41 ,3 = 1.73
物質の①沸点と②融点は,物質を構成する原子間,イオン間や分子間にどのような結合が形成され,どのような力が働くかによって決まる。例えば,図1—1に 14 族から 17 族の水素化合物の分子量と大気圧における沸点の関係を示すとおり,③元素の族によらず共通の傾向がある。一方,金属の融点はさまざまであり,タングステンのように融点が 3000 ∘ C を超える金属もあれば,④水銀やガリウムのように低い融点をもつ金属もある。
状態図は,温度と圧力を変化させたときに物質がとる状態を表す。さまざまな圧力における沸点や融点を読み取れるだけでなく,⑤圧力を変えたときの物質の状態の変化,⑥蒸気圧降下,沸点上昇,凝固点降下といった希薄溶液の性質や,⑦昇華や凝華(注1)といった現象も状態図を用いて理解できる。また,状態図には,ある特定の温度と圧力で現れる特徴的な状態も表される。例えば,図1—2に示した水の状態図において,点Tは固体,液体,気体が共存する⑧三重点である。点Cは⑨臨界点であり,点Cにおいて液体と気体の密度が一致する。温度と圧力が点Cの値を超える領域(図1—2の網掛け部分)は超臨界状態とよばれ,この状態において物質は液体と気体の両方の性質をもつ。
(注1)凝華:物質の状態が気体から固体に変化すること。
— 25 —
図1—1 水素化合物の沸点
図1—2 水の状態図
〔問〕
ア 下線部①と③に関して,図1—1に示した水素化合物のうち,分子量が 30 を超える物質に着目すると,分子量が大きいほど高い沸点をもつ傾向がある。このような傾向がある理由を簡潔に述べよ。
イ 下線部②に関して,C a O ,K F ,M g O ,N a F の結晶構造は全て塩化ナトリウム型であり,表1—1は各物質の単位格子の一辺の長さ a を示す。これらの物質を,融点の高い順に左から並べよ。
表1—1 単位格子の一辺の長さ
— 26 —
ウ 下線部④に関して,金属元素のうち,大気圧における単体の融点が 100 ∘ C 未満であるものを,水銀とガリウム以外から 1 つ答えよ。ただし,安定に存在する同位体をもつ金属元素から答えること。さらに,答えた金属元素の単体が低い融点をもつ理由を簡潔に述べよ。
エ 下線部⑤に関して,図1—2に示すように,大気圧下で 0 ∘ C よりもわずかに低温の点Mから,温度を一定に保ったまま圧力がゆっくりと上昇したとき,氷は点Nの圧力において融解し水となる。これは,点Nにおける氷の密度が水と比べて低いためである。氷の結晶構造に関する以下の説明文を読み,大気圧,0 ∘ C における氷の密度を計算し,水の密度と比べて低いことを示せ。答えに至る過程も記せ。なお,大気圧,0 ∘ C における水の密度は 1.00 g · c m − 3 としてよい。
〔説明文〕
大気圧,0 ∘ C における氷の結晶構造を図1—3に示す。氷において,酸素原子の位置は規則正しく繰り返されている。一方,水素原子は,隣接する 2 つの酸素原子の間にあり,共有結合と水素結合で隣接する酸素原子と結びついている。この結晶構造の単位格子は,図1—4に示すように,一辺の長さが 0.45 n m ,内角の 1 つが 120 ∘ のひし形の底面をもち,高さが 0.74 n m の四角柱の形状である。この単位格子において,全ての酸素原子は長方形DEFG上にあり,図1—5はその様子を示している。
— 27 —
図1—3 氷の結晶構造
実線は共有結合を,破線は水素結合を示す。
図1—4 氷の単位格子
水素原子を省略している。
図1—5 図1—4のDEFGを通る断面図
オ 下線部⑥および⑧に関して,水に不揮発性の物質を少量溶解させたときに,図1—2の三重点Tの(A)温度と(B)圧力はどのように変化するか。(A)と(B)のそれぞれの変化について,次の(1)~(3)から選べ。
(1) 上昇する
(2) 変化しない
(3) 低下する
カ 下線部⑥に関して,希薄溶液の溶媒の蒸気圧 p は溶媒のモル分率 x に比例し,純粋な溶媒の蒸気圧 p 0 を用いて p = x p 0 と表される。これをラウールの法則という。いま,少量の不揮発性の物質を水に溶解させた水溶液Sを調製し,水溶液Sと水の蒸気圧を比べたところ,水溶液Sの蒸気圧 P は水の蒸気圧 P 0 と比べて低く,両者の差 Δ P = P 0 − P は P 0 に対して 0.0720 % だった。大気圧における,水溶液Sと水の沸点の差は何 K か,有効数字 2 桁で求めよ。答えに至る過程も記せ。なお,水のモル沸点上昇の値 K b = 0.52 K · k g · m o l − 1 を用いてよい。また,蒸気圧降下の大きさの温度変化は無視してよい。
— 28 —
キ 下線部⑦の状態の変化は,固体の無機物や有機物の精製に使われる。以下に,ある化合物Aの精製(昇華精製)の説明文を記す。説明文中の下線部⑩のようにして,化合物Aをガラス容器の中間(位置Y)に凝華させるべき理由を述べよ。なお,理由には,化合物Aが凝華したときに図1—6のX,Zの各位置に存在する物質に関する記述を含めること。
〔説明文〕
化合物Aとさまざまな不純物を含む粉末がある。この粉末を,図1—6に示すように,円筒形のガラス容器の左端(位置X)に置いた。次に,粉末が飛散しないように気をつけながら,真空ポンプを用いてガラス容器内を減圧し,低い圧力 P 1 に保った。続いて,⑩ガラス容器を加熱することで図1—6のグラフのようにガラス容器内に温度勾配をつけ,十分な時間保持した。その結果,位置Yに化合物Aが凝華した。X,Zの各位置には固体の物質が存在した。その後,加熱をやめ,高い純度の化合物Aを位置Yから回収した。
図1—6 化合物Aの昇華精製の概略図
— 29 —
ク 昇華精製は,さまざまな溶媒に対して低い溶解度をもつ固体物質の精製によく用いられる。一方,いずれかの溶媒に十分に溶解する固体物質の精製には,a ,b やクロマトグラフィーといった,溶媒を用いる手法が用いられることが多い。また,溶媒に十分に溶解する物質であっても,さらに純度を高めるために,⑪溶媒を用いる手法により精製された後に,昇華精製が行われることもある。a とb にあてはまる最も適切な語句をそれぞれ 5 文字以内で記せ。また,下線部⑪の手順において昇華精製が行われる理由のうち,溶媒に関係する理由を簡潔に述べよ。
ケ 下線部⑨に関して,臨界点Cにおける水蒸気の実際の密度は,理想気体の場合と大きく異なる。理想気体を仮定したときに,点Cに近い温度 377 ∘ C (650 K )と圧力 2.00 × 10 7 P a における水蒸気の密度〔g · c m − 3 〕を有効数字 2 桁で求めよ。答えに至る過程も記せ。
コ 下線部⑨に関して,臨界点Cでは密度だけでなく熱やエネルギーについても特徴的な性質が現れ,曲線TCに沿って点Cに向かうとc が 0 に近づき,点Cにおいて 0 になる。c にあてはまる最も適切な語句を答えよ。
— 30 —
第2問 次の文章を読み,問ア ~サ に答えよ。必要があれば以下の値を用いよ。
log 10 0.5 = − 0.30 ,log 10 0.7 = − 0.15
なお,[物質]は,ある物質の溶液中のモル濃度を表す。
