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化 学
第1問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。必要があれば以下の値を用いよ。構造式は,Ⅰでは[構造式の例Ⅰ]に,Ⅱでは[構造式の例Ⅱ]にならって示せ。
標準状態(273 K ,1.01 × 10 5 P a )における水素 1 m o l の体積:22.4 L
Ⅰ 次の文章を読み,問ア~オ に答えよ。
油脂Aはグリセリン(1,2,3-プロパントリオール)1分子に対し,分岐のない高級脂肪酸3分子が縮合したエステル化合物である。Aに含まれる炭素間二重結合はすべてシス形であり,三重結合は含まれない。Aの化学構造を決定するため,以下の実験を行った。
なお,図1—1に示すように,炭素間二重結合にオゾン O 3 を作用させると環状化合物であるオゾニドが生成し,適切な酸化的処理を行うとカルボン酸になる。一方,適切な還元的処理を行うとアルコールになる。また,カルボン酸をジアゾメタン C H 2 N 2 と反応させると,図1—2に示すようにカルボキシ基がメチル化される。
図1—1 炭素間二重結合のオゾン分解(R 1 ,R 2 :炭化水素基など)
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図1—2 ジアゾメタンによるカルボン酸のメチル化(R 3 :炭化水素基など)
実験1:2.21 g のAを水酸化ナトリウムと反応させて完全に加水分解したところ,グリセリン 230 m g と2種類の脂肪酸(飽和脂肪酸Bと不飽和脂肪酸C)のナトリウム塩が生成した。
実験2:2.21 g のAを白金触媒存在下で水素と十分に反応させたところ,標準状態換算で 168 m L の水素を消費し,油脂Dが得られた。Aは不斉炭素原子をもつが,Dは不斉炭素原子をもたなかった。
実験3:Cにオゾンを作用させ,酸化的処理を行った。生じた各種カルボン酸をジアゾメタンと反応させたところ,次の3種類の化合物が得られた。
実験4:Cをジアゾメタンと反応させた後に,オゾンを作用させ還元的処理を行ったところ,次の3種類の化合物が得られた。
〔問〕
ア 油脂Aの分子量を有効数字3桁で答えよ。
イ 脂肪酸BとCの分子式をそれぞれ示せ。
ウ BとCの融点はどちらのほうが低いと考えられるか答えよ。さらに,分子の形状と関連付けて,理由を簡潔に説明せよ。
エ 実験4を行わず,実験1~3の結果からCの化学構造を推定したところ,一つに決定できなかった。考えうるCの構造式をすべて示せ。
オ 実験1~3に加えて実験4の結果も考慮に入れると,Cの化学構造を一つに決定できた。Aの構造式を示せ。
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Ⅱ 次の文章を読み,問カ~ケ に答えよ。
C 5 H 10 の分子式をもつ4種類のアルケンE~Hに対して実験5と6を行った。また,実験6の生成物に対して実験7~9を行った。なお,それぞれの反応中に二重結合の移動や炭素骨格の変化は起きないものとする。立体異性体は考慮しなくてよい。
実験5:E~Hに対して白金触媒を用いた水素の付加反応を行うと,EとFからは化合物Iが,GとHからは化合物Jが得られた。
実験6:E~Hに対して酸性条件下で水の付加反応(以下,水和反応)を行うと,EとFからはアルコールKが,GからはアルコールLがそれぞれ主生成物として得られた。HからはアルコールLとアルコールMの混合物が得られた。E,F,Gへの水和反応は,主生成物以外に少量のアルコールN,O,Pをそれぞれ副生成物として与えた。
解説1:実験6の結果はマルコフニコフ則に従っているが,この経験則は炭素陽イオン(以下,陽イオン)の安定性によって説明できる(図1—3)。アルケン(a)への水素イオンの付加は2種類の陽イオン(b)と(c)を与える可能性があるが,陽イオン(b)のほうがより安定である。これは,①水素より炭化水素基のほうが陽イオンに電子を与える性質が強いからである。その結果,陽イオン(b)から生じるアルコール(d)が主生成物となる。
図1—3 水和反応の例とマルコフニコフ則の概要(R 4 :炭化水素基)
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実験7:二クロム酸カリウム K 2 C r 2 O 7 を用いて6種類のアルコールK~Pの酸化を試みたところ,Kだけが酸化されなかった。
実験8:K~Pの中で,LとNだけがヨードホルム反応に陽性を示した。
実験9:K~Pを酸性条件下で加熱すると水の脱離反応(以下,脱水反応)が進行し,いずれの化合物からも分子式 C 5 H 10 のアルケンが得られた。
解説2:図1—4に実験9の脱水反応の概要を示す。この反応はアルコール(f)から生じる陽イオン(g)を経由するが,陽イオン(g)から速やかに水素イオンが脱離することでアルケン(h)が生成する。すなわち,②脱水反応の速度は陽イオン(g)の生成速度によって決まる。なお,③安定な陽イオン(g)ほど生成しやすくその生成速度は速いと考えてよい。
図1—4 脱水反応の概要(R 5 ~ 8 :水素か炭化水素基)
解説3:実験9の脱水反応が2つ以上の異なるアルケンを与える可能性がある場合,炭素間二重結合を形成する炭素上により多くの炭化水素基が結合したアルケンの生成が優先することが一般的である。この経験則はザイツェフ則と呼ばれている。
〔問〕
カ 化合物IとJの構造式をそれぞれ示せ。
キ アルコールK~Pの中から不斉炭素原子をもつものすべてを選び,該当する化合物それぞれの記号と構造式を示せ。
ク アルコールK~Pの中で,脱水反応が最も速く進行すると考えられるのはどれか,記号で答えよ。下線部①~③を考慮すること。
ケ アルケンE~Hのなかで,それぞれに対する水和反応とそれに続く脱水反応が元のアルケンを主生成物として与えると考えられるのはどれか,該当するすべてを選び記号で答えよ。ただし,マルコフニコフ則およびザイツェフ則が適用できる場合はそれらに従うものとする。
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第2問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。必要があれば以下の値を用いよ。
アボガドロ定数 N A = 6.02 × 10 23 / m o l ,気体定数 R = 8.31 × 10 3 P a · L / ( K · m o l )
Ⅰ 次の文章を読み,問ア~オ に答えよ。
①火力発電の燃料として,天然ガスよりも石炭を用いる方が,一定の電力量を得る際の二酸化炭素 C O 2 排出が多いことが問題視されている。そこで,②アンモニア N H 3 を燃料として石炭に混合して燃焼させることで,石炭火力発電からの C O 2 排出を減らす技術が検討されている。
従来 N H 3 は,主に天然ガスに含まれるメタン C H 4 と空気中の窒素 N 2 から製造されてきた。③その製造工程は,以下の3つの熱化学方程式で表される反応により,C H 4 (気)と N 2 (気)と H 2 O (気)から,N H 3 (気)と C O 2 (気)を生成するものである。
