東大 過去問 2003年 生物|AI解答・解説・シミュレーション|アトリエファクトリー

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東京大学 第2次学力試験(前期)2003年 理科「生物」(東京大学がかつて公開したPDFの Internet Archive 保存版)

問題・出題の意図・東京大学の解答例(東京大学の公表資料)

東京大学の利用規定について

東京大学は、入試問題と出題の意図・解答の2次利用について「東京大学第2次学力試験入学試験問題等の2次利用について」(令和6年7月1日改定)で条件を定めている。このサイトでの対応は次のとおり。

解答とシミュレーション(AIで作成)

制作

制作:アトリエファクトリー(aTELiER FACTORY) https://atelierfactory.jp/

修正履歴

お知らせ(2026年10月4日)

解答・解説・シミュレーションは、すべて Claude Opus 5.5 で作成しています。作ったあとの確かめ方は、科目によって違います。

どの科目も、東京大学が公表した解答ではありません。くわしくは「問題取得方法と回答生成方法」をご覧ください。

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生 物

第1問

次の文1〜文3を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。

〔文1〕

 ニワトリを用いて以下の実験を行った。

実験1 1ヶ月齢の10羽の若鳥に,(ア)以下の2つのテストを両方受けさせた。片方のテストAではオレンジ色に染めた米粒を餌として与え,もう片方のテストBでは,緑色の米粒を餌として与える。両方のテストとも,米粒と同じオレンジ色または緑色に塗った砂利(米粒と似た大きさ)の,どちらか一方の砂利が密に付着した板を背景とした。そこに米粒を一定数まき,その上に鳥かごを置いて,中に1羽を入れる。(イ)各個体について,米粒の色と異なる色の背景,または同じ色の背景の実験を,時間をおいて両方の色とも行った。各テストとも,どちらの色の背景を先に試しても,食べ方の傾向に違いはなかった。ある個体の結果が図1である。

 昆虫を捕食する鳥であるルリカケスを用いて,以下の実験を行った。

実験2 6羽のルリカケスを1羽ずつ鳥かごに入れ,その前にテレビ画面を置いて,そこに餌となるガの写真を映し出す。餌の写真として,種内で羽の模様がさまざまに異なるシタバ類のガを用いる。近縁な2種であるRとL(羽の模様が少し異なる)を,それらの羽模様とよく似た模様の背景の中に映し出した。実験として,Rのみを続けて映したとき,Lのみを続けて映したとき,これら2種を無作為に映したとき,の3つのテストを行った。ガを正確につつく正しい応答をしたときには,人工餌がもらえる。その結果が図2である。

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図1 ニワトリが食べた米粒の積算数
図1 ニワトリが食べた米粒の積算数
f1-legend
図2 ルリカケスに2種のガを見せたときの正しい応答率
図2 ルリカケスに2種のガを見せたときの正しい応答率
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〔文2〕

 さらに,ルリカケスを用いて,以下の2つの実験を行った。採餌行動で同程度の能力を発揮するよう訓練された6羽のルリカケスを1羽ずつ鳥かごに入れ,その前にテレビ画面を置いた。この画面に,コンピューターで羽模様を加工したガの模型を,それとよく似た模様の背景の中で映す(図3)。実験中は同じ模様の背景を使用した。ルリカケスは,ガの像を正確につついたら人工餌がもらえる。

実験3 シタバ類の種Lの羽模様を加工して作った隠蔽度の異なる模型1〜3がある。これらを等しい数で混合した合計240匹の初期集団を作り,ルリカケスに対してガを1匹ずつ映した。1羽のルリカケスには40匹分の模型の映像が1匹ずつ映る。正確につつかれたらその個体は食われて死んだとし,その生き残った頻度に応じて,翌日には模型の個体数の割合を変えて240匹の集団を構成し直し,再びルリカケスに提示した。このように,1日の試行をガの模型集団にとっては「1世代」として換算し,各模型の個体数の変化を調べた。その結果が図4(a)である。模型1は,背景に対して最も隠蔽された羽模様を持つので,50日後の実験終了時には個体数が一番多くなった。(ウ)一方,隠蔽度のやや劣る模型2と3も最後まである程度の頻度で残った。

実験4 実験3が終わった状態のガの集団に,それまで登場しなかった模型4を少数導入し,同様の実験を50日間行った。模型4は模型1に比べてやや隠蔽度が劣る模型である。その結果が図4(b)である。

