第1問
次の文章を読み,以下の設問に答えよ。
文 1
近年の遺伝子解析技術の飛躍的な発展により,さまざまな生物種のゲノム解読や網羅的な遺伝子発現解析が行われ,数万にもおよぶ遺伝子の配列やさまざまな組織における mRNA の存在量が明らかになった。一方,遺伝子解析技術の進歩と並行して,タンパク質の微量解析技術も著しく進歩し,各組織におけるさまざまなタンパク質の存在量を網羅的に定量することも可能になった。こうした技術革新は,mRNA とタンパク質の量的変動を同時に比較解析する研究を加速させているが,ここではその一例を紹介しよう。
真核生物における翻訳中のリボソームを電子顕微鏡で観察すると,転写された mRNA に多数のリボソームが連なるように結合し,次々とタンパク質が翻訳されていく様子がみえる(図 1)。この図からは,1 分子の mRNA から多数のタンパク質が合成されることが読み取れるが,実際には両者はどれくらいの比率で細胞内に存在するのだろうか。この疑問に答えるために,最新の技術を用いて両者の比,すなわち「タンパク質分子数/mRNA 分子数」がさまざまな生物種において調べられた。この比を「protein-to-mRNA 比」,略して「PTR 比」と呼ぶことにする。多くの遺伝子について PTR 比が算出された結果,興味深いことに PTR 比は遺伝子ごとに大きく異なることが明らかになった。この結果はさまざまな生物種で観察されており,個々の遺伝子の役割に応じて PTR 比が巧妙に調節されていることが知られるようになった。

最近報告された植物での解析結果を見てみよう。栄養成長期のシロイヌナズナ植物体全体から抽出されたタンパク質の細胞あたりの分子数と mRNA の細胞あたりの分子数との相関を示した散布図をみると,PTR 比が遺伝子ごとに異なることがよくわかる(図 2)。
PTR 比は,主にそれぞれの遺伝子がつくりだすタンパク質の合成速度と分解速度によって決まると考えられているが,光合成の電子伝達系や炭酸同化に関わる主要タンパク質の遺伝子 や は PTR 比がかなり大きく,①植物ホルモン応答に関わる調節タンパク質の遺伝子 や は PTR 比が小さいことが読み取れる。

栄養成長期のシロイヌナズナ植物体全体で発現している遺伝子の 1 細胞あたりの mRNA 分子数とタンパク質分子数の相関。図中の破線は散布図のデータから近似される直線を表わし, から は特定の遺伝子を示している。
設問(1):図 1 において,mRNA の 3′ 末端は図中に示した A または B のどちら側か,記号で答えよ。
設問(2):図 2 に示された近似直線を用いて,栄養成長期のシロイヌナズナ植物体全体で発現している遺伝子群の平均 PTR 比を計算し,その値に最も近いものを以下の a)〜 f)から 1 つ選んで記号で答えよ。
a) b) c)
d) e) f)
設問(3):下線部①について,植物ホルモン応答に関わる調節遺伝子の一種である や は,タンパク質の合成速度は平均的な値であることが知られているが PTR 比はかなり小さい。その生理学的な利点を,調節タンパク質の機能の観点から推察して解答欄の枠内で述べよ。
文 2
個々の遺伝子の PTR 比は,組織によっても異なる値を示すことが明らかになっている。例えば,発現しているすべての遺伝子群の PTR 比の分布を,栄養成長期の植物体全体と 24 時間吸水させた発芽前の種子で比較すると,吸水種子では植物体全体と比べて PTR 比が非常に大きいものや小さいものの割合が高い(図 3)。これは,②水や温度などの環境条件が整えば速やかに発芽を開始する種子特有のしくみを反映していると考えられた。そこで,吸水種子で発現する遺伝子群の PTR 比が,図 3 のような分布を示す理由を調べるため,以下の実験を行なった。

