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化 学
第1問
以下は1887年アレニウスによって発表された論文「水に溶解した物質の解離について」の冒頭部分の要約である。この論文は,電解質が水溶液中で陽イオンと陰イオンに電離しているという『電離説』に決定的な裏付けを与えたものである。これを読み,後の問題Ⅰ,Ⅱに答えよ。
水に溶解した物質の解離について
スヴァンテ アレニウス
二年前(1885年)スウェーデン科学アカデミーに提出された論文でファントホッフは,気体に関するアボガドロの法則——すなわち「ある温度で一定の数の分子を一定体積に含む気体は,気体の種類によらず等しい圧力を示す」という法則——が以下のように一般化されることを示した。
『ほとんどの物質について,A ある温度 T で,一定の物質量 n の物質を任意の液体に溶解した体積 V の溶液が示す浸透圧は,同じ温度 T で,同じ物質量 n の分子を同じ体積 V に含む気体が示す圧力と等しい。』
しかしこの法則は,すべての物質について成立するわけではない。特に水溶液については,かなり多くのものが法則の例外であり,法則よりも著しく大きな浸透圧を示すことがわかっている。
ここで,気体にもアボガドロの法則より大きな圧力を示す例があったことを思い起こして欲しい。高温における塩素や臭素,ヨウ素のふるまいは,その代表例である。これらの物質は,高温では原子に解離しているので,見かけ上アボガドロの法則から外れると考えられている。そうすると,水溶液でファントホッフの法則の例外とされている物質についても,同じような説明を考えてもよさそうである。この論文の目的は,このような説明が水溶液の電気伝導度の測定からも強く支持されることを示すことにある。
水溶液の電気伝導現象は『電解質分子(*訳注1)の一部は,互いに独立に動くことのできる「イオン」に解離している』という仮説に基づいて説明される。そうすると,どれだけの割合の電解質分子がイオンに解離しているかがわかれば,ファントホッフの法則から浸透圧を計算することができるはずである。
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私は以前に「電解質の電気伝導性に関して」と題した論文で,互いに独立に動けるイオンに解離した分子を「活性」,解離していない分子を「不活性」と呼んだ。そして無限希釈においてすべての電解質分子は活性になると考えられることを示した。以下の計算もこの仮説に基づいている。活性な分子の数を q ,不活性な分子の数を p としたとき,活性な分子の割合,「活性度係数」(α )は以下のようになる。
α = q p + q ( 1 )
この α は無限希釈において 1 になるはずである。電解質分子の濃度が高い場合は α は 1 より小さくなるが,以前の論文に示したように,水溶液の電気伝導度の測定から α を導くことができる。
一方,ファントホッフは,実際の浸透圧(Π )を,物質がすべて不活性であると仮定して計算される浸透圧(Π 0 )で割ったものを係数 i として報告している。
i = Π / Π 0 ( 2 )
この値を表1—1の右から2番目の列に示した(*訳注2)。そこで,電解質分子が解離した結果生じるイオンの一つ一つが,一つの分子として浸透圧に寄与するとすれば次式が得られる。
i = p + k q p + q ( 3 )
ここで k は一つの活性分子が解離して生成するイオンの数(たとえば K C l について k = 2 ,すなわち K + + C l − であり,B a C l 2 あるいは K 2 S O 4 について k = 3 ,つまり B a 2 + + C l − + C l − ,あるいは K + + K + + S O 4 2 − )である。
(*訳注1) 現在の理解とは異なるが,当時アレニウスは,すべての電解質はいったん分子の形で水に溶解し,その一部がイオンに解離すると考えていた。文中の「電解質分子」という表現は,この分子状の溶解物を指している。
(*訳注2) 実際には,アレニウスはこの i の値として,ラウールの凝固点降下の実験結果から得られたものを用いている。
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表1—1
さて,(1)式と(3)式から,以下のように i を α を用いて表すことができる。
i = 1 + ( k − 1 ) α ( 4 )
α は電気伝導度の測定から求めることができるので,k を仮定すれば,電気伝導度の測定からも i が求められる。表1—1の活性度係数 α は 1 g の物質を水に溶かして 1 l にした濃度における値であり,表1—1の右端の列には,この α を用いて(4)式から計算された i を示してある。
表の右端の2つの列の数値,すなわち,浸透圧から求めた i と,電気伝導度の測定から(4)式を用いて計算された i には特筆すべき一致が見られる。このことは(4)式を導く際に用いた以下の仮定が正しいものであることを示している。
1) 水溶液中の電解質分子には,陽イオンと陰イオンに解離した活性な分子と,解離しないまま存在する不活性な分子がある。解離によって生成したイオンの数も,ファントホッフの浸透圧の法則の分子数として寄与する。
2) 不活性な分子は,溶液を希釈していくにつれ活性に変わる。無限希釈ではすべての分子が活性になる。
これら2つの仮定は理論的な意味だけでなく,実用的な意味でも重要である。この論文では,従来ファントホッフの法則の例外とされていた物質についても,陽イオンと陰イオンへの解離を考えることで法則が適用できることを示してきた。このようにファントホッフの法則が一般的に適用できるなら,我々は,物質(液体に溶けさえすればどんな物質でも)のD 分子量を決定する非常に便利な方法を手にしたことになるのである。
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Ⅰ 以下の問ア ~オ に答えよ。必要であれば次の数値を用いよ。
気体定数 R = 8.3 P a · m 3 · K − 1 · m o l − 1 = 0.082 a t m · l · K − 1 · m o l − 1