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図3 ガの模型の1例(模型2)
図3 ガの模型の1例(模型2)

左図:目立つ背景に置いたとき

右図:実験で使用した背景に置いたとき

実験はすべて白黒画像で行った

図4 ルリカケスにガの模型を見せたときの各模型の個体数変化
図4 ルリカケスにガの模型を見せたときの各模型の個体数変化

図中の数字は模型の番号を示す

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〔文3〕

 ガの一種オオシモフリエダシャクには,灰色と白のまだら模様の野生型と,暗色の黒化型の2タイプがある。19世紀前半のイギリスでは黒化型はほとんど見られなかったが,(エ)工業化が進むにつれて,大都市の近郊では黒化型の頻度が増え始めた。ところが,工場がない田舎の地方では,野生型が非常に高い頻度を占め続けた。

 この2つの体色の表現型は,1組の対立遺伝子によって決まっていて,(オ)優性の対立遺伝子 C を持つ CC と Cc は黒化型になり cc が野生型になる。野生型は,灰白色の(カ)地衣類で被われた木の幹にとまっていると,羽と背景の模様が似ているので目立たない。黒化型は,工場から出る煤煙などの影響で地衣類が枯れて,黒っぽい幹の地肌がむき出しになった木の上で目立たない。

 そこで,ある研究者は,下線部(エ)の現象は鳥による捕食の変化によって説明できると考えた。彼は,工業都市バーミンガム近郊で地衣類が枯れて木の地肌がむき出しになった林と,地衣類が繁茂している田舎のドーセット地方の林を選び,これら2つの場所で,標識した野生型と黒化型のガを多数放った。そして数日後に再捕獲した結果が表1である。

表1 標識して放したガの再捕獲割合
表1 標識して放したガの再捕獲割合
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[問]

Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。

A 与えた米粒と背景の色に関して,図1の2つのテストA,Bの結果には共通の傾向が3点ある。各1行ずつ箇条書きで述べよ。

B 下線部(ア)と(イ)について。このように同一個体で2つの米粒の色と2つの背景の色をともに試すのはなぜか。以下から最も適切なものを1つ選んで,番号で答えよ。

(1) 実験の繰り返し数を増やして,得られた平均値の信頼性を高めるため。

(2) 実験の繰り返し数を増やして,微妙な差でも検出しやすくするため。

(3) 2つのテストで捕食行動に差が生じるかどうかを問題としているため。

(4) 色の識別能力や採餌効率など,個体の能力の差異による影響を排除するため。

C 図2で,RとLを片方だけ映し続けたときには,提示回数とともに正しい応答率が上昇した。しかし,RとLを無作為に映したときには,提示回数が増えても正しい応答率は上昇しなかった。後者で上昇しなかった理由を,1行程度で述べよ。

Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。

A 図4(a)の結果が下線部(ウ)のようになった理由を,1行程度で述べよ。

B 図4(a)で,模型1と模型2または3の頻度が交互に逆転しながら変動する理由を,2行程度で述べよ。

C 図4(b)で,模型4の頻度が10世代目までは増えた理由を,1行程度で述べよ。

D もし仮に極端に隠蔽されたガの模型が集団中に現れた場合,他の模型の個体数はどうなるか。以下の(1)〜(4)から最も適切なものを1つ選んで,番号で答えよ。

(1) 急速に個体数を減らすが,ある程度のところで食われなくなり,以後はそのレベルを保つ。

(2) 食われて急速に数を減らし,やがて消滅近くまで減少する。

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(3) 個体数が増えたり減ったりしながらある程度の数まで減少するが,以後はそのレベルを保つ。

(4) 個体数が増えたり減ったりしながら,やがて消滅近くまで減少する。

Ⅲ 文3について,次の小問に答えよ。

A 下線部(エ)について。この現象は何と呼ばれているか。

B 下線部(オ)について。いま野生型 cc と黒化型 CC と Cc が1:1:1からなる集団を考える。この集団で交配が完全に無作為に起こるとすると,次世代の体色の比率は,野生色:黒化色でいくつになるか。ただし,細胞質の効果はなく,どの対立遺伝子の組み合わせでも等しい数の子を残し,鳥の捕食はここでは考えないものと仮定する。答えを導く途中の過程も簡潔に記せ。

C 下線部(カ)は2つの生物の共生体であるが,それらは何と何か。

D 表1について。このような鳥による採餌行動は,やがて自然選択による進化をもたらすと言われている。この[文3]の例は,自然選択が作用して進化が生じるのに必要な条件をすべて満たしている。それらの条件を2行程度で述べよ。