栄養成長期のシロイヌナズナ植物体全体で発現している遺伝子群の PTR 比の分布と,吸水種子で発現している遺伝子群の PTR 比の分布の比較。
(実験 1)
乾燥種子を水に 4 時間浸して予備吸水を行い,細胞の代謝活性を回復させた。この時点を実験の開始時間(0 時間)とする。なお,予備吸水中の種子中の mRNA やタンパク質量の変化は無視できるほど小さいものとする。引き続き,水またはタンパク質への翻訳を阻害する化合物(翻訳阻害剤)を含む水で種子を 24 時間吸水させ,平均的な PTR 比を示す遺伝子群および PTR 比が非常に大きい遺伝子群のそれぞれについて,各遺伝子に由来するタンパク質の存在量の変動を時間を追って測定した。その結果,平均的な PTR 比を示す遺伝子群は図 4 (A) のような応答を示したが,PTR 比が非常に大きい遺伝子群は図 4 (B) のような応答を示した。

翻訳阻害剤の存在下における吸水種子中のタンパク質量の変動。(A) 吸水種子において平均的な PTR 比を示す遺伝子群に由来するタンパク質群の変動。(B) PTR 比が非常に大きい遺伝子群に由来するタンパク質群の変動。結果は,実験開始時(0 時間)のタンパク質量を 1 とした変動の相対値で示している。
(実験 2)
予備吸水を行った種子を,さらに水または遺伝子の転写を阻害する化合物(転写阻害剤)を含む水で 24 時間吸水させ,平均的な PTR 比を示す遺伝子群および PTR 比が非常に小さい遺伝子群のそれぞれについて,各遺伝子に由来するタンパク質の量の変動を時間を追って測定した。その結果,平均的な PTR 比を示す遺伝子群は図 5 (A) のような応答を示したが,PTR 比が非常に小さい遺伝子群は図 5 (B) のような応答を示した。

転写阻害剤の存在下における吸水種子中のタンパク質量の変動。(A) 吸水種子において平均的な PTR 比を示す遺伝子群に由来するタンパク質群の変動。(B) PTR 比が非常に小さい遺伝子群に由来するタンパク質群の変動。結果は,実験開始時(0 時間)のタンパク質量を 1 とした変動の相対値で示している。
設問(4):実験 1 および図 4 について,翻訳阻害剤はすべてのタンパク質の翻訳を完全に阻害するものとすると,吸水種子において PTR 比が非常に大きいタンパク質群は,種子が発芽する際にどのような役割を担っていると考えられるか。下線部②に留意しながら解答欄の枠内で述べよ。
設問(5):実験 2 について,転写阻害剤はすべての遺伝子の転写を完全に阻害するものとすると,吸水種子において PTR 比が非常に小さい遺伝子群が図 5 (B) に示されたような応答を示すメカニズムにはどのような可能性が考えられるか。また,それは種子にとってどのような利点があると考えられるか。下線部②に留意しながら解答欄の枠内で述べよ。
第2問
次の文章を読み,以下の設問に答えよ。
文 1
図 1 は正常なニワトリと天然記念物であるチャボの写真である。チャボはニワトリの品種の一つで,足が短いなどの独特の形態から,日本では観賞用のニワトリとして古くから全国で飼育されてきた。しかし,チャボ同士を交配しても一定の割合の卵はふ化せず,さらにはふ化した個体の中でも足が長くチャボとは言えないニワトリが一定の割合で存在するなど,不思議な遺伝現象が知られていた。

同じ種の個体間でゲノムの塩基配列を比較してみると,一塩基単位の個体差があり,この違いを一塩基多型(SNP)という。チャボと正常なニワトリのゲノムの中には,数万ヶ所にそれぞれの品種に固有の SNP の配列がある。これらの配列は次世代にも受け継がれるため,チャボと正常なニワトリの品種を SNP の塩基配列の違いから区別するための遺伝マーカーとして使用することができる。名古屋大学では,この SNP の違いを利用してチャボ特有の形質を示す原因遺伝子座を特定する研究が行われた。
設問(1):チャボのオスとチャボのメスを交配し,80 個の受精卵を得た。得られた卵をふ卵(卵を温めること)させたところ,表 1 のような結果を得た。この結果から,チャボ特有の形質を示す原因遺伝子座はどのような遺伝的性質を持つと考えられるか。下記の空欄 (ア) 〜 (ウ) に適切な用語を以下のリストから選んで文章を完成させよ。
得られた 80 個の受精卵をふ卵させた結果,足が短いチャボの形質を示したヒヨコが得られた割合が最も多かったことから,足が短い形質は (ア) 遺伝をすることが考えられる。また表現型の比から,原因遺伝子座が (イ) 接合体の個体がチャボとして生育し,(ウ) 接合体はふ卵させてもふ化しないことが考えられる。
(用語リスト)
・顕性(優性) ・潜性(劣性) ・ヘテロ ・ホモ

