生 物
第1問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文1と文2を読み,問A〜Iに答えよ。
[文1]
光合成生物にとって,時々刻々と変化する光環境の中で,光の射す方向や強度に応じた適応的な行動をとることは,生存のために必須である。緑藻クラミドモナスは眼点と呼ばれる光受容器官によって光を認識し,光に対して接近や忌避をする 1 を示す。近年,この眼点の細胞膜で機能する「チャネルロドプシン」と呼ばれる膜タンパク質に注目が集まってきた。チャネルロドプシンは,脊椎動物の視覚において機能するロドプシンと同じく,生体において光情報の変換にはたらく光受容タンパク質である。ロドプシンは,2 というタンパク質と 3 が結合した形で構成されており,光受容過程では網膜上の高い光感度を示す視細胞である 4 において主に機能する。光が受容されることにより,ビタミン A の一種である 3 が 2 から遊離し,そのシグナルが細胞内の他のタンパク質へと伝達された結果,4 に電気的な変化が生じる。一方で,チャネルロドプシンは光駆動性のチャネルであり,青色光を吸収するとチャネルが開き,陽イオン,特にナトリウムイオンを 5 に従って細胞外から内へと 6 によって通過させる。このチャネルロドプシンを神経科学研究へと応用し,多様な行動を司る神経細胞の働きの解明が進んできた。
[文2]
図1—1で示すように,実験動物であるマウスは,部屋 A で電気ショックを受け,恐怖記憶を形成することにより,再度,部屋 A に入った際に過去の恐怖記憶を想起し,「すくみ行動」という恐怖反応を示すようになる。一方で,部屋 A とは異なる部屋 B に入った時には,すくみ行動は示さない。脳内では,記憶中枢である海馬という領域の神経細胞が,記憶の形成と想起に関わっていることが明らかになっており,「記憶形成時に強く興奮した一部の神経細胞が,再度,興奮することにより,記憶の想起が引き起こされる」と考えられている。

さらに,近年では遺伝子組換え技術を組み合わせ,海馬の神経細胞における記憶の形成・想起のメカニズムが詳しく研究されている。例えば,特定の刺激によって興奮した神経細胞の機能を調べるための遺伝子導入マウスが作製された。強く興奮した神経細胞内で転写・翻訳が誘導される遺伝子 の転写調節領域を利用して,図1—2に示すような人工遺伝子を海馬の神経細胞に導入した。遺伝子 の転写調節領域の働きで発現したタンパク質 Y は,薬剤 D が存在する条件下でのみ,調節タンパク質としてタンパク質 Y 応答配列に結合し,その下流に位置するチャネルロドプシン遺伝子の発現を誘導することができる。

図1—2の遺伝子導入を施したマウスを用いて,図1—1と同様の行動実験を行った。1日目に部屋 A で電気ショックを与え,恐怖記憶を形成させた後,2日目に部屋 A または部屋 B の中に入れ,その際のすくみ行動の時間を測定した。
その際,薬剤 D と青色光照射の有無の組み合わせにより,図1—3に示す実験群1〜実験群4を設定した。「薬剤 D 投与有り」では1日目の電気ショックを与える前にマウスに薬剤 D を投与した一方,「薬剤 D 投与無し」では薬剤 D を投与せずに電気ショックを与えた。投与した薬剤 D は電気ショックを与えた後,速やかに代謝・分解された。また,「青色光照射有り」では,2日目にマウスを部屋 A または部屋 B に入れた際に,海馬領域に対してある一定の頻度(1秒間に20回)で青色光照射を行った。一方,「青色光照射無し」では青色光照射は行わなかった。それぞれの実験群における2日目のすくみ行動の時間を図1—3に示す。ただし,実験群2のマウスは2日目の行動実験では,すくみ行動以外の顕著な行動変化は現れず,恐怖記憶以外の記憶は想起されなかった。