E 1956年に法律で工場からの大気汚染物質の排出が規制されてからは,次第に木の表面に地衣類が回復してきて,それとともに黒化型の頻度が減り始めた。それ以降,地衣類が繁茂した状態が続くと,黒化型の頻度はどうなると考えられるか。最も適切なものを以下から1つ選んで,番号で答えよ。

(1) 黒化型はやがて完全に消滅する。

(2) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じて黒化型が現れ,この頻度が低いと鳥に食われにくいので,ある程度まで個体数を増やす。

(3) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じて黒化型が現れるので,非常に稀な頻度で黒化型が見られる。

(4) 野生型から体色の対立遺伝子に突然変異が生じ,体色は野生型ばかりになっても,その中に低頻度で黒化型遺伝子をヘテロで持った個体が隠れて混じる。

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第2問

次の文1と文2を読み,ⅠとⅡの各問に答えよ。

〔文1〕

 植物の花成は遺伝的なプログラムと環境によって制御されている。現在,花成の制御経路は大きく分けて3つ存在すると考えられている。植物ホルモンのジベレリンを介する経路,光周期依存的な経路,低温依存的な経路である。ジベレリン量の減少した変異体では花芽形成が遅れる。ジベレリンに対する応答に重要な役割を果たす遺伝子 S がある。通常,遺伝子 S の産物は核に存在するが,ジベレリンを投与すると(ア)核から消失する。

 限界暗期が10時間の長日植物がある。この植物に6時間の明期と暗期を交互に与えると花芽は 1。明期を12時間,暗期を12時間とすると,花芽は 2。12時間の暗期開始後6時間の時点で1分間の光照射を行うと,花芽は 3。暗期をまったく与えない場合,花芽は 4。光は発芽にも影響を与える。レタスの種子は光によって発芽が促進される。この場合,促進効果があるのは赤色光であり,近赤外光(遠赤色光)は抑制的にはたらく。光発芽種子のあるものは群落の外では発芽するが,(イ)群落の下層では,上層の葉を透過した光が届いていても発芽しない。植物は光の波長を識別しているのである。

 茎頂を切り取り培養し,数週間の低温処理を与えると花芽形成が促進される。ただし,花芽への分化が誘導されるのは低温処理直後ではなく,低温処理終了から数週間後である。したがって,低温刺激を受けた植物の茎頂は花芽の分化まで低温刺激を‘記憶’していると考えられる。しかし,低温処理の効果は種子には受け継がれない。低温刺激により,植物の遺伝子の塩基配列に変化は生じないと考えられる。低温刺激の‘記憶’は 5 の過程では安定に維持されるが, 6 の過程では維持されない。遺伝子 F は花芽形成を抑制している。低温刺激により遺伝子 F の発現は減少し,遺伝子 F の発現抑制が維持される。ある変異体では低温処理による花芽形成の促進が認められない。この変異体では,遺伝子 F の発現は低温刺激により一過的に減少したが,その後再び発現が上昇した。低温刺激の‘記憶’の実体は, 7 と考えられる。

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〔文2〕

 花は4種類の花器官(萼,花弁,雄しべ,雌しべ)からなり,中心には雌しべが位置する。それぞれの花器官の数や形は種によって異なっているが,花の基本型は萼—花弁—雄しべ—雌しべという順序を持つ(図5)。花には4つの領域が存在し,それぞれの領域にひとつの花器官が形成される。植物の変異体の中には萼が雌しべに転換したり,花弁が萼になるなど野生型と異なった器官に分化するものがある。これらの花の変異体を用いた解析から,花器官の分化は3種類のグループ(A,B,C)の遺伝子により制御されるというモデルが広く支持されている。図5の花では,第1領域でAグループの遺伝子が機能し萼が,第2領域でAグループとBグループの遺伝子が機能し花弁が,第3領域ではBグループとCグループの遺伝子が機能して雄しべが,第4領域ではCグループの遺伝子が機能して雌しべが,それぞれ形成されると考えられている。AグループとCグループの遺伝子は互いに発現を抑制しあい,野生型植物では両者は同一の細胞では発現しない。Cグループの遺伝子は花器官を生み出す花芽分裂組織の成長を抑制し,雌しべへの分化を促進する機能を持っていると考えられる。A〜Cグループの遺伝子が野生型と異なる領域で発現すると,その領域では野生型と異なる花器官が分化する。この花の形づくりのモデルに基づいて,花弁だけの花をつくりたいと考えた。そこで 8 グループ遺伝子の欠失した変異体に遺伝子操作を加え,第1〜4領域,すべてにおいて強制的に 9 グループ遺伝子を発現させた。その結果予想通り,多数の花弁のみで構成される花となった。花の変異体は,バラやキクなどの園芸種に見られるように,我々のごく身近にも存在している。

