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生 物
第1問
次の文1〜文3を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。
〔文1〕
多細胞生物の成長は細胞分裂を伴うが,体細胞では多くの場合 DNA 複製と細胞分裂が交互におこる。この DNA 複製と細胞分裂の周期を細胞周期とよび,1回の細胞分裂の終了から次の細胞分裂の終了までの期間が1細胞周期となる。細胞周期は,DNA の複製が始まるまでの準備期(G 1 期)→DNA 合成期(S 期)→分裂が始まるまでの準備期(G 2 期)→分裂期(M 期)の順に進行する。M 期での細胞核の分裂は 1 と核小体が消失して染色体が凝縮していく前期,染色体が赤道面に整列する中期,染色分体が両極に移動していく後期,それらの周囲に 1 が再形成される終期の順に進行し,次いで細胞質分裂がおこって2つの娘細胞が形成される。さらに分裂増殖を続ける場合は,この細胞周期がくり返される。
動物細胞では,前期に中心体が二分されるとともに微小管が伸長して星状体となり,それらが両極となって 2 の形成が始まる。植物細胞には中心体はないが,2 は形成される。いずれの場合でも両極から伸長した微小管は,3 に付着して染色体を動かす。中期には,両極からの力がつり合って染色体が赤道面に並ぶが,後期に入ると,対をなしていた染色分体が分かれ,3 微小管が短くなることで染色分体は両極に移動する。終期に入ると,細胞核が再形成され,続いて(ア) 細胞質分裂がおこって,細胞は2分割される。
〔文2〕
S 期の細胞に水素の同位体 3 H を含むチミジンを与えると,3 H チミジンは複製中の DNA にとり込まれ,DNA を標識することができる。いま盛んに分裂増殖し,細胞周期のさまざまな時期を進行中の多数の細胞を含む培養液に,3 H チミジンを加えて DNA を短時間標識した。その後,細胞を洗浄して細胞外の 3 H チミジンを完全に除き,3 H チミジンを含まない培養液に戻して,細胞周期を進行させた。(イ) 4時間後から,標識された M 期の細胞が観察され始め,5時間後には M 期の細胞の50%が標識されるに至った。その後に M 期の細胞は100%標識されたものになり,やがて減じて,10時間後にはその割合は再び50%になった。引き続き培養を続けたところ,標識された M 期の細胞は全く見られなくなったが,18時間後から再び観察されるようになった。
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(注1) この実験では,細胞を標識した時点で多数の細胞が細胞周期の各時期に一様に分布し,すべての細胞は細胞周期を同じ速度でまわり続けているとする。また,細胞の標識に要した時間は便宜上0時間とし,S 期の細胞はすべて標識されたとする。
〔文3〕
窒素の同位体 15 N (窒素 14 N より重い)のみを窒素源として含む培地で,充分に長い期間大腸菌を増殖させ,DNA 中の窒素原子がすべて 15 N に置きかわった菌を作製した。この大腸菌を 14 N のみを窒素源とする培地に移して増殖させると,DNA 複製の際に 14 N が取り込まれる。菌がいっせいに分裂するように調整してから,分裂するたびに大腸菌を採取して,その DNA を取り出して調べた。DNA の二重鎖は重さによって遠心分離で区別できる。(ウ) 2回目の分裂直後の遠心分離では,DNA 二重鎖は,重いもの,中間のもの,軽いものの比率が0:1:1になった。
(注2) DNA 二重鎖中の窒素原子がすべて 15 N に置きかわったものを重い DNA 鎖,すべて 14 N のものを軽い DNA 鎖とする。
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〔問〕
Ⅰ 文1について,以下の小問に答えよ。
A 文中の空欄1〜3に入る最も適当な語句を記せ。
B 下線部(ア)について。一般的な植物細胞と動物細胞の細胞質分裂の違いについて2行で述べよ。
C 細胞を構成する主な構造の中で,一般に動物細胞に比べて植物細胞に特徴的なものを下記の例以外に2つあげ,その構造と主要な機能について各1行で述べよ。
(例)
葉緑体:二重の膜をもつ細胞小器官で,クロロフィルを含み光合成を行う。
Ⅱ 文2について,以下の小問に答えよ。
A M 期の細胞を識別するために染色に用いられる色素を1つあげよ。
B 下線部(イ)について。この細胞が細胞周期の G 2 期と M 期それぞれを通過するのに要する時間を求めよ。
C この細胞が細胞周期の G 1 期を通過するのに要する時間を求めよ。