設問(2):チャボ特有の形質を示す原因遺伝子座付近にも,正常なニワトリとは異なるチャボに固有の SNP があり,原因遺伝子座と連鎖して次世代のチャボにも受け継がれることが期待される。そこで,原因遺伝子座付近のチャボ固有の SNP を同定するために,図 2 のような交配を行った。まずチャボのオスを正常なニワトリのメスと交配し,雑種第 1 代()を得た。この の中からチャボの形質を示すオスを選別し,正常なニワトリのメスと交配し,雑種第 2 代()を得た。同様にして からチャボのオスを選別し,正常なニワトリのメスと交配した。これを繰り返し,雑種第 11 代()を得た。このような交配を繰り返した時に,99.9 % 以上のゲノムが正常なニワトリに置き換わったチャボ(オス)は,雑種第何代目に得られることが期待されるか。なお交配後,次世代には親世代のそれぞれから 50 % のゲノムが受け渡されるものとする。

設問(3):雑種第 11 代()の中でチャボの形質を示すオスとメスを交配し,受精卵 100 個を得た(図 2)。得られた卵をふ卵させたところ,表 2 のような結果を得た。得られた正常な足の長さのヒヨコ(表 2 中の①)と,足が短いヒヨコ(表 2 中の②)のゲノムを比較した結果,原因遺伝子座付近のチャボ固有の SNP(図 3)を容易に特定することに成功した。このように原因遺伝子座付近のチャボ固有の SNP を効率よく特定するために,雑種第 11 代()まで正常なニワトリと交配を行った利点を,解答欄の枠内で述べよ。

文 2
原因遺伝子座付近に存在することが期待されるチャボ固有の SNP の場所(図 3)を頼りに,周囲の遺伝子の塩基配列を正常なニワトリと比較した。その結果,チャボのゲノムの中から 遺伝子の第 5,第 6 エキソンと 遺伝子のすべてのエキソンを含むゲノム領域が欠失した変異を発見した。

設問(4):雑種第 11 代()の中でチャボの形質を示すオスとメスを交配することによって得られたヒヨコ(表 2 中の①②)およびふ化しなかった卵から得られた胚(表 2 中の③から得られた胚)からそれぞれ DNA を抽出し,図 3 中のプライマー 1 と 2 を用いて PCR を行った。実験後の PCR 反応液をアガロースゲル電気泳動すると下記の 3 種類の結果が得られた。①,②,③のゲノムをもとにした結果はそれぞれどれか。ア〜ウの記号を用いて答えよ。

設問(5): 遺伝子と 遺伝子の機能を調べるために次の 3 つの実験を行った。
(実験 1)
チャボは手足が短いことから, 遺伝子と 遺伝子は骨の成長に関係しているのではないかと考えた。そこで,正常なニワトリ胚から骨に分化することができる細胞を採取し,薬剤処理により骨細胞に分化させることにした。この実験で,分化前の細胞に 遺伝子と 遺伝子,およびチャボのゲノムで見られた 遺伝子( 遺伝子の第 5,第 6 エキソンが欠失したもの)を入れることでこれらの遺伝子を発現させた。実験後,骨細胞に分化した割合を縦軸に示した結果を図 5 (A) にまとめた。
(実験 2)
表 2 中の③の受精卵は,ふ卵後 4 日目前後で致死となっていた。そのため致死となる前のふ卵後 3 日目の胚を採取し,その胚から皮膚の細胞を培養することに成功した。培養した細胞に ,, 遺伝子を入れることでこれらの遺伝子を発現させた時の細胞の生存率を観察し,図 5 (B) にまとめた。
(実験 3)
,, 遺伝子から作られるタンパク質の細胞内での局在を調べ,表 3 にまとめた。
これらの結果から考えられる考察として正しいものを次の a)〜 g)からすべて選び記号で解答せよ。
a) 遺伝子を入れると骨細胞への分化が促進される。
b) 遺伝子を細胞に入れると,IHH タンパク質のはたらきが阻害される。
c) 遺伝子のノックアウトマウスでは骨細胞への分化が阻害されることが推定される。
d) 遺伝子と 遺伝子は,細胞の生存率の結果を見ると機能に違いはないことが推定される。
e) チャボの足が短くなるのは,正常なニワトリのように骨が充分に伸長(骨細胞への分化)ができないからであり,この原因遺伝子として 遺伝子が考えられる。
f) 遺伝子は細胞死を誘導するはたらきをしている。
g) 遺伝子の第 5,第 6 エキソンの塩基配列をもとに作られるタンパク質の領域の中には,NHEJ1 タンパク質を核に局在させるために必要な配列が存在することが考えられる。