〔問〕
ア 下線部Aの法則(ファントホッフの法則)を,モル濃度 C から浸透圧 Π を計算する形の式で書け。ただし,絶対温度を T ,気体定数を R とする。
イ 下線部Dの方法は現在も分子量の測定に用いられる。ファントホッフの示した測定値によれば,温度 12 ℃において,ショ糖の 1.2 %(重量パーセント)水溶液の示す浸透圧は 8.3 × 10 4 P a (0.82 a t m )であった。この測定値からショ糖の分子量を求めよ。水溶液の密度は 1.0 g · c m − 3 であったとせよ。答に至る計算過程も示すこと。
ウ 表1—1の空欄Bおよび空欄Cにあてはまる数値をそれぞれ求めよ。
エ 表1—1のエタノールから硝酸カリウムまでの8つの物質のうち,この論文以前に,ファントホッフの法則から著しく外れる「例外」とされていたと考えられるものすべてを物質名または化学式で書け。
オ 酢酸は分子の形で水に溶解し,その一部が電離平衡によってイオンに解離している。この場合,アレニウスの活性度係数 α は電離度に等しいと考えられる。以下の式(5)に示す C H 3 C O O H の電離平衡定数 K を用いて,1 g の物質を水に溶解して 1 l とした濃度における電離度 α を計算せよ。計算の際,α は 1 より十分小さいと仮定せよ。
K = [ C H 3 C O O − ] [ H + ] [ C H 3 C O O H ] = 1.5 × 10 − 5 m o l · l − 1 ( 5 )
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Ⅱ 当時アレニウスは,すべての電解質について,酢酸と同様に分子状に溶解した電解質分子が部分的に電離すると考えていた。しかし今日,塩化カリウムなどのイオン結晶の水溶液では,K C l のような単位の分子状の溶解状態は存在せず,すべてがイオンとして存在していることがわかっている。したがって(1)式の α は 1 となるはずである。しかし,表1—1にあるように,電気伝導度の測定から得られた α は 1 より小さい。以降では,その理由について考察する。以下の問カ ~ク に答えよ。答に至る過程も示すこと。必要であれば次の数値を用いよ。
〔問〕
カ 上述のように K C l などは,水溶液中ではすべてが解離したイオンとして存在しているが,濃度が高くなると,陽イオンのまわりには陰イオンが,陰イオンのまわりには陽イオンが存在しやすいために,見かけ上,イオンの濃度が減少する。この時,電気伝導度や浸透圧に寄与する「見かけ上のイオン濃度」をイオンの「活量」と呼ぶ。また,活量を,溶解した物質量から計算されるイオンのモル濃度で割ったものを「活量係数」(γ )と呼ぶ。デバイとヒュッケルの理論によれば,電解質 A B の溶解でイオン A z + と B z − が生成するとき,活量係数 γ は次式で表される。
log 10 γ = − 0.5 z 3 C 1 2 ( 6 )
ここで C は溶解した電解質 A B のモル濃度(m o l · l − 1 )である(すなわち,C は A z + または B z − の濃度であり,A z + と B z − の濃度の和ではない)。z = 1 および z = 2 について(6)式の γ を C に対してプロットしたものを図1—1に示す。K C l などの電解質については,アレニウスの電気伝導度測定による活性度係数 α は活量係数 γ に等しいと考えられる。表1—1の塩化カリウムおよび硫酸マグネシウムの2つについて,1 g の物質を水に溶解して 1 l とした濃度における γ の値を図1—1から求めよ。
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図1—1
キ アレニウスが導出した i と α の関係式(4)は酢酸などの電離平衡を想定したものであり,α は解離度に相当する。しかし,塩化カリウムなどの溶解では α は上記の活量係数 γ に等しいと考えられるので(4)式は成立しない。このように α が γ と一致する場合は,浸透圧に寄与するイオンの活量は,すべてのイオンの濃度の和に活量係数 γ をかけることで得られる。活量係数 γ から i を求める式を書け。
ク 表1—1の塩,特に硫酸塩では(4)式から計算された i (右端の列)は,浸透圧から得られた i (右から2番目の列)より大きな値を示し,上の問キ で見たように,電離平衡を想定した(4)式から i を計算していることに原因があると考えられる。表1—1の塩化カリウムおよび硫酸マグネシウムの2つについて,上の問キ で導いた式から,右端の列の i の値を再計算せよ。ただし γ には,問カ で求めた値を用いよ。
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第2問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。必要があれば下の値を用いよ。
アボガドロ定数:N A = 6.0 × 10 23 m o l − 1
気体定数:R = 8.3 P a · m 3 · K − 1 · m o l − 1 = 0.082 a t m · l · K − 1 · m o l − 1
Ⅰ 次の文章を読み,問ア ~オ に答えよ。
金属の多くは,空気中で水や水蒸気と接触すると腐食される。金属の表面を,腐食されにくい別の金属の薄膜でおおうと,腐食を防ぐことができる。おもな方法として,無電解めっきと電気めっきがある。めっきは腐食防止以外にさまざまな用途で使われている。たとえば,銅の無電解めっきはガラスやプラスチックなどの絶縁体の表面に導電性を与えるために使用される。
古典的な銅の無電解めっき液の成分を下に示す。
硫酸銅 C u S O 4
ホルムアルデヒド H C H O
炭酸ナトリウム N a 2 C O 3
水酸化ナトリウム N a O H
酒石酸ナトリウムカリウム(ロシェル塩) K N a C 4 H 4 O 6