Ⅲ 文3について,以下の小問に答えよ。
A この実験で示された DNA の複製のしくみを何とよぶか。
B 下線部(ウ)について。4回目および n 回目の分裂直後の DNA 二重鎖では,これらの比率はどのようになるか。それぞれの場合について
重い DNA 鎖:中間の DNA 鎖:軽い DNA 鎖
の比率を求めよ。
C 上記 B の n 回目の分裂後,再び 15 N のみを窒素源とする培地に移し,さらに2回分裂を行わせた。この2回目の分裂直後における
重い DNA 鎖:中間の DNA 鎖:軽い DNA 鎖
の比率を求めよ。
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第2問
次の文1〜文3を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。
〔文1〕
植物の系統進化の研究は,はじめは形態的特徴により,のちに物質組成や生理学的特徴に基づいて進められてきた。また,20世紀後半には遺伝子などの塩基配列の比較により系統解析がおこなわれるようになった。2000年に双子葉植物のシロイヌナズナの全ゲノム塩基配列が決められると,(ア) ゲノムの比較を系統進化の研究の主要な手段とすることが可能になってきた。このため,系統的に異なるさまざまな光合成生物のゲノム塩基配列の解析が進められた。種子植物以外でも,コケ植物蘚類のヒメツリガネゴケや緑藻のクラミドモナス,紅藻のシアニジオシゾンなどで,核ゲノムの研究が進んでいる。
緑色植物(陸上植物や緑藻類)の系統とは異なる真核光合成生物には,紅藻のほか,有色植物(褐藻・ケイ藻などの藻類)が知られている。(イ) 有色植物と紅藻はクロロフィル組成や補助色素の種類の点でも大きく異なるが,葉緑体ゲノムに含まれている遺伝子は互いによく似ていて,それぞれの葉緑体は系統的に関連があることがわかった。
葉緑体ゲノムは小型であるため,30以上にものぼる多くの真核光合成生物で塩基配列決定が進んでいる。葉緑体ゲノムには,数十個の光合成関連の重要な遺伝子が含まれている。さらに,光合成をおこなうことが可能な原核生物である 1 の全ゲノムについても,10種ほどが解読されている。
葉緑体の起源を説明する仮説として,以前は膜説があった。この説によれば,始原真核細胞で細胞膜の陥入によってさまざまなオルガネラができたとされる。(ウ) これに対し現在では,真核光合成生物の葉緑体の起源については,1 と葉緑体との系統関係に基づき,2 が有力とされている。
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〔文2〕
蘚類は,被子植物と共通した面が多いが,被子植物で知られているさまざまな生理現象を,より単純な形で示すことが多い。たとえば,(エ) 蘚類の茎葉体(配偶体)の葉は,一層の細胞からなるが,被子植物の葉は,通常,複数の細胞層からなる葉肉と表皮をもつ。被子植物の葉は,単位葉面積あたりの光合成能力を高めるために,多層構造になっていると考えられる。
蘚類では,胞子が発芽すると,細胞が一列につらなった原糸体が伸長する。(オ) 原糸体は頂端細胞が分裂することで成長し,光の方向に伸長していく性質がある。原糸体は枝分かれしながら成長するが,やがて芽とよばれる細胞塊を形成し,これが成長して茎葉体となる。芽の形成は,植物ホルモンの一種であるサイトカイニンにより促進される。やがて適当な条件下で,造精器・造卵器ができ,受精により胞子体を形成する。(カ) 胞子体は複相世代であるが,すぐに減数分裂を行って単相世代である胞子を生ずる(図1)。
図1 ヒメツリガネゴケの生活環
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葉緑体ゲノムにおきた突然変異によって光合成ができなくなり,培地に糖を加えないと生育できない変異株が,ある種の蘚類で得られた。(キ) この変異株と野生株をかけあわせたとき,変異株の卵と野生株の精子を用いた場合,得られた胞子が発芽してできるすべての細胞が変異型となったが,変異株の精子と野生株の卵を用いた場合,得られた胞子が発芽してできるすべての細胞が正常な光合成能力を示した。
ヒメツリガネゴケの特徴の1つに,細胞核遺伝子の相同組換えが高頻度でおこることがある。これを利用すると,塩基配列のわかった遺伝子にねらいを定めてこれを破壊することが可能である。そのため,ヒメツリガネゴケは被子植物の重要な現象の解析のためのモデル植物として利用されている。たとえば,(ク) 葉緑体の分裂において,くびれ込む包膜の内側に沿ってリング状の構造をつくる FtsZ とよばれるタンパク質が知られているが,このタンパク質をつくる細胞核遺伝子を破壊したコケを作製したところ,細胞あたり1個の巨大葉緑体をもつようになった。野生株の細胞では,細胞あたりの葉緑体数は20個以上である。このため,FtsZ タンパク質が,葉緑体の分裂に重要な働きをしていることが推定されている。さらに,類似のタンパク質が,被子植物でも機能していることがわかった。