設問(6):中国にいるインギーというニワトリの品種は,日本のチャボと同じように足が短い。インギーのゲノムを調べてみると,チャボとは異なり 遺伝子のみが欠失している変異が発見された。そこでチャボのオスをインギーのメスと交配し 120 個の受精卵を得た。得られた卵をふ卵させたところ,表 4 のような結果を得た。この中のふ化しなかった卵(④)を観察した結果,チャボとは異なりふ卵後 16 日目前後ですべての胚が致死となっていることが明らかとなった。この結果から考えられる考察について,下記の空欄 (エ) と (オ) に適切な用語を記入せよ。
ふ化しなかった卵(④)においては (エ) 遺伝子が欠失している個体で致死となっていることから,チャボでもインギーでも (エ) 遺伝子の欠失は致死の原因となることが考えられる。チャボの方がインギーと比べて早い発生段階で致死となるのは,(オ) 遺伝子が機能しないことで,ふ卵後 4 日目までにチャボの胚で細胞死が起きていることが原因として考えられる。

第3問
次の文章を読み,以下の設問に答えよ。
文 1
生物の生理応答に影響を及ぼす物質は多い。生物が自身で生み出すこのような物質の例として,ホルモンや神経伝達物質があげられる。これらの物質は,標的細胞に存在するそれぞれに特異的な受容体に結合して受容体を活性化することで作用を発揮する。このような物質を一般にリガンドと呼ぶ。
受容体に結合する人工化合物の中には,①受容体のリガンド結合部位に可逆的に結合する能力をもち,受容体との結合をリガンドと競い合うことにより,リガンドによる受容体の活性化を阻害する物質も存在する(図 1)。

リガンドが特異的な受容体を活性化する例(左)と,受容体のリガンド結合部位に結合することでリガンドによる受容体の活性化を阻害する物質の例(右)。
1 つのリガンドが生体内の複数のタンパク質に作用して複数の作用を発揮する場合もある。例えば,動物ホルモンであるアドレナリンは,血管収縮,瞳孔散大,気管支拡張など多彩な作用をもつが,その理由の 1 つは,アドレナリンの受容体が複数存在することである。さらに,1 つの受容体が複数の作用に関わる場合もあれば,複数の受容体が 1 つの作用に関わる場合もある。このような場合に,アドレナリンの作用のうちの一部だけを人為的に作動させたいときには,アドレナリンそのものを投与する
と望んでいない作用も同時に引き起こしてしまうことが多い。しかし,複数の受容体のうちの限られたものだけを活性化する物質や,限られた受容体の活性化だけを阻害する物質を作り出せば,アドレナリンの作用のうちの一部だけを選択的に発揮することや,逆にその作用を阻害することが可能になる(図 2)。