(反応1) C H 4 ( 気 ) + H 2 O ( 気 ) = C O ( 気 ) + 3 H 2 ( 気 ) − 206 k J
(反応2) C O ( 気 ) + H 2 O ( 気 ) = H 2 ( 気 ) + C O 2 ( 気 ) + 41 k J
(反応3) N 2 ( 気 ) + 3 H 2 ( 気 ) = 2 N H 3 ( 気 ) + 92 k J
④このように得られる N H 3 は,燃焼の際には C O 2 を生じないものの,製造工程で C O 2 を排出している。発電による C O 2 排出を減らすために石炭に混合して燃焼させる N H 3 は,C O 2 を排出せずに製造される必要がある。
そこで,太陽光や風力から得た電力を使い,水の電気分解により得た水素を用いる N H 3 製造法が開発されている。
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〔問〕
ア 下線部①に関して,石炭燃焼のモデルとして C (黒鉛)の完全燃焼反応(反応4 ),天然ガス燃焼のモデルとして C H 4 (気)の完全燃焼反応(反応5 )を考える。C (黒鉛) 1.0 m o l ,C H 4 (気) 1.0 m o l の完全燃焼の熱化学方程式をそれぞれ記せ。ただし,生成物に含まれる水は H 2 O (液)とする。また,反応4 により 1.0 k J のエネルギーを得る際に排出される C O 2 (気)の物質量は,反応5 により 1.0 k J のエネルギーを得る際に排出される C O 2 (気)の物質量の何倍か,有効数字2桁で答えよ。
イ 下線部②に関して,N H 3 (気)の燃焼反応(反応6 )からは N 2 (気)と H 2 O (液)のみが生じるものとする。C (黒鉛)と N H 3 (気)を混合した燃焼(反応4 と反応6 )により 1.0 m o l の C O 2 (気)を排出して得られるエネルギーを,反応5 により 1.0 m o l の C O 2 (気)を排出して得られるエネルギーと等しくするためには,1.0 m o l の C (黒鉛)に対して N H 3 (気)を何 m o l 混ぜればよいか,有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も示せ。
ウ 下線部③の製造工程により 1.0 m o l の N H 3 (気)を得る際に,エネルギーは吸収されるか放出されるかを記せ。また,その絶対値は何 k J か,有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も示せ。
エ C O 2 と N H 3 を高温高圧で反応させることで,肥料や樹脂の原料に用いられる化合物Aが製造される。1.00 トンの C O 2 が N H 3 と完全に反応した際に,1.36 トンの化合物Aが H 2 O とともに得られた。化合物Aの示性式を,下記の例にならって記せ。
示性式の例:C H 3 C O O C 2 H 5
オ 下線部④に関して,下線部③の製造工程により 1.0 m o l の N H 3 (気)を得る際に排出される C O 2 (気)の物質量を有効数字2桁で答えよ。また,この C O 2 排出を考えたとき,反応6 により 1.0 k J のエネルギーを得る際に排出される C O 2 (気)の物質量は,反応5 により 1.0 k J のエネルギーを得る際に排出される C O 2 (気)の物質量の何倍か,有効数字2桁で答えよ。
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Ⅱ 次の文章を読み,問カ~コ に答えよ。
金属イオン M n + は,アンモニア N H 3 やシアン化物イオン C N − などと配位結合し,錯イオンを形成する。金属イオンに配位結合する分子やイオンを配位子とよぶ。図2—1に N H 3 を配位子とするさまざまな錯イオンの構造を示す。銅イオン C u 2 + の錯イオン(a)は4配位で正方形をとる。⑤錯イオン(b)は2配位で直線形,錯イオン(c)は6配位で正八面体形,錯イオン(d)は4配位で正四面体形をとる。
正八面体形をとる錯イオンは最も多く存在し,図2—2に示すヘキサシアニド鉄(Ⅱ)酸イオン [ F e ( C N ) 6 ] 4 − はその一例である。鉄イオン F e 3 + を含む水溶液にヘキサシアニド鉄(Ⅱ)酸カリウム K 4 [ F e ( C N ) 6 ] を加えると,古来より顔料として使われるプルシアンブルーの濃青色沈殿が生じる。図2—3に,この反応で得られるプルシアンブルーの結晶構造を示す。⑥F e 2 + と F e 3 + は 1 : 1 で存在し,C N − の炭素原子,窒素原子とそれぞれ配位結合する。鉄イオンと C N − により形成される立方体の格子は負電荷を帯びるが,格子のすき間にカリウムイオン K + が存在することで,結晶の電気的な中性が保たれている。しかし,K + の位置は一意に定まらないため,図2—3では省略している。⑦格子のすき間は微細な空間となるため,プルシアンブルーは気体やイオンの吸着材料としても利用される。
図2—1 N H 3 を配位子とする錯イオン
図2—2 ヘキサシアニド鉄(Ⅱ)酸イオン [ F e ( C N ) 6 ] 4 − F e 2 + に結合する6つの C N − を示している。
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図2—3 プルシアンブルーの結晶構造 周期的に配列する鉄イオンとシアン化物イオンの一部を取り出した構造である。F e 2 + と F e 3 + は C N − を介して結合するが,左図では C N − を省略し,F e 2 + と F e 3 + を実線で結んでいる。右図は,F e 2 + に結合する6つの C N − と,これらの C N − に結合する6つの F e 3 + を示している。
〔問〕
カ 下線部⑤に示した錯イオン(b),(c),(d)について,中心の金属イオンとして最も適切なものを,以下の(1)~(3)の中から一つずつ選べ。
(1) C o 3 + ,(2) Z n 2 + ,(3) A g +
キ C u 2 + を含む水溶液に,少量のアンモニア水を加えると,青白色沈殿が生じる。⑧この青白色沈殿に過剰のアンモニア水を加えると,錯イオン(a)が生じる。下線部⑧に対応するイオン反応式を記せ。
ク 下線部⑥より,プルシアンブルーを構成する K ,F e ,C ,N の割合を,最も簡単な整数比で示せ。
ケ 図2—3に示すように,隣接する鉄イオン間の距離は 0.50 n m である。プルシアンブルーの密度は何 g / c m 3 か,有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も示せ。
コ 下線部⑦について,プルシアンブルー 1.0 g あたり,300 K ,1.0 × 10 5 P a に換算して 60 m L の窒素 N 2 が吸着した。図2—3に示す一辺が 1.00 n m のプルシアンブルーの中に,N 2 が何分子吸着したか。小数点第1位を四捨五入して整数で答えよ。答えに至る過程も示せ。N 2 は理想気体とみなしてよいものとする。