〔文3〕
生命誕生以前の地球では,現在よりもはるかに高濃度の二酸化炭素が大気中に含まれており,逆に酸素はほとんど含まれていなかったと考えられている。大気中に酸素を最初に多量に発生させたのは,1 であった。1 の化石はストロマトライトとよばれる層状構造を持った石灰岩として残っており,20〜30億年前の地層から大量に発見されるが,同様の構造物は,現在でも一部の地域で形成され続けている。大気中の二酸化炭素は,炭酸カルシウムとして沈殿したり,光合成によって有機化合物に変えられたりすることにより除去され,これによって,温室効果が減少し,地上の温度が次第に低くなった。また,大気中や水中に多量の酸素が蓄積していったことにより,3 によって大量にエネルギーを獲得することができる従属栄養生物,特に大型の動物の誕生が可能になった。さらに,酸素に 4 が作用して生ずる 5 の,成層圏での蓄積は,有害な 4 の地上への到達を防ぐことによって陸上への生物の進出を可能にし,現在我々が見るような地球の姿を生み出す重要な要因となった。このように(ケ) 光合成は,現存する生物全体のエネルギーの源であるばかりでなく,豊かな生態系に恵まれた地球環境全体を生み出した原動力でもあった。
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〔問〕
Ⅰ 文1について,以下の小問に答えよ。
A 下線部(ア)について。ゲノムという言葉は今日,いくつかの意味合いで用いられる。以下の(1)〜(5)から,用法として正しくないものを一つ選べ。
(1) ゲノムという言葉のもとの意味は,生物の生存に必要な最小限の染色体セットに含まれる遺伝子の総体であった。
(2) 一般に,植物細胞の中には,3種類のゲノムがある。
(3) 大腸菌のゲノムは,単一の環状 DNA からなるが,そのほかにプラスミドをもつ場合がある。
(4) 真核生物の各染色体は,それぞれ別々のゲノムを含む。
(5) パンコムギは6セットの核ゲノムをもつが,これは,それぞれ2セットのゲノムをもつ3種の野生の原種コムギのゲノムが組み合わされたものである。
B 下線部(イ)について。紅藻には含まれないが,褐藻には存在するクロロフィルは何か。
C 空欄1に入れるのにもっとも適切な生物名を記せ。なお,空欄1は文3にも使われている。
D 下線部(ウ)について,以下の問に答えよ。
(a) 空欄2に入れるべき説の名称をあげよ。
(b) この説が支持される理由を2つあげ,それぞれ2行程度で記せ。
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Ⅱ 文2について,以下の小問に答えよ。
A 下線部(エ)について,次の問に答えよ。
(a) 葉が単に細胞層を重ねた多層構造であれば,光が強い場合,光量に応じた光合成量が確保できないと予想される。その理由を2行程度で記せ。
(b) (a)の問題点は,多層構造をもつ実際の葉では,どのような構造をつくることで克服されているか,名称を記せ。
B 下線部(オ)について,次の問に答えよ。
(a) マカラスムギ(単子葉植物)の子葉鞘で知られる光屈性(屈光性)のしくみを2行程度で説明せよ。
(b) マカラスムギの光屈性のしくみは,コケの原糸体にも全く同じように当てはまるかどうか,その根拠とともに述べよ。
C 下線部(カ)について。被子植物には,単相でも複相でもない特定の核相をもつ組織がある。その名称と核相を記せ。
D 下線部(キ)について。この理由として考えられることを2行程度で説明せよ。なお,この突然変異によって胞子形成には影響がないものとする。
E 下線部(ク)について。このような変異株を野生株と交配してできた胞子を発芽させてできる原糸体における表現型を調べると,どのような表現型の原糸体を生ずる胞子がどのような比率で現れるか述べよ。
Ⅲ 文3について,以下の小問に答えよ。
A 空欄3,4,5に入る最も適切な語句は何か。
B 下線部(ケ)について,以下の(1)〜(4)から正しくないものを一つ選べ。
(1) 太陽の光エネルギーを利用する生物には,酸素を発生しないものもある。
(2) 海洋で光合成が行われるようになったのは,褐藻など大型の藻類が生まれてからである。
(3) 光合成生物が誕生する以前の地球では,無機物の酸化還元が生物の主なエネルギー源であった。