〔問〕
A 1 〜 6 に入る最も適切な語句を,以下の語群の中から1つずつ選べ。
〔語群〕 錐体細胞,光屈性,フェロモン,レチナ,走化性,ペニシリン,ATP,桿体細胞,レチナール,能動輸送,形成体,走光性,オプシン,濃度勾配,受動輸送,吸光性,ミオグロビン,生殖細胞,競争阻害,グルコース
B 生体膜の選択的透過性においてポンプの持つ機能を,生体エネルギーとの関連に触れつつ,問Aの語群で挙げられた語句を3つ用いて1行程度で説明せよ。ただし解答文で,用いた語句3つには下線を引くこと。
C 人為的にチャネルロドプシンを発現させた哺乳類の神経細胞に青色光を照射すると,神経細胞において何が起こると予想されるか,イオンの流れも含めて2行程度で説明せよ。
D パブロフの行った実験にも共通する,下線部(ア)のような行動現象を何と言うか。また,図1—1に関して,マウスが部屋 A においてのみすくみ行動を示す学習課題での,条件刺激と無条件刺激は何かをそれぞれ単語で答えよ。
E 図1—3において,2日目の行動実験後に海馬の神経細胞を調べたところ,実験群2と実験群3のマウスでは海馬領域の一部の神経細胞のみにチャネルロドプシン遺伝子が発現していることが確認された。下線部(ウ)(エ)を考慮すると,どのような刺激に応じてチャネルロドプシン遺伝子の発現が誘導されたと考えられるか,最も適切なものを以下の(1)〜(4)の中から1つ選べ。ただし,誘導開始後にチャネルロドプシンが神経細胞内で十分量発現するまで24時間程度かかり,発現後は数日間分解されないものとする。
(1) 1日目よりも前の何らかの記憶形成時の刺激
(2) 1日目に部屋 A で電気ショックを受けたという記憶形成時の刺激
(3) 2日目に部屋 B に入ったことによる記憶想起時の刺激
(4) 2日目の青色光照射による刺激
F 図1—3に示される実験群2のマウスが,部屋 B ですくみ行動を示したのは何故か。実験群1と実験群3の部屋 B での結果を考慮し,青色光照射により何が起こったかに触れながら,理由を3行程度で述べよ。
G 図1—3に示される実験群4のマウスが,部屋 A・部屋 B で示すすくみ行動の時間について,最も適切なものを以下の(1)〜(6)の中から1つ選べ。ただし,光照射そのものはマウスの任意の行動に影響を与えないものとする。また,すくみ行動の時間の絶対値については,併記した実験群1・実験群2の結果を参考にせよ。

H 実験群2と同様の薬剤 D 投与有り・青色光照射有りという条件で,部屋 A とも部屋 B とも全く異なる部屋 C において2日目に青色光照射を行うと,実験マウスはどのような行動をどの程度示すと予想されるか,1行程度で述べよ。
I 海馬領域の神経細胞が,「限られた数の細胞」で「膨大な数の記憶」を担うためには,どのような神経細胞の「組み合わせ」でそれぞれの記憶に対応する戦略が最適だと考えられるか。海馬が仮に1〜9の異なる9つの神経細胞で構成されていると仮定し,記憶 A・記憶 B・記憶 C…という膨大な数の記憶を担う際の,神経細胞と記憶の対応関係の例として最も適切なものを以下の(1)〜(6)の中から1つ選べ。ただし,文2と問Eの実験結果,および下線部(イ)(オ)を考慮せよ。また,太黒字で示された番号が記憶形成時に興奮した神経細胞とする。

Ⅱ 次の文3を読み,問J〜Lに答えよ。
[文3]
マウスを含めた多くの動物は,自身のいる空間を認識し,空間記憶を形成・想起できることが知られている。これまでに空間認識の中心的役割を担う「場所細胞」という神経細胞が海馬領域で発見されてきた。それぞれの場所細胞は,空間記憶の形成後にはマウスの滞在位置に応じて異なった活動頻度(一定時間あたりの,活動電位の発生頻度)を示す。図1—4に,マウスがある直線状のトラックを右から左,または左から右へと何往復も歩行し,この空間を認識した際の5つの異なる場所細胞の活動頻度を示した。

