PDFの 22 枚目
生 物
第1問
次の文1〜文3を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。
〔文1〕
ニワトリを用いて以下の実験を行った。
実験1 1ヶ月齢の10羽の若鳥に,(ア) 以下の2つのテストを両方受けさせた。片方のテストAではオレンジ色に染めた米粒を餌として与え,もう片方のテストBでは,緑色の米粒を餌として与える。両方のテストとも,米粒と同じオレンジ色または緑色に塗った砂利(米粒と似た大きさ)の,どちらか一方の砂利が密に付着した板を背景とした。そこに米粒を一定数まき,その上に鳥かごを置いて,中に1羽を入れる。(イ) 各個体について,米粒の色と異なる色の背景,または同じ色の背景の実験を,時間をおいて両方の色とも行った。各テストとも,どちらの色の背景を先に試しても,食べ方の傾向に違いはなかった。ある個体の結果が図1である。
昆虫を捕食する鳥であるルリカケスを用いて,以下の実験を行った。
実験2 6羽のルリカケスを1羽ずつ鳥かごに入れ,その前にテレビ画面を置いて,そこに餌となるガの写真を映し出す。餌の写真として,種内で羽の模様がさまざまに異なるシタバ類のガを用いる。近縁な2種であるRとL(羽の模様が少し異なる)を,それらの羽模様とよく似た模様の背景の中に映し出した。実験として,Rのみを続けて映したとき,Lのみを続けて映したとき,これら2種を無作為に映したとき,の3つのテストを行った。ガを正確につつく正しい応答をしたときには,人工餌がもらえる。その結果が図2である。
PDFの 23 枚目
図1 ニワトリが食べた米粒の積算数
図2 ルリカケスに2種のガを見せたときの正しい応答率
PDFの 24 枚目
〔文2〕
さらに,ルリカケスを用いて,以下の2つの実験を行った。採餌行動で同程度の能力を発揮するよう訓練された6羽のルリカケスを1羽ずつ鳥かごに入れ,その前にテレビ画面を置いた。この画面に,コンピューターで羽模様を加工したガの模型を,それとよく似た模様の背景の中で映す(図3)。実験中は同じ模様の背景を使用した。ルリカケスは,ガの像を正確につついたら人工餌がもらえる。
実験3 シタバ類の種Lの羽模様を加工して作った隠蔽度の異なる模型1〜3がある。これらを等しい数で混合した合計240匹の初期集団を作り,ルリカケスに対してガを1匹ずつ映した。1羽のルリカケスには40匹分の模型の映像が1匹ずつ映る。正確につつかれたらその個体は食われて死んだとし,その生き残った頻度に応じて,翌日には模型の個体数の割合を変えて240匹の集団を構成し直し,再びルリカケスに提示した。このように,1日の試行をガの模型集団にとっては「1世代」として換算し,各模型の個体数の変化を調べた。その結果が図4(a)である。模型1は,背景に対して最も隠蔽された羽模様を持つので,50日後の実験終了時には個体数が一番多くなった。(ウ) 一方,隠蔽度のやや劣る模型2と3も最後まである程度の頻度で残った。
実験4 実験3が終わった状態のガの集団に,それまで登場しなかった模型4を少数導入し,同様の実験を50日間行った。模型4は模型1に比べてやや隠蔽度が劣る模型である。その結果が図4(b)である。
PDFの 25 枚目
図3 ガの模型の1例(模型2)
左図:目立つ背景に置いたとき
右図:実験で使用した背景に置いたとき
実験はすべて白黒画像で行った
図4 ルリカケスにガの模型を見せたときの各模型の個体数変化
図中の数字は模型の番号を示す
PDFの 26 枚目
〔文3〕
ガの一種オオシモフリエダシャクには,灰色と白のまだら模様の野生型と,暗色の黒化型の2タイプがある。19世紀前半のイギリスでは黒化型はほとんど見られなかったが,(エ) 工業化が進むにつれて,大都市の近郊では黒化型の頻度が増え始めた。ところが,工場がない田舎の地方では,野生型が非常に高い頻度を占め続けた。
この2つの体色の表現型は,1組の対立遺伝子によって決まっていて,(オ) 優性の対立遺伝子 C を持つ CC と Cc は黒化型になり cc が野生型になる。野生型は,灰白色の(カ) 地衣類で被われた木の幹にとまっていると,羽と背景の模様が似ているので目立たない。黒化型は,工場から出る煤煙などの影響で地衣類が枯れて,黒っぽい幹の地肌がむき出しになった木の上で目立たない。
そこで,ある研究者は,下線部(エ)の現象は鳥による捕食の変化によって説明できると考えた。彼は,工業都市バーミンガム近郊で地衣類が枯れて木の地肌がむき出しになった林と,地衣類が繁茂している田舎のドーセット地方の林を選び,これら2つの場所で,標識した野生型と黒化型のガを多数放った。そして数日後に再捕獲した結果が表1である。
表1 標識して放したガの再捕獲割合
PDFの 27 枚目
[問]
Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。
A 与えた米粒と背景の色に関して,図1の2つのテストA,Bの結果には共通の傾向が3点ある。各1行ずつ箇条書きで述べよ。
B 下線部(ア)と(イ)について。このように同一個体で2つの米粒の色と2つの背景の色をともに試すのはなぜか。以下から最も適切なものを1つ選んで,番号で答えよ。
(1) 実験の繰り返し数を増やして,得られた平均値の信頼性を高めるため。
(2) 実験の繰り返し数を増やして,微妙な差でも検出しやすくするため。
(3) 2つのテストで捕食行動に差が生じるかどうかを問題としているため。
(4) 色の識別能力や採餌効率など,個体の能力の差異による影響を排除するため。
C 図2で,RとLを片方だけ映し続けたときには,提示回数とともに正しい応答率が上昇した。しかし,RとLを無作為に映したときには,提示回数が増えても正しい応答率は上昇しなかった。後者で上昇しなかった理由を,1行程度で述べよ。
Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。
A 図4(a)の結果が下線部(ウ)のようになった理由を,1行程度で述べよ。
B 図4(a)で,模型1と模型2または3の頻度が交互に逆転しながら変動する理由を,2行程度で述べよ。
C 図4(b)で,模型4の頻度が10世代目までは増えた理由を,1行程度で述べよ。
D もし仮に極端に隠蔽されたガの模型が集団中に現れた場合,他の模型の個体数はどうなるか。以下の(1)〜(4)から最も適切なものを1つ選んで,番号で答えよ。
(1) 急速に個体数を減らすが,ある程度のところで食われなくなり,以後はそのレベルを保つ。
(2) 食われて急速に数を減らし,やがて消滅近くまで減少する。
PDFの 28 枚目
(3) 個体数が増えたり減ったりしながらある程度の数まで減少するが,以後はそのレベルを保つ。
(4) 個体数が増えたり減ったりしながら,やがて消滅近くまで減少する。