(4) 動植物が使う炭素源やエネルギーの大部分は,光合成によって固定された二酸化炭素と太陽光エネルギーに由来する。
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第3問
次の文1〜文4を読み,Ⅰ〜Ⅵの各問に答えよ。
〔文1〕
図2に示すように,網膜の視細胞がとらえた視覚情報は,外側膝状体を通って,脳の後部にある一次視覚皮質に送られる。網膜の中で鼻に近い半分の視細胞からの情報は反対側の脳へ送られ,耳に近い半分からの情報は同じ側の脳へ送られる。網膜に写る像はレンズによって反転しているので,視野の左半分は右眼からの情報も左眼からの情報も右脳で処理され,右半分は左脳で処理されることになる。視野の同じ位置をとらえる左右の眼の視細胞は,一次視覚皮質の同じ位置に情報を送る。
網膜の中心の少し内側に,視神経が束になって眼から出てゆく部分がある。ここは盲点(盲斑)とよばれ,視細胞がないので光を感じない。下の参考図で,眼と紙の距離を 15 c m 程度に調節し,片眼を閉じて中央の黒い丸に視点を固定すると,(ア) 右眼で見たときは右の×が,左眼で見たときは左の×が,ちょうど盲点に入って見えなくなることがある。
参考図
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図2 眼と脳の水平断面
視野の同じ位置の像をとらえる2対の視細胞(●と○)の情報経路を示す。
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〔文2〕
発生の過程において,一部の細胞は大きく場所を移動する。たとえば脊椎動物では,背中をつらぬく(イ) 神経管の背部から神経冠細胞(神経堤細胞)とよばれる一群の細胞が作られ,そこから色素細胞や末梢神経細胞,副腎髄質,顔面の骨などが生じる(図3)。色素細胞は,分裂をくりかえしながら表皮に沿って全身に移動し,1本1本の毛の付け根にある毛母細胞の間に入り込んで,メラニン色素を合成して毛に分泌する(図4)。
図3 発生中の胚の背部
図4 毛の構造
ネコの体色に関連する常染色体上の対立遺伝子に,白斑遺伝子 S と斑なし遺伝子 s がある。この遺伝子は色素細胞の移動を制御しており,遺伝子型が ss の場合は色素細胞は体表全体へと広がる。そのため毛は黒一色や茶一色になる。一方,遺伝子型が SS や Ss の個体では,色素細胞は体表全体へは広がらない。このため一部の毛は毛根に色素細胞をもたず,白い毛となる。従って,このような遺伝子型をもつ猫の体色は黒と白の斑や,茶と白の斑になる。色素細胞は背側の神経管から広がるため,背中から遠い脚や腹部ほど白くなりやすい。しかし,移動の経路や到達位置は,細胞ごとに厳密に決まっているわけではない。
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〔文3〕
多くの動物は父親由来と母親由来の2本が組になった染色体セットをもっている。このうち一部の染色体が3本になると,その染色体上の遺伝子だけ他よりも数が多くなり,伝令 RNA に転写される量のバランスが変化してしまう。これは個体に致命的な障害を及ぼすことが多い。たとえば人間は,22組ある常染色体のうち21番染色体以外のどれか1つでも3本になると,胎児はほとんど生きのびることができない。
一方,性染色体は雌雄で本数が異なる場合が多い。たとえばショウジョウバエや多くの哺乳類では,通常はオスでは X 染色体が1本なのに対し,メスでは2本である。それにもかかわらず重大な支障がおこらないのは,性染色体をもつ生物がさまざまな方法で遺伝子量補正とよばれる調節を行っているためである。ショウジョウバエではオスでだけ,X 染色体上の遺伝子が伝令 RNA へ転写される活性がメスの2倍に上昇しており,染色体数が半分であることを補っている。一方,哺乳類ではメスでだけ,受精卵が細胞分裂をくりかえして体細胞の数がある程度増えた時点で,それぞれの体細胞がもつ2本の X 染色体のうちの1本が凝縮して不活性化し,その染色体上のほとんどの遺伝子が伝令 RNA に転写されなくなる。
2本の X 染色体のうちのどちらが不活性化されるかは定まっておらず,細胞ごとにランダム(無作為)に決まる。X 染色体が3本以上あるような場合も,1本だけが活性を保ち,残りは不活性化される。その後,発生の進行に伴い,それぞれの体細胞はさらに細胞分裂を続けるが,一度不活性化された X 染色体は娘細胞でも引き続き不活性化される。従って哺乳類のメスの体には,父親由来の X 染色体が不活性化された細胞群と,母親由来の X 染色体が不活性化された細胞群が,斑状に存在することになる。不活性化がおこる時期やその後の細胞分裂の回数の違いにより,斑のサイズには個体差や体の部位による差が生じる。