火山で噴気として放出されるガス(火山ガス)は,その①大部分を水蒸気が占め,他には二酸化炭素,硫化水素,二酸化硫黄,塩化水素等が含まれる。火山ガスを②水酸化カリウム水溶液等の塩基性水溶液に通すと,二酸化炭素,硫化水素,二酸化硫黄,塩化水素は溶液に溶ける。③この溶液中の各イオンの濃度を測定することで,火山ガス中の二酸化炭素と塩化水素の濃度を求めることができる。一方,硫化水素と二酸化硫黄は採取後に溶液中で互いに反応し,単体の硫黄を生成するため,この方法で火山ガス中の硫化水素と二酸化硫黄の濃度を求めることは難しい。そこで別に,④ヨウ素酸カリウム(K I O 3 )とヨウ化カリウムの塩酸酸性水溶液に火山ガスを通じ,⑤硫化水素と二酸化硫黄をヨウ素と反応させ,それぞれ単体の硫黄と硫酸イオンを生成させる。この単体の硫黄と,溶液中の硫酸イオンを分けて定量することで,火山ガス中の硫化水素と二酸化硫黄の濃度を求める。
火山ガスに含まれる⑥水と硫化水素は,ともに 16 族元素A(O ,S ,S e ,T e )からなる H 2 A 分子である。16 族元素の H 2 A 分子の沸点を比べると,水の沸点が他より異常に高い。これは水分子間に働く水素結合に由来する。⑦水素結合を X − H δ + ⋯ Y δ − (XとYは主に酸素原子や窒素原子)と表記すると,X − H δ + と Y δ − の間には,主に静電気的な引力が働いている。
〔問〕
ア 下線部①に関して,図2—1のように火山ガスを氷水で冷却し,火山ガス中の水蒸気が凝縮した水を主とする液体(凝縮水)と,残留気体に分けて採取した。全ての二酸化硫黄は硫化水素と反応し,単体の硫黄を生成した。一方,二酸化炭素,硫化水素,塩化水素は,凝縮水か残留気体のいずれかに含まれていた。これら 3 つの成分が,それぞれ凝縮水と残留気体のいずれに主に含まれるか,理由とともに答えよ。
— 31 —
図2—1 火山ガスからの凝縮水と残留気体の分取
イ 下線部②に関して,塩基性水溶液として水酸化カルシウム水溶液を使うと,はじめは炭酸カルシウム等の沈殿が生じるが,さらに火山ガスを通し続けると沈殿の量が減少する。これは炭酸カルシウムの沈殿が溶け,炭酸水素イオンとカルシウムイオンが生じるためである。
炭酸水素カルシウムは固体として単離されないため,水への溶解度を実験的に求めることはできない。しかし,炭酸カルシウムの沈殿の溶解が進行し,沈殿が完全に消失したとき,水溶液中に溶けている炭酸水素イオンとカルシウムイオンの量から,みかけの溶解度を理論的に計算することは可能である。
水酸化カルシウム水溶液に過剰の二酸化炭素を加え,炭酸カルシウムの沈殿が完全に消失したとき,水溶液の p H は 8.3 であった。このとき,炭酸水素カルシウムのみかけの溶解度〔m o l · L − 1 〕として,最も近いものを以下の(あ)~(お)から選べ。ただし計算の過程を示すこと。
必要に応じて以下の定数を用いてよい。
炭酸カルシウムの溶解度積 K s p = 5.0 × 10 − 9 ( m o l · L − 1 ) 2
K 1 = [ H + ] [ H C O 3 − ] [ C O 2 ] = 5.0 × 10 − 7 m o l · L − 1
K 2 = [ H + ] [ C O 3 2 − ] [ H C O 3 − ] = 5.0 × 10 − 11 m o l · L − 1
(あ)5 × 10 − 4
(い)5 × 10 − 3
(う)5 × 10 − 2
(え)5 × 10 − 1
(お)5
— 32 —
ウ 下線部③に関して,水溶液中の塩化物イオン濃度の測定には,クロム酸カリウム水溶液を指示薬として,硝酸銀水溶液により滴定する方法(モール法)がよく用いられる。しかし,下線部③の溶液中の塩化物イオン濃度は,モール法では正しく定量できない。その理由を述べよ。
エ 下線部④の水溶液中でヨウ素が生成する反応式を書け。
オ 下線部⑤に関して,二酸化硫黄がヨウ素を含む水溶液に溶け,亜硫酸が生じる反応式と,亜硫酸とヨウ素が反応して硫酸が生じる反応式をそれぞれ記せ。
カ 下線部⑤に関して,火山ガス中のほぼ全ての硫化水素はヨウ素と反応して単体の硫黄を生じるが,その硫黄がさらにヨウ素と反応して亜硫酸を生じることはない。これにより硫化水素に由来する単体の硫黄と,二酸化硫黄に由来する硫酸を分別して定量できる。硫化水素とヨウ素が反応して単体の硫黄を生じる平衡反応と,単体の硫黄とヨウ素が反応して亜硫酸が生じる平衡反応の,反応式をそれぞれ記せ。また,実際にはこれらの平衡反応のいずれにおいても,硫黄を含む物質として単体の硫黄のみが生じる理由を述べよ。
キ 下線部⑥に関して,分子の形は,電子対(共有電子対や非共有電子対)の間に働く静電気的な反発が最も小さくなる構造から推定できる。16 族元素の H 2 A 分子には,2 つの A − H 結合の共有電子対と,A原子上の 2 つの非共有電子対がある。これら 4 つの電子対が,A原子を中心とした四面体の頂点方向に配置される場合に,電子対間の反発は最も小さい。そのため,16 族元素の H 2 A 分子は折れ線構造をとると推定される。
亜硫酸イオンの電子式を示し,上記を踏まえて亜硫酸イオンがとりうる立体構造を推定して図示せよ。またそのように推定した理由も簡潔に述べよ。ただし硫黄と酸素の間の結合はいずれも等価とする。なお立体構造を図示する際は,図2—2に示す六フッ化硫黄の例を参考にしてもよい。
図2—2 六フッ化硫黄の立体構造を表す模式図
— 34 —
ク 下線部⑦に関して,X − H δ + を水素結合のドナー,Y δ − を水素結合のアクセプターと呼ぶ。水素結合のドナー部位をもつ分子Gとアクセプター部位をもつ分子Qが,ある溶媒中で水素結合を介して複合体 G · Q を形成する式(1)の平衡を考える。
このとき,溶媒の影響を無視し,式(1)の反応の平衡定数(K G Q )を式(2)で定義する。
K G Q = [ G · Q ] [ G ] [ Q ] ( 2 )
つづいて,溶媒の影響を考慮し,G · Q の形成を考える。溶媒分子(W)が水素結合のドナー部位とアクセプター部位を併せもつ場合,複合体を形成していないGとQはWと水素結合を形成し,この状態を G · W ,W · Q と表す。G · W と W · Q から G · Q の形成に伴い,2 つのWが水素結合を介して二量体 W · W を形成すると仮定すると,溶媒Wの中で G · Q を形成する平衡は式(3)で表される。
ここで,G · W ,W · Q ,W · W それぞれの形成を式(1)と同じように表し,これらの平衡定数 K G W ,K W Q ,K W W を式(2)と同様に定義する。式(3)の平衡定数(K )を K G W ,K W Q ,K G Q ,K W W を使って表せ。
— 35 —
ケ 問ク において,式(1)の反応の平衡定数 K G Q の常用対数(log 10 K G Q )が,α G と β Q の積で表されるとする(式(4))。
log 10 K G Q = α G β Q ( 4 )
ここで,α G をGのドナー定数,β Q をQのアクセプター定数と呼ぶ。これらはともに正の実数であり,GとQが互いに相互作用する部分の電荷の絶対値に比例する。
Wのドナー定数とアクセプター定数をそれぞれ α W ,β W とする。ここで,log 10 K G W ,log 10 K W Q ,log 10 K W W は式(5)~(7)で表されるとする。
log 10 K G W = α G β W ( 5 )
log 10 K W Q = α W β Q ( 6 )
log 10 K W W = α W β W ( 7 )
このとき問ク の式(3)の平衡が右に偏る条件が,以下の 2 つのいずれかであることを示せ。
α G > α W かつ β Q > β W (条件 1)
α G < α W かつ β Q < β W (条件 2)