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図5 花の構造の模式図
図5 花の構造の模式図

〔問〕

Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。

A 遺伝子 S の機能に異常を生じた変異体 s−1 と s−2 がある。遺伝子 S の機能を失った変異体 s−1 はジベレリンを過剰に投与されたような形質を示し,変異体 s−2 はジベレリンに対して応答しなかった。以上の事実と矛盾すると考えられるものを次の文(1)〜(5)よりすべて選び,番号で答えよ。

(1) 遺伝子 S の産物はジベレリンに対する応答を抑制する。

(2) 変異体 s−1 の背丈は野生型に比べ低い。

(3) 野生型植物にジベレリンを投与すると,遺伝子 S の産物の機能が抑制される。

(4) 変異体 s−2 の方が変異体 s−1 よりも背丈が高い。

(5) 変異体 s−2 では遺伝子 S の産物の本来の機能が野生型よりも強くなっている。

B 下線部(ア)の変化は遺伝子 S の産物に何が起こったためと考えられるか。2つの可能性について1行で述べよ。

C 空欄1〜4にあてはまる語句を次の(a)と(b)から選び,記号で答えよ。

(a) 形成される

(b) 形成されない

D 下線部(イ)について。光のどのような違いが群落の下層における発芽を抑制したのか2行以内で述べよ。

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E 花芽を誘導する際の日長処理は数日間で十分であるが,花芽を誘導する低温処理は数週間以上必要である。この違いには植物が季節変化を感知する上でどのような利点があると考えられるか。2行以内で述べよ。

F 短日植物のシソを短日条件下においた後,その葉を長日条件で育てた植物に接ぐと,短日を経験していない植物の花芽形成が促進される。一方,低温処理した植物に低温処理を加えていない植物を接いでも,低温処理していない植物の花芽形成は促進されない。次の文(1)〜(5)から間違っているものをすべて選び,番号で答えよ。

(1) 葉で日長を感じることができる。

(2) 日長刺激を空間的に隔たった場所へ伝える仕組みの存在が示唆される。

(3) 日長刺激と低温処理により,植物は同一の花成促進物質を葉で合成する。

(4) 茎頂の細胞には低温刺激を受容する仕組みが存在する。

(5) 低温処理により拡散性花成促進物質が合成される。

G 空欄5,6に入る最も適切な語句を次の(1)〜(12)の中からそれぞれ選び,5-(13),のように記せ。

(1) 転写

(2) 翻訳

(3) 成長運動

(4) 核分裂

(5) 形質転換

(6) 体細胞分裂

(7) 膨圧運動

(8) 同化

(9) 異化

(10) 細胞板形成

(11) 細胞質分裂

(12) 減数分裂

H 空欄7に入る最も適切な語句を次の(1)〜(8)の中から選び,番号で答えよ。

(1) 低温刺激による遺伝子 F の一過的発現上昇

(2) 低温刺激による遺伝子 F の一過的発現抑制

(3) 低温刺激後の遺伝子 F の発現抑制の維持

(4) 低温刺激後の遺伝子 F の発現上昇の維持

(5) 低温刺激後の遺伝子 F の発現抑制からの回復

(6) 低温刺激後の遺伝子 F の発現上昇からの回復

(7) 低温刺激による花成ホルモンの合成

(8) 低温刺激の日長刺激への変換

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Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。

A 突然変異によってAグループの遺伝子が機能を失うと,Cグループの遺伝子が4つの領域すべてにおいて発現するようになる。第1〜4の各領域にはどのような花器官が分化すると予想されるか。第5領域—がく,のように記せ。

B 空欄8,9に入る最も適切な語を,それぞれ記せ。

C Cグループの遺伝子が機能を失うと花芽分裂組織が残り,多数の花器官が生じる。Bグループの遺伝子とCグループの遺伝子の両方が機能を失った突然変異体の花は,どのような構造になると予測されるか。1行で述べよ。

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第3問

次の文1と文2を読み,ⅠとⅡの各問に答えよ。

[文1]