X 染色体上の遺伝子は伴性遺伝とよばれる遺伝形式をとる。ショウジョウバエのメスでは X 染色体は2本とも活性をもつため,ヘテロ接合の場合の表現型のあらわれ方は常染色体のときと同じである。しかし哺乳類では様相は異なる。
ネコの X 染色体上の対立遺伝子に,毛の色が茶色になる茶色遺伝子 O と黒になる黒色遺伝子 o がある。メスには X 染色体が2本あるので,遺伝子型には 1 ,2 ,3 の3つの可能性がある。斑なし遺伝子がホモ接合 ss である個体では,茶色遺伝子がホモ接合の 1 の場合には体色は茶一色になり,黒色遺伝子がホモ接合の 2 の場合には黒一色になる。ところがヘテロ接合の 3 の場合には,体色は黒でも茶でも,黒と茶の中間でもなく,黒と茶の斑になる。これは X 染色体の不活性化によって,色素細胞の一部では父親由来の対立遺伝子だけが発現し,残りでは母親由来の対立遺伝子だけが発現するためである。
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また,白斑遺伝子のヘテロ接合 Ss やホモ接合 SS の個体では,色素細胞の移動の効果が加わるため,茶色/黒色遺伝子が 1 の場合は体色は 4 ,また 2 の場合は 5 ,3 の場合は 6 になる。(ウ) この最後の場合が,いわゆる三毛猫である。
〔文4〕
ヒトの伴性遺伝の例として知られている赤緑色盲(色覚異常)は,X 染色体上の,光を感じるタンパク質の遺伝子の突然変異によって生じる。赤緑色盲はありふれた突然変異の一つで,日本では男性の20人に1人が赤緑色盲である。赤緑色盲の遺伝子頻度が男女とも同じで,女性の性染色体について常染色体と同様にハーディー・ワインベルグの法則が成立すると仮定すると,昨年度の東京大学の志願者(男性11,673名,女性3,224名)のうち,概算で男性志願者の約580名が赤緑色盲であり,女性志願者の約 7 名が赤緑色盲遺伝子をもつと推定できる。
父親が赤緑色盲でない場合,その娘は赤緑色盲遺伝子のホモ接合にはならないので,赤緑色盲にはならないという記述をよく見かける。しかしこれは誤りで,(エ) まれにヘテロ接合の女性が赤緑色盲の表現型を示すこともある。また,赤緑色盲の検査は色のついた図形を両眼で見ながら行うが,片眼ずつ検査をするとどちらかの眼が赤緑色盲の表現型を示す女性が少数だが存在する。しかしこのような女性は,両眼で検査をすると赤緑色盲と判定されないことが多い。
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〔問〕
Ⅰ 文1の下線部(ア)について。
両眼で見ると盲点の存在が意識されない理由を考え,2行程度で述べよ。
Ⅱ 文2の下線部(イ)について。
神経管はどの胚葉から作られるか,答えよ。
Ⅲ 文3について,以下の小問に答えよ。
A 空欄1〜3に該当する遺伝子型を答えよ。
B 空欄4〜6に該当する毛の色を下の選択肢からそれぞれ選べ。
a:黒,b:茶,c:黒と茶の斑,d:黒と白の斑,e:茶と白の斑,f:黒と茶と白の斑
C 下線部(ウ)について,三毛猫はほとんどがメスである。これはなぜか,理由を考え,2行程度で述べよ。
Ⅳ あなたが茶と白の斑のメス猫を飼っているとする。これをどのような毛色のオス猫と掛け合わせれば,三毛猫を産ませることができるか。
A 候補になりうるオスの毛色を,以下の選択肢からすべて選んで記号を答えよ。
a:黒,b:茶,c:黒と茶の斑,d:黒と白の斑,e:茶と白の斑,f:黒と茶と白の斑
B またその場合に,三毛猫以外にどのような毛の子猫が同時に生まれうるかを,オスの子猫,メスの子猫それぞれについて上の選択肢の a〜e から選び,記号を列挙せよ。(オス親の候補が複数ある場合は,全部をまとめて列挙せよ。また,オスの三毛猫などごくまれにしかあらわれない毛色の可能性は除外して考えよ。)
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Ⅴ 文4について,以下の小問に答えよ。
A 空欄7に該当する数字を有効数字2ケタで答えよ。
B 下線部(エ)について。赤緑色盲遺伝子がヘテロ接合なのに赤緑色盲の表現型を示す女性では,網膜の視細胞がどのようになっている可能性が考えられるか。2行程度で述べよ。
C 赤緑色盲遺伝子をもつヘテロ接合の女性は確率的に視細胞の約半分が赤緑色盲の変異をもつにもかかわらず,ほとんどの人が赤緑色盲の表現型を示さない。この理由を考え,2行程度で述べよ。