2 種類の受容体❶と❷をともに活性化するリガンドの例(左)。受容体❶だけを選択的に活性化できる物質の例(中央)や,受容体❶の活性化だけを選択的に阻害できる物質の例(右)。
設問(1):ホルモンの中には,標的細胞の中に入って細胞内に存在する受容体に結合してはたらくステロイドホルモンのようなものや,細胞の中には入れずに細胞膜に存在する受容体に結合してはたらくインスリンのようなものがある。前者と後者を分ける各々のホルモンの物質的特徴について,細胞膜の特徴との関係に触れつつ解答欄の枠内で述べよ。
設問(2):動物の神経伝達物質としてはたらく低分子化合物の例をアドレナリン以外に 2 つ記せ。
設問(3):あるリガンドとその受容体の結合に関して,下線部①の性質を持つ阻害物質を用いた実験を行った。まず,一定濃度の受容体とさまざまな濃度のリガンドを,低・中・高濃度の各濃度の阻害物質の存在下で十分な時間をかけて混合した。この際には阻害物質を入れない条件でも同様の実験を行った。その後,リガンドと結合している受容体の割合を測定した。実験結果のグラフとして,正しいものを以下の a)〜 e)の中から 1 つ選べ。グラフでは,用いたリガンドの濃度を横軸に対数で示し,リガンドと結合した受容体の割合を縦軸に示してある。太線を阻害物質を入れない条件での実験結果とし,点線はすべての受容体がリガンドと結合した場合の値を示す。

文 2
植物ホルモンにもアドレナリンのように多様な作用をもつものが多く知られており,その作用の理解には受容体の発見が重要となる。アブシシン酸は,種子の発芽や,発芽後の根の成長を調節する作用をもつ植物ホルモンである。アブシシン酸の添加効果が現れない変異体の探索が行われ,いくつもの変異体が見つかった。しかし,それらの変異体の中にアブシシン酸の受容体の遺伝子に変異をもつものはなかった。この理由は,アブシシン酸の受容体の遺伝子が実際には 1 つではなく,似たはたらきができる受容体遺伝子が他にも存在しているためであることがのちに判明した。このように,アブシシン酸そのものの添加効果を用いた変異体探索ではその受容体遺伝子は見つからなかったが,巧妙な工夫を行うことで実際には受容体遺伝子は特定された。以下は,そのおおよその経緯である。
アブシシン酸をシロイヌナズナの野生型(正常な植物)の種子に添加すると発芽を阻害し,発芽後に添加すると根の成長を阻害する(図 3)。アブシシン酸と分子構造が少しだけ異なる化合物 Z が合成され,Z を野生型の種子に添加するとアブシシン酸と同様に発芽を阻害した。一方で,発芽後の野生型に Z を添加してもアブシシン酸とは異なり根の成長阻害効果は一切みられなかった。シロイヌナズナの変異体集団の中から,Z を添加した培地でも発芽する変異体を探索したところ,実際にそのような変異体が獲得され,その変異体は と名付けられた。一方で,アブシシン酸を添加した培地で変異体 の発芽を調べたところ,野生型と同様に発芽が阻害された。発芽後の変異体 にアブシシン酸を添加した場合にも野生型と同様に根の成長阻害がみられた。
この変異体 では遺伝子 に機能が喪失する変異が生じていることが判明した。また,遺伝子 から生じるタンパク質 A はアブシシン酸と直接結合することも証明された。以上のことから,②タンパク質 A はアブシシン酸の受容体として機能すると考えられた。

化合物を添加した培地で発芽させた場合の発芽率 (A) と,発芽後から化合物を添加した培地で生育させた場合の根の長さ (B)。(B) では野生型に何も添加しない場合の根の長さを 100 % としている。
設問(4):下線部②を踏まえて図 3 の実験結果を考察した時,発芽制御と発芽後の根の成長制御においてアブシシン酸と人工化合物 Z の作用の違いが生じる理由を,解答欄の枠内で述べよ。
文 3
その後,シロイヌナズナには遺伝子 とは塩基配列に少しの違いがあるが全体的にはよく似た遺伝子 と が存在することが判明した。遺伝子 , からそれぞれ生じるタンパク質 B,C も,A と同様にアブシシン酸と直接結合することが証明された。すなわち,タンパク質 A,B,C は,アミノ酸配列に少しの違いをもつものの,すべてアブシシン酸の受容体として機能しうると考えられた。そこで,遺伝子 ,, それぞれの変異体 ,, を用いて,これらの遺伝子のうちの複数の機能が喪失した植物(各組み合わせの二重変異体と三重変異体)を作成した。これらの植物に関して,アブシシン酸を添加した培地上での発芽を観察した結果と,発芽後からアブシシン酸を低濃度あるいは高濃度で添加した培地で育てた際の根の長さを測定した結果を図 4 に示す。

