生 物
第1問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文1,文2を読み,問A〜Dに答えよ。
[文1]
多くの生物の発生は,1個の細胞からなる受精卵から始まる。発生の過程では,細胞分裂が繰り返し起こって多数の細胞が作られ,それらは多様な性質を持った細胞に分化しながら生物の体を作り上げていく。分裂により生じた細胞は親細胞の性質を受け継ぐこともあるが,他の細胞との相互作用により性質を変化させることもある。発生学の研究によく用いられる生物である「線虫」での一例について,いくつかの実験を通して細胞分化のしくみを考察しよう。
発生のある時期において,生殖腺原基の中の2つの細胞,A 細胞と B 細胞は,図1—1のように隣り合わせに配置しているが,いずれもそれ以上分裂せず,その後,C 細胞とよばれる細胞か D 細胞とよばれる細胞に分化する(図1—2(a))。その際,A 細胞,B 細胞のそれぞれが C 細胞と D 細胞のいずれの細胞になるかは,個体によって異なっていて,ランダムに一方のパターンが選ばれるようにみえる。しかし C 細胞が2個または D 細胞が2個できることはない。どうしてうまく2種類の細胞になるのだろうか。以下の実験をみてみよう。

実験1 遺伝子の突然変異により X タンパク質が変化した突然変異体線虫が2種類みつかった。ひとつは,X タンパク質が,X(−)という機能できない形に変化した変異体である(以下これを 変異体とよぶ)。もうひとつは,X タンパク質が,常に機能してしまう X(++)という形に変化した変異体である(以下これを 変異体とよぶ)。なお,正常型の(変異型でない)X タンパク質を X(+)と書くことにする。 変異体では A 細胞と B 細胞がいずれも C 細胞に分化した。 変異体では A 細胞と B 細胞がいずれも D 細胞に分化した(図1—2(b))。
実験2 遺伝学の実験手法を用いて,A 細胞と B 細胞のうち,一方の細胞だけの遺伝子が X(−)を生じる変異をもつようにした(他方の細胞は X(+)を生じる正常型遺伝子をもつ)。すると, 遺伝子をもつ細胞が必ず C 細胞に, 遺伝子をもつ細胞が必ず D 細胞に分化した(図1—2(c))。

A 細胞〜D 細胞以外の細胞は省略した。
〔問〕
A 下線部(ア)について。胚のある領域が隣接する他の領域に作用してその分化の方向を決定する現象を何というか,答えよ。
B 文1および実験1,2の結果から,どういうことがいえるか。以下の選択肢(1)〜(6)から適切なものをすべて選べ。(注:ここでいう分化とは,もともと A 細胞または B 細胞であった細胞が,C 細胞に分化するか,D 細胞に分化するかということ。)
(1) A 細胞と B 細胞は相互に影響を及ぼし合いながらそれぞれの分化を決定している。
(2) A 細胞と B 細胞は他方の細胞とは関係なくそれぞれの分化を決定する。
(3) A 細胞は B 細胞に影響を及ぼさないが,B 細胞は A 細胞に影響を及ぼして A 細胞の分化を決定する。
(4) A 細胞または B 細胞が C 細胞に分化するにはその細胞で X タンパク質がはたらくことが必要である。
(5) A 細胞または B 細胞が D 細胞に分化するにはその細胞で X タンパク質がはたらくことが必要である。
(6) A 細胞または B 細胞が D 細胞に分化するには他方の細胞で X タンパク質がはたらくことが必要である。
[文2]
C 細胞と D 細胞の分化に関係するもうひとつのタンパク質として,X タンパク質に結合する Y タンパク質がみつかった。Y タンパク質の機能がなくなる変異体( 変異体)では 変異体と同様に A 細胞と B 細胞がいずれも C 細胞に分化した。
実験3 各細胞での X タンパク質の量を調べたところ,図1—3(a)のような結果が得られた。
実験4 各細胞での Y タンパク質の量を調べたところ,図1—3(b)のような結果が得られた。

A 細胞〜D 細胞以外の細胞は省略した。
X タンパク質の細胞の外側に位置する部分に Y タンパク質が結合すると,X タンパク質は活性化され,その情報を核の中に伝え, 遺伝子と 遺伝子の発現(転写)を制御する(図1—4)。