 がんは,遺伝子や染色体の異常によって細胞が無秩序に増殖して起こる病気で,がん原遺伝子やがん抑制遺伝子などに異常が積み重なって発症する。遺伝子の異常としては(ア)1塩基の変異(点突然変異)や数塩基の欠失,(イ)染色体の異常としては一部分の欠失などがよく知られている。

 がん原遺伝子は,変異によって活性化してがん化を引き起こすようにはたらく遺伝子で,一対の遺伝子の一方に異常が起これば,がん化を引き起こすことがある。がん化能を獲得したがん原遺伝子は,がん遺伝子と呼ばれる。ras 遺伝子は代表的な例で,いろいろながんで点突然変異が見つかっている。正常な ras 遺伝子産物には活性状態と不活性状態があり,活性状態では多くの場合,細胞の増殖を促進する役割を果たしている。(ウ)しかし,ras 遺伝子に点突然変異が起こると恒常的に活性化した遺伝子産物ができることがあり,細胞のがん化を引き起こす一因となる。

 がん抑制遺伝子は,変異によって失活することにより細胞のがん化が引き起こされるような遺伝子である。正常な状態では細胞のがん化を抑制するようにはたらいていると考えることができるので,この名称がある。このようながん抑制遺伝子の概念は,(エ)正常細胞とがん細胞を融合すると融合細胞が正常細胞の表現形質を示すこと,(オ)遺伝性がん患者の細胞には特定の染色体の一部に欠失などの異常がみられることと良く符合する。

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 がん抑制遺伝子には以上のようなはたらきがあるので,一対の遺伝子の一方に異常が起きて失活した(第1ヒット)だけではがん化は引き起こされず,もう一方にも異常が起きて(第2ヒット)両方失活したときに初めてがん化が引き起こされると考えられる。この考え方を2段階ヒット理論(two-hit theory)と呼ぶ。

 初めて実体が明らかになったがん抑制遺伝子は,眼の腫瘍である網膜芽細胞腫の原因遺伝子 Rb である。網膜芽細胞腫には,片方の Rb 遺伝子の変異が親から遺伝している遺伝性のものと,非遺伝性のものが知られている。(カ)遺伝性の網膜芽細胞腫では,非遺伝性の場合と異なって早期に発症する頻度が高く,両眼に発症する場合があるが,このような発症の仕方も,two-hit theory により説明できる。

[文2]

 がん抑制遺伝子の中で最も有名なものは p53 遺伝子で,ほとんどの種類のがんで高頻度に変異が見出される。一般に,一対の遺伝子の一方は欠失し,他方は点突然変異を起こしている場合が多く,two-hit theory がよくあてはまる。

 p53 遺伝子の産物(p53 と記す)は,他の遺伝子の転写を活性化するはたらきをもつタンパク質で,4分子が複合体を形成してはじめて機能することができる。がん細胞で見出される,変異を起こした p53 は,転写を活性化するはたらきを失っている。したがって,(キ)一方の p53 遺伝子が正常で他方の p53 遺伝子に点突然変異が起きて失活している場合には,変異を起こした p53 が正常な p53 の機能を阻害する可能性もある。そこで,この仮説を検証し,さらに p53 の機能を調べるために以下の実験を行った。

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実験 現在の技術では,任意の遺伝子を培養細胞に導入して発現させることが可能である。そこで,正常 p53 遺伝子が完全に欠失したあるがん細胞をシャーレで培養して,正常 p53 遺伝子や変異 p53 遺伝子を発現させて,生細胞数の変化を経時的に計測した(図6)。もとのがん細胞は,a のような曲線を描いて増殖したが,正常 p53 遺伝子を発現させた場合には細胞増殖の抑制が起きた(増殖曲線 b)。(ク)さらに正常 p53 の発現量を増やしたところ,増殖曲線 c のような生細胞数の変化がみられた。しかし,変異 p53 を大量に発現させても,このような現象は観察されなかった(増殖曲線 d)。(ケ)一方,正常 p53 とこの変異 p53 を同時に発現させた時には,増殖曲線 e のような生細胞数の変化が観察された。