〔問〕
J 社会性昆虫であるミツバチは,餌場の位置などの空間を認識・記憶し,コロニー内の他個体に伝達する。餌場が近いときと遠いときに示す,特徴的な行動の名称をそれぞれ単語で答えよ。
K 図1—4について,マウスが直線状のトラックを右端から左端まで歩行するのにしたがい,神経細胞1〜神経細胞5は経時的にどのような順番で活動頻度の上昇が観察されると考えられるか。3→5→1という形式で順番を示せ。ただし,含まれない番号があってもよいものとする。
L 文2・文3のような実験から,記憶想起における神経細胞の働きの一端が明らかになってきた。図1—3の実験群2で,マウスが部屋 B で青色光照射を受けた際のすくみ行動の時間が,実験群1の部屋 A で観察されたすくみ行動の時間よりも短かったのは何故か。文2では,海馬領域全体にある一定の頻度で青色光を照射した点を考慮し,文3の実験結果をもとに,以下の(1)〜(3),(4)〜(6),(7)〜(9)の中から最も適切と考えられるものをそれぞれ1つずつ選べ。
海馬の神経細胞における記憶想起の過程では,
(1) 「神経細胞の組み合わせ」(以下,「組み合わせ」と表記)にのみ意味がある。
(2) 「神経細胞の活動頻度」(以下,「活動頻度」と表記)にのみ意味がある。
(3) 「組み合わせ」と「活動頻度」の両方に意味がある。
実験群1の2日目において,マウスが部屋 A に入れられた際,恐怖記憶を担う細胞は記憶想起するために,
(4) 適切な「組み合わせ」と,適切な「活動頻度」で興奮した。
(5) 適切な「組み合わせ」と,適切でない「活動頻度」で興奮した。
(6) 適切でない「組み合わせ」と,適切な「活動頻度」で興奮した。
実験群2の2日目において,一定の頻度で与えた青色光照射の刺激によって,恐怖記憶を担う細胞が刺激された。それらの細胞の興奮は,実験群1の2日目に部屋 A に入れられた時と比較して,記憶想起するために,
(7) 適切な「組み合わせ」と,適切な「活動頻度」で興奮した。
(8) 適切な「組み合わせ」と,適切でない「活動頻度」で興奮した。
(9) 適切でない「組み合わせ」と,適切な「活動頻度」で興奮した。
第2問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文章を読み,問A〜Fに答えよ。
光合成は生物が行う同化反応の一種である。光合成は,光エネルギーを化学エネルギーに変換し,無機物から有機物を生み出す反応であり,十分な光が供給される昼間に行われる。これに対して,光が当たらない夜間には光合成は行われず,光合成に関わる酵素の多くが不活性化される。植物では,この不活性化には,実験1で示すような光合成に関わる酵素タンパク質の特定のアミノ酸残基が受ける化学修飾が関与することがわかっている。このタンパク質化学修飾は,光合成で発生する還元力を利用して,酵素活性を直接的に調節する巧妙な仕掛けだと考えられている。朝が来て植物に光があたると,これらの酵素は再び活性化され,光合成が再開される。このとき,実験2に示すように,光合成能力が最大化されるまでの時間は,植物体への光の照射範囲に影響される。
光合成を行う原核生物であるシネココッカスの一種では,夜間にメッセンジャー RNA のほとんどが消失する。このメッセンジャー RNA の消失は,薬剤処理によって昼間に光合成を停止させても誘導される一方,夜間に呼吸を阻害すると誘導されない。また,この種のシネココッカスを昼間に転写阻害剤で処理すると死滅するが,夜間に転写阻害剤で処理しても,その生存にはほとんど影響がない。
このように,光合成生物は昼夜の切り替わりに応答して積極的に生理活性を調節し,それぞれの環境に適した生存戦略を進化させている。
実験1 光合成に必須なシロイヌナズナ由来の酵素 A について実験を行った。酵素 A タンパク質の末端領域には,周囲の酸化還元状態に依存してジスルフィド結合を形成しうる側鎖をもつ2つのシステイン残基(Cys①および Cys②)がある。酵素活性を調べるため,野生型酵素 A および Cys②を含むタンパク質末端領域を欠失した変異型酵素 A′ を作製した。作製した酵素にジスルフィド結合の形成を誘導し,活性を測定したところ,図2—1に示す結果を得た。さらに,野生型酵素 A あるいは変異型酵素 A′ を発現するシロイヌナズナ植物体を作製し,異なる明暗期条件で30日間生育させて生重量を測定した結果を,図2—2に示した。