〔問〕
C 文1,文2の内容と実験1〜4の結果から,以下の文中の空欄1〜5に入る適切な語句をそれぞれ下記の選択肢①〜⑩から選べ。解答例:1—①,2—②
A 細胞と B 細胞が生じた直後は,いずれの細胞も同程度の X タンパク質と Y タンパク質を発現している。一方の細胞から突き出ている Y タンパク質は隣の細胞の 1 タンパク質に作用し,そのタンパク質のはたらきを強める。その結果,作用を受けた細胞では Y タンパク質が 2 し,X タンパク質が 3 する。A 細胞と B 細胞が生じた直後には,上記の作用が A 細胞と B 細胞の間で拮抗しているが,一旦バランスが崩れると,Y タンパク質の量は一方の細胞で急激に増えて他方の細胞では急激に減ることになる。Y タンパク質が増加した細胞の X タンパク質は 4 し,その細胞は 5 細胞に分化する。
語句
① A ② B ③ C ④ D ⑤ X
⑥ Y ⑦ 変異 ⑧ 分化 ⑨ 増加 ⑩ 減少
D 正常型の線虫で,A 細胞と B 細胞が生じた直後に一方の細胞をレーザーにより破壊した。このとき,残った細胞は C 細胞,D 細胞のいずれになると予想されるか。文1,文2の内容と実験1〜4の結果をもとに考察し,理由も含めて2行程度で答えよ。
Ⅱ 次の文3を読み,問E〜Hに答えよ。
[文3]
線虫でのもうひとつの細胞分化のしくみをみてみよう。図1—5のように,発生の過程で,腹側の表皮の前駆細胞である P1,P2,P3,P4,P5 が並んでいるが,P3 細胞のすぐ上側に E 細胞とよばれる細胞が位置している。その後,発生が進むと,P3 細胞は分裂して卵を産む穴の中心部分の細胞群(穴細胞とよぶ)になり,その両脇の P2 細胞と P4 細胞は穴の壁を作る細胞群(壁細胞とよぶ)になる。これらのさらに外側の細胞(P1 細胞と P5 細胞)は平坦表皮(表皮細胞とよぶ)になる(表1—1(a))。この発生過程でも,Y タンパク質が隣り合った細胞の X タンパク質を活性化させる機構がはたらくが,これに加え,E 細胞から分泌される Z タンパク質による制御もはたらいている。Z タンパク質は離れた細胞の W タンパク質の細胞外の部分に結合し,W タンパク質を活性化する。この効果は相手の細胞との距離が近いほど強い。

実験5 P1〜P5 細胞が分化する前に E 細胞をレーザーで破壊したとき,または E 細胞を移動させたとき,発生が進んだあとには,P1〜P5 細胞は表1—1(b)〜(c)のように分化した。
実験6 変異体, 変異体で,何も操作せず,あるいは E 細胞をレーザーで破壊したとき,発生が進んだあとには,P1〜P5 細胞は表1—1(d)〜(g)のように分化した。