Ⅲ 文3について,次の小問に答えよ。
A 下線部(エ)について。この現象は何と呼ばれているか。
B 下線部(オ)について。いま野生型 cc と黒化型 CC と Cc が1:1:1からなる集団を考える。この集団で交配が完全に無作為に起こるとすると,次世代の体色の比率は,野生色:黒化色でいくつになるか。ただし,細胞質の効果はなく,どの対立遺伝子の組み合わせでも等しい数の子を残し,鳥の捕食はここでは考えないものと仮定する。答えを導く途中の過程も簡潔に記せ。
C 下線部(カ)は2つの生物の共生体であるが,それらは何と何か。
D 表1について。このような鳥による採餌行動は,やがて自然選択による進化をもたらすと言われている。この[文3]の例は,自然選択が作用して進化が生じるのに必要な条件をすべて満たしている。それらの条件を2行程度で述べよ。
E 1956年に法律で工場からの大気汚染物質の排出が規制されてからは,次第に木の表面に地衣類が回復してきて,それとともに黒化型の頻度が減り始めた。それ以降,地衣類が繁茂した状態が続くと,黒化型の頻度はどうなると考えられるか。最も適切なものを以下から1つ選んで,番号で答えよ。
(1) 黒化型はやがて完全に消滅する。
(2) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じて黒化型が現れ,この頻度が低いと鳥に食われにくいので,ある程度まで個体数を増やす。
(3) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じて黒化型が現れるので,非常に稀な頻度で黒化型が見られる。
(4) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じ,体色は野生型ばかりになっても,その中に低頻度で黒化型遺伝子をヘテロで持った個体が隠れて混じる。
PDFの 29 枚目
第2問
次の文1と文2を読み,ⅠとⅡの各問に答えよ。
〔文1〕
植物の花成は遺伝的なプログラムと環境によって制御されている。現在,花成の制御経路は大きく分けて3つ存在すると考えられている。植物ホルモンのジベレリンを介する経路,光周期依存的な経路,低温依存的な経路である。ジベレリン量の減少した変異体では花芽形成が遅れる。ジベレリンに対する応答に重要な役割を果たす遺伝子 S がある。通常,遺伝子 S の産物は核に存在するが,ジベレリンを投与すると(ア) 核から消失する。
限界暗期が10時間の長日植物がある。この植物に6時間の明期と暗期を交互に与えると花芽は 1 。明期を12時間,暗期を12時間とすると,花芽は 2 。12時間の暗期開始後6時間の時点で1分間の光照射を行うと,花芽は 3 。暗期をまったく与えない場合,花芽は 4 。光は発芽にも影響を与える。レタスの種子は光によって発芽が促進される。この場合,促進効果があるのは赤色光であり,近赤外光(遠赤色光)は抑制的にはたらく。光発芽種子のあるものは群落の外では発芽するが,(イ) 群落の下層では,上層の葉を透過した光が届いていても発芽しない。植物は光の波長を識別しているのである。
茎頂を切り取り培養し,数週間の低温処理を与えると花芽形成が促進される。ただし,花芽への分化が誘導されるのは低温処理直後ではなく,低温処理終了から数週間後である。したがって,低温刺激を受けた植物の茎頂は花芽の分化まで低温刺激を‘記憶’していると考えられる。しかし,低温処理の効果は種子には受け継がれない。低温刺激により,植物の遺伝子の塩基配列に変化は生じないと考えられる。低温刺激の‘記憶’は 5 の過程では安定に維持されるが, 6 の過程では維持されない。遺伝子 F は花芽形成を抑制している。低温刺激により遺伝子 F の発現は減少し,遺伝子 F の発現抑制が維持される。ある変異体では低温処理による花芽形成の促進が認められない。この変異体では,遺伝子 F の発現は低温刺激により一過的に減少したが,その後再び発現が上昇した。低温刺激の‘記憶’の実体は, 7 と考えられる。
PDFの 30 枚目
〔文2〕
花は4種類の花器官(萼,花弁,雄しべ,雌しべ)からなり,中心には雌しべが位置する。それぞれの花器官の数や形は種によって異なっているが,花の基本型は萼—花弁—雄しべ—雌しべという順序を持つ(図5)。花には4つの領域が存在し,それぞれの領域にひとつの花器官が形成される。植物の変異体の中には萼が雌しべに転換したり,花弁が萼になるなど野生型と異なった器官に分化するものがある。これらの花の変異体を用いた解析から,花器官の分化は3種類のグループ(A,B,C)の遺伝子により制御されるというモデルが広く支持されている。図5の花では,第1領域でAグループの遺伝子が機能し萼が,第2領域でAグループとBグループの遺伝子が機能し花弁が,第3領域ではBグループとCグループの遺伝子が機能して雄しべが,第4領域ではCグループの遺伝子が機能して雌しべが,それぞれ形成されると考えられている。AグループとCグループの遺伝子は互いに発現を抑制しあい,野生型植物では両者は同一の細胞では発現しない。Cグループの遺伝子は花器官を生み出す花芽分裂組織の成長を抑制し,雌しべへの分化を促進する機能を持っていると考えられる。A〜Cグループの遺伝子が野生型と異なる領域で発現すると,その領域では野生型と異なる花器官が分化する。この花の形づくりのモデルに基づいて,花弁だけの花をつくりたいと考えた。そこで 8 グループ遺伝子の欠失した変異体に遺伝子操作を加え,第1〜4領域,すべてにおいて強制的に 9 グループ遺伝子を発現させた。その結果予想通り,多数の花弁のみで構成される花となった。花の変異体は,バラやキクなどの園芸種に見られるように,我々のごく身近にも存在している。
PDFの 31 枚目
図5 花の構造の模式図
〔問〕
Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。
A 遺伝子 S の機能に異常を生じた変異体 s − 1 と s − 2 がある。遺伝子 S の機能を失った変異体 s − 1 はジベレリンを過剰に投与されたような形質を示し,変異体 s − 2 はジベレリンに対して応答しなかった。以上の事実と矛盾すると考えられるものを次の文(1)〜(5)よりすべて選び,番号で答えよ。
(1) 遺伝子 S の産物はジベレリンに対する応答を抑制する。
(2) 変異体 s − 1 の背丈は野生型に比べ低い。
(3) 野生型植物にジベレリンを投与すると,遺伝子 S の産物の機能が抑制される。
(4) 変異体 s − 2 の方が変異体 s − 1 よりも背丈が高い。
(5) 変異体 s − 2 では遺伝子 S の産物の本来の機能が野生型よりも強くなっている。