変異型酵素 A′ では,野生型酵素 A のうち,Cys②を含む黒塗りで示す部分が欠失している。棒グラフは,野生型酵素 A のジスルフィド結合誘導なしの条件の値を1.0とした場合の相対酵素活性を示している。

各条件における野生型酵素を発現するシロイヌナズナの生重量を1.0とした場合の相対生重量を示している。
実験2 暗所に静置していたシロイヌナズナ野生型植物およびアブシシン酸輸送体欠損変異体 X に光を照射し,光合成速度と気孔開度を測定した。図2—3のように光合成速度と気孔開度を測定する葉1枚にのみ,あるいは植物体全体に光を照射したところ,図2—4に示す結果を得た。

植物体の白く示した部分に光を照射して,光合成を活性化した。

野生型および変異体 X のそれぞれの最大値を1.0としたときの,相対光合成速度および相対気孔開度を示している。
〔問〕
A 下線部(ア)について。以下の(1)〜(4)の生物学的反応のうち,同化反応に含まれるものをすべて選べ。
(1) 土壌中のアンモニウムイオンが亜硝酸菌によって亜硝酸イオンに変換され,さらに硝酸菌によって亜硝酸イオンから硝酸イオンが生成される。
(2) 1分子のグルコースから2分子のグリセルアルデヒド3−リン酸が作られ,さらに2分子のピルビン酸が生成される。
(3) 多数のアミノ酸がペプチド結合によってつながれ,タンパク質が合成される。
(4) 細胞内に取り込まれた硫酸イオンが亜硫酸イオンに,さらに亜硫酸イオンが硫化物イオンに変換され,−アセチルセリンと硫化物イオンが結合することでシステインが生成される。
B 下線部(イ)について。一般的な植物は,十分な光が当たっている昼間に二酸化炭素を取り込み,光合成を行う。一方,CAM 植物と呼ばれる植物は,二酸化炭素の取り込みを夜間に行うことが知られている。以下の(1)〜(3)の CAM 植物について述べた文章として正しいものを,(a)〜(d)から1つずつ選べ。ただし,(a)〜(d)は複数回選んでもかまわない。
解答例:(1)—(a),(2)—(b),(3)—(c)
(1) 砂漠に生育するサボテン科の多肉植物
(2) 藻類が繁茂する湖沼に生育するミズニラ科の水生植物
(3) 熱帯雨林の樹上や岩場に生息するパイナップル科の着生植物
(a) 湿度や温度が最適条件に近く,光が十分強い場合には,葉内の二酸化炭素濃度が光合成の制限要因となりうるため,二酸化炭素を濃縮する機構を発達させている。
(b) 日中に気孔を開くと,体内水分が激しく奪われてしまうため,相対湿度が高い夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸収する。
(c) 周辺の二酸化炭素濃度が低いため,他の生物が呼吸を行い二酸化炭素濃度が上昇する夜間に,積極的に二酸化炭素吸収を行う。
(d) 共生している菌類が作り出す栄養分を共有することで発芽・成長し,ある程度育った段階から光合成を行うようになる。
C 下線部(ウ)について。こうした酵素の1つに,二酸化炭素の固定を行うリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(略してルビスコ)がある。ルビスコが活性化されているときに光合成速度を低下させる要因を2つ挙げ,その理由をそれぞれ1行程度で述べよ。
D 下線部(エ)について。図2—1および図2—2に示された実験1の結果から推察されることについて述べた以下の(1)〜(4)のそれぞれについて,正しいなら「○」を,誤っているなら「×」を記せ。
解答例:(1)—○
(1) 酵素 A のジスルフィド結合は,十分な光合成活性を得るため,昼間に積極的に形成される必要がある。
(2) 酵素 A の不活性化は,Cys②を介したジスルフィド結合によってのみ制御されている。
(3) ジスルフィド結合による酵素 A の活性制御は,明期の時間よりも暗期の時間が長くなるほど,植物の生育に影響を与える。
(4) 変異型酵素 A′ を発現する植物では,光合成活性が常に低下するため,昼の時間が短くなると植物の生育が悪くなる。
E 下線部(オ)について。野生型において,葉1枚のみに光を照射するより植物体全体に光を照射した方が,光合成能力が最大化するまでの時間が短いのは,どういう機構によると考えられるか。図2—4で示した結果から考えられることを,アブシシン酸のはたらきに着目して3行程度で説明せよ。
F 下線部(カ)について。この機構について考えられることを,エネルギーの供給と消費の観点から,以下の3つの語句をすべて使って2行程度で説明せよ。
呼吸,ATP,能動的
Ⅱ 次の文章を読み,問G〜Jに答えよ。
葉緑体は植物に特有の細胞小器官であり,原始的な真核生物にシアノバクテリアが取り込まれ,共生することで細胞小器官化したと考えられている。この考えの根拠の1つが,シアノバクテリアと葉緑体との間で見られる,膜を構成する脂質分子種の類似性である。生体膜を形成する極性脂質には大きく分けてリン脂質と糖脂質が存在し,植物の細胞膜とミトコンドリア膜はリン脂質を主成分としている。これに対して,シアノバクテリアと葉緑体の膜の主成分は糖脂質であり,大部分が,図2—5に示すような糖の一種ガラクトースをもつガラクト脂質である。
では,なぜそもそもシアノバクテリアは糖脂質を主成分とする膜を発達させたのだろうか。その理由については,貧リン環境への適応がその端緒であったという説が有力視されている。遺伝子操作によって図2—5に示すジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)の合成活性を大きく低下させたシアノバクテリアでは,通常の培養条件では生育に影響はないが,リン酸欠乏条件下では生育が大きく阻害される。また,植物では,リン酸欠乏条件下では DGDG の合成が活性化され,ミトコンドリアや細胞膜のリン脂質が DGDG に置き換わる様子も観察される。糖脂質を主成分とする膜の進化は,光合成生物が,光合成産物である糖をいかに積極的に利用してさまざまな栄養環境に適応してきたのかを教えてくれる。