①このめっき液を利用してプラスチックにめっきを行ったところ,プラスチック表面上で金属銅が析出し,銅と等モルの水素が発生した。水酸化ナトリウムを加えないと,めっきはまったく進行しなかった。なお,②この古典的なめっき液では副反応が進行し,固体が沈殿した。(現在使われているめっき液では,このような副反応はほとんど進行しない。)
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〔問〕
ア 下線部①の過程を化学反応式で示せ。
イ ホルムアルデヒドの役割を10字程度で記せ。
ウ 炭酸ナトリウムの役割を40字程度で記せ。
エ 下線部②の副反応で沈殿した物質は酸化銅(Ⅰ)であった。この副反応を化学反応式で示せ。なお,この反応では気体は発生しない。
オ 一辺が 10 c m のプラスチックの立方体全面に均一に無電解めっきを行ったところ,5.5 g の質量の増加がみられた。(1)めっきされた銅の薄膜の厚さ(m m )を求め,有効数字2桁で答えよ。(2)めっきにより発生した水素の標準状態での体積(l )を求め,有効数字2桁で答えよ。それぞれ結果だけでなく導く過程も記せ。ただし,銅の結晶構造は,図2—1に示すような面心立方格子であり,銅の単位格子の一辺の長さを 0.36 n m (3.6 × 10 − 8 c m )とする。
図2—1 銅の単位格子
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Ⅱ 次の文章を読み,問カ ~シ に答えよ。
ケイ酸塩鉱物中では,正四面体の S i O 4 が酸素を共有して様々な構造をとる。たとえば,S i O 4 が図2—2のように鎖状に無限につながった場合,骨格部分の最小単位は①S i O m n − で表される。一方,すべての酸素が隣り合った S i O 4 に共有され,立体的につながると S i O 2 の組成をもつ あ になる。
図2—2 S i O 4 が無限につながった鎖状イオンの骨格構造
ケイ酸塩または S i O 2 の一部のケイ素がアルミニウムに置き換わったものはアルミノケイ酸塩とよばれる。
ゼオライト(日本語名:沸石)は立体的なネットワーク構造をもったアルミノケイ酸塩であり,ネットワークの空孔に陽イオンと多量の結晶水を含んでいる。その一般式は②M a A l b S i c O d · e H 2 O で示される。ここで M は N a ,K ,C a などの陽イオンになり易い金属元素であり,a ,b ,c ,d ,e はそれぞれ組成を示す整数である。ゼオライトは結晶水が除かれてもネットワーク構造が保たれているため,興味深い性質を示す。
たとえば,A型ゼオライトと呼ばれるものの結晶は,図2—3に示すようなネットワーク構造が,図2—4のようにつながってできあがっている。このゼオライトは N a 12 A l 12 S i 12 O 48 · 27 H 2 O の組成をもち,つぎのように合成される。
③水酸化ナトリウム水溶液中で,ケイ酸ナトリウム(N a 2 S i O 3 · 9 H 2 O )とアルミン酸ナトリウム(N a A l O 2 )を混合するとゲル状の沈殿が生成し,懸濁する。この懸濁液を加熱すると,ゼオライトの結晶が生じる。
A型ゼオライトは様々な用途をもち,広範に利用されている。たとえば,④ゼオライト中のナトリウムイオンは容易に他の陽イオンに交換する。⑤この性質を利用して,洗濯用粉石けんにはA型ゼオライトが加えられている。また,加熱により結晶水を除いたゼオライトは,空気の乾燥剤や有機溶媒の脱水剤として利用できる。さらに,乾燥したA型ゼオライトは一定の大きさの入り口をもつ空孔をもつため,直鎖状の脂肪族炭化水素は結晶中に取り込まれるが,芳香族化合物や側鎖をもつ脂肪族炭化水素は取り込まれない。この性質を利用すると,分子の形と大きさによって物質を分離することができる。そのため,分子ふるいとも呼ばれる。
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図2—3 A型ゼオライト中のアルミノケイ酸イオンの骨格
図2—4 A型ゼオライトの模式図
図中の直線は,酸素を共有するアルミニウムとケイ素を結んで構造を単純化して示したものである。灰色の多面体は図2—3に示した部分に相当する。この多面体が,互いに酸素を共有して連結することにより,三次元ネットワークが結晶全体につながっている。
〔問〕
カ 下線部①のイオンの m および n を記せ。
キ あ に該当する鉱物名を記せ。
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ク 下線部②で M がアルカリ金属のとき,ゼオライトの組成式中の a は b ,c ,d ,e を用いて,また,d は a ,b ,c ,e を用いてそれぞれどのように表せるか。例のように記せ。例:a = d + e
ケ アルミノケイ酸塩の組成については一般に b ≦ c の関係が成立する。これは b > c の組成では不安定になるためであるが,その理由を40字程度で記せ。
コ 下線部③におけるA型ゼオライトの合成の反応式を記せ。途中に生成するゲル状物質は考慮しなくてよい。
サ 下線部④で,1.0 g のA型ゼオライトは最大何 m g のカルシウムイオンとイオン交換できるか。有効数字2桁で答えよ。
シ 下線部⑤の粉石けん中のゼオライトの果たす役割について,30字程度で記せ。
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第3問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。必要があれば原子量として以下の値を用いよ。なお,構造式は例にならって解答せよ。
(構造式の例)
Ⅰ 次の文章を読み,問ア ~ウ に答えよ。
炭素,水素,酸素のみからなり,互いに異性体の関係にある分子量 250 以下のエステルA,B,Cがある。学生実験で以下の(1)~(7)の操作を行うことにより,これらの構造式を決定することにした。
(1) 図3—1の装置を用いて,A 75 m g を乾燥した酸素中で完全に燃焼させたところ,塩化カルシウム管の重量が 45 m g ,ソーダ石灰管の重量が 198 m g 増加した。
図3—1