コ 問ケ の条件 1 と 2 それぞれについて,G · Q を形成する駆動力を説明せよ。
サ 問ク とケ の考え方は,GとQの間に水素結合を形成しない場合にも拡張できる。セッケンを水に溶かして生じる脂肪酸イオンは親水部と疎水部をもち,ある濃度以上になると水中でミセルを形成する(図2—3)。ミセルの形成では,式(3)のGとQがそれぞれ何に相当するか,図2—3中の(か)~(け)から選べ。また,このとき条件 1 と 2 のどちらが成立しているか,その理由とともに答えよ。
図2—3 ミセルの形成の模式図
セッケン由来の脂肪酸イオンおよびミセルに近接する水分子のみを模式的に示している。
— 36 —
第3問 次の文章を読み,問ア ~ケ に答えよ。なお,アミノ酸やペプチドの構造式は,それぞれのアミノ基,N末端を左側に置いて描くこと。特に指示がない限り,官能基の電離状態を考えなくてよい。必要があれば以下の原子量を用いよ。
H : 1.0 ,C : 12 ,N : 14 ,O : 16 ,S : 32
ペプチドは,構成要素となる複数のアミノ酸の間でアミノ基とカルボキシ基が脱水縮合してできた化合物で,鎖状のペプチドは,図3—1(a)に示すとおりN末端とC末端をもつ。図3—1(b)に示すα-アミノ酸においては,側鎖(R)が水素以外の場合,①L型とD型の鏡像異性体が存在する。
ペプチドは,脱水縮合を促進する試薬である「縮合剤」を用い,複数のアミノ酸を脱水縮合することで化学合成できる。②アミノ酸は分子内にアミノ基とカルボキシ基を両方もつため,目的のペプチドを高い効率で合成するためには,これらの官能基の反応性を適切に制御することが重要である。有機化学では,反応性の高い官能基を反応性の低い官能基に変換しておくことを「保護」といい,この目的に使用する原子団(基)を「保護基」という。また,保護基を適切な反応によって除去し,反応性の高いもとの官能基に戻すことを「脱保護」という。③ペプチドの合成では,ペプチドの化学構造や脱水縮合の条件を考慮し,適切な保護基を選択する必要がある。
ペプチドの合成法には,全ての反応を均一な溶液中で行う「液相合成法」と,不溶性の合成樹脂の細粒(樹脂ビーズ)上で反応を行う「固相合成法」がある。④固相合成法を用いると,数十個以上のアミノ酸が結合したポリペプチドの簡便な合成が可能になる。これにより生命科学研究や医薬品開発が飛躍的に進歩した。
図3—1 ペプチドのN末端・C末端の定義と,α-アミノ酸の構造
(a)ペプチドのN末端とC末端の定義。(b)L型とD型α-アミノ酸の一般的構造。図の破線—くさび型表記では,破線で表される結合(
)が紙面奥側に,くさびで表される結合(
)が紙面手前側に出ていることを表す。なお,紙面奥側,手前側の結合を左右どちらに表記しても同じ構造を表す。
— 37 —
表3—1 本問に関連するα-アミノ酸の名称,側鎖(R)の構造,分子量
〔問〕
ア ビウレット反応を用いると,一般的にトリペプチド以上の長さのペプチドを検出できる。この反応に使用する最も適切な試薬を選択肢(1)~(5)から,また反応を行う水溶液の液性を選択肢(6),(7)からそれぞれ選べ。
(1) F e C l 3
(2) F e C l 2
(3) C u 2 O
(4) C u S O 4
(5) K M n O 4
(6) 酸性
(7) 塩基性
イ アミノ酸 A 1 ,A 2 ,A 3 ,A 4 から構成される鎖状テトラペプチドXの化学構造を決定する実験を行ったところ,以下のように結果 1 ~ 8 を得た。アミノ酸 A 1 ,A 2 ,A 3 の名称をそれぞれ書け。L型とD型を区別する必要はない。また,A 4 として考えうるアミノ酸の構造式を図3—2を参考にして全て描け。アミドの C − N 結合は自由に回転できるものとする。
図3—2 構造式の例
不斉炭素原子をもつ場合には,図3—1(b)に準じて破線—くさび型表記を用いよ。
結果1:A 1 ,A 2 ,A 3 ,A 4 は全て異なるアミノ酸であった。
結果2:ペプチドXの配列はN末端から順に A 1 ,A 2 ,A 3 ,A 4 であった。
結果3:A 1 ,A 2 ,A 3 はいずれもα-アミノ酸で,側鎖(R)は表3—1に示すもののいずれかであった。
結果4:A 4 は 1 つのアミノ基(− N H 2 )と 1 つのカルボキシ基以外は飽和炭化水素で構成されるアミノ酸で,環状構造をもたなかった。
— 38 —
結果5:ペプチドXを塩酸で短時間処理し,部分的にアミド結合を加水分解すると,トリペプチドa,bとジペプチドc,d,eが得られた。
結果6:結果5で得られたa,b,c,d,eについて,p H 7.0 の緩衝液を用いて電気泳動を行ったところ,aとcのみが陰極側に移動した。
結果7:結果5で得られたcの分子量は 220 未満であった。また,cを完全に加水分解して得られたアミノ酸のうち,p H 7.0 の緩衝液中,電気泳動で陰極側に移動したアミノ酸を元素分析した結果,質量百分率が C : 49.3 % ,H : 9.6 % ,N : 19.2 % ,O : 21.9 % であった。
結果8:結果5で得られたa,b,c,d,eのうち 1 種類のペプチドは立体異性体をもたず,そのペプチドの分子量は 150 以上 170 未満であった。
ウ 下線部①に関連して,化合物Bから触媒Cを用いて,D型アラニンに容易に変換可能な化合物Dを合成した(図3—3)。これに関する以下の文章の空欄あ ~う にあてはまる最も適切な語句を記せ。なお,う は「奥」または「手前」のいずれかで解答せよ。
図3—3 化合物Bと触媒Cを用いた化合物Dの合成反応式
破線—くさび型表記は図3—1(b)に準ずる。
化合物Bの水素化を行う際に,鏡像異性体の一方である触媒C(不斉触媒)を用いたところ,化合物Dが化合物Eよりも多く生成した。この反応の遷移状態では,化合物B,触媒C,水素の 3 成分から複合体が生じる。このとき,水素が図3—3における化合物Bの紙面手前側から反応するか,奥側から反応するかによって,あ の関係に相当する 2 種類の遷移状態が形成される。あ は物理的・化学的性質が異なるため,2 種類の遷移状態を経由する反応経路において,い に差が生じる。図3—3の反応では,水素が紙面う 側から反応する方がい が小さいため反応が進行しやすく,化合物Dが多く生成した。
— 39 —
エ 下線部②に関連して,同じ物質量のL型アラニンとグリシンを溶媒中で混合し,縮合剤を作用させた。このとき生じうる鎖状ジペプチドは何種類考えられるか,数字で答えよ。ただし,不斉炭素原子に結合した原子および原子団(基)の立体的な配置は変化しないものとする。
オ 下線部②に関連して,L型アラニンのアミノ基がアセチル基で保護された化合物と,グリシンのカルボキシ基がエチルエステルとして保護された化合物を脱水縮合して得られる,保護されたジペプチドの構造式を問イ の図3—2に記載された構造式の例にならって描け。
カ 下線部③に関連して,ポリペプチドの合成について考える。適切な保護基をもつアミノ酸を用いると,N末端とC末端の両方が保護されたジペプチドのN末端のアミノ基のみを選択的に脱保護できる。こうして得られたC末端が保護されたジペプチドと,アミノ基が保護された別のアミノ酸を脱水縮合すれば,N末端とC末端の両方が保護されたトリペプチドが得られる。このように脱保護—脱水縮合を繰り返し,最後に脱保護することで配列を制御してポリペプチドを合成できる。ここで,アミノ基がアセチル基で保護されたアミノ酸を用いると,ポリペプチドの収量が大幅に低下してしまう。この理由を脱保護時に起こりうる具体的な反応に言及し,簡潔に説明せよ。