黒で塗った領域はグリセリンに,斜線で示した領域は脂肪酸に,白い六角形はガラクトースに由来する部分を,それぞれ示している。
〔問〕
G 下線部(キ)の考えを細胞内共生説とよぶ。この考えに関連した以下の(1)〜(4)の記述のうち,正しいものをすべて選べ。
(1) シアノバクテリアが葉緑体の起源であり,古細菌がミトコンドリアの起源であると考えられている。
(2) 葉緑体やミトコンドリアは,共生初期には独自の DNA をもっていたが,現在ではそのすべてを失っている。
(3) 真核生物の進化上,ミトコンドリアと葉緑体の共生のうち,ミトコンドリアの共生がより早い段階で確立したと考えられている。
(4) シアノバクテリアの大繁殖による環境中の酸素濃度の低下が,細胞内共生を促した一因であると考えられている。
H 下線部(ク)について。ガラクト脂質の生合成に関わる酵素について分子系統樹を作成した時,細胞内共生説から想定される系統関係を表した図として最も適したものを,以下の(a)〜(e)から1つ選べ。ただし,バクテリア A および B は,シアノバクテリア以外のバクテリアを示している。

I 下線部(ケ)について。貧リン環境下で膜の主成分を糖脂質とすることの利点を,リンの生体内利用の観点から2行程度で説明せよ。
J 下線部(コ)について。以下の文章は,リン酸欠乏時にリン脂質と置き換わる糖脂質が,モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)ではなくジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)である理由について考察している。文章の空欄を埋めるのに最も適した語句を下の選択肢から選び,解答例にならって答えよ。ただし,語句は複数回選んでもかまわない。
解答例:1—親水性
真核細胞がもつ生体膜は,脂質二重層からなっている。これは,リン脂質分子が 1 の部分を内側に,2 の部分を外側に向けて二層にならんだ構造である。脂質が水溶液中でどういった集合体を形成するかは,脂質分子の 1 部位と 2 部位の分子内に占める 3 の割合に大きく依存し,この比が一定の範囲にあるとき,分子の形が 4 を取るため,安定的な二重層構造が可能となる。図2—5の MGDG と DGDG の模式図を見ると,DGDG は MGDG よりガラクトース分子約1個分だけ大きい 5 部位をもっている。この違いによって,DGDG の分子は MGDG よりも 4 に近くなり,安定的な二重層構造を取りやすく,リン脂質の代替となりうると考えられる。
選択肢:親水性,疎水性,可溶性,不溶性,面積,体積,長さ,円筒形,円錐形,球形
第3問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文章を読み,問A〜Dに答えよ。
脊椎動物の中枢神経系が形成される過程において,神経幹細胞が多様なニューロンへと分化することが知られている。正常な個体発生では,全ての神経幹細胞が一度にニューロンへと分化してしまい神経幹細胞が予定よりも早く枯渇することがないように調節されている。ここではノッチシグナルと呼ばれる以下のシグナル伝達経路が重要なはたらきをしている。