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(2) A,B,Cの混合物を水酸化ナトリウム水溶液で完全に加水分解した。反応液が強アルカリ性を示すことを確認した後,分液漏斗に移した。ジエチルエーテルを加えて振り混ぜた後,静置したところ二層に分かれ,ジエチルエーテル層からは化合物Dが得られた。
(3) (2)の操作で得られた水層を三角フラスコに移し,二酸化炭素を十分に通気した。これを別の分液漏斗に移し,ジエチルエーテルと振り混ぜ,エーテル抽出操作を行ったところ,ジエチルエーテル層から化合物Eが得られた。
(4) (3)の操作で得られた水層を別の三角フラスコに移し,酸性になるまで塩酸を加えた。これを別の分液漏斗に移し,ジエチルエーテルと振り混ぜ,エーテル抽出操作を行ったところ,ジエチルエーテル層から化合物Fが得られた。なお,D,E,Fはすべてベンゼン環を有する構造をもつ。
(5) 化合物Dにヨウ素と水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると,特有の臭気をもつ黄色沈殿が生じた。
(6) 化合物Eをニッケル触媒を用いて高温・高圧の条件下,水素で還元すると,分子式 C 7 H 14 O をもつアルコールが得られた。このアルコールを適当な酸化剤で酸化して得られたケトンには,不斉炭素原子が存在しなかった。
(7) 化合物Fを過マンガン酸カリウムで十分に酸化して得られた化合物を,180 ℃以上に加熱すると脱水が起こり,分子式 C 8 H 4 O 3 をもつ化合物が得られた。
〔問〕
ア 化合物Aの分子式を求めよ。結果のみでなく求める過程も示せ。
イ 化合物D,E,Fの構造式を示せ。
ウ 加水分解により化合物DはAから,EはBから,FはCから生じたと考えた場合の,化合物A,B,Cの構造式を示せ。
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Ⅱ アミノ酸のアミノ基とカルボキシ基は,脱水縮合してペプチド結合を生じる。一般に,分子内にペプチド結合をもつ化合物をペプチドという。多くのペプチドは,側鎖がもつ官能基の種類と配置の仕方によって,特徴ある性質を示す。たとえば,以下に示す構造をもち動植物に広く分布するグルタチオンは細胞の中で還元剤として働く。また,人工甘味料アスパルテームは砂糖の約 200 倍の甘味を有する。この2種類のペプチドに関する以下の記述を読み,問エ ~キ に答えよ。
(1) グルタチオンとアスパルテームの等モル混合物を適当な酸で完全に加水分解すると,6種類の化合物G,H,I,J,K,Lが得られた。ただし,このうち不斉炭素原子をもつアミノ酸はすべて天然型で,反応によって不斉炭素原子上の配置やアミノ酸の側鎖は影響を受けないものとする。
(2) 化合物GとHは鏡像異性体(光学異性体)をもたず,その水溶液に平面偏光を通しても偏光の振動面を回転させる性質をもたなかった。一方,化合物I~Lの水溶液は,偏光の面を回転させる性質をもっていた。
(3) 化合物Gだけが常温・常圧で液体であった。
(4) 化合物Iに濃硝酸を加えて加熱した後,水酸化ナトリウム水溶液を加えて塩基性にすると橙黄色に変色した。
(5) 化合物Jを構成成分とするタンパク質水溶液に,水酸化ナトリウムを加えて加熱した後,酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えると黒色沈殿を生じた。
(6) 化合物H~Lの各水溶液に,電極をさして電圧を加え電気泳動を行った。各水溶液の p H を変化させ化合物が移動しなくなる時の p H を調べた。KとLの場合,その p H はH,I,Jのいずれの場合よりも小さかった。
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(7) 化合物K 1.00 g を完全燃焼させると 1.32 g の二酸化炭素が生成した。
〔問〕
エ (6)の電気泳動の実験で,化合物が移動しなくなった p H における化合物Hの構造式を示せ。
オ 化合物Iの構造式を示せ。
カ 化合物Jの構造式を示せ。
キ 化合物Kの構造式を示せ。
第1問 水にとけた粒は いくつに見えるか — アレニウスの電離説 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 アレニウスの論文(1887年)の要約を読んで答える問題。筋は「浸透圧は、溶けている粒の数だけで決まる 」の1本。ファントホッフの法則は、溶けた物の粒を気体の分子と同じように数えれば浸透圧が出る、というもの。ところが塩や酸の水溶液は、法則より大きな浸透圧を示す。アレニウスは、それを「水の中で分子がイオンにばらけて、粒の数がふえているから」と説明した。
論文の中の式を整理しておく。ばらけた分子の割合を α 、1つの分子がばらけてできるイオンの数を k とすると、粒の数は「ばらけていない分 1 − α 」と「ばらけた分 k α 」の合計で、浸透圧が何倍になるかの i は
i = ( 1 − α ) + k α = 1 + ( k − 1 ) α
後半Ⅱは、今の考え方で見なおす。塩化カリウムのような塩は、実は水の中で全部イオンになっている。それでも α が1より小さく見えるのは、イオンのまわりに反対の電荷のイオンが集まって、はたらきが弱まるから。このはたらきの割合を活量係数 γ で表す。
ア 下線部Aは「溶液の浸透圧は、同じ物質量の分子を同じ体積に入れた気体の圧力と同じ」と言っている。気体の圧力は状態方程式 P V = n R T から P = n V R T 。n V は、溶液で言えばモル濃度 C にあたる。だから浸透圧 Π は、気体の式の n V を C におきかえた形になる。
イ 浸透圧から物質量を出し、重さでわって分子量を求める。
溶液 1 L を考えると、密度 1.0 g / c m 3 より溶液は 1000 g 、そのうちショ糖は 1.2 % で 12 g 。温度は 12 + 273 = 285 K 。アの式から
n = Π V R T = 0.82 × 1 0.082 × 285
これで 1 L の中のショ糖の物質量が出る。分子量は「12 g ÷ 物質量」。