B 下線部(ア)の変化は遺伝子 S の産物に何が起こったためと考えられるか。2つの可能性について1行で述べよ。
C 空欄1〜4にあてはまる語句を次の(a)と(b)から選び,記号で答えよ。
(a) 形成される
(b) 形成されない
D 下線部(イ)について。光のどのような違いが群落の下層における発芽を抑制したのか2行以内で述べよ。
PDFの 32 枚目
E 花芽を誘導する際の日長処理は数日間で十分であるが,花芽を誘導する低温処理は数週間以上必要である。この違いには植物が季節変化を感知する上でどのような利点があると考えられるか。2行以内で述べよ。
F 短日植物のシソを短日条件下においた後,その葉を長日条件で育てた植物に接ぐと,短日を経験していない植物の花芽形成が促進される。一方,低温処理した植物に低温処理を加えていない植物を接いでも,低温処理していない植物の花芽形成は促進されない。次の文(1)〜(5)から間違っているものをすべて選び,番号で答えよ。
(1) 葉で日長を感じることができる。
(2) 日長刺激を空間的に隔たった場所へ伝える仕組みの存在が示唆される。
(3) 日長刺激と低温処理により,植物は同一の花成促進物質を葉で合成する。
(4) 茎頂の細胞には低温刺激を受容する仕組みが存在する。
(5) 低温処理により拡散性花成促進物質が合成される。
G 空欄5,6に入る最も適切な語句を次の(1)〜(12)の中からそれぞれ選び,5-(13),のように記せ。
(1) 転写
(2) 翻訳
(3) 成長運動
(4) 核分裂
(5) 形質転換
(6) 体細胞分裂
(7) 膨圧運動
(8) 同化
(9) 異化
(10) 細胞板形成
(11) 細胞質分裂
(12) 減数分裂
H 空欄7に入る最も適切な語句を次の(1)〜(8)の中から選び,番号で答えよ。
(1) 低温刺激による遺伝子 F の一過的発現上昇
(2) 低温刺激による遺伝子 F の一過的発現抑制
(3) 低温刺激後の遺伝子 F の発現抑制の維持
(4) 低温刺激後の遺伝子 F の発現上昇の維持
(5) 低温刺激後の遺伝子 F の発現抑制からの回復
(6) 低温刺激後の遺伝子 F の発現上昇からの回復
(7) 低温刺激による花成ホルモンの合成
(8) 低温刺激の日長刺激への変換
PDFの 33 枚目
Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。
A 突然変異によってAグループの遺伝子が機能を失うと,Cグループの遺伝子が4つの領域すべてにおいて発現するようになる。第1〜4の各領域にはどのような花器官が分化すると予想されるか。第5領域—がく,のように記せ。
B 空欄8,9に入る最も適切な語を,それぞれ記せ。
C Cグループの遺伝子が機能を失うと花芽分裂組織が残り,多数の花器官が生じる。Bグループの遺伝子とCグループの遺伝子の両方が機能を失った突然変異体の花は,どのような構造になると予測されるか。1行で述べよ。
PDFの 34 枚目
第3問
次の文1と文2を読み,ⅠとⅡの各問に答えよ。
[文1]
がんは,遺伝子や染色体の異常によって細胞が無秩序に増殖して起こる病気で,がん原遺伝子やがん抑制遺伝子などに異常が積み重なって発症する。遺伝子の異常としては(ア) 1塩基の変異(点突然変異)や数塩基の欠失,(イ) 染色体の異常としては一部分の欠失などがよく知られている。
がん原遺伝子は,変異によって活性化してがん化を引き起こすようにはたらく遺伝子で,一対の遺伝子の一方に異常が起これば,がん化を引き起こすことがある。がん化能を獲得したがん原遺伝子は,がん遺伝子と呼ばれる。r a s 遺伝子は代表的な例で,いろいろながんで点突然変異が見つかっている。正常な r a s 遺伝子産物には活性状態と不活性状態があり,活性状態では多くの場合,細胞の増殖を促進する役割を果たしている。(ウ) しかし,r a s 遺伝子に点突然変異が起こると恒常的に活性化した遺伝子産物ができることがあり,細胞のがん化を引き起こす一因となる。
がん抑制遺伝子は,変異によって失活することにより細胞のがん化が引き起こされるような遺伝子である。正常な状態では細胞のがん化を抑制するようにはたらいていると考えることができるので,この名称がある。このようながん抑制遺伝子の概念は,(エ) 正常細胞とがん細胞を融合すると融合細胞が正常細胞の表現形質を示すこと,(オ) 遺伝性がん患者の細胞には特定の染色体の一部に欠失などの異常がみられることと良く符合する。
PDFの 35 枚目
がん抑制遺伝子には以上のようなはたらきがあるので,一対の遺伝子の一方に異常が起きて失活した(第1ヒット)だけではがん化は引き起こされず,もう一方にも異常が起きて(第2ヒット)両方失活したときに初めてがん化が引き起こされると考えられる。この考え方を2段階ヒット理論(two-hit theory)と呼ぶ。
初めて実体が明らかになったがん抑制遺伝子は,眼の腫瘍である網膜芽細胞腫の原因遺伝子 R b である。網膜芽細胞腫には,片方の R b 遺伝子の変異が親から遺伝している遺伝性のものと,非遺伝性のものが知られている。(カ) 遺伝性の網膜芽細胞腫では,非遺伝性の場合と異なって早期に発症する頻度が高く,両眼に発症する場合があるが,このような発症の仕方も,two-hit theory により説明できる。
[文2]
がん抑制遺伝子の中で最も有名なものは p 53 遺伝子で,ほとんどの種類のがんで高頻度に変異が見出される。一般に,一対の遺伝子の一方は欠失し,他方は点突然変異を起こしている場合が多く,two-hit theory がよくあてはまる。
p 53 遺伝子の産物(p53 と記す)は,他の遺伝子の転写を活性化するはたらきをもつタンパク質で,4分子が複合体を形成してはじめて機能することができる。がん細胞で見出される,変異を起こした p53 は,転写を活性化するはたらきを失っている。したがって,(キ) 一方の p 53 遺伝子が正常で他方の p 53 遺伝子に点突然変異が起きて失活している場合には,変異を起こした p53 が正常な p53 の機能を阻害する可能性もある。そこで,この仮説を検証し,さらに p53 の機能を調べるために以下の実験を行った。
PDFの 36 枚目
実験 現在の技術では,任意の遺伝子を培養細胞に導入して発現させることが可能である。そこで,正常 p 53 遺伝子が完全に欠失したあるがん細胞をシャーレで培養して,正常 p 53 遺伝子や変異 p 53 遺伝子を発現させて,生細胞数の変化を経時的に計測した(図6)。もとのがん細胞は,a のような曲線を描いて増殖したが,正常 p 53 遺伝子を発現させた場合には細胞増殖の抑制が起きた(増殖曲線 b)。(ク) さらに正常 p53 の発現量を増やしたところ,増殖曲線 c のような生細胞数の変化がみられた。しかし,変異 p53 を大量に発現させても,このような現象は観察されなかった(増殖曲線 d)。(ケ) 一方,正常 p53 とこの変異 p53 を同時に発現させた時には,増殖曲線 e のような生細胞数の変化が観察された。