Ⅵ 社会に流布しているイメージでは,クローン人間は元になった人間と全く同じになると考えられがちである。2002年に,三毛猫の体細胞から作られたクローン猫が誕生した。生まれたメスの子猫は元になった猫と全く同じ遺伝子セットをもっているが,毛の模様は元になった猫と同じになると考えられるか,違うと考えられるか。また,メスの三毛猫でなく黒と白の斑や茶と白の斑のオス猫からクローンを作った場合は,どうなると考えられるか。理由とともに2行程度で述べよ。
第1問 標識した細胞の群れを追う — 細胞周期の長さと DNA の複製 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 細胞が増えるときの「DNA を複製する → 分ける」のくり返しを、3つの面から見る問題。文1は体細胞分裂の進み方(知識)、文2は細胞周期の各時期の長さを標識実験から出す計算、文3は DNA の複製のしかた(メセルソンとスタールの実験)の計算。
文2を読むときの一番の道具は、標識された細胞は「群れ」になって周期をまわる という見方。0 時間に S 期にいた細胞だけが印をもらい、その群れが同じ速さで G2 期 → M 期 → G1 期 → S 期…と進む。M 期の細胞を見張っていると、群れの先頭が入ってきた時・半分まで入った時・最後尾が半分まで出た時・1周して戻ってきた時がわかり、そこから各時期の長さが決まる。
文3の道具は、DNA の鎖を1本ずつ追う こと。半保存的な複製では、もとの鎖は分解されずに、何回分裂しても必ずどこかの DNA の片方の鎖として残る。重さの割合は「もとの 15N の鎖が何本あるか」「新しい鎖の材料は何か」を数えれば出る。
Ⅰ A 前期に消えて終期に再びできるのは、核を包む膜(核膜)。核小体と同じ時期に消える。
両極から伸びた微小管が作る、糸を束ねたような構造が紡錘体。動物細胞では中心体が両極になるが、植物細胞は中心体が無くても紡錘体を作る。
微小管が染色体につく場所は、染色体のくびれた所にある動原体。後期には、動原体についた微小管が短くなることで、染色分体が両極へ引かれる。
Ⅰ B 分裂期の前期〜終期(核の分裂)は、動物も植物もほぼ同じ。ちがうのは、最後に細胞質を2つに分ける方法。
動物細胞は、赤道面(2つの核の真ん中の面)の細胞膜の内側に、アクチンという繊維の輪ができ、それが締まって外側からくびれ込む 。
植物細胞は外側に硬い細胞壁があるので、外からくびれることができない。かわりに、赤道面の中央に細胞板ができ、それが外側へ広がって 細胞壁につながり、新しい細胞壁と細胞膜になって仕切る。「外から内へ」と「内から外へ」の向きの対比が書ければよい。
答え 動物細胞は赤道面の細胞膜が外側からくびれ込んで二分される。植物細胞は赤道面に細胞板が中央から外へ広がるようにでき,細胞壁となって仕切る。(68字)
Ⅰ C 例の葉緑体と同じ形で、「どんな構造か」と「何をするか」を1行ずつ書く。
植物細胞に特徴的な構造として、まず細胞膜の外側を囲む細胞壁がある。セルロースが主な成分で、細胞の形を保ち、水を吸って膨らんでも破れないように支える。
もう1つは、成長した植物細胞で大きく発達する液胞。一重の膜(液胞膜)に包まれ、中の細胞液に糖・無機塩類・色素(アントシアン)などをためる。物質の貯蔵や、細胞の浸透圧の調節にはたらく。動物細胞にも小さな液胞はあるが、大きく発達するのは植物細胞の特徴。
答え 細胞壁:細胞膜の外側のセルロースを主成分とする層で,細胞の形を保ち支える。(37字) 液胞:一重の膜に包まれ細胞液をたくわえ,物質の貯蔵や浸透圧の調節を行う。(36字)
Ⅱ A M 期の細胞は、染色体が太く凝縮しているので、染色体(DNA とタンパク質)を赤く染める色素を使うと、核が形を失って染色体が見えている細胞として区別できる。
体細胞分裂の観察でよく使うのは、酢酸カーミンや酢酸オルセイン。
Ⅱ B 0 時間に標識されたのは S 期にいた細胞。そのうち S 期の一番最後にいた細胞 が、群れの先頭になる。この細胞は G2 期をまるごと通りぬけてから M 期に入るので、標識された M 期の細胞が現れ始める 4 時間が、そのまま G2 期の長さになる。
M 期の中の細胞は、M 期に入ってからの時間ごとに一様に並んでいる。群れの先頭が M 期に入ってから x 時間たつと、M 期のうち x 時間分が標識された細胞で埋まる。だから M 期の細胞の標識された割合は x ÷ ( M 期の長さ ) で、これが 50% になるのは、先頭が M 期の半分まで来た時。
5 − 4 M 期 = 1 2
なるほどの点は、50% の時刻は「群れの端が M 期のちょうど真ん中にいる時」 だということ。この読み方を覚えると、残りの時期も同じように出せる。