ショ糖 C 12 H 22 O 11 の原子量を足した値(342)とよく合う。溶ければどんな物でも、浸透圧から分子量が分かる、というのが下線部Dの意味。
答え 1 L(1000 g)にショ糖 12 g。 n = Π V R T = 0.82 × 1 0.082 × 285 = 3.51 × 10 − 2 m o l , M = 12 3.51 × 10 − 2 = 3.4 × 10 2
ウ B:水酸化ストロンチウム S r ( O H ) 2 は S r 2 + と O H − 2つにばらけるので k = 3 。表の右端の i = 2.72 から逆にたどる:
2.72 = 1 + ( 3 − 1 ) α ⟹ α = 2.72 − 1 2
C:塩化水素 HCl は H + と C l − で k = 2 、α = 0.90 なので
i = 1 + ( 2 − 1 ) × 0.90
右から2番目の列(浸透圧から出した i = 1.98 )と見比べると、かなり近い。これがアレニウスの言う「特筆すべき一致」。
答え B = 0.86 ( 2.72 − 1 3 − 1 ) , C = 1.90 ( 1 + 0.90 )
エ ファントホッフの法則どおりなら、浸透圧から出した i = Π / Π 0 は 1 になる。「著しく外れる例外」は、この値が 1 から大きくずれている物。
表のエタノールから硝酸カリウムまでの8つで、右から2番目の列を見ると、エタノール 0.94、転化糖 1.04、アンモニア 1.03、酢酸 1.03 は 1 に近い。これらは水の中でほとんどばらけない(α がほぼ 0)物。
一方、水酸化ストロンチウム 2.61、塩化水素 1.98、塩化カリウム 1.82、硝酸カリウム 1.67 は 1 から大きく外れている。α も大きく、よくばらける物(強い塩基・強い酸・塩)ばかり。
答え S r ( O H ) 2 , H C l , K C l , K N O 3
オ まず濃さ。酢酸 C H 3 C O O H の分子量は 60 なので、1 g を 1 L にすると C = 1 60 m o l / L 。
電離度 α で考えると、[ C H 3 C O O − ] = [ H + ] = C α 、[ C H 3 C O O H ] = C ( 1 − α ) 。(5)式に入れて
K = C α · C α C ( 1 − α ) = C α 2 1 − α
α が1よりずっと小さいので 1 − α ≈ 1 とすると K = C α 2 、つまり
α = K C = 1.5 × 10 − 5 × 60
うすくするほど C が小さくなって α は大きくなる。アレニウスの「無限にうすめると全部ばらける」という仮定と同じ向き。
答え C = 1 60 m o l / L , α = K / C = 1.5 × 10 − 5 × 60 = 3.0 × 10 − 2
カ (6)式に入れる濃さ C は、溶かした塩のモル濃度。1 g を 1 L にするので、式量でわる。
KCl(式量 39.1 + 35.5 = 74.6 ):C = 1 74.6 = 1.34 × 10 − 2 m o l / L 、イオンの電荷は z = 1 。
M g S O 4 (式量 24.3 + 32.1 + 64.0 = 120.4 ):C = 1 120.4 = 8.3 × 10 − 3 m o l / L 、z = 2 。
図1—1の z = 1 と z = 2 の曲線で、それぞれの C のところの γ を読む。式で確かめると、KCl は log 10 γ = − 0.5 × 1 × 0.0134 、M g S O 4 は log 10 γ = − 0.5 × 8 × 0.0083 。
電荷が2倍になると、z 3 で効きが8倍になるので、濃さは KCl より小さいのに γ はずっと小さい。電荷の大きいイオンほど、まわりに反対のイオンを強く引きつけて、はたらきが弱まる。((6)式の右肩が 2 ではなく 3 なのは、C を塩の濃さで書いたから。イオンの強さ 1 2 ( C z 2 + C z 2 ) = z 2 C を使うよく知られた形 − 0.5 z 2 z 2 C と同じ式になる。)
答え K C l : C = 1.34 × 10 − 2 m o l / L , γ ≈ 0.88 ( 式では 0.875 ) M g S O 4 : C = 8.3 × 10 − 3 m o l / L , γ ≈ 0.43
キ 塩化カリウムのような塩は、全部イオンになっている。1つの塩からイオンが k 個できるので、イオンの濃さの合計は k C 。
浸透圧にきくのは「見かけのイオンの濃さ(活量)」で、それはイオンの濃さの合計に γ をかけたもの:k C γ 。
i は「実際の浸透圧 ÷ 全部ばらけていないとしたときの浸透圧」なので、粒の濃さで言えば k C γ を C でわった値になる。KCl や M g S O 4 のような AB 型の塩なら k = 2 。
ク キの式に、カで出した γ を入れる。どちらも AB 型なので i = 2 γ 。
(4)式の値(KCl 1.86、M g S O 4 1.40)と比べる。M g S O 4 は、浸透圧から出した値 1.04 より (4)式では 0.36 も大きすぎたが、2 γ ではずれが 0.18 に縮まる(今度は少し小さい側)。KCl も 1.82 に対して 1.75 と近い。(4)式は「ばらけていない分子も1個の粒として数える」ので、そのぶん大きく出すぎていた。γ で考えると、イオンのはたらきそのものが弱まっている、と説明される。
答え K C l : i = 2 γ ≈ 1.75 ( γ = 0.88 と読めば 1.76 ) M g S O 4 : i = 2 γ ≈ 0.86
第2問 銅のめっきとゼオライト — 数の勘定で決まる形 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 前半Ⅰは、電気を使わずに銅をつける「無電解めっき」。液の中の銅(Ⅱ)イオン C u 2 + に、ホルムアルデヒド HCHO が電子を渡して金属の銅に戻す。反応式は「電子の受けわたし」と「原子の数」の2つで合わせる。そのあと、銅の結晶の形(面心立方格子)から銅の密度を出して、膜の厚さを求める。