表中で,「表皮」は表皮細胞,「壁」は壁細胞,「穴」は穴細胞に分化したことを示す。
〔問〕
E 正常の発生過程で,E 細胞からの影響を直接または間接的に受けて分化が決まると考えられる細胞を P1,P2,P3,P4,P5 のうちからすべて選べ。
F X タンパク質がはたらいた表皮の前駆細胞はどのタイプの細胞に分化すると考えられるか。以下の選択肢(1)〜(5)からもっとも適切なものを1つ選べ。
(1) 穴細胞
(2) 壁細胞
(3) 表皮細胞
(4) 穴細胞および表皮細胞
(5) 壁細胞および表皮細胞
G W タンパク質の活性化により 遺伝子の発現が変化することがわかっている。W タンパク質の直接の効果により,正常の発生過程においてもっとも顕著にみられる現象は以下のいずれか。文3と実験5,6の結果から考察し1つ選べ。
(1) P3 細胞で 遺伝子の発現が増加する。
(2) P3 細胞で 遺伝子の発現が減少する。
(3) P2 細胞と P4 細胞で 遺伝子の発現が増加する。
(4) P2 細胞と P4 細胞で 遺伝子の発現が減少する。
H E 細胞から分泌された Z タンパク質の影響を受けて,X,Y,W タンパク質がどのようにはたらいて表1—1(a)のような穴細胞,壁細胞,表皮細胞の分化パターンが決定するのか。X,Y,W の語をすべて使って5行以内で説明せよ。
第2問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文章を読み,問A〜Dに答えよ。
葉において光合成反応がすすむ速度は様々な要因の影響を受ける。図2—1は,土壌中の栄養や二酸化炭素,水分,そしてカルビン・ベンソン回路を駆動するために必要な酵素タンパク質が十分存在しているときの,光の強さと二酸化炭素吸収速度との関係(これを光—光合成曲線と呼ぶ)を模式的に示している。光がある程度弱い範囲では,二酸化炭素吸収速度は光の強さに比例して大きくなる。光化学反応から光の強さに応じて供給される 1 や 2 の量が二酸化炭素吸収速度を決める。
光の強さがある強さ(光飽和点と呼ぶ)を超えると,それ以上二酸化炭素吸収速度が変化しなくなる(図2—1)。このときの二酸化炭素吸収速度を見かけの最大光合成速度(以下,最大光合成速度)と呼ぶ。このとき二酸化炭素の供給やカルビン・ベンソン回路の酵素タンパク質の量が光合成の制限要因となっている。
最大光合成速度が大きければ大きいほど,暗黒下で測定される呼吸速度もそれに比例して大きくなる。その主な理由は次の通りである。最大光合成速度は光合成に関わる酵素タンパク質の量に比例する。こうした酵素タンパク質の中には時間とともに機能を失うものがある。酵素タンパク質の機能を復活させるためにはエネルギーが必要であり,そのエネルギーは呼吸によって供給される。このため,カルビン・ベンソン回路の酵素タンパク質を多く保持し最大光合成速度が大きな葉は,呼吸速度も大きくなる。
タンパク質である酵素は窒素を含むため,無機窒素が少ない貧栄養の土壌では酵素タンパク質が十分に合成されず,最大光合成速度が小さくなる。
土壌が湿っている環境では葉の気孔は開き気味であるが,土壌が乾燥し,水が十分にない環境となると葉の気孔は閉じられる。この場合,葉の内部の二酸化炭素濃度が低くなり,最大光合成速度は小さくなる。

[問]
A 文中の空欄1と2に入るもっとも適切な分子名を記せ。ただし解答の順序は問わない。
B 下線部(ア),(イ)のときの光—光合成曲線はどのような結果になると予想されるか。図2—1を葉面積あたりの光—光合成曲線(太線)とし,該当する曲線(細線)を重ねあわせて描いたものとして適切と思われるものを,次のページにあるグラフ(1)〜(9)からそれぞれ1つずつ選べ。なお,貧栄養のときの最大光合成速度は富栄養のときの半分とする。解答例:ア—(1),イ—(2)
C 光が弱い環境では,植物は陰葉とよばれる葉を作ることが知られている。陰葉は最大光合成速度が小さいだけではなく,葉も薄くなる。ここではその陰葉の面積あたりの質量と最大光合成速度は陽葉の半分とする。このとき図2—1が陽葉の面積あたりの光—光合成曲線,あるいは陽葉の質量あたりの光—光合成曲線とした際,新たに陰葉についての光—光合成曲線を細線で重ねあわせて描くと,どのようなグラフとなるだろうか。下線部(ウ)と(エ)について,曲線として適切と思われるものを次のページにあるグラフ(1)〜(9)からそれぞれ1つ選べ。ただし,葉の質量あたりに含まれる光合成に関係するタンパク質の量は変化しないものとする。解答例:ウ—(1),エ—(2)
D 薄くて面積あたりの質量の小さい陰葉をどのような光の強さのもとでも作る植物があったとする。この葉の質量あたりの光合成速度が陽葉よりも低下する環境が存在するとしたら,どのような環境だろうか。その理由を含めて3行程度で答えよ。ただし,葉から失われる水の量は葉面積に比例するものとし,葉が重なり合うことはないものとする。
グラフ