細胞が様々な要因によって遺伝子の傷害などのストレスを受けると,p53 の発現の増加と活性化が起こり,p53 の作用によって細胞は間期で停止する。その間に傷害が修復されると,DNA 複製・細胞分裂が再開される。一方,傷害が大きくて修復が不可能な場合には,(コ) 上記の実験の増殖曲線 c のような現象が起こる。このような p53 の活性を利用して,p 53 遺伝子に異常のあるがん細胞に正常 p 53 遺伝子を発現させることにより,がんを治療しようという試みも報告されている。また一方で,p53 の機能を阻害する薬剤が,放射線などによるがん治療の副作用軽減に有用である可能性もある。例えば,(サ) p53 の機能を一時的に阻害する薬剤を投与したマウスは,致死量の放射線を照射しても生存できたという実験結果が報告されている(なお,この実験では放射線や p53 の機能を阻害する薬剤による発がんは起こらなかった)。p53 の機能を阻害する薬剤を併用することにより,放射線などによるがんの治療をより効果的に進められる可能性もある。
PDFの 37 枚目
図6 p53を発現させたがん細胞の増殖曲線
PDFの 38 枚目
〔問〕
Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。
A 下線部(ア)について。一般に点突然変異によって,遺伝子産物のアミノ酸配列にどのような変化が起こると考えられるか,2通りあげよ。
B 下線部(イ)について。染色体の一部の欠失以外で,染色体構造に異常が生じる例を3つあげよ。
C 下線部(ウ)について。r a s 遺伝子の変異はいろいろながんで見出されるが,遺伝子産物の12番目のグリシンや61番目のグルタミンなどのアミノ酸が特定のアミノ酸に変化したものに限定されている。このような現象が観察される理由を述べた次の文(1)〜(5)の中から最も適切なものを1つ選び,番号で答えよ。
(1) これらの変異によって置き換わった特定のアミノ酸そのものに発がん性があるから。
(2) 12番目や61番目などのアミノ酸に対応するコドンは,突然変異の頻度が高いから。
(3) これらの変異が起こると,r a s 遺伝子産物の活性が変化して,がん細胞の増殖に有利にはたらくから。
(4) これらの変異が起こると,r a s 遺伝子産物の転写が活性化されて,大量に産生されてしまうから。
(5) これらの変異が起こって活性化した r a s 遺伝子産物は,細胞の増殖を抑制できないから。
PDFの 39 枚目
D ある膀胱がん患者のがん細胞から取り出した DNA より r a s 遺伝子の塩基配列の一部を決定し,伝令 RNA の配列に直したところ,(a)のようになった。また,ある肺がん患者のがん細胞の場合には伝令 RNA の異なる部分で,(c)のようになった。それぞれに対応する領域の正常型 r a s 遺伝子の配列を(b)および(d)に示してある。ただし,遺伝情報は左から右へ翻訳されるものとする。
(a) 膀胱がんのがん細胞での配列 …GGUGGGCGCCGUCGGUGUGGGCA…
(b) 正常細胞での配列 …GGUGGGCGCCGGCGGUGUGGGCA…
(c) 肺がんのがん細胞での配列 …AUACCGCCGGCCGGGAGGAGUAC…
(d) 正常細胞での配列 …AUACCGCCGGCCAGGAGGAGUAC…
それぞれ,r a s 遺伝子産物の何番目のアミノ酸が,どのアミノ酸に変わったものか。遺伝暗号表(表2)を参考にして,膀胱がん:18番アラニン→リシンのように答えよ。なお,がん細胞における r a s 遺伝子産物の変異は12番目のグリシンと61番目のグルタミンに限定されるものとする。
表2 遺伝暗号表
伝令 RNA の塩基配列として表記されている。
PDFの 40 枚目
E 下線部(エ)および(オ)の現象を,文中のがん抑制遺伝子の概念を用いて,それぞれ1行程度で説明せよ。
F 下線部(カ)のような発症の仕方の違いが生じる理由を,上記の two-hit theory に基づいて1行程度で述べよ。
Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。
A なぜ下線部(キ)のような可能性があると考えられるのか。1つの考え方を1行程度で述べよ。
B 下線部(ク)について。p53 の作用によって細胞に何が起きたと考えられるか,1行で述べよ。
C 下線部(ケ)の実験は,下線部(キ)の仮説の実験的検証と考えられる。この結果が何を意味するか,p53 の機能発現のしくみに着目して2行程度で述べよ。
D p53 のもつ下線部(コ)の機能は,がん抑制遺伝子としてのはたらきに最も重要であると考えられている。その理由を推測し,2行程度で述べよ。
E 下線部(サ)について。なぜこのような結果が得られたのか,p53 の機能を阻害する薬剤の正常細胞に対する作用に注目して,1行程度で説明せよ。
第1問 鳥の「さがす目じるし」— ニワトリの米粒・ルリカケスのガ・オオシモフリエダシャク 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 鳥が獲物をどう見つけているかを、3つの文で調べる問題。文1はニワトリとルリカケスの餌さがし、文2はルリカケスとコンピューターで作ったガの模型の「世代」を重ねる実験、文3はイギリスのオオシモフリエダシャクの黒化型の話。
全体を通す道具は探索像 (さがす目じるし)という考え方。背景にまぎれた獲物は、はじめは見つけにくいが、一度見つけるとその姿を覚えて、次からは見つけやすくなる。覚えるのは「よく出会う獲物」の姿なので、多い獲物ほど見つかりやすく、少ない獲物は見のがされやすい 。
この「多い方が損をする」しくみ(頻度に依存する選択)が、文2の模型の数の行ったり来たりや、少し劣る模様が消えずに残ることを説明する。文3では逆に、目立つか目立たないかという背景との関係が生き残りを決めていて、自然選択による進化の典型例になっている。
Ⅰ A 図1の2つのグラフを、黒丸(背景が米粒と違う色)と白丸(同じ色)で比べる。テストAでもテストBでも同じことが言えるものを3つ探す。
1つ目は、黒丸の線のかたむき。最初の1分からほぼまっすぐに上がり、テストAでは2分で約100粒、テストBでは3分で約170粒。はじめから一定の速さでたくさん食べている 。
2つ目は、白丸の線の出だし。どちらのテストでも最初の3分間はほぼ0のまま。背景と同じ色の米粒は、はじめほとんど見つけられない 。