後半Ⅱは、ケイ素 Si を中心に酸素 O が4つついた正四面体 S i O 4 が、O を共有してつながってできる鉱物の話。共有された O は、2つの四面体で半分ずつ持つ と数えるのがコツ。ゼオライトでは Si の一部が Al に置きかわり、電荷が足りなくなった分を N a + などの陽イオンがおぎなう。この陽イオンが入れかわりやすいことが、洗剤に使われる理由になる。
ア 銅(Ⅱ)イオンは電子を2つ受けとって銅になる(還元)。電子を渡すのはホルムアルデヒドで、自分はギ酸イオン H C O O − に酸化される。液は NaOH で塩基性なので、式には O H − を使う。
H C H O + 3 O H − ⟶ H C O O − + 2 H 2 O + 2 e −
この式だと、ホルムアルデヒド1つで電子2つを出し、水素は出ない。ところが問題では「銅と等モルの水素」が出ている。そこで、ホルムアルデヒドの C についていた H が、電子ではなく H 原子のまま外れ、2つ集まって H 2 になると考える。このときホルムアルデヒド1つが渡す電子は1つだけ:
H C H O + 2 O H − ⟶ H C O O − + 1 2 H 2 + H 2 O + e −
C u 2 + 1つに電子2つが要るので、ホルムアルデヒドは2つ。すると H 2 がちょうど1つ(銅と等モル)できて、条件と合う:
C u 2 + + 2 H C H O + 4 O H − ⟶ C u + 2 H C O O − + H 2 + 2 H 2 O
「水酸化ナトリウムを加えないと進まない」のは、この式で O H − がたくさん使われるから。問題の化学式(C u S O 4 、NaOH)で書くときは、N a + と S O 4 2 − を両辺に足して組み合わせる。
答え C u S O 4 + 2 H C H O + 4 N a O H ⟶ C u + 2 H C O O N a + H 2 + N a 2 S O 4 + 2 H 2 O ( C u 2 + + 2 H C H O + 4 O H − ⟶ C u + 2 H C O O − + H 2 + 2 H 2 O )
イ アの式で、C u 2 + に電子を渡しているのはホルムアルデヒド。C の酸化数は HCHO の 0 から H C O O − の +2 に上がっている。相手に電子を渡して、自分は酸化される物質の役目を一言で書く。
ウ アの式では、銅が1つ出るたびに O H − が4つ使われる。NaOH だけだと、めっきが進むにつれて O H − が減り、液の pH が下がって反応が止まってしまう。
炭酸ナトリウムを入れておくと、C O 3 2 − と H C O 3 − の組が、H + がふえる向きの変化を受けとめる:
C O 3 2 − + H + ⟶ H C O 3 −
こうして pH が急に下がらないようにする、緩衝液(pH を一定に保つ液)のはたらきをしている。計算では、炭酸がないと pH が一気に下がるところが、炭酸があると pH 10.3 あたりでしばらく平らになる。
答え 反応で OH − が使われても pH が下がりにくいように、液を塩基性に保つ緩衝剤としてはたらく。
エ 沈殿は酸化銅(Ⅰ) C u 2 O 。銅は +2 から +1 までしか還元されていない。銅2つで電子2つを受けとり、その2つはホルムアルデヒド1つが出す(アの上の式)。
気体が出ないので、H 2 は入らない。C u 2 O の O と、ホルムアルデヒドの酸化に使う O は O H − から来る。イオンの式で書くと
2 C u 2 + + H C H O + 5 O H − ⟶ C u 2 O + H C O O − + 3 H 2 O
(O:左 1 + 5 = 6 、右 1 + 2 + 3 = 6 。H:左 2 + 5 = 7 、右 1 + 6 = 7 。)問題の化学式で書くときは、N a + と S O 4 2 − を足して N a 2 S O 4 などに組み合わせる。
答え 2 C u S O 4 + H C H O + 5 N a O H ⟶ C u 2 O + H C O O N a + 2 N a 2 S O 4 + 3 H 2 O
オ (1) 膜の厚さは「体積 ÷ 面積」。体積を出すには銅の密度が要るので、結晶の形から出す。
面心立方格子の単位格子には、角に 1 8 個 × 8、面に 1 2 個 × 6 で、合計4個の原子がある。単位格子1つの重さと体積から
ρ = 4 × 63.5 / ( 6.0 × 10 23 ) ( 3.6 × 10 − 8 ) 3 g / c m 3
銅の体積は 5.5 ρ 。立方体の表面積は 10 × 10 × 6 = 600 c m 2 なので、厚さは 5.5 / ρ 600 c m 。最後に mm に直す。膜はとても薄いので、立方体の角や辺の出っぱりは気にしなくてよい。
(2) アの式から、銅 1 m o l につき水素も 1 m o l 。銅は 5.5 63.5 m o l なので、水素も同じ物質量。標準状態の体積は 22.4 L / m o l をかける。
答え ( 1 ) ρ = 4 × 63.5 6.0 × 10 23 × ( 3.6 × 10 − 8 ) 3 = 9.07 g / c m 3 , 5.5 / 9.07 600 = 1.0 × 10 − 3 c m = 1.0 × 10 − 2 m m ( 2 ) 5.5 63.5 × 22.4 = 1.9 l
カ 鎖の形では、1つの S i O 4 が、となり2つの四面体と O を1つずつ共有している。
共有していない O:4 − 2 = 2 個(まるごと自分の物)
共有している O:2 個(となりと半分ずつ → 2 × 1 2 = 1 個分)
だから Si 1つあたりの O は 2 + 1 = 3 。電荷は Si が +4、O が − 2 × 3 = − 6 で、合わせて − 2 。
共有する O がふえるほど、Si 1つあたりの O は減り、電荷は小さくなる。4つとも共有すると S i O 2 になって電荷は 0(キ)。
キ 4つの O がすべてとなりと共有されると、Si 1つあたり O は 4 × 1 2 = 2 で、組成は S i O 2 。電荷のない、立体的な網の目の結晶になる。これが二酸化ケイ素の鉱物で、大きく育った結晶は水晶と呼ばれる。