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第3問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。必要があれば以下の値を用いよ。
気体定数 R = 8.31 × 10 3 P a · L / ( K · m o l )
Ⅰ 次の文章を読み,問ア~カ に答えよ。
地球温暖化対策推進のため,二酸化炭素 C O 2 排出の抑制は重要な課題である。日本の主要産業の一つである製鉄では,溶鉱炉中でコークスを利用した①酸化鉄 F e 2 O 3 の還元反応によって銑鉄を得る方法が長年採用されているが,近年 C O 2 排出抑制に向けて,水素を利用した還元技術を取り入れるなど,さまざまな取り組みがなされている。
一方で,排出された C O 2 を分離回収,貯留・隔離するための技術開発も盛んにおこなわれている。回収した C O 2 を貯留する手段として海洋を用いる方法がある(図3—1)。海水温は,大気と比較して狭い温度域(0 ~ 30 ∘ C 程度)に維持されており,海洋は膨大な C O 2 貯蔵庫として機能しうる。C O 2 をパイプで海水中に送り込み,ある水深で海水に放出することを考える。C O 2 は 15 ∘ C ,1.00 × 10 5 P a では気体であり(図3—2),②水深の増加に伴って,放出時の C O 2 密度 ρ 〔g / L 〕は増加する。③ある水深以降では,C O 2 は液体として凝縮された状態で放出される。液体 C O 2 は,浅い水深では上昇するが,④深い水深では下降するので,液体 C O 2 を深海底に隔離することができる。
海水面の圧力は 1.00 × 10 5 P a ,海中では,水深の増加とともに 1 m あたり圧力が 1.00 × 10 4 P a 増加するものとする。海水温は水深にかかわらず 15 ∘ C で一定とする。また,放出時における C O 2 の温度,圧力は周囲の海水の温度,圧力と等しく,気体 C O 2 や液体 C O 2 の海水への溶解は無視するものとする。
図3—1 排出 C O 2 の海洋への貯留・隔離
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図3—2 C O 2 の状態図
〔問〕
ア 下線部①に関して,高炉法はコークスと酸素の反応により得られる一酸化炭素 C O を用いた製鉄法であり,⑤F e 2 O 3 を C O で段階的に還元し,F e 3 O 4 ,F e O を経て最終的に鉄 F e を得る。下線部⑤における反応の化学反応式をすべて記せ。
イ 下線部⑤の反応により,F e 2 O 3 から F e を 7.50 × 10 7 トン(日本の2019年銑鉄生産量に相当)生成する際に排出される C O 2 は何トンか,有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も記せ。
ウ 下線部②に関して,水深 10.0 m で放出される C O 2 の密度 ρ は何 g / L か,有効数字2桁で答えよ。ただし,C O 2 は理想気体としてふるまうものとする。答えに至る過程も記せ。
エ 下線部③に関して,C O 2 が液体として放出される最も浅い水深は何 m か,有効数字1桁で答えよ。
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オ 下線部④に関する以下の説明文において,a ~ c にあてはまる語句をそれぞれ答えよ。
C O 2 分子の間に働く分子間力は a であり,低圧では分子間の距離が長く,高圧にすると単位体積当たりの分子数が増加する。一方,H 2 O 分子の間には b による強い分子間力が働くので,低圧においても分子間の距離が短く,高圧にしても単位体積当たりの分子数があまり変化しない。高圧となる深海では,C O 2 と H 2 O で単位体積当たりの分子数が近くなる。一方で,構成元素の観点から C O 2 のほうが H 2 O より c が大きい。よって,このような深海では C O 2 密度 ρ 〔g / L 〕は H 2 O の密度より高くなり,C O 2 は H 2 O が主成分の海水中で自然に下降する。
カ C O 2 放出水深と C O 2 密度 ρ 〔g / L 〕の関係を示した最も適切なグラフを,以下の図3—3に示す(1)~(5)の中から一つ選べ。
図3—3 C O 2 放出水深と C O 2 密度(実線——),海水密度(破線……)の関係
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Ⅱ 次の文章を読み,問キ~シ に答えよ。
抗体(Ab)はタンパク質であり,特定の分子に結合する性質をもつ。病気に関連した分子に対するAbは,医薬品として用いられる。例えば炎症の原因となるサイトカイン(Ck)という分子にAbが結合すると,Ckの作用が不活性化されるため,Ckに対するAbは炎症にかかわる病気の治療薬として使用されている。
CkとAbは式1の可逆反応で結合し,複合体 C k · A b を形成する(図3—4)。
C k + A b ⇌ C k · A b (式1)
反応は水溶液中,温度一定で起こり,Ck,Ab等の濃度は,[ C k ] ,[ A b ] 等と表すこととする。また,Abの初期濃度 [ A b ] 0 はCkの初期濃度 [ C k ] 0 に対して十分に大きく,反応によるAbの濃度変化は無視できる([ A b ] = [ A b ] 0 )ものとする。
式1の正反応と逆反応の反応速度定数をそれぞれ k 1 ,k 2 とすると,各反応の反応速度 v 1 ,v 2 はそれぞれ,v 1 = k 1 [ C k ] [ A b ] ,v 2 = k 2 [ C k · A b ] と表される。ここで,[ A b ] = [ A b ] 0 であることに注意すると,C k · A b の生成速度 v は,
v = v 1 − v 2 = d
と表される。このとき,α = e ,β = f とおくと,
v = − α [ C k · A b ] + β
と表され,v を [ C k · A b ] を変数とする一次関数として取り扱うことができる。これにより,[ C k · A b ] の時間変化の測定結果から,α を求めることができる。さらに,α は [ A b ] 0 に依存するので,⑥さまざまな [ A b ] 0 に対して α を求めることで,k 1 ,k 2 を得ることができる(図3—5)。
図3—4 CkとAbの反応の模式図
図3—5 [ A b ] 0 と α の関係
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反応が十分に進行すると,v 1 = v 2 の平衡状態に達する。ここで,[ A b ] = [ A b ] 0 であるので,平衡定数 K は,
K = k 1 k 2 = g
と表される。このとき,CkのAbへの結合率 X は,