 細胞が様々な要因によって遺伝子の傷害などのストレスを受けると,p53 の発現の増加と活性化が起こり,p53 の作用によって細胞は間期で停止する。その間に傷害が修復されると,DNA 複製・細胞分裂が再開される。一方,傷害が大きくて修復が不可能な場合には,(コ)上記の実験の増殖曲線 c のような現象が起こる。このような p53 の活性を利用して,p53 遺伝子に異常のあるがん細胞に正常 p53 遺伝子を発現させることにより,がんを治療しようという試みも報告されている。また一方で,p53 の機能を阻害する薬剤が,放射線などによるがん治療の副作用軽減に有用である可能性もある。例えば,(サ)p53 の機能を一時的に阻害する薬剤を投与したマウスは,致死量の放射線を照射しても生存できたという実験結果が報告されている(なお,この実験では放射線や p53 の機能を阻害する薬剤による発がんは起こらなかった)。p53 の機能を阻害する薬剤を併用することにより,放射線などによるがんの治療をより効果的に進められる可能性もある。

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図6 p53を発現させたがん細胞の増殖曲線
図6 p53を発現させたがん細胞の増殖曲線
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〔問〕

Ⅰ 文1について,次の小問に答えよ。

A 下線部(ア)について。一般に点突然変異によって,遺伝子産物のアミノ酸配列にどのような変化が起こると考えられるか,2通りあげよ。

B 下線部(イ)について。染色体の一部の欠失以外で,染色体構造に異常が生じる例を3つあげよ。

C 下線部(ウ)について。ras 遺伝子の変異はいろいろながんで見出されるが,遺伝子産物の12番目のグリシンや61番目のグルタミンなどのアミノ酸が特定のアミノ酸に変化したものに限定されている。このような現象が観察される理由を述べた次の文(1)〜(5)の中から最も適切なものを1つ選び,番号で答えよ。

(1) これらの変異によって置き換わった特定のアミノ酸そのものに発がん性があるから。

(2) 12番目や61番目などのアミノ酸に対応するコドンは,突然変異の頻度が高いから。

(3) これらの変異が起こると,ras 遺伝子産物の活性が変化して,がん細胞の増殖に有利にはたらくから。

(4) これらの変異が起こると,ras 遺伝子産物の転写が活性化されて,大量に産生されてしまうから。

(5) これらの変異が起こって活性化した ras 遺伝子産物は,細胞の増殖を抑制できないから。

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D ある膀胱がん患者のがん細胞から取り出した DNA より ras 遺伝子の塩基配列の一部を決定し,伝令 RNA の配列に直したところ,(a)のようになった。また,ある肺がん患者のがん細胞の場合には伝令 RNA の異なる部分で,(c)のようになった。それぞれに対応する領域の正常型 ras 遺伝子の配列を(b)および(d)に示してある。ただし,遺伝情報は左から右へ翻訳されるものとする。

(a) 膀胱がんのがん細胞での配列 …GGUGGGCGCCGUCGGUGUGGGCA…

(b) 正常細胞での配列 …GGUGGGCGCCGGCGGUGUGGGCA…

(c) 肺がんのがん細胞での配列 …AUACCGCCGGCCGGGAGGAGUAC…

(d) 正常細胞での配列 …AUACCGCCGGCCAGGAGGAGUAC…

それぞれ,ras 遺伝子産物の何番目のアミノ酸が,どのアミノ酸に変わったものか。遺伝暗号表(表2)を参考にして,膀胱がん:18番アラニン→リシンのように答えよ。なお,がん細胞における ras 遺伝子産物の変異は12番目のグリシンと61番目のグルタミンに限定されるものとする。

表2 遺伝暗号表
表2 遺伝暗号表

伝令 RNA の塩基配列として表記されている。

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E 下線部(エ)および(オ)の現象を,文中のがん抑制遺伝子の概念を用いて,それぞれ1行程度で説明せよ。

F 下線部(カ)のような発症の仕方の違いが生じる理由を,上記の two-hit theory に基づいて1行程度で述べよ。

Ⅱ 文2について,次の小問に答えよ。

A なぜ下線部(キ)のような可能性があると考えられるのか。1つの考え方を1行程度で述べよ。

B 下線部(ク)について。p53 の作用によって細胞に何が起きたと考えられるか,1行で述べよ。

C 下線部(ケ)の実験は,下線部(キ)の仮説の実験的検証と考えられる。この結果が何を意味するか,p53 の機能発現のしくみに着目して2行程度で述べよ。

D p53 のもつ下線部(コ)の機能は,がん抑制遺伝子としてのはたらきに最も重要であると考えられている。その理由を推測し,2行程度で述べよ。

E 下線部(サ)について。なぜこのような結果が得られたのか,p53 の機能を阻害する薬剤の正常細胞に対する作用に注目して,1行程度で説明せよ。