Ⅱ 次の文章を読み,問E〜Jに答えよ。
円盤のような形をしている葉緑体に目を向けてみよう。光が弱いときには光を最大限に利用できるように配置される。しかし光が強いときには,光に対して平行となるように配置されて,葉緑体内の酵素タンパク質が強い光を受けて機能を失うのを抑えようとする。
光化学系Ⅱは複数種類のタンパク質と 3 からなる構造体であり,電子が流れていく最初の段階で 4 から電子を引き抜く役割をもつ。図2—2に示される実験で葉緑体が強光を受けると,光化学系Ⅱの能力がいったん低下することがわかる。これを光化学系Ⅱが損傷を受けたという。D1 タンパク質はその光化学系Ⅱの反応中心にあるタンパク質である。損傷を受けても D1 タンパク質の量自体は減らない。しかし強光にあたると葉緑体内に活性酸素が発生する。その活性酸素が D1 タンパク質などの酵素タンパク質に高温や極端な pH にさらされたときのような変化を与えて傷害が起こるのである。弱光の下ではこの損傷は起こらない。
そして葉緑体には光が弱まると,徐々に光化学系Ⅱの能力を復活させるしくみがあることがわかってきた。この能力の復活はタンパク質合成阻害剤を加えた状態では観察されない(図2—2)。
と名づけられた遺伝子の変異体が発見され,光化学系Ⅱの能力が復活する過程について次のヒントを与えた。正常型の 遺伝子からは損傷を受けた D1 タンパク質を分解する酵素が発現する。正常型植物と変異体 についてタンパク質合成阻害剤を加えた状態で,強光を継続してあてる実験を行うと,D1 タンパク質の量が正常型植物では減少するのに対して,変異体 では減少しなかった(図2—3)。一方,タンパク質合成阻害剤を加えない状態で,強光をあてたあとの弱光下での光化学系Ⅱの能力の復活を比較したところ,変異体 ではその復活が非常に起こりにくかった(図2—4)。



〔問〕
E 下線部(オ)について。下線部(オ)の現象には青色光を受け取ることが関係する。この情報によって,下線部(オ)の現象に関係する可能性を排除できる植物の光受容体を以下の選択肢(1)〜(4)から1つ選べ。
(1) ロドプシン
(2) クリプトクロム
(3) フィトクロム
(4) フォトトロピン
F 青色光がもつ作用として知られていないものを,以下の選択肢(1)〜(4)からすべて選べ。
(1) 花芽形成
(2) 光屈性
(3) 光発芽
(4) 気孔開閉
G 文中の空欄3と4について。空欄3に色素,空欄4に分子の名前としてもっとも適切な語句をそれぞれ答えよ。解答例:3—○○(色素名),4—△△(分子名)
H 下線部(カ)について。強光を受けると D1 タンパク質の量は変わらないにもかかわらず,光化学系Ⅱの能力が下がる理由を1行程度で述べよ。
I 図2—3の実験結果から推察できることとして適切なものを,以下の選択肢(1)〜(5)からすべて選べ。
(1) 変異体 を用いた試料では,タンパク質合成阻害剤が作用しなかったために強光下で損傷を受けた D1 タンパク質が減少しなかった。
(2) 変異体 を用いた試料では,強光下で損傷を受けた D1 タンパク質の分解が抑えられたため,タンパク質合成が阻害されても D1 タンパク質は減少しなかった。
(3) 変異体 を用いた試料では,D1 タンパク質の分解と合成の両方が起こったために D1 タンパク質が減少しなかった。
(4) 正常型植物を用いた試料では強光下で損傷を受けた D1 タンパク質が分解され,さらに合成が抑えられて D1 タンパク質が減少した。
(5) 正常型植物を用いた試料では D1 タンパク質の分解とタンパク質合成が共に抑えられて,D1 タンパク質が減少した。
J 正常型 遺伝子からつくられるタンパク質分解酵素の役割をふまえ,D1 タンパク質に注目して光化学系Ⅱの能力が復活する過程を,3行程度で述べよ。
第3問
次のⅠ,Ⅱの各問に答えよ。
Ⅰ 次の文章を読み,問A〜Eに答えよ。
生物の形質の変異は遺伝子によって決められるか否かで大きく2種類に分類されるが,これらの変異がどのように生物の進化に寄与するか,古くから考えられてきた。ダーウィンの唱えた進化学説(ダーウィニズム)は,現在においても多くの生物学者に支持されている。一方,ラマルクが唱えた用不用説は,環境条件の変化により生じた獲得形質が遺伝することを仮定している。現在,一般的には「獲得形質の遺伝」は否定されているが,実際の生物にみられる現象を見渡すと,獲得形質が遺伝あるいは進化するように見える事例が多く知られる。環境条件に応答して表現型を変化させる性質は「表現型可塑性」と呼ばれ,ほぼすべての生物に備わっている。この表現型可塑性にも環境応答の様式に変異があり,そこに選択がかかることで可塑性そのものが進化することが知られている。
事例1 ミジンコの仲間の多くは,捕食者であるボウフラ(カの幼虫)が存在すると頭部に角を生じ捕食者から飲み込まれにくくすることで,被食を免れるという可塑性を進化させている。角の形成にはエネルギーが必要であり,産卵数の減少や成長率の低下などの代償が生じる。そのため,捕食者の非存在下では角は形成せず,捕食者が存在するときにのみ,捕食者の分泌する化学物質(カイロモン)に応答して角を形成する。図3—1は,ある地域の異なる湖A,B,Cから採集したミジンコについて,腹部に対する頭部長の比(≒ 角の長さ)がカイロモンの濃度に依存してどのように変化するかを実験した結果である。