X = [ C k · A b ] [ C k ] 0 = h
と表すことができ,どの程度のCkを不活性化できたかを表す指標となる。X の値は [ A b ] 0 によって変化する(図3—6)。目標とする X の値を得るために必要な [ A b ] 0 の値を見積もるためには,⑦K の逆数である 1 / K がよく用いられる。
⑧用いるAbの種類によって k 1 ,k 2 は異なり,これにより平衡状態での [ C k · A b ] や平衡状態に達するまでの時間などが異なる(図3—7)。Abを医薬品として用いる際には,⑨これらの違いを考慮して,適切な種類のAbを選択することが望ましい。
図3—6 [ A b ] 0 と平衡状態での X の関係
図3—7 Ck水溶液にさまざまなAbを加えた際の [ C k · A b ] の時間変化
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〔問〕
キ d ~ f にあてはまる式を,k 1 ,k 2 ,[ C k · A b ] ,[ C k ] 0 ,[ A b ] 0 のうち必要なものを用いてそれぞれ表せ。
ク 下線部⑥に関して,図3—5に示す結果から,k 1 〔L m o l − 1 s − 1 〕,k 2 〔s − 1 〕の値をそれぞれ有効数字1桁で答えよ。
ケ g にあてはまる式を [ C k · A b ] ,[ C k ] 0 ,[ A b ] 0 ,また,h にあてはまる式を K ,[ A b ] 0 を用いてそれぞれ表せ。
コ 下線部⑦に関して,1 / K は濃度の単位をもつ。図3—6の横軸上で,1 / K に対応する濃度を,(Ⅰ)~(Ⅲ)の中から一つ選び,理由とともに答えよ。
サ 下線部⑧に関して,表3—1に異なる3種類のAb(Ab1 ~Ab3 )の反応速度定数を示す。Ck水溶液にAb1 を加えた際の [ C k · A b ] の時間変化を測定したところ,図3—7の破線のようになった。この結果を参考に,同様の測定をAb2 ,Ab3 を用いて行った場合に対応する曲線を,図3—7の(ⅰ)~(ⅳ)の中からそれぞれ一つずつ選べ。なお,測定に使用した [ C k ] 0 ,[ A b ] 0 はそれぞれ,すべての測定で同一とする。
表3—1 3種類のAb(Ab1 ~Ab3 )の反応速度定数
シ 下線部⑨に関して,Ck水溶液に表3—1のAbを加える際,より低い [ A b ] 0 で,かつ短時間に X = 0.9 の平衡状態を得るために適切なものを,Ab1 ~Ab3 の中から一つ選べ。また,このとき必要となる [ A b ] 0 は何 m o l L − 1 か,有効数字1桁で答えよ。
第1問 油の形と、水をつけて外すアルケン 出題の意図(東大) 有機分子の構造と性質を論理的に考える力,および,化学変換の過程や化学量論に関する基礎的な理解力と論理的思考力を問うことを意図しています。
東大の解答例(選ぶ問題だけ) Ⅱ ク:K Ⅱ ケ:E, H 下の答えと全部一致
答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 Ⅰは油脂 A の構造決定。油脂は、グリセリン(OH を 3 つもつアルコール)1 分子に、脂肪酸 3 分子がエステル結合でつながった物。数字の実験(実験1・2)で「分子量」と「二重結合の数」を出し、オゾン分解(C=C を切る反応)の破片(実験3・4)で二重結合の場所を決める。
オゾン分解のポイント:酸化的処理では切れた両はしが –COOH、還元的処理では –CH₂OH になる。実験3 では、もとの –COOH のはしも、二重結合を切ってできた –COOH も同じ形になってしまい区別がつかない。実験4 は、先にもとの –COOH をメチルエステルに変えて「目じるし」をつけてから切るので、どの破片が鎖のはしだったかが分かる。
Ⅱ(p28 から)は C₅H₁₀ のアルケンに水をつけたり外したりする問題。どちらの反応も途中で炭素の陽イオン(+ の電気をもつ炭素)を通り、炭化水素基がたくさん付いた陽イオンほど安定 (下線部①)という1つの考え方で、マルコフニコフ則(水をつけるときの向き)も、脱水の速さも説明できる。
ア 油脂 1 分子を加水分解すると、グリセリンが 1 分子できる。グリセリン C 3 H 8 O 3 (分子量 92)230 mg は
230 92 = 2.50 m m o l
だから A も 2.50 mmol。A 2.21 g = 2210 mg を物質量で割れば分子量になる:
2210 2.50
イ 二重結合の数:水素 168 mL は 168 22.4 = 7.50 mmol で、A 2.50 mmol の 3 倍。A 1 分子に C=C が 3 つある。
どの鎖に二重結合があるか:水素を付けた D は不斉炭素原子をもたないので、グリセリンのまん中の炭素の両側(1 位と 3 位)の鎖が同じになる。水素を付けると 3 本とも同じ飽和の鎖になるので、B と C は炭素の数が同じ。A が不斉炭素をもつのは、1 位と 3 位の鎖が違うから。だから A は「C 1 本(C=C が 3 つ)+B 2 本」で、C は 1 位(はし)にある。
炭素の数:飽和脂肪酸 C n H 2 n O 2 の分子量は 14 n + 32 。油脂はグリセリンと脂肪酸 3 つから水 3 つがとれた物で、C は B より H が 6 個(二重結合 3 つ分)少ないので
92 + 3 ( 14 n + 32 ) − 6 − 3 × 18 = 884 ⟹ 42 n = 756
n = 18 。B は C 18 H 36 O 2 、C はそこから H を 6 個減らした形。
ウ 融点は、分子どうしがどれだけきっちり並んで引きあえるかで決まる。
B(ステアリン酸)はまっすぐな鎖なので、分子どうしがぴったり並び、分子間力(分子どうしの引きあう力)が強くはたらく。C はシス形の二重結合が 3 つあり、そこで鎖が折れ曲がる。折れ曲がった分子はきれいに並べず、すき間ができて引きあいが弱くなる。
炭素 18 の脂肪酸では、二重結合 0 のステアリン酸が約 69 ℃、シスの二重結合 1 つのオレイン酸が約 13 ℃。同じ二重結合 1 つでも、折れ曲がらないトランス形なら約 45 ℃ で、形が効いていることがわかる。
答え C のほうが低い。C はシス形の二重結合のところで鎖が折れ曲がるので、分子どうしがきっちり並べず、分子の間の引き合う力が弱いから
エ 実験3 で出てきた破片(メチルエステルにした形で)は3種類。①炭素 9 個で両はしが –COOH の物(H O O C − ( C H 2 ) 7 − C O O H の形)、②炭素 3 個で片はしが –COOH、もう片はしが C H 3 の物(プロピオン酸)、③炭素 3 個で両はしが –COOH の物(マロン酸)。
C は炭素 18 個・C=C が 3 つなので、切ると破片は 4 つ。C H 3 のはしを含む破片は②(炭素 3)。残りの 3 つの破片は両はしが –COOH で、①か③。炭素の数の合計は 18 − 3 = 15 で、9 + 3 + 3 しかない。