ク 電荷のつり合い :M がアルカリ金属なら +1 が a 個、Al は +3 が b 個、Si は +4 が c 個、O は −2 が d 個。水は電荷をもたない。合計が 0 なので
a + 3 b + 4 c = 2 d
O の数 :ゼオライトは立体的な網の目で、Al も Si も O を4つもつ四面体。そのすべての O が2つの四面体に共有されている(キの S i O 2 と同じ)。だから四面体1つあたり O は2つ。
この2つの式を、問題の指示どおり a = ⋯ 、d = ⋯ の形に整理する。A型ゼオライト N a 12 A l 12 S i 12 O 48 でも、12 + 36 + 48 = 96 = 2 × 48 、48 = 2 × ( 12 + 12 ) と確かめられる。2つの式を合わせると a = b になり、Al が1つ入るごとに N a + が1つ要る、という意味になる。
答え a = 2 d − 3 b − 4 c , d = 2 b + 2 c ( 合わせると a = b )
ケ Si を Al に置きかえた四面体 A l O 4 は、Si(+4)より Al(+3)の電荷が1小さいので、− 1 の電荷をもつ。
Al が Si より多い(b > c )と、網の目の中でどう並べても、Al の四面体どうしが O を共有してとなり合う所(Al–O–Al)ができてしまう。Al の手は 4 b 本あるのに、Si の手は 4 c 本しかなく、全部を Si とつなぐことができないから。
− 1 どうしの四面体がとなり合うと、電荷が反発して不安定になる。だから Al は Si より多くならない。
答え b > c だと負の電荷をもつ AlO 4 四面体どうしが O を共有して隣り合い、電荷の反発で不安定になるから。
コ ケイ酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムから、Si と Al を 12 個ずつ集めてゼオライトを1つ作ると考える。
12 N a 2 S i O 3 · 9 H 2 O + 12 N a A l O 2 ⟶ N a 12 A l 12 S i 12 O 48 · 27 H 2 O + ⋯
Na は左に 24 + 12 = 36 個あるのに、ゼオライトには 12 個しか入らない。残りの 24 個は NaOH として出ていく。O と H は、水の数で合わせる。
O:左 12 × ( 3 + 9 ) + 12 × 2 = 168 、右はゼオライト 48 + 27 = 75 と NaOH の 24 で 99。残り 69 個が水。H も左 12 × 18 = 216 、右 54 + 24 + 69 × 2 = 216 で合う。
答え 12 N a 2 S i O 3 · 9 H 2 O + 12 N a A l O 2 ⟶ N a 12 A l 12 S i 12 O 48 · 27 H 2 O + 24 N a O H + 69 H 2 O
サ A型ゼオライト N a 12 A l 12 S i 12 O 48 · 27 H 2 O の式量は、原子量を足して 2191.2。1.0 g は 1.0 2191.2 m o l 。
1つに N a + が12個ある。C a 2 + は電荷が2なので、N a + 2つと入れかわる。だから C a 2 + は最大 12 ÷ 2 = 6 個。
1.0 2191.2 × 6 × 40.1 g
これを mg に直す。電荷の合計が同じになるように入れかわる、というのがイオン交換の決まり。
答え 1.0 2191.2 × 12 2 × 40.1 × 10 3 = 1.1 × 10 2 m g
シ 水道水などには C a 2 + や M g 2 + がふくまれていて、セッケンの陰イオンとくっつくと水に溶けない塩になって沈み、汚れを落とすはたらきを失う。
ゼオライトは、この C a 2 + や M g 2 + を取りこんで、代わりに N a + を出す(サの入れかえ)。だから水が「軟らかく」なり、セッケンがむだにならずに汚れを落とせる。
答え 水の Ca 2 + ・Mg 2 + を Na + と入れかえて除き、セッケンが沈んでむだになるのを防ぐ。
第3問 条件を 1 つずつ入れて しぼりこむ — エステルとペプチド 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 前半Ⅰは、同じ分子式の3つのエステル A・B・C を、水酸化ナトリウムで分解(加水分解)してできた物から決める問題。まず燃焼の結果から分子式を出す。次に、分液漏斗でのとり出し方で、できた物が「中性の物(アルコール)」「炭酸より弱い酸(フェノール類)」「炭酸より強い酸(カルボン酸)」のどれかが分かる。
分け方のしくみはこう。塩(イオン)になっている物は水に残り、分子のままの物はエーテルに移る。 強い塩基性ではフェノールもカルボン酸も塩になって水に残るので、エーテルに出るのはアルコールだけ(D)。二酸化炭素を通すと、炭酸より弱い酸であるフェノールだけが分子に戻ってエーテルに出る(E)。塩酸で酸性にすると、カルボン酸も分子に戻って出る(F)。
後半Ⅱは、2つのペプチド(グルタチオンとアスパルテーム)を分解してできる6つの物を、性質の実験で見分ける。グルタチオンからはグルタミン酸・システイン・グリシン、アスパルテームからはアスパラギン酸・フェニルアラニン・メタノールができる。
ア 塩化カルシウム管は水を、ソーダ石灰管は二酸化炭素を吸う。ふえた重さから、A の中の C と H の重さを出す。
C:C O 2 198 m g のうち C の割合は 12 44 なので 198 × 12 44 = 54 m g
H:H 2 O 45 m g のうち H の割合は 2 18 なので 45 × 2 18 = 5.0 m g
原子の数の比は 54 12 : 5.0 1.0 : 16 16 = 4.5 : 5 : 1 = 9 : 10 : 2 。組成式の式量は 150。エステルは O を2つ以上もつので、分子量 250 以下では組成式がそのまま分子式になる(2倍の 300 は 250 をこえる)。