キ 下線部④に関して,固相合成法の概略を図3—4および図3—5に示す。目的のペプチドを高い純度で合成するためには,液相合成法,固相合成法いずれの場合も,各工程において未反応の保護されたアミノ酸や縮合剤由来の不要な生成物などを除く精製操作が必要である。液相合成法では,カラムクロマトグラフィーなどの煩雑な精製操作が必要であるが,固相合成法では精製操作を大幅に簡略化できる。固相合成法においてどのような実験操作を行うと,不要な化合物を効率的に除去できるか,簡潔に説明せよ。
— 40 —
図3—4 テトラペプチドを例としたペプチド固相合成の手順
保護されたアミノ酸 Y 1 ~Y 4 を用いて,樹脂ビーズ上でペプチド鎖をN末端方向に伸長させ,最後に脱保護,および樹脂ビーズ上の官能基とペプチドの間の結合を分解する反応を行うことで,目的のペプチドが得られる。樹脂ビーズには多数のペプチド鎖が結合しているが,図では簡略化のため,そのうちの 1 本のペプチド鎖のみが描かれている。
— 41 —
図3—5 ペプチド固相合成中の反応容器の様子
ク 図3—4にしたがって,それぞれ適切に保護されたグリシン,D型アスパラギン酸,D型リシン,L型チロシンを順に用い,ペプチドZを得た。Zを水酸化ナトリウム水溶液中に溶解させた際,最も多く存在するZのイオンの構造式を,官能基の電離状態を考慮して描け。なお,図3—6に示したペプチドの部分構造を解答用紙に描き写し,図3—1(b)も参考にしながら,破線—くさび型表記を用いて,必要な構造を描き加えて完成させよ。アミド結合の N H は電離せず,アミノ酸側鎖はペプチド合成時に反応に関与しないものとする。また,水酸化ナトリウム水溶液中でペプチド結合は安定に存在し,不斉炭素原子に結合した原子および原子団(基)の立体的な配置は変化しないものとする。
図3—6 解答用紙に描き写すペプチドの部分構造
ケ 図3—4に示す固相合成の途中で,保護されたアミノ酸 Y 3 の脱水縮合(工程❸)の実験操作が終わり,ペプチドのN末端の脱保護を行う前に,樹脂ビーズを一部小分けにした。この小分けした樹脂ビーズをニンヒドリン溶液に浸し加熱したところ,青紫色を呈した。この結果を踏まえ,目的のテトラペプチドを高い収量で得るために,次に行うべき適切な実験操作を,理由とともに簡潔に述べよ。なお,保護基が脱保護の反応条件以外で除去されることはなく,ペプチド中のアミノ酸側鎖の影響は考慮しないものとする。
第1問 氷・水・水蒸気 — 状態図で見る物の状態 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 前半は「沸点・融点は、粒どうしがどれだけ強く引きあうかで決まる」という話。分子なら分子間力(ファンデルワールス力や水素結合)、イオン結晶ならイオンどうしのクーロン力(電気の引きあい)、金属なら金属結合の強さを考える。
後半は水の状態図 (温度を横、圧力をたてにとって、固体・液体・気体のどれになるかを示した地図)を読む問題。3本の線(氷と水・水と水蒸気・氷と水蒸気の境目)が1点で交わる所が三重点 T、水と水蒸気の境目の線が終わる所が臨界点 C。
溶かした物で線がどうずれるか(オ・カ)、線をまたいで気体→固体にする精製(キ)、臨界点近くで理想気体の式がどれだけずれるか(ケ・コ)を順に考える。
ア 図1—1 で分子量 30 を超えるのは、S i H 4 ・P H 3 ・H 2 S ・H C l と、それより重い物(同じ族の下のほうの水素化合物)。これらは H 2 O ・H F ・N H 3 と違って水素結合(O・N・F に付いた H が、となりの分子の O・N・F と強く引きあうこと)をしない。
水素結合が無いとき、分子どうしを引きつけるのはファンデルワールス力(どの分子の間にも働く弱い引きあい)。分子量が大きい分子は電子が多く、電子のかたよりが起きやすいので、この引きあいが強くなる。引きあいが強いほど、分子をばらばらにする(沸騰させる)のに高い温度が要る。
答え 分子量が大きいほど分子の電子が多く、分子の間に働くファンデルワールス力が強くなるから(分子量 30 を超える物は水素結合をしない)
イ イオン結晶の融点は、イオンどうしのクーロン力が強いほど高い。クーロン力は「電荷どうしのかけ算」に比例し、「イオンの中心どうしの距離」が小さいほど強い。塩化ナトリウム型では、となりの陽イオンと陰イオンの距離は a 2 。
まず電荷。M g O ・C a O は 2 + と 2 − で、かけ算は 4。N a F ・K F は 1 + と 1 − で 1。電荷の違いが 4 倍と大きいので、酸化物 2 つが上。
次に距離。表1—1 で a は M g O 0.42 nm、C a O 0.48 nm なので M g O が上。N a F 0.46 nm、K F 0.53 nm なので N a F が上。目安の「電荷のかけ算 ÷ a 2 」は、M g O 19.0、C a O 16.7、N a F 4.35、K F 3.77。
電荷が先に効き、大きさはその次。C a O は N a F より大きいのに、電荷のおかげでずっと融点が高い。
ウ 融点が 100 ℃ 未満の金属は、水銀・ガリウムのほかに、アルカリ金属(周期表の1族の金属)がある。ナトリウム約 98 ℃、カリウム約 64 ℃、ルビジウム約 39 ℃、セシウム約 28 ℃。フランシウムは安定な同位体が無いので答えにできない。
金属結合は、原子が出した価電子(いちばん外側の電子)が原子のあいだを自由に動き回り、陽イオンどうしをつなぎとめる結合。アルカリ金属は価電子が 1 個しかなく、しかも原子が大きいので、陽イオンと電子の引きあいが弱い。だから結合が弱く、低い温度でとける。
答え カリウム(ほかにナトリウム・ルビジウム・セシウムでもよい)。価電子が 1 個で原子が大きく、金属結合が弱いから
エ 密度 = 質量 ÷ 体積 を、単位格子1つで計算する。
体積:底面は一辺 0.45 nm、内角 120° のひし形で、面積は 0.45 2 × sin 120 ∘ = 0.45 2 × 3 2 。高さ 0.74 nm をかけて
V = 0.45 2 × 1.73 2 × 0.74 ≈ 0.1296 n m 3 = 1.296 × 10 − 22 c m 3
(1 n m = 10 − 7 c m なので、1 n m 3 = 10 − 21 c m 3 。)
中の分子の数:図1—5 で、O 原子はすべて長方形 DEFG の上にあり、どれも単位格子の内側にある(辺や頂点で、となりの格子と分けあっていない)。数えると O は 4 個、つまり H 2 O が 4 個。
4 × 18.0 6.0 × 10 23 × 1.296 × 10 − 22 ≈ 0.93 g / c m 3
水の 1.00 より小さい。氷では1つの O が4本の手(共有結合2本と水素結合2本)でまわりと決まった向きにつながるので、すき間の多い形になる。水になるとこの形がくずれて、分子がすき間に入りこめる。
答え 体積 0.45 2 × 1.73 2 × 0.74 = 0.1296 n m 3 = 1.296 × 10 − 22 c m 3 , 中に H 2 O 4 個(図1—5 の O はどれも単位格子の内側) : 4 × 18.0 6.0 × 10 23 × 1.296 × 10 − 22 = 0.926 ≈ 0.93 g / c m 3 < 1.00
オ 三重点は、「水と水蒸気の境目の線(水の蒸気圧の線)」と「氷と水蒸気の境目の線(氷の蒸気圧の線)」が交わる点。