Ⅱ C G1 期は、周期全体の長さから、ほかの3つの時期を引いて出す。まず残りの2つの読みを使う。
割合が 100% から下がって 50% になるのは、群れの最後尾 (0 時間に S 期の一番はじめにいた細胞)が M 期の半分まで来た時。先頭と最後尾は S 期の長さだけ離れているので、上がる 50%(5 時間)と下がる 50%(10 時間)の差がそのまま S 期の長さになる。
いったん見えなくなった標識された M 期の細胞が再び現れる 18 時間は、群れの先頭が1周して、もう一度 M 期に入った時。最初に入った 4 時間との差が、周期1周の長さになる。
周期 = 18 − 4 = 14 , G 1 = 14 − 5 − 4 − 2
デモで G1 期だけを長くすると、最初の山(4・5・10 時間)はまったく動かず、18 時間の読みだけが遅れる。G1 期の長さは、2回目に現れる時刻にしか入っていない 。
Ⅲ A DNA の二重らせんがほどけて、それぞれの鎖を鋳型(型)にして新しい鎖が作られると、できた2本の DNA は、どちらも「もとの鎖1本+新しい鎖1本」になる。もとの DNA の半分が保存されるので、この複製のしかたの名前がつく。
1回目の分裂で全部が中間の重さになり、2回目で中間と軽いものが 1:1 になる(下線部(ウ))のは、このしくみでしか説明できない。もとの2本がそのまま残るしくみ(保存的複製)なら、2回目は重いもの:軽いもの = 1:3 になり、中間のものは出ない。
Ⅲ B はじめの 15N の DNA 1本から考える。鎖は2本(どちらも 15N)。
14N の培地で分裂するたびに DNA の数は2倍になり、n 回目の分裂のあとには 2 n 本になる。そのうち、もとの 15N の鎖を含むものは、もとの鎖の数と同じ 2 本だけ (もとの鎖は分解されず、毎回 14N の新しい鎖と組む)。これが中間の DNA。
残りの 2 n − 2 本は、2本とも 14N の軽い DNA。重い DNA(2本とも 15N)は1回目の分裂で無くなる。
0 : 2 : ( 2 n − 2 ) = 0 : 1 : ( 2 n − 1 − 1 )
n = 2 を入れると 0 : 1 : 1 になり、問題文の2回目と合う。これを確かめてから、4回目の値を入れる。
答え 4回目 0 : 1 : 7 ,n 回目 0 : 1 : ( 2 n − 1 − 1 )
Ⅲ C n 回目の分裂のあと、DNA は 2 n 本、鎖は 2 n + 1 本ある。そのうち 15N の鎖が 2 本、14N の鎖が 2 n + 1 − 2 本。これを 15N の培地にもどすと、新しくできる鎖はすべて 15N になる。
1回目の分裂で、どの鎖も新しい 15N の鎖と組む。14N の鎖と組んだものは中間、15N の鎖と組んだものは重い。2回目の分裂では、古い鎖はまた新しい 15N の鎖と組み、1回目にできた 15N の鎖も新しい 15N の鎖と組む。
つまり、14N の鎖は2回目のあとも1本ずつ中間の DNA に残り、それ以外は全部重い DNA。全部で 2 n + 2 本のうち、中間が 2 n + 1 − 2 本、重いものが 2 n + 2 − ( 2 n + 1 − 2 ) = 2 n + 1 + 2 本で、軽いものは 0 本。2 で割って比にまとめる。
n = 1 で確かめると、1回目のあとの中間の DNA 2本から、2回分裂して重い 6 本・中間 2 本 = 3:1 になる。デモで鎖を1本ずつ追った数とも合う。
第2問 コケと葉緑体 — 葉のつくり・光への曲がり方・葉緑体の遺伝 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 光合成をする生き物の「進化」と「つくり」を、コケ植物(ヒメツリガネゴケ)を軸に見ていく問題。文1は、ゲノムの比較から見た植物の系統と、葉緑体がどこから来たか。文2は、コケと被子植物のくらべ(葉のつくり・光への曲がり方・生活環・遺伝)。文3は、光合成が地球の大気を変えた歴史。
知識で答える小問が多いが、文2の小問は「なぜそうなるか」を考えさせる。読むときの道具は2つ。1つ目は、光合成の速さは、光と CO2 のうち足りないほうで決まる (限定要因の考え方)。2つ目は、遺伝子がどこにあるか(細胞核か葉緑体か)で、子への伝わり方がまるでちがう こと。細胞核の遺伝子は減数分裂で半分ずつ分かれ、葉緑体の遺伝子は卵の細胞質といっしょに伝わる。
コケ植物の生活環(図1)では、ふだん目にする茎葉体は配偶体で核相は単相(n)、受精でできる胞子体だけが複相(2n)。胞子体はすぐ減数分裂して胞子(n)を作る。この「n の時期が長い」ことが、問E で胞子の比がそのまま見える理由になる。