アブシシン酸を添加した培地での野生型と各変異体の発芽率 (A) と,発芽後からアブシシン酸を異なる濃度で添加した培地で生育させた野生型と各変異体の根の長さ (B)。(B) では野生型に何も添加しない場合の根の長さを 100 % としている。
設問(5):アブシシン酸の発芽阻害作用ならびに根の成長阻害作用のそれぞれはどの受容体を介して発揮されると考えられるか,以下の a)〜 g)の中から 1 つずつ選べ。また,異なる濃度のアブシシン酸を用いた根の成長阻害実験からわかることを,解答欄の枠内で述べよ。
a) A のみ b) B のみ c) C のみ
d) A と B e) B と C f) A と C
g) A と B と C
設問(6):アブシシン酸による受容体 C の活性化だけを選択的かつ完全に阻害することのできる化合物 W が開発された。植物に対する W の効果は迅速にあらわれるものとする。この W を用いて以下の 2 つの実験を行った。
(実験 1)
野生型の種子を,十分に高濃度なアブシシン酸と十分に高濃度な W を添加した培地で発芽させた。
(実験 2)
通常通りに発芽させた野生型の植物を,図 4 (B) の実験で用いた低濃度のアブシシン酸と十分に高濃度な W をともに添加した培地でさらに育てた。
それぞれの実験結果として正しい組み合わせを,以下の a)〜 f)の中から 1 つ選べ。

第4問
次の文章を読み,以下の設問に答えよ。
文 1
免疫とは,体内に侵入した病原体などの異物を排除するしくみであり,自然免疫と獲得(適応)免疫に分けられる。
自然免疫では,食細胞を中心とした免疫応答が生じる。食細胞は,①病原体に共通する分子構造を認識する受容体により,病原体に反応して活性化される。その結果,血管の透過性が増大して,局所で炎症反応が引き起こされる。また,ナチュラルキラー(NK)細胞は,ウイルスなどが侵入した感染細胞を正常細胞と区別し,攻撃して破壊する。
獲得免疫では,病原体由来の抗原は樹状細胞に取り込まれて分解され,(ア) と呼ばれる分子の上に提示される。この抗原により,(イ) および (ウ) と呼ばれる免疫細胞が活性化される。(イ) は別の免疫細胞の食作用を刺激して侵入した病原体を排除し,(ウ) は感染細胞を直接排除する。一方,B 細胞は (イ) による刺激をうけて活性化され,抗体産生細胞に分化して病原体に対する抗体を多量に産生する。
設問(1):下線部①について,食細胞が病原体を直接認識して炎症反応を引き起こすしくみについて,以下の用語をすべて用いて解答欄の枠内で説明せよ。
(用語リスト)
・パターン認識受容体(Toll 様受容体) ・サイトカイン ・食細胞
設問(2):空欄 (ア) 〜 (ウ) に適切な用語を記入せよ。
文 2
自然免疫と獲得免疫は明確に区別されるものではなく,互いに活性化しあって協調的にはたらくことが最近では明らかになっている。抗体は侵入してきた病原体に直接結合して中和し,感染能力を低下させるはたらきを持つが,さらに病原体と複合体を形成することで食細胞の食作用を促進し,効率的な病原体の排除にも関わる。
これまで自然免疫に関わるとされてきた NK 細胞にも,がん細胞やウイルス感染細胞のような異常細胞と抗体の複合体を認識して排除する機能があることがわかってきた。これらの細胞膜表面には正常細胞とは異なる分子が発現しているが,その分子を抗原として抗体が複合体を形成すると,それを NK 細胞が認識して異常細胞として排除する現象が知られている。この現象を理解するために,以下の実験を行った。
(実験 1)
がん細胞と NK 細胞の 2 種類の細胞を混合し,がん細胞に特有な抗原を認識する抗体 X を添加した。その結果,がん細胞が NK 細胞により殺傷され,細胞死が誘導されることが観察された。一方で,がん細胞と無関係な抗体 Y を用いたところ,細胞殺傷は認められなかった。
(実験 2)
抗体 X と抗体 Y にタンパク質分解酵素を作用させ,それぞれの抗体から C 部分と D 部分を取り出した(図 1)。