不揮発性の物質(蒸発しない物質)を溶かすと、水の蒸気圧は下がる(蒸気圧降下)。溶けた物は氷の中には入らず、氷は純粋なままなので、氷の蒸気圧の線は動かない。
水の線だけが下へずれるので、2本の交わる点は、動かない氷の線にそって左下へすべる。左は温度が低い、下は圧力が低い、の意味。凝固点降下(溶かすと凍る温度が下がる)を、状態図の上で見たことになる。
答え (A) (3) 低下する (B) (3) 低下する
カ ラウールの法則 P = x P 0 で、x は水のモル分率。溶けた物のモル分率を x s とすると x = 1 − x s なので
Δ P P 0 = P 0 − P P 0 = x s = 7.20 × 10 − 4
沸点上昇の式 Δ t = K b m を使うには、質量モル濃度 m (水 1 kg に何 mol 溶けているか)が要る。水 1 kg は 1000 18.0 ≈ 55.6 mol で、溶けた物はとても少ないので、溶けた物の物質量はほぼ 55.6 × x s :
m ≈ 55.6 × 7.20 × 10 − 4 ≈ 0.040 m o l / k g
Δ t = 0.52 × 0.040
溶けた物が分子でもイオンでも、効くのは粒の数だけなので、蒸気圧の下がり方が同じなら沸点の差も同じになる。
答え 溶けた粒のモル分率 = 7.20 × 10 − 4 ⇒ 水 1 kg あたり 1000 18.0 × 7.20 × 10 − 4 = 4.0 × 10 − 2 m o l , Δ t = 0.52 × 0.040 = 2.1 × 10 − 2 K
キ 図1—6 のガラス容器は、左端 X が熱く、右へ行くほど冷たい。容器の中は低い圧力に保たれているので、X で温められた物は液体にならずに気体になり(昇華)、右へ流れていく。気体は、温度が「その物が凝華する温度」より低い所まで来ると固体になってたまる。
化合物 A は、その温度になっている Y でたまる。X に残る固体は、A よりもっと高い温度でないと昇華しない不純物。Z にたまる固体は、A より低い温度まで冷えないと凝華しない(A より昇華しやすい)不純物。
Y で凝華させれば、昇華しにくい不純物(X に残る)とも、昇華しやすい不純物(Z までとんでいく)とも分けて、A だけを集められる。温度の坂をつけることで、物の「固まる温度」の違いで場所を分けている。
答え X には A より昇華しにくい不純物が固体のまま残り、Z には A より低い温度でないと凝華しない(昇華しやすい)不純物が凝華する。A の昇華・凝華する温度の所(Y)で凝華させれば、どちらとも分けて A だけを集められるから
ク 溶媒(物を溶かす液体)を使う精製の代表は、再結晶 (熱い溶媒に溶かして冷やし、溶けにくくなった目的の物だけを結晶として取り出す)と抽出 (混ざらない2つの液体のうち、目的の物がよく溶けるほうへ移す)。どちらも 5 文字以内で書ける。
溶媒を使った後に昇華精製をする理由:溶媒から結晶を取り出すと、結晶の中やまわりに溶媒の分子が少し取りこまれて残る。昇華精製なら、低い圧力のもとで溶媒の分子は気体になってポンプへ抜けていき、A とは別の所に分けられる。
答え a 再結晶、b 抽出(順不同)。理由:溶媒を使うと結晶の中に溶媒が取りこまれて残る。昇華精製なら溶媒の分子は気体としてポンプへ抜け、A と分けられるから
ケ 理想気体の式 P V = n R T で、n = w M (w は質量、M はモル質量)とおくと、密度 ρ = w V は
ρ = P M R T = 2.00 × 10 7 × 18.0 8.31 × 10 3 × 650 ≈ 66.6 g / L
1 L = 1000 c m 3 なので、g/cm³ に直すと 1000 で割る。
実際の臨界点の水の密度は約 0.32 g / c m 3 で、理想気体として計算した値の 4 倍以上。分子どうしが近いので引きあいが効き、理想気体の式よりずっと混みあう。理想気体の式は「うすい気体」でしか使えないことがよくわかる。
答え ρ = P M R T = 2.00 × 10 7 × 18.0 8.31 × 10 3 × 650 = 66.6 g / L = 6.7 × 10 − 2 g / c m 3
コ 曲線 TC は、液体の水と水蒸気が一緒にいられる所。線にそって温度を上げていくと、水は熱でふくらんでだんだん密度が小さくなり、水蒸気は圧力が高くなってだんだん密度が大きくなる。臨界点 C では、2つの密度が同じになって、区別がつかなくなる。
液体を気体にするのに要る熱(液体と気体のあいだのエネルギーの差)は、2つの状態が似てくるほど小さくなる。区別がつかない C では、液体から気体へ「変わる」こと自体が無くなるので、その熱も 0 になる。デモでは、C に近づくにつれ、液体と気体の混み方がそろい、この熱の矢印が縮んでいく。
第2問 火山ガスを調べる — 溶かす・分ける・形・水素結合 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 火山ガス(ほとんどが水蒸気で、二酸化炭素・硫化水素・二酸化硫黄・塩化水素をふくむ)の中身を量る方法を題材にした問題。前半(ア〜カ)は、「どの成分が水に溶けるか」「塩基の液に通すと何が起きるか」「ヨウ素の液に通して硫黄の成分をどう分けるか」を、溶解平衡と酸化還元(電子のやりとり)で考える。
キは分子やイオンの形を、中心の原子のまわりの電子対(電子2個の組)どうしが反発して、できるだけ離れる という考え方で決める。
後半(ク〜サ)は、溶媒の中で水素結合する相手が決まるしくみ。「G と Q がくっつく」ことだけでなく、「溶媒 W と離れる」「W どうしがくっつく」ことも同時に起きる、と見るのが芯。最後に、この考え方でセッケンのミセル(油になじむ部分を内側に集めた粒)ができる理由まで説明する。
ア 冷やして出てきた水(凝縮水)に溶けるか、気体のまま残るかは、その気体が水にどれだけ溶けやすいかで決まる。
塩化水素 HCl は水にとてもよく溶け、溶けると完全に電離する強い酸。だから凝縮水のほうに入る。
二酸化炭素と硫化水素は水に少ししか溶けない弱い酸。しかも凝縮水は HCl で強い酸性になっているので、H + が多く、弱い酸の電離はさらに抑えられて(ルシャトリエの原理)、ますます溶けにくい。だから残留気体のほうに残る。
答え 塩化水素は凝縮水(水にとても溶けやすく完全に電離する)。二酸化炭素と硫化水素は残留気体(水に溶けにくい弱い酸で、HCl で酸性になった凝縮水ではなおさら溶けない)
イ 炭酸水素カルシウムが溶けた液では、C a 2 + 1 個につき H C O 3 − が 2 個ある。溶けた量を s とおくと [ C a 2 + ] = s 、[ H C O 3 − ] ≈ 2 s 。
沈殿がちょうど消えた所なので、C a C O 3 の溶解度積 [ C a 2 + ] [ C O 3 2 − ] = K s p がぎりぎり成り立っている。[ C O 3 2 − ] は K 2 の式から
[ C O 3 2 − ] = K 2 [ H C O 3 − ] [ H + ]
pH 8.3 なので [ H + ] = 10 − 8.3 = 10 − 0.3 × 10 − 8 = 0.5 × 10 − 8 = 5 × 10 − 9 mol/L(log 10 0.5 = − 0.30 を使う)。K 2 [ H + ] = 5.0 × 10 − 11 5 × 10 − 9 = 0.01 なので [ C O 3 2 − ] = 0.01 × 2 s = 0.02 s 。