問題は、この 3 つがどう並ぶか。実験3 では、もとの –COOH のはしから来た破片も、まん中から来た破片も、両はし –COOH で同じ形になる。だから炭素 9 の破片が、–COOH 側のはし・まん中の 1 つめ・まん中の 2 つめのどこにあってもよく、3 通りの並べ方が残る。二重結合はすべてシス形で描く。
答え H O O C − ( C H 2 ) 7 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H 3 , H O O C − C H 2 − C H = C H − ( C H 2 ) 7 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H 3 , H O O C − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − ( C H 2 ) 7 − C H = C H − C H 2 − C H 3 (二重結合はすべてシス)
オ 実験4 では、先に –COOH を − C O O C H 3 に変えてから、還元的処理(切れたはしが –CH₂OH になる)で切る。すると、もとの –COOH 側のはしから来た破片だけが「片はし − C O O C H 3 ・片はし –OH」の形になり、まん中の破片は両はし –OH、C H 3 側の破片は片はし –OH になる。
出てきたのは、H O − ( C H 2 ) 8 − C O O C H 3 (炭素 9 で片はしがエステル)、1-プロパノール(炭素 3)、1,3-プロパンジオール(炭素 3 で両はし –OH)。炭素 9 の破片が –COOH 側のはしにあったことが分かり、C は 1 つに決まる。–COOH の炭素から数えて 9・10 番目、12・13 番目、15・16 番目の炭素のあいだに二重結合がある鎖(α-リノレン酸)。
A は、グリセリンのはし(1 位)に C、まん中(2 位)と反対のはし(3 位)に B がつながった形。まん中の炭素は、両側の鎖が違うので不斉炭素になる。
答え C H 2 − O − C O − ( C H 2 ) 7 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H = C H − C H 2 − C H 3 / C * H − O − C O − ( C H 2 ) 16 − C H 3 / C H 2 − O − C O − ( C H 2 ) 16 − C H 3 (上から順につながる。C の鎖は端の 1 位、二重結合はシス)
カ ここからⅡ。C 5 H 10 のアルケンに水素を付けると、炭素の骨組みはそのままでアルカンになる。炭素 5 個の骨組みは、まっすぐ(ペンタン)・枝 1 本(2-メチルブタン)・枝 2 本(2,2-ジメチルプロパン)の3つ。2,2-ジメチルプロパンはまん中の炭素に H が無く、二重結合をつくれないので、アルケンの骨組みにならない。
だから I と J は、ペンタンと 2-メチルブタンのどちらか。どちらがどちらかは、後の実験から決まる。E と F に水を付けると同じアルコール K が主にでき、K だけが二クロム酸カリウムで酸化されない(OH の付いた炭素に H が無い=第三級アルコール)。第三級アルコールになれるのは枝のある骨組みだけなので、E・F は 2-メチルブタンの骨組み、G・H はまっすぐな骨組み。
答え I: C H 3 − C H ( C H 3 ) − C H 2 − C H 3 J: C H 3 − C H 2 − C H 2 − C H 2 − C H 3
キ まず K〜P を決める。マルコフニコフ則:酸で水を付けるとき、H + は H の多いほうの炭素に付き、OH は炭化水素基の多いほう(安定な陽イオンになる炭素)に付く。
E(2-メチル-2-ブテン)と F(2-メチル-1-ブテン)からは、枝の付け根の炭素に OH が付いた第三級アルコール K(2-メチル-2-ブタノール)が主にできる。反対の向きに付いた少ない物が、E からは N(3-メチル-2-ブタノール)、F からは O(2-メチル-1-ブタノール)。
G(1-ペンテン)からは L(2-ペンタノール)が主に、P(1-ペンタノール)が少し。H(2-ペンテン)は二重結合の両側がどちらも炭化水素基 1 つなので、L と M(3-ペンタノール)が両方できる。ヨードホルム反応(C H 3 C H ( O H ) − の形で陽性)が L と N だけなのも合う。
不斉炭素原子(4 つの違う原子や原子団が付いた炭素)を探す。L の 2 番の炭素(H・OH・C H 3 ・C 3 H 7 )、N の 2 番の炭素(H・OH・C H 3 ・C H ( C H 3 ) 2 )、O の 2 番の炭素(H・C H 3 ・C 2 H 5 ・C H 2 O H )は、4 つとも違う。K は OH の炭素に C H 3 が 2 つ、M は C 2 H 5 が 2 つ、P は OH の炭素に H が 2 つで、どれも不斉炭素ではない。
答え L: C H 3 − C * H ( O H ) − C H 2 − C H 2 − C H 3 N: C H 3 − C * H ( O H ) − C H ( C H 3 ) − C H 3 O: H O − C H 2 − C * H ( C H 3 ) − C H 2 − C H 3
ク 下線部②より、脱水の速さは陽イオンのできる速さで決まり、下線部③より、安定な陽イオンほど速くできる。下線部①より、陽イオンの炭素に炭化水素基がたくさん付いているほど安定。
だから、OH の付いた炭素に炭素(炭化水素基)がいくつ付いているかを比べればよい。K は 3 つ(第三級)、L・M・N は 2 つ(第二級)、O・P は 1 つ(第一級)。3 つ付いているものがいちばん速い。
ケ それぞれ、水を付けて(マルコフニコフ則で主生成物)、外す(ザイツェフ則:二重結合の炭素に炭化水素基がより多く付くアルケンを優先)と、何になるかをたどる。
E → K → 外すと、二重結合ができる候補は 2-メチル-2-ブテンと 2-メチル-1-ブテン。二重結合の炭素に付く炭化水素基が多いのは 2-メチル-2-ブテン(3 つ)なので、E にもどる。F → K → 同じく 2-メチル-2-ブテン、つまり E になり、F にはもどらない。
G → L → 外すと、1-ペンテンと 2-ペンテンの候補のうち、ザイツェフ則で 2-ペンテン(H)になり、G にはもどらない。H → L と M → L からは 2-ペンテン、M(二重結合の候補はどちらも 2-ペンテン)からも 2-ペンテンで、H にもどる。
二重結合の炭素に炭化水素基がたくさん付いた、もともと安定なアルケンだけが、ひとまわりしてもとにもどる。
第2問 アンモニアを燃やすと CO₂ は減るか — と、青い結晶のすき間 出題の意図(東大) 無機化学に関する様々な項目(無機物質の性質,化学反応,反応熱,化学結合,結晶の構造)に関する基礎的な理解力と,これらの現象の本質を見抜き論理的かつ総合的に考察する力を問うことを意図しています。
東大の解答例(選ぶ問題だけ) Ⅱ カ:(b) (3),(c) (1),(d) (2) 下の答えと全部一致