3つ目は、白丸の線の曲がり方。後になるほど急になり、最後の1分はテストAで約60粒、テストBで約58粒と、黒丸の速さに追いつく。食べる速さが「はじめの速さ+覚えた分×食べた数」で増えると考えると、E = r 0 k ( e k t − 1 ) の形になり、図の点によくのる(テストAで8分64粒・10分171粒)。見つけるたびに見つけ方を覚えて速くなる のが、探索像の形成にあたる。
答え ・背景の色が米粒と異なると,食べ始めからすぐ一定の速さで多く食べた。(33字) ・背景の色が米粒と同じだと,最初の数分間はほとんど食べなかった。(31字) ・背景の色が同じでも,時間がたつにつれて食べる速さが増していった。(32字)
Ⅰ B 1羽の鳥に、2色の米粒と2色の背景を全部試させている。ねらいは、背景が同じ色か違う色かで食べ方がどう違うかを比べること。
鳥には、色を見分ける力や食べる速さにもともとの個体差 がある。もし「違う色の背景」を鳥Aで、「同じ色の背景」を鳥Bで試すと、結果の差には背景の効果と鳥A・Bの力の差がまざってしまう。同じ鳥で両方試せば、引き算したときに個体差が消える。
デモでは、鳥ごとの力の差を大きくすると、別々の鳥で比べたときだけ差の見積もりのぶれが大きくなる(10羽で 1.34 → 3.00)。(1)(2)の「繰り返し数を増やす」なら、同じ鳥でなく別の鳥を増やしてもよいはずで、同一個体で試す理由にならない。(3)は何を比べたいかを言っているだけで、同じ個体で試す理由になっていない。
Ⅰ C RのみやLのみを続けて映すと、同じ種の姿を繰り返し見るので、その種の探索像ができて正答率が上がる(図2で8回目は97〜100%)。
無作為に映すと、RとLが不規則に入れかわる。Rの姿を覚えたところでLが出てくると、覚えた姿が役に立たず、今度はLに合わせ直さなければならない。この切りかえが何度も起きるので、どちらの探索像もしっかりできないまま終わる。
デモの模型(同じ種なら覚える、違う種が出たらやり直し)で、並び方 2 8 = 256 通りを全部数えると、無作為の正答率は 81% から 75% くらいでほぼ横ばいになり、図2の無作為の線(60〜85%)と同じく上がらない。
答え 2種が不規則に入れかわって現れるので,一方の種の探索像を形成できなかったから。(39字)
Ⅱ A 図4(a)で模型1は最後に一番多くなるが、模型2・3も0にはならず20〜30匹ほど残っている。隠れ方で劣るのに消えない理由を考える。
鳥は、多く出会う模型の探索像を作る。模型1が多数になると、鳥は模型1をさがす目で画面を見るので、模型1が集中的に食われる。そのあいだ、少数の模型2・3は探索像の対象になっておらず、見のがされやすい。
つまり少数でいることが、隠れ方の劣る分をおぎなっている 。デモの模型でも、全部がいっしょに残る落ち着き先があり、式で出すと模型1が約161匹、模型2が約44匹、模型3が約36匹になる。
答え 鳥は多い模型1の探索像をもって集中的に食べ,少数の模型2・3は見のがされたから。(40字)
Ⅱ B 図4(a)で、模型1が山になるとき模型2・3は谷、模型1が谷のとき模型2・3は山になっている。
問Aと同じく、多い模型ほど探索像ができて食われる。ただし探索像は一日で切りかわるわけではなく、前の日までによく見つけた模型に少しずつ 向いていく。このおくれがあるので、模型1が多くなってから探索像が模型1に向くまでに時間がかかり、向いたときには模型1は食われ過ぎて減り始める。
模型1が減ると、見のがされていた模型2・3が増える。やがて探索像がそちらへ移り、今度は模型2・3が食われて減る。こうして「多い方が食われる」がおくれて効くことで、模型1 と模型2・3 の増える・減るの向きが交互に入れかわる。図4(a) では模型1 はずっと一番多いままで、多い・少ないの順番そのものが入れかわるわけではない(問題文の「頻度が交互に逆転」は、この増減の向きの入れかわりと読む)。デモで探索像が切りかわる速さを変えると、行ったり来たりの大きさが変わるのが見える。
答え 多い模型は鳥が探索像を形成して集中的に食べるので減り,見のがされた少数の模型が増える。すると探索像がそちらへ移るため,増減が交互に逆転する。(70字)
Ⅱ C 図4(b)で、新しく入れた模型4は、はじめの10世代で数匹から100匹以上に増えている。模型4は模型1より少し目立つので、隠れ方だけなら増えるはずがない。
入れたばかりの模型4は少数で、しかも鳥がそれまで一度も見たことがない。鳥の探索像は多数派の模型1に向いたままなので、模型1が主に食われ、模型4は見のがされる。
模型4が増えてくると鳥が模型4の探索像を作るので、12世代ごろに山になり、20世代すぎから減っていく。デモでも、模型4は10世代で5匹から47匹に増え、20世代ごろに最大の約130匹になってから減る。
答え 模型4は少数で鳥の探索像がなく,多数の模型1が主に食われる間は見のがされたから。(40字)
Ⅱ D 「極端に隠された」模型は、鳥が探索像を作ろうとしてもほとんど見つけられない。すると、多くなっても食われない。
ほかの模型がこれまで残れたのは、少数になると見のがされる、という「多い方が損」のしくみのおかげだった。しかし極端に隠れた模型は、自分が多数になっても損をしない。ほかの模型は、少数になってもいくらかは見つかって食われるので、いつまでも極端な模型より生き残りが悪い 。だから、あるレベルで釣り合って残る((1)(3))ことはなく、消えかけるまで減る。
デモの計算では、全部が残る落ち着き先の式が成り立たなくなり(探索像の向きが負になる)、他の模型の合計は10世代で154匹、20世代で15匹、50世代で1匹と、向きを変えずに急に減る。増減をくり返す(4)にはならない。他の模型どうしで探索像が移り合う小さな上下はありうるが、鳥に見つかるのは他の模型だけなので、その合計は一度も増えずに減り続ける。(4) の「増えたり減ったり」は、多い方が損をするしくみが他の模型を守る場合の話で、ここでは起きない。
Ⅲ A 工業化で煤煙がふえた地域で、黒っぽい体色の型がふえた現象。オオシモフリエダシャクの例が一番有名で、工業暗化と呼ばれる。
Ⅲ B 遺伝子型の比から、まず遺伝子(対立遺伝子)の割合を出す。個体が3種類同じ数ずついるので、各1個体ずつ、合わせて3個体(遺伝子は6個)を考える。
cc は c を2個、CC は c を0個、Cc は c を1個もつ。c の割合は ( 2 + 0 + 1 ) ÷ 6 = 1 2 、C の割合も 1 2 。
交配が完全に無作為なら、次の世代の子は、精子と卵がこの割合のままでたらめに組み合わさってできる。野生型 cc になるのは c と c が出会うときだけなので
1 2 × 1 2 = 1 4
残りの 3 4 は C を少なくとも1つもつので黒化型。デモでは4万回のでたらめな交配で野生型が 0.251 になる。