リガンドである膜を貫通するタンパク質(デルタタンパク質)が,隣接する神経幹細胞の表面に存在する受容体(ノッチタンパク質)を活性化する。デルタタンパク質により活性化されたノッチタンパク質は,酵素による2段階の切断を経て,細胞内へとシグナルを伝達する(図3—1)。最初に細胞外領域が膜貫通領域から切り離され,次に細胞内領域が膜貫通領域から分離する。切り離されたノッチタンパク質の細胞内領域は核内へと輸送され,それ自身がゲノム DNA に結合することにより標的遺伝子の転写を制御する。標的遺伝子の機能により,ノッチシグナルが入力された細胞は未分化な神経幹細胞として維持される。

リガンドであるデルタタンパク質との結合が引き金となり,ノッチタンパク質の2段階の切断が起こる。最終的に細胞内領域が核内に輸送され,標的遺伝子の転写を制御する。ノッチタンパク質の細胞外領域にある星印は,実験2で使用するノッチ抗体(ノッチタンパク質を認識する抗体)の結合部位を示している。
ノッチシグナル伝達の活性化機構を明らかにするために,次の一連の実験を行った。
実験1 ショウジョウバエなどのモデル動物においては,エンドサイトーシスに関わる遺伝子の突然変異体が,ノッチシグナルの欠損と同様の発生異常を示す。このことから,エンドサイトーシスに関連する一連の遺伝子がノッチシグナルの伝達に必要であることが推測された。ノッチシグナルの送り手の細胞(デルタタンパク質を発現する細胞)と,受け手の細胞(ノッチタンパク質を発現する細胞)のどちらにおいてエンドサイトーシスが必要であるか調べるために以下の実験を行った。
初期条件ではノッチタンパク質とデルタタンパク質のどちらも発現しない培養細胞を用いて,次のような2種類の細胞株を作製した。
受け手細胞株 A:改変したノッチタンパク質が常に一定量発現するように設計した。改変したノッチタンパク質の効果により,入力されたノッチシグナルの量に依存して,緑色蛍光タンパク質が合成される。緑色蛍光タンパク質は核に集積するように設計されているため,核における緑色蛍光強度を測定することにより,ひとつひとつの細胞に入力されたノッチシグナルの量を知ることができる。なお,全ての細胞は同様にふるまうものとする。
送り手細胞株 B:デルタタンパク質とともに,赤色蛍光タンパク質が常に一定量合成されるように設計した。なお,デルタタンパク質と赤色蛍光タンパク質は全ての細胞において同程度に発現するものとする。
細胞株 A と B を混合して培養し,ノッチシグナル伝達におけるエンドサイトーシスに関連する遺伝子の必要性を検証した(図3—2)。それぞれの細胞株において,エンドサイトーシスに必須な機能を有する遺伝子 の有無を変更してから,2種類の培養細胞株を一定の比で混合した。混合状態での培養を2日間行った後に,多数の細胞株 A における緑色蛍光強度を測定した(図3—3)。なお,図3—3に示す結果は,4つの実験条件における多数の細胞の測定値の平均を,条件1の値が1.0になるように標準化したものである。培養容器中の細胞数は4つの実験条件間で同一であったものとする。
条件1:野生型(機能的な遺伝子 が存在する状態)の受け手細胞株 A と,野生型の送り手細胞株 B を使用した。
条件2:遺伝子 を除去した受け手細胞株 A と,野生型の送り手細胞株 B を使用した。
条件3:野生型の受け手細胞株 A と,遺伝子 を除去した送り手細胞株 B を使用した。
条件4:遺伝子 を除去した受け手細胞株 A と,遺伝子 を除去した送り手細胞株 B を使用した。