s × 0.02 s = 5.0 × 10 − 9 ⟹ s 2 = 2.5 × 10 − 7
s はこの平方根で、選択肢の中から一番近いものを選ぶ。
C O 2 をたくさん通すと pH が下がり、C O 3 2 − が減るので、C a C O 3 がもっと溶けられるようになる。石灰岩が二酸化炭素をふくむ水にとけて鍾乳洞ができるのと同じしくみ。
答え [ H + ] = 10 − 8.3 = 5 × 10 − 9 , [ C a 2 + ] = s , [ H C O 3 − ] = 2 s , [ C O 3 2 − ] = K 2 · 2 s [ H + ] = 0.02 s , s × 0.02 s = K s p ⇒ s = 5 × 10 − 4 (あ)
ウ モール法は、A g + を少しずつ加えて A g C l の白い沈殿をつくり、C l − がなくなったとたんに A g 2 C r O 4 の赤褐色の沈殿ができる所を終点とする方法。A g + が C l − だけと反応することが前提で、液は中性から弱い塩基性でなければならない。
下線部③の液は、水酸化カリウムの強い塩基性の液。O H − が多いと A g + が酸化銀 A g 2 O の沈殿になってしまう。さらに液には硫化水素が溶けて S 2 − があり、A g + と黒い A g 2 S の沈殿をつくる。
A g + が C l − 以外にも使われ、しかも色の変化も見えにくくなるので、終点を正しく決められない。
答え 液が KOH で強い塩基性なので、 A g + が A g 2 O として沈殿する。また溶けた硫化水素の S 2 − が A g 2 S (黒)として沈殿し、 A g + が C l − 以外にも使われて、終点( A g 2 C r O 4 の赤褐色)が正しく決まらないから
エ 酸性の液で、ヨウ素酸イオン I O 3 − (I の酸化数 + 5 )がヨウ化物イオン I − (− 1 )を酸化し、どちらも I 2 (0)になる。
電子の数をそろえる:I O 3 − 1 個は電子を 5 個受けとり、I − 1 個は電子を 1 個出す。だから I O 3 − 1 個に I − 5 個。I 原子は合わせて 6 個で、I 2 が 3 個できる。
残りは O と H と電荷の勘定。I O 3 − の O 3 個は水 3 分子になり、そのために H + が 6 個要る。左の電荷 − 1 − 5 + 6 = 0 、右も 0 でそろう。
オ 1つめは、二酸化硫黄が水に溶けて亜硫酸になる反応(酸化数は変わらない)。
2つめは、亜硫酸の S(酸化数 + 4 )がヨウ素に酸化されて硫酸の S(+ 6 )になる反応。S が電子を 2 個出し、I 2 1 分子がその 2 個を受けとって I − 2 個(HI 2 分子)になる。O を1つ増やすために水が 1 分子加わる。
S O 2 1 分子に I 2 1 分子が使われる。硫化水素も同じく I 2 1 分子を使う(カ)ので、ヨウ素が十分にあることが、分けて量る前提になる。
答え S O 2 + H 2 O ⟶ H 2 S O 3 , H 2 S O 3 + I 2 + H 2 O ⟶ H 2 S O 4 + 2 H I
カ 1つめ:硫化水素の S(− 2 )がヨウ素に酸化されて単体の S(0)になる。S が電子を 2 個出し、I 2 1 分子が受けとる。
2つめ:単体の S(0)がさらにヨウ素に酸化されて亜硫酸の S(+ 4 )になる。電子を 4 個出すので I 2 は 2 分子。O 3 個は水 3 分子から来て、H は HI 4 分子と H 2 S O 3 に分かれる。
2つめの反応の右側には H I が 4 分子、つまり H + と I − が 4 個ずつできる。ところがこの液は塩酸で酸性で、しかもヨウ化カリウムを入れてあるので、H + も I − もはじめからたくさんある。ルシャトリエの原理で、平衡は H + と I − を減らす向き、つまり左へ押しもどされる。
1つめの反応は、ヨウ素が硫化水素を酸化する力がずっと強いので、この液の中でも右へ進む。こうして、硫化水素からは単体の硫黄だけができ、それ以上は進みにくい。
念のため:左へ押しもどす「向き」は言えるが、2つめの反応が「ほとんど進まない」ほどかどうかは、この理屈だけでは決まらない(2つめの反応の平衡定数は、教科書の電位の差 0.09 V から見積もると 10 6 くらいで、とても小さいわけではない。どこまで進むかは、液の中の濃さや反応の速さしだい)。問題文が「実際には単体の硫黄のみが生じる」と観察を先に示しているので、答えとしてはその理由(左へ押しもどす向きに働く)を書けば足りる。
答え H 2 S + I 2 ⇄ S + 2 H I , S + 2 I 2 + 3 H 2 O ⇄ H 2 S O 3 + 4 H I . 液は塩酸で酸性、KI で I − も多い。2 つめは H + と I − を多く生む向きなので大きく左に偏り、硫黄は亜硫酸にならない
キ 電子式:価電子(いちばん外側の電子)を数える。S が 6 個、O が 6 個ずつで 18 個、電荷 2 − の分が 2 個で、合計 26 個 = 13 組。
S と O 3 個を単結合でつなぐと 3 組。各 O に非共有電子対(結合に使われない電子の組)を 3 組ずつで 9 組。残りの 1 組が S の上に非共有電子対として残る(3 + 9 + 1 = 13 )。
形:S のまわりの電子対は、結合 3 組と非共有電子対 1 組で、合わせて 4 組。4 組の反発がいちばん小さいのは、H₂A と同じく四面体の頂点の向き。そのうち 1 つの頂点は原子の無い電子対なので、原子だけを見ると、S を頂点に O 3 個が底面の三角をつくる三角錐 になる。
図2—2 のように、くさび(手前)・点線(奥)・実線(紙面)を使って描く。S の上の非共有電子対が1つあることで、同じ S O 3 でも平らな三角形(電子対 3 組)にはならない。
答え 電子式:S のまわりに O が 3 つ(単結合)、S の上に非共有電子対 1 組、各 O に非共有電子対 3 組、全体で 2−(価電子 26 個)。形:S を頂点とする三角錐。理由:S のまわりの電子対(結合 3・非共有 1)が四面体の向きに並び、原子だけを見ると三角錐になるから
ク 式(3) の平衡定数は、ほかの平衡定数と同じく「右側の濃さのかけ算 ÷ 左側の濃さのかけ算」:
K = [ G · Q ] [ W · W ] [ G · W ] [ W · Q ]
それぞれの複合体の濃さを、式(2) と同じ形の定義で書き直す。[ G · Q ] = K G Q [ G ] [ Q ] 、[ W · W ] = K W W [ W ] 2 、[ G · W ] = K G W [ G ] [ W ] 、[ W · Q ] = K W Q [ W ] [ Q ] 。
入れると、[ G ] ・[ Q ] ・[ W ] 2 が分子と分母で打ち消しあい、平衡定数どうしのかけ算・わり算だけが残る。式(3) は「式(1) と W・W ができる反応を足し、G・W と W・Q ができる反応を引いたもの」なので、平衡定数はかけて・わる、と見てもよい。
ケ クの結果の常用対数をとると、かけ算は足し算、わり算は引き算になる:
log 10 K = log 10 K G Q + log 10 K W W − log 10 K G W − log 10 K W Q