答え cc,CC,Cc が 1:1:1 なので,遺伝子 c の割合は (2+0+1)÷6=1/2,C も 1/2。交配が無作為なら次世代の cc は (1/2)×(1/2)=1/4,黒化色(CC と Cc)は 1−1/4=3/4。よって 野生色:黒化色=1:3
Ⅲ C 地衣類は、菌類(おもに子のう菌)と藻類(緑藻類やシアノバクテリア)が一体になって暮らしている生物。菌類が水分や住みかを、藻類が光合成でつくった有機物を出し合っている。
Ⅲ D 自然選択で進化が起きるには、集団の中に①形質のちがい(変異)がある、②そのちがいが親から子へ遺伝する、③そのちがいによって生き残りや残す子の数に差が出る、の3つがそろう必要がある。
文3の例に当てはめる。①野生型と黒化型という体色の変異がある。②体色は1組の対立遺伝子 C・c で決まり、遺伝する。③表1で、バーミンガムでは黒化型が28%、野生型が13%再捕獲され、黒化型の生き残りやすさは約2.2倍。ドーセットでは逆に約0.46倍。体色によって鳥に食われる率が違う。
3つがそろうので、世代を重ねると生き残りやすい型の遺伝子がふえていく。デモでは、表1の比で世代を進めると、バーミンガムでは C の割合1%(黒化型約2%)から20世代で黒化型が98%になる。
答え 集団内に体色の変異があり,それが対立遺伝子により遺伝し,体色によって鳥に食われる率が違うため生存率(残す子の数)に差が出ること。(64字)
Ⅲ E 地衣類がもどると、黒化型は目立って食われやすくなる(ドーセットの 6% と 13% のように)。黒化型は減っていくが、どこまで減るかを考える。
C は優性なので、Cc も黒化型として外に現れ、同じように食われる。だから (4) のように「黒化の遺伝子をヘテロで隠して持つ野生型」はいない(隠れるのは劣性の遺伝子だけ)。
一方で、c から C への突然変異はいつも少しずつ起きるので、完全に0にはならない((1)は誤り)。新しく生まれた黒化型は少数でも白い幹の上では目立つので、少数だから食われにくいということはない((2)は誤り)。突然変異で生まれる分と、食われて減る分が釣り合う ところで、とても低い割合のまま続く。デモで突然変異を10万分の1とすると、釣り合う黒化型の割合は約 3.7 × 10 − 5 になる。
第2問 花を咲かせる時期と花の形 — 夜の長さ・冬の記憶・ABC の遺伝子 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 植物が「いつ花をつけるか」と「どんな形の花をつけるか」を決めるしくみの問題。文1は時期の話で、植物ホルモンのジベレリン、日の長さ(光周性)、低温(春化)の3つの道と、光による発芽の調節が出てくる。文2は形の話で、花の4つの器官を3グループの遺伝子の組み合わせで決める ABC モデル。
文1で大事なのは、何を感じているのか・どこで感じているのか・どうやって覚えているのか を分けて考えること。日の長さは葉が「途切れずに続いた暗い時間」を測る。発芽は、光の量ではなく赤色光と遠赤色光の比を感じる。低温は茎頂の細胞が感じ、遺伝子 F の発現がおさえられた状態として覚えている。
文2では、A と C はおさえ合う という一文がかぎになる。片方が欠けると、もう片方が全部の領域に広がる。この規則を領域ごとに当てはめれば、変異体の花の形はすべて予想できる。
Ⅰ A まず2つの変異体の事実から、S のはたらきを決める。S の機能を失った s − 1 が「ジベレリンを過剰に与えたような形質」を示すのだから、S はふだんジベレリンへの応答をおさえている 。おさえ役がいなくなると、ジベレリンを大量に与えたときのように茎がのびる。
すると、ジベレリンは S のはたらきを弱めることで応答を起こしていると考えられる(下線部(ア)で S が核から消えることとも合う)。s − 2 はジベレリンに応答しないので、S がジベレリンで弱まらない(S のはたらきが強いまま)変異と考えれば説明がつく。
これで(1)〜(5)を見る。(1)(3)はいま決めたはたらきそのもの。(5)は s − 2 の説明として成り立つ。(2)は s − 1 が過剰投与の姿(背が高い)なのに「野生型より低い」と言うので矛盾。(4)は、応答しない s − 2 (背が低い)が s − 1 (背が高い)より高いと言うので矛盾。デモの模型でも背たけは野生型 60、s − 1 100、s − 2 20 になる。
Ⅰ B 「核から消える」は、核の中の量が減ったというだけで、どこへ行ったかは言っていない。考えられるのは、その場でこわされたか、核の外へ出ていったかの2通り。
デモで「分解される」と「核の外へ運ばれる」を切りかえると、核の中の量はどちらも同じように 1 1 + G A まで減る。違いは細胞質に S が残るかどうかで、細胞全体の量を測れば区別できる。
答え 遺伝子Sの産物が分解された可能性と,核から細胞質へ運び出された可能性。(35字)
Ⅰ C 限界暗期は、途切れずに続いた暗い時間(連続暗期)の長さの境目。長日植物は、連続暗期が限界暗期より短いとき に花芽をつくる。昼の長さそのものではなく、夜の長さを測っていることに注意する。
空欄1:暗期は6時間で、10時間より短いので形成される。空欄2:暗期は12時間で、10時間より長いので形成されない。空欄3:12時間の暗期の6時間目に光を当てると、暗期が6時間ずつに切れる。どちらも10時間より短いので形成される(光中断)。空欄4:暗期がまったく無ければ連続暗期は0時間で、形成される。
デモでは暗い時間の時計が光で0にもどる。当てる時刻を11時間目にずらすと、前半が11時間続いてしまい花芽はできない。
答え 1—(a),2—(b),3—(a),4—(a)
Ⅰ D 群落の下層には上の葉を通った光が届いている。光はあるのに発芽しないので、光の量 ではなく質 が問題になっている。
葉の葉緑体のクロロフィルは赤色光をよく吸収し、遠赤色光(近赤外光)はほとんど吸収せずに通す。だから葉を通った光は、赤色光に比べて遠赤色光が多くなる。
発芽を決めるフィトクロムは、赤色光を吸収すると活性型(Pfr 型)に、遠赤色光を吸収すると不活性型(Pr 型)にもどる。赤色光に対して遠赤色光の割合が高いと、活性型の割合が下がり、発芽が進まない。デモの仮の値では、日なたで約 51% ある Pfr が、葉1枚の下で約 20% に下がる。
答え 上層の葉のクロロフィルが赤色光をよく吸収し遠赤色光を通すため,下層の光は赤色光に対する遠赤色光の割合が高く,活性型のフィトクロムが減る。(68字)
Ⅰ E 2つの刺激の性質の違いを比べる。日の長さは、毎年同じ時期に同じように少しずつ変わり、天気で上下しない。だから数日測れば季節がわかる。