答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 Ⅰは「同じエネルギーを得るとき、どれだけ C O 2 が出るか」を、燃料ごとに比べる問題。道具はヘスの法則 (反応の道すじによらず、出入りする熱の合計は最初と最後だけで決まる)で、表の生成熱(単体から 1 mol できるときに出る熱)から燃焼熱を出す。
注目点は、アンモニアは燃やしても C O 2 を出さないが、メタンから作ると、作る工程で C O 2 を出すこと(ウ・オ)。「燃やすときだけ」を見るか「作るところから」を見るかで、答えががらっと変わる。
Ⅱ(p32 から)は錯イオン(金属イオンに分子やイオンが配位結合でくっついた、ひとかたまりのイオン)と、プルシアンブルーの結晶。結晶は、1 辺 1.00 nm の立方体の中に何がいくつあるかを数えれば、組成・密度・吸着した分子の数がすべて出る。
ア 反応4:黒鉛が燃えて C O 2 になるときの熱は、C O 2 の生成熱そのもので 394 kJ。
反応5:メタンの燃焼熱は、ヘスの法則で「できた物の生成熱の合計 − もとの物の生成熱の合計」(酸素は単体なので 0):
394 + 2 × 286 − 75 = 891 k J
熱化学方程式は、反応式の右に出る熱を「+ 何 kJ」と書く形にする。
1.0 kJ を得るのに出る C O 2 は、どちらも C O 2 1 mol あたりの熱の逆数。黒鉛は 1 394 mol、メタンは 1 891 mol なので、比は 891 394 。メタンは C のほかに H も燃えて熱を出すので、同じ C O 2 でたくさんの熱が得られる。
答え C (黒鉛) + O 2 (気) = C O 2 (気) + 394 k J , C H 4 (気) + 2 O 2 (気) = C O 2 (気) + 2 H 2 O (液) + 891 k J , 2.3 倍
イ アンモニアの燃焼熱を出す。まず生成熱:反応3 で N H 3 2 mol ができるとき 92 kJ 出るので、1 mol あたり 46 kJ。
反応6:N H 3 + 3 4 O 2 → 1 2 N 2 + 3 2 H 2 O (液)。ヘスの法則で
3 2 × 286 − 46 = 383 k J / m o l
黒鉛 1.0 mol に N H 3 を x mol 混ぜると、出る C O 2 は黒鉛の分の 1.0 mol だけで、熱は 394 + 383 x kJ。これが、メタンで C O 2 1.0 mol を出すときの熱 891 kJ と同じになればよい:
394 + 383 x = 891
答え NH 3 の生成熱 46 (反応3 から)、燃焼熱 3 2 × 286 − 46 = 383 k J / m o l . 394 + 383 x = 891 ⇒ x = 1.3 m o l
ウ 反応1〜3 を何倍かずつ足して、途中で出てくる CO と H 2 が消え、N H 3 が 1 mol だけ残るようにする。
CO を消す:反応1 で CO ができ、反応2 で使われるので、反応1 と反応2 は同じ倍率 a 。このとき H 2 は反応1 で 3 a 、反応2 で a 、合わせて 4 a できる。N H 3 1 mol には反応3 を 1 2 倍して、H 2 を 3 2 mol 使う。4 a = 3 2 より a = 3 8 。
熱を同じ倍率で足す(出る熱を +、吸う熱を − として):
3 8 × ( − 206 ) + 3 8 × 41 + 1 2 × 92 ≈ − 15.9 k J
合計が負なので、全体としては熱を吸収する。反応1 で大きく吸った熱を、反応2・3 で出す熱が取りもどしきれない。
答え 反応1・2 を 3 8 倍、反応3 を 1 2 倍して足す: 3 8 ( − 206 ) + 3 8 ( 41 ) + 1 2 ( 92 ) = − 15.9 ⇒ 吸収、 16 k J
エ C O 2 1.00 トンから化合物 A が 1.36 トン。C O 2 1 分子から A が 1 分子できるとすると、A の分子量は C O 2 の 1.36 倍:
44 × 1.36 ≈ 59.8 ≈ 60
C O 2 と N H 3 から水がとれてできる、分子量 60 の物を考える。C O 2 + 2 N H 3 の 78 から H 2 O の 18 を引くとちょうど 60。C=O に − N H 2 が 2 つ付いた尿素で、肥料や樹脂の原料になる。
答え C O ( N H 2 ) 2 (モル質量 44 × 1.36 = 59.8 ≈ 60 )
オ ウで見たとおり、N H 3 1 mol を作るとき、反応2 を 3 8 倍するので、C O 2 が 3 8 = 0.375 mol 出る。
これを入れると、反応6 で 1.0 kJ を得るとき、作るときに出た C O 2 は 0.375 383 mol。メタンでは 1 891 mol なので、比は
0.375 / 383 1 / 891 = 0.375 × 891 383
1 より小さいので天然ガスよりは少ないが、「燃やしても C O 2 0」とはほど遠い。メタンから作った N H 3 を石炭に混ぜても、C O 2 はあまり減らない。だから問題文のとおり、太陽光や風力の電気で作った水素を使う製造法が必要になる。
答え 0.38 m o l ( = 3 8 ) , 0.87 倍 ( 0.375 / 383 1 / 891 )
カ ここからⅡ。錯イオンの形は、中心の金属イオンによって決まっている。教科書で覚える組み合わせ:
銀イオン A g + はアンモニア 2 つと直線形(ジアンミン銀(Ⅰ)イオン [ A g ( N H 3 ) 2 ] + )。亜鉛イオン Z n 2 + は 4 つと正四面体形([ Z n ( N H 3 ) 4 ] 2 + )。コバルト(Ⅲ)イオン C o 3 + は 6 つと正八面体形([ C o ( N H 3 ) 6 ] 3 + )。
同じ 4 配位でも、銅(Ⅱ)は正方形、亜鉛は正四面体と、形が違う。
答え (b) (3) A g + , (c) (1) C o 3 + , (d) (2) Z n 2 +
キ C u 2 + に少しアンモニア水を入れると、アンモニアが水から H + を受けとって O H − ができ、青白色の水酸化銅(Ⅱ) C u ( O H ) 2 が沈殿する。
アンモニアをたくさん入れると、C u 2 + に N H 3 が 4 つくっついたテトラアンミン銅(Ⅱ)イオン(錯イオン (a)、深青色)ができて、沈殿が溶ける。反応式は、C u ( O H ) 2 と N H 3 4 つから、錯イオンと O H − 2 つができる形。原子の数(Cu・O・H・N)と電荷(左 0、右 + 2 − 2 = 0 )がそろうか確かめる。
答え C u ( O H ) 2 + 4 N H 3 ⟶ [ C u ( N H 3 ) 4 ] 2 + + 2 O H −
ク 図2—3 の結晶は、鉄イオンが 0.50 nm おきに立方体の格子の点に並び、となりどうしの鉄のあいだに CN が 1 つずつ入っている。1 辺 1.00 nm の立方体の中を数える。
鉄:0.50 nm おきなので、1.00 nm の立方体には 2×2×2 = 8 個分(角・辺・面の分けあいを足すと 8)。下線部⑥より F e 2 + 4・F e 3 + 4。CN:格子の点 1 つから 6 方向に手が出ていて、1 本の手は 2 つの点で分けあうので、点 1 つあたり 3 本。8 × 3 = 24 個。