抗体は 2 本の H 鎖と 2 本の L 鎖からなる。
(実験 3)
抗体 X と抗体 Y のそれぞれについて,分解前の抗体,C 部分,または D 部分を,がん細胞もしくは NK 細胞と反応させ,両者の結合の有(+)無(−)を測定した(表 1)。
(実験 4)
抗体 X と抗体 Y のそれぞれについて,分解前の抗体,C 部分,D 部分,または C 部分と D 部分の混合物を準備した。がん細胞と NK 細胞の 2 種類の細胞を混ぜたのちに,準備した抗体サンプルを添加し,NK 細胞によるがん細胞の殺傷の有(+)無(−)を測定した(表 1)。
表 1 抗体の C 部分と D 部分を用いた実験

設問(3):表 1 の実験結果にもとづき,NK 細胞が抗体を介してがん細胞を殺傷するメカニズムを考察して解答欄の枠内で述べよ。ただし,以下のリストの用語を,すべて用いること。
(用語リスト)
・NK 細胞 ・がん細胞 ・抗原結合部位 ・C 部分 ・D 部分
文 3
抗体を利用した特異性の高い医薬品を抗体医薬品と呼ぶ。抗体が NK 細胞を介してがん細胞を排除するしくみを利用して,これまでに多数の抗体医薬品が開発されてきたが,その過程で抗体に存在する糖鎖に注目が集まるようになった。糖鎖は数種類の糖から構成された鎖状分子であり,さまざまなタンパク質の特定のアミノ酸に付加されるが,この糖鎖に含まれる糖の種類や数が変化すると,タンパク質の立体構造が影響を受けて機能が変化することがある。
抗体に付加される糖鎖の構成成分のひとつにフコースという糖があり,糖鎖の末端に存在する。近年,このフコースの有無が抗体医薬品の効果に影響を与えることが明らかとなって注目を集めている。また,ごく最近では,抗体へのフコース付加の有無が新型コロナウイルス感染症における炎症反応の強さと関係しているといわれている。このような,抗体における糖鎖の役割について理解するために,次の実験を行った。
(実験 5)
実験 1 〜 4 で用いた抗体 X と抗体 Y のそれぞれについて,フコースのみを除去した抗体(F−)と,フコースを含む糖鎖をすべて除去した抗体(糖鎖−)を作製した。これらの抗体を用いて,がん細胞との結合量(図 2 (A)),NK 細胞との結合量(図 2 (B)),そして NK 細胞によるがん細胞の殺傷度(図 2 (C))を測定した。
(実験 6)
抗体 X 単独,抗体 X に抗体 Y を共存させた場合,抗体 X と抗体 Y(糖鎖−)を共存させた場合,もしくは,抗体 X と抗体 Y(F−)を共存させた場合に,NK 細胞によるがん細胞の殺傷度がどう変化するかを調べた(図 2 (D))。

設問(4):図 2 (D) において抗体 Y から糖鎖を除去した場合とフコースを除去した場合で,がん細胞の殺傷度が異なった理由について,表 1 と図 2 の実験データにもとづき考察して解答欄の枠内で述べよ。ただし,以下のリストの用語を,すべて用いること。
(用語リスト)
・NK 細胞 ・がん細胞 ・糖鎖 ・フコース
設問(5):表 1 と図 2 の実験データにもとづき,抗体のどの部位がフコースによる修飾を受けるのか仮説を立て,それを確かめるための実験について下記に示した。空欄 (エ) 〜 (オ) に入る語の組合せとして最も適切なものを,下の表の a)〜 f)のうちから 1 つ選べ。
抗体 X を分析したところ,糖鎖は H 鎖の 1 箇所のみに付加されていた。そこで,抗体 X の (エ) 部分をフコースが修飾することが,その機能の調節に重要であるという仮説を立てた。この仮説を検証するために,抗体 X から (エ) 部分を取り出し,この部分からフコースを除去したものと除去していないものとをそれぞれ準備して,両者の (オ) を比較した。その結果,フコースを除去することで,(オ) が上昇したことから,抗体 X の (エ) 部分がフコースによって修飾されると考えられた。