気温は、秋でも急に冷えこむ日があるなど、日ごとに大きく上下する。数日の寒さで花芽ができるようでは、秋の一時的な冷えこみを冬とまちがえ、冬の前に咲いてしまう。数週間以上の低温を必要とすれば、本当に冬を越したときだけ 反応できる。
デモの模型では、秋60日のうち寒い日が1割の確率で来るとき、必要な寒い日が3日なら 95% の年で秋に早まってしまうが、30日必要ならほぼ0になる。
答え 日長は毎年規則正しく変わるので数日で季節がわかるが,気温は日ごとに変動するので,長期間の低温を必要とすれば一時的な寒さを冬と誤らない。(67字)
Ⅰ F 2つの接ぎ木の結果から言えることを整理する。短日を経験した葉を接ぐと相手も花芽をつくるので、葉が日長を感じ(1)、その刺激が離れた場所へ運ばれる(2)。
低温処理した植物を接いでも相手は花芽をつくらないので、低温の刺激は運ばれない。文1のはじめで、切り取った茎頂に低温を与えても花芽形成が進んだので、茎頂の細胞自身が低温を感じている(4)。
(3)は「日長と低温で同じ物質を葉でつくる」だが、同じ物質なら低温の株を接いでも相手に届くはずなので、結果と合わない。(5)の「拡散性の物質が合成される」も、接いでも伝わらないことと合わない。
Ⅰ G 低温の記憶は、低温が終わってから数週間後の花芽の分化まで茎頂に残る。その間、茎頂の細胞は体細胞分裂で増えているので、記憶は体細胞分裂では安定に維持される 。
一方、低温処理の効果は種子には受け継がれない。種子は減数分裂を経てできる配偶子からつくられるので、記憶は減数分裂の過程では維持されない (消される)。選択肢の中で「次の世代へ伝わらない」ことに当てはまる過程は減数分裂(ただし、種子に伝わらないことだけからは、減数分裂のそのときに消えるのか、配偶子や種子ができるまでのどこかで消えるのかまでは決まらない)。塩基配列は変わらないとあるので、配列そのものではなく、遺伝子の発現の状態として保たれていると考える。
Ⅰ H 野生型と変異体を比べる。どちらも低温の間は遺伝子 F の発現が減る。違うのはその後で、野生型は低い状態が続き、変異体は再び上がる。そして変異体では花芽形成が進まない。
F は花芽形成をおさえる遺伝子なので、花芽ができるには F が低いままであることが必要。記憶の正体は、野生型にあって変異体に無いもの、つまり低温のあとも F の発現がおさえられ続けること になる。
一過的な減少((2))は変異体でも起きているので、それだけでは記憶にならない。花成ホルモンや日長への変換は、問Fで見たとおり低温の刺激が運ばれないことと合わない。
Ⅱ A A グループの遺伝子が機能を失うと、C グループが4つの領域すべてで発現する。B グループはもとどおり第2・第3領域ではたらく。
領域ごとにはたらく組み合わせを並べると、第1領域は C だけ、第2領域は B と C、第3領域は B と C、第4領域は C だけ。本文の規則で、C だけなら雌しべ、B と C なら雄しべになる。
答え 第1領域—雌しべ,第2領域—雄しべ,第3領域—雄しべ,第4領域—雌しべ
Ⅱ B 花弁は A と B がはたらく領域にできる。全部の領域を花弁にするには、全部の領域で A と B をはたらかせればよい。
A と C はおさえ合うので、C を欠けば A が全部の領域に広がる 。そこへ B を全部の領域で強制的に発現させれば、全部が A と B になって花弁になる。さらに C は花芽分裂組織の成長をおさえる役なので、C が無いと分裂組織が残り、花弁がたくさんできる。問題文の「多数の花弁」とも合う。
デモで「欠くグループ」と「全部の領域で出すグループ」の9通りを試すと、花弁だけになるのはこの1通りだけ。
Ⅱ C B と C を両方欠くと、C が無いので A が全部の領域に広がり、B も無いので、どの領域も A だけがはたらく。A だけの領域は萼になる。
さらに C が無いので花芽分裂組織が残り、内側に次々と器官がつくられる。できるのは全部萼なので、萼ばかりがくり返し重なった花になる。
答え 萼だけが多数,内側へくり返し形成される花になる。(24字)
第3問 がん遺伝子とがん抑制遺伝子 — ras の1文字・Rb の2段階ヒット・4分子の p53 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 がんを起こす遺伝子の2つの種類を比べる問題。がん原遺伝子(r a s など)は、変異ではたらきが強まり 、一対の片方に異常が起きるだけでがん化を進める。がん抑制遺伝子(R b ・p 53 など)は、ふだんがん化をおさえていて、変異ではたらきを失う 。片方が残っていればおさえられるので、両方失って初めてがん化する(2段階ヒット理論)。
文1は、r a s の配列を遺伝暗号表で読む問題と、2段階ヒット理論で網膜芽細胞腫の起こり方を説明する問題。文2は、4分子で働く p53 を、p53 を失ったがん細胞に入れて増え方を見た実験(図6)から、変異 p53 が正常 p53 をじゃまするか、p53 が細胞に何をしているかを読みとる。
図6の縦軸は目盛りが10倍ずつの対数目盛り。曲線 c だけが最初の数より下がっている (細胞が死んでいる)ことが大事な読みどころ。
Ⅰ A 点突然変異は DNA の1塩基が別の塩基に置きかわること。伝令 RNA のコドンが1文字変わるので、そのコドンが何を指定するかが変わりうる。
1つは、別のアミノ酸のコドンになる場合で、アミノ酸が1つだけ置きかわる。もう1つは、終止コドン(UAA・UAG・UGA)になる場合で、そこで翻訳が止まり、それより後ろのアミノ酸がなくなって短いタンパク質になる。
同じアミノ酸を指定するコドンに変わる場合(3文字目が変わることが多い)は、アミノ酸配列は変わらない。デモで1塩基の置きかえ549通りを全部数えると、変わらないもの134、別のアミノ酸392、終止23になる。
答え ・1つのアミノ酸が別のアミノ酸に置きかわる。 ・終止コドンに変わり,そこで合成が止まってアミノ酸配列が短くなる。
Ⅰ B 染色体の構造の異常には、一部分が失われる欠失のほかに、一部分が2つ以上に増える重複、一部分が切れて逆向きにつながる逆位、一部分が別の染色体に移る転座がある。
Ⅰ C 変異が「12番目のグリシン」や「61番目のグルタミン」などに限られていることの理由を選ぶ。
がんで決まって見つかる ras の変異は、細胞の中で起きた変異のうち、その細胞を増えやすくしたものが選ばれて増えたもの。下線部(ウ)のとおり、これらの位置の変異は ras の産物を活性状態のままにする(恒常的に活性化する)ので、細胞の増殖に有利になる。ほかの位置の変異は、はたらきを変えないか、失わせるだけで増殖に有利にならないので、がんで決まって見つかることはない(がん化に関係ない変異が、たまたまいっしょに残っていることはある)。