答え C : 198 × 12 44 = 54 , H : 45 × 2 18 = 5.0 , O : 75 − 54 − 5 = 16 ( m g ) ⇒ C : H : O = 4.5 : 5 : 1 = 9 : 10 : 2 , C 9 H 10 O 2 ( 150 ≤ 250 )
イ D D は、強い塩基性のままエーテルに出てきたので、酸の性質をもたない中性の物、つまりアルコール。しかもベンゼン環をもつ。
(5) のヨードホルム反応(ヨウ素と NaOH で黄色い C H I 3 が沈む)が起きるので、D は C H 3 − C H ( O H ) − の形をもつ。ベンゼン環とこの形を合わせると、C 6 H 5 − C H ( O H ) − C H 3 。
A はこのアルコールと何かの酸のエステル。D は炭素8個で、A は炭素9個なので、酸は炭素1個のギ酸になる(ウで使う)。
答え C 6 H 5 − C H ( O H ) − C H 3 ( 1-フェニルエタノール )
イ E E は二酸化炭素を通したときに出てきたので、炭酸より弱い酸、つまりフェノール類(ベンゼン環に OH が直接ついた物)。
(6) で水素をつけると C 7 H 14 O のアルコールになる。ベンゼン環に水素が3つ(H 6個分)ついて輪がシクロヘキサンになったと考えると、E は C 7 H 8 O 。つまりベンゼン環に OH と C H 3 が1つずつついた、クレゾール。
OH とメチル基の位置は、オルト(となり)・メタ(1つとばし)・パラ(向かい)の3通り。アルコールを酸化したケトン(メチルシクロヘキサノン)で、メチル基のついた炭素に不斉炭素ができるかを考える。輪を C=O の炭素から右回り・左回りにたどったとき、メチル基までの並びが同じならその炭素は不斉ではない。これが成り立つのは、C=O の向かい側にメチル基がある場合だけ。だから OH とメチル基は向かい合わせ(パラ)。
答え H O − C 6 H 4 − C H 3 ( p-クレゾール、OH と CH 3 が向かい合う )
イ F F は塩酸で酸性にしてはじめて出てきたので、炭酸より強い酸、つまりカルボン酸。
(7) で過マンガン酸カリウムで酸化すると、ベンゼン環についた炭素の枝は全部 COOH になる。それを加熱して水がとれ、C 8 H 4 O 3 ができた。これは無水フタル酸で、COOH が2つとなり合って いないと水がとれて輪にならない。だから F はベンゼン環に炭素の枝を2つ、となり合わせにもつ。
C は F とアルコールのエステルで、F は炭素8個以下。ベンゼン環(6個)+ COOH(1個)+ もう1つの枝(1個)で、F は C H 3 と COOH がとなり合った物(オルト)。
答え H O O C − C 6 H 4 − C H 3 ( o-トルイル酸、COOH と CH 3 がとなり )
ウ A A は、D(1-フェニルエタノール)と酸のエステル。分子式 C 9 H 10 O 2 から、酸の部分は
C 9 H 10 O 2 + H 2 O − C 8 H 10 O = C H 2 O 2
でギ酸 HCOOH。ギ酸の COOH と D の OH から水がとれてつながった形になる。
ウ B C 9 H 10 O 2 + H 2 O − C 7 H 8 O = C 2 H 4 O 2
で、酸は酢酸。酢酸の COOH とクレゾールの OH からエステルができる。フェノールのエステルは、ふつうは酸無水物を使って作るが、形としては同じ。
ウ C C は、F(o-トルイル酸)とアルコールのエステル。
C 9 H 10 O 2 + H 2 O − C 8 H 8 O 2 = C H 4 O
でアルコールはメタノール。メタノールは水によく溶けるので、分液でエーテル層に出てこなかったこととも合う。
エ (2) 鏡像異性体がない G と H は、不斉炭素をもたない物で、メタノールとグリシン(側鎖が H だけのアミノ酸)。(3) 液体なのはメタノールなので G がメタノール、H がグリシン。
アミノ酸は、水の中で − N H 3 + と − C O O − の両方の電荷をもてる。電気泳動で動かなくなる pH(等電点)では、+ と − がちょうどつり合っていて、全体の電荷が 0 になっている。グリシンではアミノ基が H + を1つ受けとり、カルボキシ基が H + を1つ手放した形(双性イオン)が一番多い。
オ (4) はキサントプロテイン反応 。濃硝酸でベンゼン環にニトロ基がついて黄色になり、塩基性にすると橙黄色に変わる。だから I はベンゼン環をもつアミノ酸。
ここで出てくるアミノ酸でベンゼン環をもつのは、アスパルテームからできるフェニルアラニン(側鎖が − C H 2 − C 6 H 5 )だけ。
答え C 6 H 5 − C H 2 − C H ( N H 2 ) − C O O H ( フェニルアラニン )
カ (5) は、タンパク質を NaOH で加熱すると硫黄が S 2 − として出て、酢酸鉛(Ⅱ)の P b 2 + と黒い硫化鉛 PbS を作る反応。だから J は硫黄をふくむアミノ酸。
グルタチオンからできるアミノ酸のうち、硫黄をもつのはシステイン(側鎖が − C H 2 − S H )。グルタチオンが細胞の中で還元剤としてはたらくのも、この SH のおかげ。
答え H S − C H 2 − C H ( N H 2 ) − C O O H ( システイン )
キ 残る K と L は、アスパラギン酸とグルタミン酸。どちらも側鎖に COOH をもつ酸性のアミノ酸で、等電点が低い((6) で H・I・J より小さい pH で止まる)。
どちらかは (7) の燃焼で決める。1.00 g を燃やしてできる C O 2 は「物質量 × 炭素の数 × 44」。
アスパラギン酸 C 4 H 7 N O 4 (分子量 133):1.00 133 × 4 × 44 = 1.32 g
グルタミン酸 C 5 H 9 N O 4 (分子量 147):1.00 147 × 5 × 44 = 1.50 g
1.32 g と合うのは、側鎖が − C H 2 − C O O H のほう。
答え H O O C − C H 2 − C H ( N H 2 ) − C O O H ( アスパラギン酸 )