事例2 環境要因と生物の表現型(形質値)との関係は大きく分けると図3—2のように,可塑性のないもの(図3—2(a)),環境要因に対して連続的に変化するもの(図3—2(b)),環境要因の変化に対してあるところで急激に形質値を変化させる,すなわち不連続に表現型が変化するもの(図3—2(c))に分類できる。同種であっても環境条件によって複数のタイプの表現型が出現するものを「表現型多型」と呼ぶ。表現型多型の代表的な例に,社会性昆虫のカースト多型,バッタの相変異,アブラムシの翅多型などがある。表現型多型を示すものには,図3—2(c)のように,体内の生理機構に閾値が存在することによって,表現型を急激に変化させるものがいる一方で,体内の生理機構に閾値は備わっていないが,その生物が経験する環境要因が不連続であるために,結果として表現型多型が出現することもある。

〔問〕
A 下線部(ア)について。これら2つの変異の名称を記せ。
B 下線部(イ)について。ダーウィニズムとはどのような説か。もっとも適切なものを以下の選択肢(1)〜(4)から1つ選べ。
(1) よく使う器官は発達し,使用しない器官が退化することにより生物の形質進化が起こる。
(2) 集団内に生じた変異に自然選択がはたらくことで,環境に適した個体の生存・繁殖の機会が増え,その変異が遺伝すればその形質は進化する。
(3) 遺伝子の突然変異は大部分が自然選択に対して有利でも不利でもなく(中立的),突然変異と遺伝的浮動が進化の主たる要因である。
(4) 生物の形質は,遺伝子が倍化することにより,新たな機能が生じることによって進化する。
C 下線部(ウ)について。図3—1に示すように,湖によって「カイロモンの濃度」と「腹部長に対する頭部長の比(≒ 角の長さ)」の関係が異なることから,各湖に生息するミジンコと捕食者についてどのようなことが考えられるか。以下の選択肢(1)〜(3)からもっとも適切なものを1つ選べ。
(1) 湖Aおよび湖Bでは,捕食者の数に応じてミジンコは角を生やす。
(2) 湖Aと湖Bはミジンコの捕食者の種類や数は同じだった。
(3) 湖Cにはミジンコの捕食者が湖A,湖Bより多かった。
D 下線部(エ)について。温帯域で1年に2度出現するチョウは,生理機構に閾値はないが表現型多型(春型・夏型)を生じる。なぜ,閾値がなくても多型が生じるのか,その理由を2〜3行で記せ。
E 温帯域で1年に2度出現するチョウの表現型多型の生理機構に閾値がないことを示すために,環境条件を操作する飼育実験を計画した。どのように環境条件を操作し,どのような結果が得られれば表現型多型の生理機構に閾値がないことが示せるか,2〜3行で記せ。
Ⅱ 次の文章を読み,問F〜Iに答えよ。
20 世紀の中ごろに活躍した発生学者のコンラート・H・ウォディントンは,環境刺激によって引き起こされる形質変化について選択実験を行った。ショウジョウバエの卵を物質 X に曝して発生させると,後胸が中胸に変化することにより(中胸が倍化することにより)翅が4枚ある表現型(バイソラックス突然変異体に似る,図3—3)がある頻度で生じる。物質 X は,遺伝情報を改変することなく発生過程に影響を与える物質である。ウォディントンはショウジョウバエの発生中の卵を毎世代,物質 X に曝して生育させ,「中胸が倍化したハエ」を交配,産卵させ,再び卵を物質 X に曝すことを繰り返した。これを約 30 世代繰り返した後では,物質 X に曝した場合の「中胸が倍化したハエ」の出現率が上がり,卵を物質 X に曝さずとも,「中胸が倍化したハエ」が羽化することもあった。この現象は遺伝的同化と呼ばれ,環境条件に引き起こされる可塑性が進化した例として知られる。