(1)アミノ酸そのものに発がん性があるわけではない。(2)特定のコドンだけ変異が起きやすいという話ではない(起きた変異の中から選ばれている)。(4)変異はアミノ酸の配列を変えるもので、転写の量を変えるものではない。(5) ras は増殖を進める側で、「増殖を抑制できない」はがん抑制遺伝子の説明。
Ⅰ D まず正常とがん細胞の配列を1文字ずつ比べる。どちらも23文字で、(a)と(b)は左から12文字目だけが違い(正常 G、がん U)、(c)と(d)は13文字目だけが違う(正常 A、がん G)。
配列は途中を切り出したものなので、どこから3文字ずつ区切るか(読み枠)がわからない。そこで3通りの区切り方を全部試し、違う文字を含むコドンがどう変わるかを見る。
膀胱がんでは、1文字目から読むと CGG→CGU でアルギニンのまま、2文字目から読むと GGC→GUC でグリシン→バリン、3文字目から読むと GCG→UCG でアラニン→セリン。変異はグリシンに限られるので、2文字目からの読み方が正しく、変わったのは12番目のグリシン。
肺がんでは、1文字目から AGG→GGG(アルギニン→グリシン)、2文字目から CCA→CCG(プロリンのまま)、3文字目から CAG→CGG(グルタミン→アルギニン)。グルタミンが変わるのは3文字目からの読み方だけなので、61番目のグルタミンが変わった。
答え 膀胱がん:12番グリシン→バリン,肺がん:61番グルタミン→アルギニン
Ⅰ E がん抑制遺伝子の概念は「ふだん、がん化をおさえている遺伝子」で、失活するとおさえが外れる。
下線部(エ):がん細胞では、あるがん抑制遺伝子が両方とも失活している。正常細胞と融合すると、正常細胞から来た正常な遺伝子がはたらき、失われていたおさえがもどるので、融合細胞は正常細胞の性質を示す。
下線部(オ):遺伝性がんの患者では、特定の染色体の一部が欠失している。その欠失部分にがん抑制遺伝子があると考えると、その人の細胞は生まれつき一方を失っている。残る一方に異常が起きるだけでがん化するので、がんになりやすく、遺伝もする。
答え (エ)がん細胞で失活したがん抑制遺伝子を,正常細胞の正常な遺伝子がおぎなうから。(37字) (オ)欠失部分にがん抑制遺伝子があり,残る一方が失活するだけでがん化するから。(36字)
Ⅰ F two-hit theory では、がん抑制遺伝子 R b が一対とも失活した細胞だけががんになる。
遺伝性の患者は、親から変異した R b を受けついでいるので、網膜のすべての細胞で最初から一方が失活している (第1ヒット済み)。どれか1個の細胞で残る一方がこわれる(第2ヒット)だけで発症する。網膜には細胞がたくさんあるので、この1回はすぐ起きやすく、左右どちらの目でも起きる。
非遺伝性では、同じ1個の細胞 で2回とも変異が起きなければならない。これは非常にまれなので、発症は遅く、両目に起きることはほとんどない。
デモの仮の値(網膜の細胞2000個、1つの遺伝子が1年に 5 × 10 − 4 でこわれる)では、2歳までに片目に起きる確率は遺伝性 86%・非遺伝性 0.2%、両目は遺伝性 75% に対し非遺伝性は 4 × 10 − 6 。
答え 遺伝性では全細胞で一方のRbがすでに失活し,1回の変異で両方失活するから。(37字)
Ⅱ A 文2に、p53 は4分子が複合体を形成してはじめて機能する とある。一方の遺伝子が正常、もう一方が変異していると、細胞の中には正常 p53 と変異 p53 が両方できる。
これらがまざって4分子の複合体をつくると、変異 p53 を1つでもふくむ複合体がはたらかなくなる、という可能性がある。正常と変異が同じ量なら、4つとも正常な複合体は ( 1 2 ) 4 = 1 16 しかない。こうして、変異 p53 が正常 p53 のはたらきまでうばうことが考えられる。
答え p53は4分子で働くので,変異p53が混ざった複合体は機能を失うから。(35字)
Ⅱ B 図6の曲線 c は、はじめの85個から日がたつにつれて減り、8日目には約12個になっている。生きている細胞の数が減っている ので、分裂が止まっただけ(曲線 b のような頭打ち)ではなく、細胞が死んでいる。
文2の後半に、修復できないほど傷が大きいときに「曲線 c のような現象が起こる」とある。傷ついた細胞を取り除くために細胞が自ら死ぬしくみ、アポトーシス(プログラムされた細胞死)が起きたと考えられる。
答え p53の作用により,細胞がアポトーシス(細胞死)を起こした。(30字)
Ⅱ C 仮説(下線部(キ))が正しければ、正常 p53 に変異 p53 を加えると、変異をふくむ複合体がはたらかなくなって増殖のおさえが弱まり、曲線 e は曲線 a(p53 が無い)に近づくはず。
図6では、曲線 e は曲線 b(正常 p53 だけ)とほとんど重なっている。変異 p53 を加えても、正常 p53 だけのときと同じように増殖がおさえられた。
つまりこの実験の条件では、この変異 p53 は、正常 p53 の4分子複合体による転写の活性化をじゃましていない。変異 p53 が複合体に入らないか、入ってもはたらきを止めないと考えられ、少なくともこの変異については仮説は支持されない。デモの模型では、変異が半分の場合「止まる」仮説なら e は8日目に約1500個、「じゃましない」なら約260個で、図の e(約225個)は後者に合う。
答え 正常p53に変異p53を加えても増殖抑制は正常p53だけと同程度で,変異p53は4分子複合体の転写活性化を妨げないので,仮説(キ)は支持されない。(73字)
Ⅱ D p53 の役目を2段で考える。傷が小さいときは細胞を間期で止め、その間に修復させる。傷が大きく修復できないときは、細胞をアポトーシスで死なせる。
修復できない傷をもった細胞が生き残って分裂を続けると、DNA の変異が娘細胞に受けつがれ、変異がたまっていく。がんは遺伝子の異常が積み重なって起こるので、傷ついた細胞を集団から取り除いてしまう ことが、がん化を防ぐうえで一番確実な方法になる。止めるだけでは、あとで分裂が再開すれば傷が残ったまま増えるおそれがある。
答え 修復できないほどDNAが傷ついた細胞をアポトーシスで除くことで,変異が蓄積した細胞が増殖してがん化するのを防げるから。(59字)
Ⅱ E 放射線は、がん細胞だけでなく正常な細胞の DNA も傷つける。正常な細胞には正常な p53 があるので、傷が大きいとアポトーシスが起き、骨髄や腸などで細胞が大量に死ぬ。これが致死量の放射線で死ぬ原因になる。
p53 の機能を一時的に止める薬を与えると、正常な細胞でアポトーシスが起きにくくなり、細胞が死なずに残るので、マウスは生きのびることができた。デモの仮の値では、残る正常な細胞は薬なしで19%、薬ありで100%。
答え 薬剤でp53が働かず,放射線で傷ついた正常細胞がアポトーシスで死ななかったから。(40字)