電荷:F e 2 + 4 個で + 8 、F e 3 + 4 個で + 12 、C N − 24 個で − 24 。合わせて − 4 なので、打ち消すための K + が 4 個。K 4・Fe 8・C 24・N 24 を、いちばん簡単な整数の比にする。
ケ 1 辺 1.00 nm の立方体の中には、ク で数えたとおり K F e 2 ( C N ) 6 のまとまりが 4 つある。1 つの式量は
39.1 + 2 × 55.8 + 6 × ( 12.0 + 14.0 ) = 306.7
立方体の質量は 4 × 306.7 6.02 × 10 23 g。体積は ( 1.00 × 10 − 7 c m ) 3 = 1.00 × 10 − 21 c m 3 。質量を体積で割って密度を出す:
4 × 306.7 6.02 × 10 23 × 1.00 × 10 − 21
鉄を含むのに水の 2 倍くらいしかないのは、格子のすき間が広い(下線部⑦)から。
答え 4 × ( 39.1 + 2 × 55.8 + 6 × 26.0 ) 6.02 × 10 23 × ( 1.00 × 10 − 7 ) 3 = 2.0 g / c m 3
コ 1.0 g あたりに吸着した N 2 の物質量は、p V = n R T から
n = 1.0 × 10 5 × 0.060 8.31 × 10 3 × 300 ≈ 2.41 × 10 − 3 m o l
1 辺 1.00 nm の立方体 1 つの質量は、ケ で出した 4 × 306.7 6.02 × 10 23 g。立方体 1 つあたりの N 2 の分子の数は、「1 g あたりの物質量 × 立方体の質量 × アボガドロ定数」:
2.41 × 10 − 3 × 4 × 306.7 6.02 × 10 23 × 6.02 × 10 23 = 2.41 × 10 − 3 × 1227
アボガドロ定数は打ち消しあう。小数第 1 位を四捨五入して整数にする。
答え 3 個 ( 1.0 × 10 5 × 0.060 8.31 × 10 3 × 300 = 2.41 × 10 − 3 m o l / g , × 1227 g / m o l = 2.95 )
第3問 CO₂ を深海に沈める — と、抗体がつかまえる速さ 出題の意図(東大) 化学における様々な項目(物質の状態変化,分子間力,化学平衡,反応速度)に関する基礎的な理解力と,これら現象を論理的かつ総合的に考察する力を問うことを意図しています。
東大の解答例(選ぶ問題だけ) Ⅰ カ:(4) 下の答えと全部一致
答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 Ⅰの前半は製鉄。酸化鉄を CO で3段階に還元する反応式を書き、鉄の量から C O 2 の量を出す。段階が3つあっても、全体をまとめた1本の式で量の関係が決まる。
Ⅰの後半は、回収した C O 2 を海に放す話。海の中は深いほど圧力が高い(10 m で 1.00 × 10 5 Pa ずつ増える)。C O 2 は、浅い所では気体(理想気体の式で密度が出る)、ある深さから液体、さらに深くなると海水より重くなって沈む。図3—2 の状態図(温度と圧力で気体・液体・固体のどれになるかを示した図)と、「気体は押すと縮みやすいが、液体はあまり縮まない」ことが芯。
Ⅱ(p38 から)は、抗体 Ab が炎症のもとの分子 Ck をつかまえる反応の速さと平衡。Ab が Ck よりずっと多いので、Ab の濃さを一定とみなせる。すると速さの式が「[ C k · A b ] の一次関数」になり、グラフの傾きと切片から速さの定数を読みとれる。
ア 各段階で、CO が酸化鉄から O を 1 つ奪って C O 2 になる。
F e 2 O 3 → F e 3 O 4 :Fe の数をそろえるため F e 2 O 3 3 つ(Fe 6・O 9)から F e 3 O 4 2 つ(Fe 6・O 8)。O が 1 つ減るので CO 1 つ。
F e 3 O 4 → F e O :F e 3 O 4 1 つ(O 4)から FeO 3 つ(O 3)。O が 1 つ減るので CO 1 つ。
F e O → F e :FeO 1 つから O が 1 つとれて Fe。CO 1 つ。
酸化鉄の「O の数 ÷ Fe の数」は、1.5 → 約 1.33 → 1 → 0 と、階段のように減っていく。
答え 3 F e 2 O 3 + C O → 2 F e 3 O 4 + C O 2 , F e 3 O 4 + C O → 3 F e O + C O 2 , F e O + C O → F e + C O 2
イ 3 つの段階をまとめて考える。F e 2 O 3 の O 3 つを、最後にはすべて CO が C O 2 として持っていくので、全体は
F e 2 O 3 + 3 C O → 2 F e + 3 C O 2
Fe 2 つにつき C O 2 3 つ、つまり Fe 1 mol あたり C O 2 1.5 mol。(アの3本の式を、F e 2 O 3 6 つから段ごとに足しあげても、Fe 12 に対して C O 2 18 で同じ比になる。)
質量の比にすると、Fe 55.8 に対して C O 2 1.5 × 44 。だから
7.50 × 10 7 × 1.5 × 44 55.8 トン
単位はトンのまま計算してよい(比だけを使うので)。
答え まとめると F e 2 O 3 + 3 C O → 2 F e + 3 C O 2 。 7.50 × 10 7 × 1.5 × 44 55.8 = 8.9 × 10 7 トン
ウ 水深 10.0 m の圧力は、海面の 1.00 × 10 5 Pa に 10.0 × 1.00 × 10 4 Pa を足して 2.00 × 10 5 Pa。温度は 15 + 273 = 288 K。
理想気体の式 P V = n R T で、n = w M とおくと、密度 ρ = w V は
ρ = P M R T = 2.00 × 10 5 × 44 8.31 × 10 3 × 288 g / L
この浅さなら、本物の C O 2 の密度とのずれは 1% ほどで、理想気体とみなしてよい。
答え P = 2.00 × 10 5 P a , ρ = P M R T = 2.00 × 10 5 × 44 8.31 × 10 3 × 288 = 3.7 g / L
エ 図3—2 の状態図で、15 ℃ のたての線をたどり、気体と液体の境目の線とぶつかる圧力を読むと、約 50 × 10 5 Pa。これより圧力が高いと液体になる。
1.00 × 10 5 + 1.00 × 10 4 × h = 50 × 10 5 ⟹ h = 490 m
答え 5 × 10 2 m (15 ℃ で液になる圧力は図から約 50 × 10 5 P a )
オ C O 2 は直線形で電荷のかたよりが打ち消しあう分子(無極性)なので、分子どうしに働くのは弱いファンデルワールス力だけ。だから低い圧力では分子どうしが離れて(気体)、押すとどんどん縮む。
水は分子どうしが水素結合で強く引きあっているので、もともと分子どうしが近く、押してもあまり縮まない。