log 10 K = α G β Q + α W β W − α G β W − α W β Q
log 10 K = ( α G − α W ) ( β Q − β W )
平衡が右に偏るのは K > 1 、つまり log 10 K > 0 のとき。2つのかっこのかけ算が正になるのは、2つが両方とも正(条件1)か、両方とも負(条件2)のとき。
片方だけが溶媒より強くても、もう片方が溶媒より弱ければ、かけ算は負になって G・Q はできにくい。
答え log 10 K = α G β Q + α W β W − α G β W − α W β Q = ( α G − α W ) ( β Q − β W ) > 0 が右に偏る条件 → 2 つのかっこが同じ符号=条件 1 か 2
コ 条件1:G は溶媒より強いドナー、Q は溶媒より強いアクセプター。G と Q がくっつくと、溶媒とのあいだの弱い水素結合を、G・Q のあいだの強い水素結合にとりかえられる。G・Q の強い水素結合ができること が駆動力(平衡を右へ動かす理由)。
条件2:G も Q も溶媒より弱い。このときは逆に、溶媒 W どうしのほうが強く引きあう。G・Q がくっついて W を手ばなすと、その W どうしが強い水素結合(W・W)をつくれる。溶媒どうしが強く結びつくこと が駆動力で、G と Q は「押し出されて」集まる。
答え 条件 1:G と Q が溶媒より強いドナー・アクセプターで、強い G・Q の水素結合ができることが駆動力。条件 2:溶媒どうしの方が強く、G・Q から離れた溶媒が W・W の強い水素結合をつくることが駆動力
サ ミセルができる前は、脂肪酸イオンの疎水部(油になじむ炭化水素の部分、図の(き))のまわりを水分子が取りかこんでいる。ミセルができると、疎水部どうしが内側で集まり、まわりの水分子は外へ出て水どうしでつながる。だから G と Q はどちらも疎水部で、W は水。
疎水部はほとんど電荷のかたよりをもたないので、ドナー定数・アクセプター定数はどちらも小さく、水よりずっと小さい。つまり α G < α W かつ β Q < β W 。
ミセルは、疎水部どうしが強く引きあって集まるのではなく、水どうしが水素結合したい ことに押し出されて集まる。油が水と分かれるのも同じしくみ。
答え G・Q とも(き)疎水部。条件 2。疎水部はほとんど電荷をもたず α・β が水より小さい。水分子どうしが水素結合(W・W)をつくることが駆動力になって疎水部が集まる
第3問 ペプチド — 並びを決める・つなぐ・右手と左手 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 アミノ酸は、1つの分子にアミノ基 − N H 2 とカルボキシ基 − C O O H を両方もつ。1つのアミノ酸の –COOH と次のアミノ酸の –NH₂ から水がとれてつながった(脱水縮合した)ものがペプチドで、つなぎ目の –CO–NH– をペプチド結合(アミド結合)という。
全体の筋は3つ。①ペプチドの並びを実験結果から決める(イ)。②右手・左手(L 型・D 型)の片方だけを多く作るしくみ(ウ)。③ねらった並びだけをつなぐために、つないでほしくない所に「ふた」(保護基)をしておき、あとで外す(脱保護)という考え方と、それを樹脂の粒の上でくり返す固相合成(エ〜ケ)。
図3—1(b) の L 型は、α炭素(–NH₂ と –COOH が付いた炭素)を上の頂点に置き、左下に H 2 N 、右下に COOH を描いたとき、側鎖 R がくさび(手前)、H が破線(奥)になる形。これが立体を描く問い(オ・ク)の基準になる。
ア ビウレット反応は、ペプチド結合が 2 つ以上ある(アミノ酸が 3 個以上つながった)ペプチドに、塩基性の液で銅(Ⅱ)イオン C u 2 + を加えると、赤紫色になる反応。ペプチド結合の N が C u 2 + を取りかこむように結びつくことで色がつく。
試薬の選択肢で C u 2 + を出すのは硫酸銅(Ⅱ) C u S O 4 。C u 2 O は銅(Ⅰ)の水に溶けない赤い固体(フェーリング反応で「できる」側の物)。鉄の塩化物はフェノールの検出、過マンガン酸カリウムは酸化剤で、どれも違う。
液性は、水酸化ナトリウムで塩基性にする。塩基性にすることで、ペプチド結合の N–H から H がはずれやすくなり、C u 2 + と結びつける。
イ この問いの前提 :問題文は、a〜e がそれぞれどの部分か(名前のつけ方)を書いていない。ここでは、N 末端側から順に名前をつけたもの、つまり a = A 1 A 2 A 3 、b = A 2 A 3 A 4 、c = A 1 A 2 、d = A 2 A 3 、e = A 3 A 4 と読む。この読み方で答えが1通りに決まる。(名前のつけ方を決めずに数え上げると、A¹ が酸性のアスパラギン酸・グルタミン酸で A² がリシンの組み合わせも結果 1〜8 を全部満たしてしまい、A¹・A² は 3 通り残る。A³ と A⁴ はどちらの読み方でも同じ。)
A¹ を決める(結果6・7) :pH 7.0 で陰極(マイナス極)側へ動くのは、全体がプラスの電気をもつペプチド。表の中で pH 7 でプラスになる側鎖は、アミノ基をもつリシンと、アルギニン(塩基性アミノ酸)。陰極へ動いたのは a と c だけで、どちらにも入っていて b・d・e には入っていないのは A¹ だけ。だから A¹ が塩基性アミノ酸。元素分析の値は、リシン C 6 H 14 N 2 O 2 (分子量 146)の C 49.3%・H 9.6%・N 19.2%・O 21.9% と一致する。
A² を決める(結果7) :c = リシン-A² の分子量は 146 + M − 18 (M は A² の分子量、つなぐとき水 18 がとれる)。これが 220 未満なので M < 92 で、表ではグリシン(75)かアラニン(89)。
A³ を決める(結果8) :立体異性体をもたないペプチドは、不斉炭素原子(4 つの違う原子や原子団が付いた炭素)を1つももたない。表の中で不斉炭素の無いアミノ酸はグリシンだけ。d = A²A³ が立体異性体をもたないには A²・A³ の両方がグリシンでなければならず、結果1(全部違うアミノ酸)に反する。だから立体異性体をもたないのは e = A³A⁴ で、A³ がグリシン。すると A² はアラニン。
A⁴ を決める(結果4・8) :e の分子量は 75 + M 4 − 18 で、150 以上 170 未満なので、A⁴ の分子量は 93 以上 113 未満。A⁴ は H 2 N − C n H 2 n − C O O H の形で、分子量は 61 + 14 n (n = 1 がグリシンの 75)。範囲に入るのは n = 3 の 103。
炭素3個の部分に –NH₂ と –COOH を付ける付け方は5通りあるが、不斉炭素ができないのは、鎖のはしどうしに付けた H 2 N − C H 2 − C H 2 − C H 2 − C O O H と、同じ炭素にメチル基 2 つと一緒に付けた H 2 N − C ( C H 3 ) 2 − C O O H の 2 つだけ。ほかの3つ(2-アミノブタン酸など)は不斉炭素があり、e が立体異性体をもってしまう。
答え A 1 リシン , A 2 アラニン , A 3 グリシン (a〜e を N 末端側から順の名前とみなした場合。問題文のままだとアスパラギン酸・リシン・グリシン/グルタミン酸・リシン・グリシンも残る:how\_checked 参照) . A 4 : H 2 N − C H 2 − C H 2 − C H 2 − C O O H , H 2 N − C ( C H 3 ) 2 − C O O H (どちらも不斉炭素なし)