細胞株 A と B の2種類を混合して培養した。細胞株 B だけが赤色蛍光タンパク質で標識されているため,2種類の細胞株を識別することが可能である。細胞株 A の核における緑色蛍光強度の測定値を指標にノッチシグナルが入力された量を評価する。

実験2 実験1を行なった細胞について,緑色蛍光強度の測定後に固定し(生命活動を停止させ),青色蛍光分子で標識したノッチ抗体を用いて免疫染色実験を行った。使用した抗体はノッチタンパク質の細胞外領域に結合する(図3—1)。青色蛍光を指標にノッチタンパク質の分布を観察した。
その結果,ノッチタンパク質を発現している受け手細胞株 A の表面において一様に青色蛍光が観察されるだけではなく,送り手細胞株 B の内部においてもドット状(点状)の青色蛍光が観察された(図3—4)。実験1と同様の4つの実験条件において,送り手細胞株 B における細胞あたりの青色蛍光のドットを数え,多数の細胞での計測数の平均を得た。なお,測定値は,条件1の値が1.0になるように標準化した(図3—5)。

青色蛍光分子で標識したノッチ抗体の分布を黒い色で表示している。

〔問〕
A 下線部(ア)に関して,両生類の中枢神経系が発生する過程を2行程度で説明せよ。ただし,「形成体」,「脊索」,「外胚葉」,「誘導」,「原口背唇部」の語句を必ず含めること。また解答文で,用いた語句5つには下線を引くこと。
B 下線部(イ)に関して,エンドサイトーシスとはどのような現象か,2行程度で説明せよ。
C ノッチシグナル伝達における遺伝子 の必要性を調べた図3—3の実験結果について,以下の(1)〜(5)の選択肢から適切な解釈をすべて選べ。
(1) 遺伝子 の機能は,ノッチシグナルを受容する細胞において必要である。
(2) 遺伝子 の機能は,ノッチシグナルを受容する細胞において必要でない。
(3) 遺伝子 の機能は,ノッチシグナルを送る細胞において必要である。
(4) 遺伝子 の機能は,ノッチシグナルを送る細胞において必要でない。
(5) 遺伝子 の機能は,ノッチシグナル伝達には関係しない。
D 問題文と実験1と2の結果を元に,以下の(1)〜(7)の選択肢から適切な解釈をすべて選べ。
(1) 細胞株 B においてノッチタンパク質の合成が促進された。
(2) 細胞株 B がノッチ抗体を合成した。
(3) 細胞株 B がノッチタンパク質の細胞外領域を取り込んだ。
(4) 細胞株 A と細胞株 B が部分的に融合し,細胞株 A の内容物が細胞株 B へと輸送された。
(5) 細胞株 A においてノッチタンパク質が切断されたために,ノッチタンパク質の細胞外領域が細胞株 A から離れた。
(6) 細胞株 A における遺伝子 の機能により,ノッチシグナルが活性化し,ノッチタンパク質を細胞外へと排出した。
(7) 遺伝子 はノッチタンパク質の細胞外領域の分布に影響しない。
Ⅱ 次の文章を読み,問E〜Hに答えよ。
Ⅰの実験により,ノッチシグナルの伝達とエンドサイトーシスとの関係がわかった。しかし,エンドサイトーシスがノッチシグナルの伝達をどのように制御するのかは長年解明されず,様々な仮説が提唱されてきた。現在受け入れられている仮説のひとつが「ノッチシグナルの張力依存性仮説」である。この仮説では,エンドサイトーシスにより発生する張力が,ノッチシグナルの活性化に不可欠であると考えられている。ノッチシグナル伝達における張力の重要性を検証するために次の実験を行った。
実験3 DNA は4種類のヌクレオチドが鎖状に重合し,2本の鎖が対合した二重らせん構造をとる。望みの配列の DNA 鎖を容易に化学合成できる利点により,DNA を「紐」あるいは「張力センサー」として活用することができる。例えば,図3—6のように,DNA の「紐」が耐えられる,張力限界値(引っ張り強度)を測定することが可能である。ある値を超える力がかかると,DNA の「紐」の一方の端が基盤から離れる。上向きに引き上げる力の大きさを少しずつ大きくし,DNA の「紐」の一端が基盤から離れる直前の力の大きさ(pN:ピコニュートンを単位とする)を張力限界値と見なすことができる。同一構造の多数の分子についての測定結果を統計的に処理することにより,特定の構造の DNA 分子の張力限界値を求めることができる。