実験1 タバコスズメガの幼虫の体色は緑色をしているが,「黒色変異体」という突然変異系統の幼虫は黒色を示す。この黒色変異体の4齢幼虫に 30 ℃ 以上の熱処理を与えると,5齢幼虫で緑色化する個体が出現する。この熱処理による緑色化の程度にはばらつき(バリエーション)があるため,熱処理に対する応答性の違いに基づいて下記の3群に分け,更にそれぞれの群の中で交配・選択を行い,13 世代累代飼育を行った。体色のバリエーションはカラースコア0〜4で評価できる(黒色0,正常型同様の緑色4)。
・緑色選択群:熱処理を与えたとき,緑色への変化の大きい個体を選択
・黒色選択群:熱処理を与えたとき,体色変化の少ない個体を選択
・対照群:熱処理を与え,体色に関係なくランダムに選択
各世代における,熱処理に応答した体色の変化を図3—4(a)に示す。また,13 世代目の各選択群における処理温度とカラースコアの関係を図3—4(b)に示す。

実験2 タバコスズメガ幼虫の熱処理による体色変化には,昆虫の脱皮や変態を制御するホルモン とホルモン が関与すると予想された。ホルモン は頭部に存在する内分泌腺から,ホルモン は胸部にある内分泌腺から分泌される。熱処理による緑色化にこのどちらのホルモンが有効に働くのかを調べるため,熱処理前に腹部または頸部(頭部と胸部の境界)を結紮する実験を行った(図3—5)。ホルモンは体液中に分泌され全身を巡る液性因子であるため,結紮すると結紮部位を越えて移動できなくなる。実験の結果を,図3—5の表に示す。ただし,頭部の皮膚は胸部・腹部とは性質が異なり,体色の判別はできないものとする。また,ホルモン と は他方の分泌を制御する関係ではないことがわかっている。

実験3 ホルモン がこの体色変化に寄与することを検証するため,ホルモン を幼虫に投与する実験を行った。その結果,選択群や熱処理の有無にかかわらず,投与量に応じて緑色化が起こった。また,各選択群の熱処理の有無による個体内のホルモン の濃度変化を調べた結果,緑色選択群に熱処理を加えたときにホルモン の濃度の上昇がみられ,黒色選択群では上昇は認められなかった。一方,ホルモン は各選択群や熱処理の有無で濃度の差は認められなかった。
〔問〕
F ウォディントンが行ったショウジョウバエの選択実験にみられる現象を説明する文章として,もっとも適切なものを以下の選択肢(1)〜(4)から1つ選べ。
(1) 毎世代,物質 X に応答して中胸が倍化する個体が選択されると,中胸倍化を促進する遺伝子の遺伝子頻度が世代を経るに従い高くなったため,中胸が倍化し4枚翅を生じやすい形質が進化した。
(2) 毎世代,物質 X に応答して中胸が倍化する個体が排除されたため,4枚翅を生じやすいという応答性が進化した。
(3) 物質 X は翅の発生を誘発する物質であるため,後胸にも翅を生じさせた。
(4) 物質 X により,バイソラックス変異体の原因遺伝子に変異が生じ,世代を経て広まった。
G 実験1において,黒色選択群と緑色選択群ではそれぞれどのように表現型可塑性が変化したか。図3—4の結果を見て3行程度で説明せよ。
H 実験2の結紮実験の結果のみにより否定されることを以下の選択肢(1)〜(5)から1つ選べ。
(1) ホルモン さえあれば,体色の変化は引き起こされる。
(2) ホルモン さえあれば,体色の変化は引き起こされる。
(3) ホルモン と がともにあるときにのみ,体色の変化は引き起こされる。
(4) ホルモン のみでは熱処理による体色の変化は引き起こされない。
(5) ホルモン のみでは熱処理による体色の変化は引き起こされない。
I 実験3から,熱処理による体色の変化の可塑性の変遷について考えられることとして適切なものを以下の選択肢(1)〜(5)からすべて選べ。
(1) 緑色選択群でも黒色選択群でも熱処理を与えたときにホルモン の濃度上昇が起こらない。
(2) タバコスズメガの幼虫では,熱処理を与えると体内のホルモン の濃度が上昇することで緑色化が引き起こされている。
(3) 実験1開始前の黒色変異体である程度の緑色化が起こっているのは,熱処理によりホルモン の濃度が上昇したことによるものである。
(4) 緑色選択群では熱処理によりホルモン の濃度上昇が起こり,黒色選択群では熱処理によりホルモン の濃度上昇が起こっている。
(5) 黒色選択群は熱処理を与えてもホルモン の濃度上昇が起こらないような個体が選択され,結果として熱処理により体色が変化しないという形質が進化した。