ウ 化合物 B の二重結合 C = C H 2 に水素が付くと、C H 2 が C H 3 になり、もとの二重結合の炭素に H が付いて不斉炭素になる。水素が紙の手前から来るか奥から来るかで、D と E(互いに鏡像)に分かれる。
ふつうの触媒なら、手前と奥はまったく同じ条件なので、D と E は半分ずつできる。ところが触媒 C 自体が右手・左手の片方なので、「B+C+水素」の複合体は、手前から来た場合と奥から来た場合とで、鏡像どうしにならない。鏡像ではない立体異性体どうしは、エネルギーなどの性質が違う。
反応の進みやすさは、反応が越えなければならない山の高さ(遷移状態までのエネルギー)で決まる。山が低いほうの道を通る反応が速く、その生成物が多くできる。
どちら側かは、化合物 D の図を見る。D の不斉炭素では、新しく付いた H がくさび(手前)で、C H 3 が破線(奥)に描かれている。H が来た向きがそのまま H の向きになる。
山の高さの差が 5 kJ/mol あるだけで、25 ℃ では D と E が約 7.5:1(D が 88%)になる。わずかな差で、片方の手をほとんど作り分けられる。
答え あ ジアステレオマー、い 活性化エネルギー、う 手前
エ 2 つのアミノ酸をつなぐとき、どちらが N 末端(–NH₂ が残る側)になるかで別のペプチドになる。L-アラニン(Ala)とグリシン(Gly)から、N 末端側 2 通り × C 末端側 2 通りを考える。
Ala-Ala、Ala-Gly、Gly-Ala、Gly-Gly。同じアミノ酸どうしもつながる。Ala-Gly と Gly-Ala は、–NH₂ と –COOH が残る側が違うので別の物。
立体の配置は変わらず、D 型は入っていないので、アラニンはどれも L 型のまま。L と D が混ざっていれば、これより多くなる。
オ アセチル基 C H 3 C O − で保護した L-アラニン(C H 3 C O − N H − C H ( C H 3 ) − C O O H )の –COOH と、エチルエステル(− C O O C H 2 C H 3 )で保護したグリシン(H 2 N − C H 2 − C O O C H 2 C H 3 )の –NH₂ がつながる。ふたをしていない所どうしだけがつながるので、できる物は1つに決まる。
構造式は左から「アセチル基-NH-アラニンのα炭素-CO-NH-CH₂-CO-O-エチル基」。アラニンのα炭素は不斉炭素なので、図3—1(b) の L 型と同じ向き(N を左下、C=O を右下に置いた上の頂点)で、側鎖の C H 3 をくさび、H を破線で描く。
答え C H 3 − C O − N H − C * H ( C H 3 ) − C O − N H − C H 2 − C O − O − C H 2 − C H 3 ( C * は L 型:図3—1(b) と同じ向き(N 左下・C=O 右下)で CH 3 をくさび、H を点線)
カ アセチル基は、アミノ基とつながると C H 3 − C O − N H − となり、これはペプチド結合と同じアミド結合。
アセチル基を外すには、アミド結合を加水分解(水を加えて切る)しなければならないが、そのための酸や塩基で加熱する条件では、分子の中のペプチド結合も同じように切れてしまう。ねらった所だけを外すことができず、つないだ鎖がばらばらになるので、収量が大きく下がる。
保護基は、「ペプチド結合が切れない、おだやかな条件で外せる」ものを選ぶ必要がある。
答え アセチル基とアミノ基の結合はペプチド結合と同じアミド結合なので、アセチル基を加水分解で外す条件(酸や塩基で加熱)では、ペプチド結合も切れてしまうから
キ 固相合成では、ペプチドの鎖は溶媒に溶けない樹脂ビーズにつながっている。ほしい物は固体、いらない物(余った保護アミノ酸や、縮合剤からできた物)は溶媒に溶けている、という分かれ方をしている。
だから、反応が終わるたびに、ビーズをろ過して溶媒で洗い流すだけで、いらない物を取りのぞける。液相合成のように、毎回カラムクロマトグラフィーで分ける必要がない。
さらに、ビーズに残らない物は洗えば取れるので、保護アミノ酸をたっぷり加えて、つながる割合を上げることもできる。
答え 反応のあと、樹脂ビーズをろ過して溶媒でよく洗う。ペプチドは溶けないビーズにつながったまま残り、余ったアミノ酸や縮合剤からできた物は溶媒と一緒に流れ去る
ク 図3—4 では、樹脂ビーズに最初につないだアミノ酸が C 末端になり、そこから N 末端の方向へ伸ばしていく。グリシン → D-アスパラギン酸 → D-リシン → L-チロシンの順につないだので、N 末端から読むと、チロシン-リシン-アスパラギン酸-グリシン。
水酸化ナトリウムの液(強い塩基性)では、H + を出せる所はすべて出してマイナスになり、プラスの所はプラスでなくなる: N 末端とリシンの側鎖の − N H 3 + は H⁺ を手ばなして − N H 2 に。C 末端とアスパラギン酸の側鎖の –COOH は − C O O − に。チロシンの側鎖のフェノール性 –OH も、強い塩基性では H⁺ を手ばなして − O − になる。マイナスの所は 3 つ。
立体:図3—6 のジグザグで、α炭素が上の頂点(左下に N、右下に C=O)にあれば図3—1(b) と同じ向きなので、L 型は側鎖がくさび、D 型は破線。α炭素が下の頂点(左上に N、右上に C=O)にあれば、上下を鏡に映したのと同じなので、くさびと破線が入れかわる。N 末端のチロシンから、α炭素は上・下・上の頂点に並ぶので、それぞれの L・D とあわせて向きを決める。グリシンは不斉炭素が無いので、くさび・破線は要らない。
答え H 2 N − C H ( C H 2 − C 6 H 4 − O − ) − C O − N H − C H ( ( C H 2 ) 4 − N H 2 ) − C O − N H − C H ( C H 2 − C O O − ) − C O − N H − C H 2 − C O O − (全体で 3−。図3—6 のジグザグでは L-Tyr(上の頂点)の側鎖をくさび、D-Lys(下の頂点)の側鎖をくさび、D-Asp(上の頂点)の側鎖を点線)
ケ ニンヒドリン反応は、つながっていない(遊離の)アミノ基 –NH₂ があると青紫色になる反応。
工程❸の縮合が全部うまくいっていれば、鎖の先のアミノ基はすべて Y³ とつながり、しかも Y³ のアミノ基は保護されているので、遊離のアミノ基は無いはず。青紫になったのは、Y³ とつながりそこねた鎖がまだ残っている、という印。
このまま脱保護して次の Y² をつなぐと、つながりそこねた鎖(Y⁴ のままの鎖)にも Y² がつながり、Y³ が抜けたペプチドができて目的の物が減る。だから次は、保護された Y³ と縮合剤をもう一度加えて、工程❸をくり返す(ニンヒドリン反応が出なくなるまで)。
1 回 98% でつながっても、40 個つなぐと全部つながった鎖は約 45% しか残らない。1 回ごとに確かめてやり直すことが、長いペプチドを作るうえで効いてくる。
答え 保護された Y 3 と縮合剤をもう一度加えて、工程❸の縮合をくり返す(ニンヒドリン反応が出なくなるまで)。青紫はまだつながっていない NH 2 が残っている印で、そのまま進むと Y 3 の抜けたペプチドができて目的の物が減るから