深海では、押し縮められた C O 2 と水とで、同じ体積の中の分子の数が近くなる。すると、分子 1 個が重いほうが重くなる。分子量は C O 2 44、H 2 O 18 なので、C O 2 のほうが密度が大きくなり、沈む。
答え a ファンデルワールス力、b 水素結合、c 分子量(モル質量)
カ 水深と C O 2 の密度のグラフに求められる特徴を、ウ〜オから順に並べる。
①浅い所(気体):海面では密度はほぼ 0(ウの計算で 1 気圧なら約 1.8 g/L)で、深くなると圧力に比例して増える。だから原点の近くから右上がりの線。水平な線((1)(5))は合わない。②液体になる深さ(エ、約 490 m)で、密度がとびはねるように大きくなる(気体と液体の境目)。とぎれずにつながる (2) は合わない。③液体になってからは、押してもあまり縮まないので、ゆるやかに増えるだけ。④深い所で海水の密度(点線)を上回る(オ、下線部④)。液体の線がはじめから点線より上にある (1)(3) は、浅い水深では液体 C O 2 が上昇することと合わない。
4つをすべて満たすグラフを選ぶ。本物の C O 2 の値で線を引くと、液体になる所で約 150 g/L から約 820 g/L にはね上がり、4000 m あまりで海水の密度と交わる。
キ ここからⅡ。C k · A b ができる速さは、「できる速さ − こわれる速さ」:v = v 1 − v 2 = k 1 [ C k ] [ A b ] − k 2 [ C k · A b ] 。
これを使える文字だけで書く。[ A b ] = [ A b ] 0 。まだ Ab とくっついていない Ck は、はじめの量から複合体になった量を引いたもの:[ C k ] = [ C k ] 0 − [ C k · A b ] 。入れると
v = k 1 [ A b ] 0 ( [ C k ] 0 − [ C k · A b ] ) − k 2 [ C k · A b ]
かっこを開いて、[ C k · A b ] がつく項とつかない項に分ける。[ C k · A b ] の前の係数(符号をのぞいたもの)が α 、残りの定数が β 。
答え d: k 1 [ A b ] 0 ( [ C k ] 0 − [ C k · A b ] ) − k 2 [ C k · A b ] , e: k 1 [ A b ] 0 + k 2 , f: k 1 [ A b ] 0 [ C k ] 0
ク キより α = k 1 [ A b ] 0 + k 2 。これは [ A b ] 0 を横軸にとると、傾き k 1 ・切片 k 2 の直線。
図3—5 の点は、[ A b ] 0 が 2 × 10 − 9 から 8 × 10 − 9 に 6 × 10 − 9 増えると、α が 2 × 10 − 3 から 5 × 10 − 3 に 3 × 10 − 3 増えている。傾きは
k 1 = 3 × 10 − 3 6 × 10 − 9
切片は、[ A b ] 0 = 2 × 10 − 9 の点から直線を左へ 0 までのばして、k 2 = 2 × 10 − 3 − k 1 × 2 × 10 − 9 。
[ A b ] 0 を 2 倍にしても α は 2 倍にならない。切片の k 2 (こわれる速さ)があるから。
答え k 1 = 5 × 10 5 L m o l − 1 s − 1 , k 2 = 1 × 10 − 3 s − 1
ケ 平衡では v = 0 、つまり v 1 = v 2 :k 1 [ C k ] [ A b ] 0 = k 2 [ C k · A b ] 。これを k 1 k 2 について解くと
K = k 1 k 2 = [ C k · A b ] [ C k ] [ A b ] 0
[ C k ] = [ C k ] 0 − [ C k · A b ] を入れて、指定された文字で書く。
結合率 X :[ C k · A b ] = X [ C k ] 0 とおくと、上の式は K = X ( 1 − X ) [ A b ] 0 になる。これを X について解くと、X ( 1 + K [ A b ] 0 ) = K [ A b ] 0 から X が出る。[ C k ] 0 は消えて、X は K と [ A b ] 0 だけで決まる。
答え g: [ C k · A b ] ( [ C k ] 0 − [ C k · A b ] ) [ A b ] 0 , h: K [ A b ] 0 1 + K [ A b ] 0
コ ケの式で [ A b ] 0 = 1 K とおくと、K [ A b ] 0 = 1 なので
X = 1 1 + 1 = 1 2
つまり 1 K は「Ck の半分をつかまえるのに要る Ab の濃さ」。図3—6 で、平衡の X が 0.5 になる横軸の位置を選ぶ。
1 K が小さい抗体ほど、少ない量で Ck をつかまえられる。だから医薬品の目安に使われる。
答え (Ⅰ)。 [ A b ] 0 = 1 / K のとき X = 1 2 になり、図で X = 0.5 の所が (Ⅰ) だから
サ 表3—1 から、それぞれの K = k 1 k 2 を比べる。Ab1 は 1.0 × 10 6 1.0 × 10 − 3 = 1.0 × 10 9 、Ab2 は 5.0 × 10 5 5.0 × 10 − 4 = 1.0 × 10 9 、Ab3 は 1.0 × 10 5 1.0 × 10 − 3 = 1.0 × 10 8 。
Ab2:K が Ab1 と同じなので、最後に落ち着く高さ(平衡の [ C k · A b ] )は Ab1 の破線と同じ。ただし k 1 も k 2 も半分なので、α = k 1 [ A b ] 0 + k 2 が半分になり、平衡に着くのが遅い。同じ高さに、ゆっくり届く曲線。
Ab3:K が Ab1 の 1 10 なので、平衡の X = K [ A b ] 0 1 + K [ A b ] 0 が小さく、Ab1 よりずっと低い所で落ち着く曲線。
シ X = 0.9 にするには、ケの式から K [ A b ] 0 1 + K [ A b ] 0 = 0.9 、つまり K [ A b ] 0 = 9 、[ A b ] 0 = 9 K 。
K が大きいほど少ない [ A b ] 0 ですむ。Ab1 と Ab2 は K が同じ(1.0 × 10 9 )で、[ A b ] 0 = 9 × 10 − 9 mol/L。Ab3 はその 10 倍要る。
Ab1 と Ab2 のどちらが速いかは、α = k 1 [ A b ] 0 + k 2 で比べる。この濃さで Ab1 は 1.0 × 10 6 × 9 × 10 − 9 + 1.0 × 10 − 3 = 1.0 × 10 − 2 、Ab2 は 5.0 × 10 − 3 で、Ab1 が 2 倍速く平衡に近づく(平衡の値の 90% に届くまで Ab1 約 230 秒、Ab2 約 460 秒。これは「落ち着く先の X の 90%」に届く時間で、X そのものが 0.90 になる時間ではない。Ab1 は落ち着く先が X=0.90 なので、230 秒での X は 0.90 × 0.9 ≈ 0.81 。X=0.90 には近づき続けるだけで、ちょうど届く時刻は無い)。つかまえる力(K )が同じでも、くっつく速さと離れる速さの両方が大きいほうが、早く落ち着く。