DNA「紐」を上向きに引っ張り上げる力を徐々に大きくしていき,「紐」の端点(星印)が基盤から大きく離れる直前の力の大きさをもとに張力限界値を求めた。
同様の測定方法により,図3—7のような GC 含量(DNA を構成する塩基に占めるグアニンとシトシンの割合。GC%)と塩基対の数が異なる様々な構造の DNA「紐」について,張力限界値を測定したところ,値の大きさは次の順になった。
(1)< α < β < γ < δ

それぞれの DNA「紐」の構造は等しい縮尺で描いてあり,DNA「紐」の中の縦線の本数は相対的な塩基対の数を示している。
実験4 実験1で作成した野生型の受け手細胞株 A を,張力限界値が異なる DNA「紐」に結びつけたデルタタンパク質の上で培養した(図3—8)。DNA「紐」を介してデルタタンパク質を培養容器の底に固定し,その上で細胞株 A を2日間培養した。培養中の細胞はたえず微小な運動を続けているために,細胞株 A と固定されたデルタタンパク質との間に張力がかかる。実験条件ごとに張力限界値が異なる DNA「紐」を使用し,ノッチシグナル伝達量を反映する緑色蛍光強度を測定した。5つの実験条件における多数の細胞の測定値を平均し,条件1の値が1.0になるように標準化した(図3—9)。

実験条件
条件1:30 pN まで耐えられる DNA「紐」を使用する。
条件2:12 pN まで耐えられる DNA「紐」を使用する。
条件3:6 pN まで耐えられる DNA「紐」を使用する。
条件4:30 pN まで耐えられる DNA「紐」を使用し,かつ,培養液に DNA 切断酵素を添加する。ただし,DNA 切断酵素は細胞内には入らないものとする。
条件5:デルタタンパク質を DNA「紐」に結合せず,培養液中に溶解した状態にする。

〔問〕
E 〜 に当てはまる番号を図3—7の(2)〜(5)からそれぞれ選べ。
F DNA「紐」は塩基対の数が等しい場合でも GC 含量の違いにより張力限界値が異なる。塩基の化学的性質に触れながらその理由を2行程度で述べよ。
G 図3—9に示す実験4の結果について,以下の(1)〜(5)の選択肢から正しい解釈をすべて選べ。
(1) ノッチタンパク質を活性化できる最小の張力は30 pN よりも大きい。
(2) ノッチタンパク質を活性化できる最小の張力は12 pN よりも大きく,30 pN 以下である。
(3) ノッチタンパク質を活性化できる最小の張力は6 pN よりも大きく,12 pN 以下である。
(4) ノッチタンパク質を活性化できる最小の張力は6 pN 以下である。
(5) 細胞株 A において,ノッチシグナルが活性化するためには張力は必要でない。
H 図3—1に示す一連の過程に着目し,実験1〜4の結果を踏まえて下線部(ウ)「ノッチシグナルの張力依存性仮説」の内容を4行程度で説明せよ。ただし,「受け手細胞」「送り手細胞」「張力」「切断」の語句を必ず含めること。また解答文で,用いた語句4つには下線を引くこと。