Ⅰ A 「ゲノム」は、もとは生きるのに必要な最小限の染色体1セット に含まれる遺伝子の全体を指した。今は「ある生物(や細胞小器官)がもつ DNA の遺伝情報の全体」の意味でも使う。
(2) は、植物細胞の中に細胞核・ミトコンドリア・葉緑体の3つの DNA があり、それぞれを核ゲノム・ミトコンドリアゲノム・葉緑体ゲノムとよぶので正しい。(3) の大腸菌も、環状の DNA 1つが基本のゲノムで、プラスミドは別に持つことがある。(5) のパンコムギは、2セットずつのゲノムをもつ3種の祖先が交雑してできた6倍体で、正しい。
(4) は、1本1本の染色体がそれぞれ1つのゲノムを持つと言っている。ゲノムは染色体のセット全体 でひとまとまりなので、1本の染色体は1つのゲノムの一部にすぎない。
Ⅰ B クロロフィル a はすべての酸素を出す光合成生物がもつ。陸上植物や緑藻は a と b、褐藻やケイ藻などの有色植物は a と c、紅藻は a だけ(補助色素としてフィコビリン)をもつ。
紅藻に無くて褐藻にある、という条件から、有色植物に特有のクロロフィルを答える。
Ⅰ C 光合成ができる原核生物で、酸素を出す光合成をするのはシアノバクテリア(ラン藻)。
文3の「大気中に酸素を最初に多量に発生させた」「化石がストロマトライト」も同じ空欄1なので、両方に合うことで確かめられる。
Ⅰ D 膜説(細胞膜が内側に入りこんで細胞小器官ができた)に対して、今有力なのは、原核生物が別の細胞の中に取り込まれて共生し、細胞小器官になった という説。葉緑体ではシアノバクテリアが、ミトコンドリアでは好気性の細菌が、取り込まれたと考える。
支持される理由は、「葉緑体がもとは独立した原核生物だった」ことを示す性質をあげる。文1の「シアノバクテリアと葉緑体との系統関係に基づき」がヒントで、1つ目は葉緑体が自分の DNA(環状)をもち、その遺伝子の並びがシアノバクテリアとよく似ている こと。
2つ目は、膜説では説明しにくいつくりや増え方。二重の膜に包まれている (内側が取り込まれた細菌の膜、外側が取り込んだ細胞の膜と考えられる)、細胞の中で分裂でしか増えない 、原核生物と同じ型のリボソームをもつ、などから2つ目を選んで書く。
答え (a) 共生説(細胞内共生説) (b) ① 葉緑体は独自の環状DNAをもち,そこに含まれる遺伝子の種類や塩基配列が,シアノバクテリアのものとよく似ていて,系統的に近い。(62字) ② 葉緑体は二重の膜に包まれ,細胞の中で分裂によってのみ増える。また,原核生物と同じ型のリボソームをもち,独自にタンパク質を合成する。(65字)
Ⅱ A (a) では、ポイントは「光が強い 場合」。光が弱いときは光そのものが足りないので、光を受ける細胞を重ねれば、そのぶん光を使える。光が強くなると、光合成を止めているのは光ではなく、もう1つの材料である CO2 の供給になる(限定要因)。
細胞をすき間なく重ねただけの葉では、CO2 は葉の表面からしか入れず、細胞の中を1つずつ伝わって内側へ届く。途中の細胞が CO2 を使ってしまうので、内側の細胞にはほとんど届かない。デモの模型では、強い光で6層にしても、すき間の無い葉の光合成は1層のときの約 1.1 倍にしかならず、真ん中の細胞の CO2 は空気の 1% 以下になった。
(b) 実際の葉は、海綿状組織の細胞のあいだに大きなすき間(細胞間隙)があり、それが気孔で外の空気とつながっている。どの細胞も、すき間の空気にじかに接して CO2 を取りこめる ので、層を重ねても内側の細胞が CO2 不足にならない。
「上の細胞に光を吸われて下に届かない」と読む考え方もあるが、問題文が「光が強い場合」と限っているので、足りなくなるのは光ではなく CO2 と読むのが自然。
答え (a) 細胞が密に重なると,CO2は表面から細胞の中を伝わって入るしかなく内側の細胞に十分届かないので,強光下ではCO2不足で光合成が制限されるから。(71字) (b) 細胞間隙(海綿状組織の細胞のすき間)と気孔
Ⅱ B (a) マカラスムギの子葉鞘では、光を感じるのは先端 、曲がるのは先端より下の伸びる部分 と、場所が分かれている。先端で作られたオーキシン(成長を進める植物ホルモン)が、光の当たらない側へ移ってから下へ運ばれる。すると伸びる部分の陰の側の細胞がよく伸び、光の側との伸びの差で光の方へ曲がる。
(b) 原糸体は、細胞が1列につながり、先端の細胞(頂端細胞)だけが伸びて分裂する (下線部(オ))。後ろのできあがった細胞はもう伸びないので、子葉鞘のような「先端で光を感じ → 下で左右の伸びに差がつく」しくみの場が無い。
原糸体が光の方へ伸びるのは、先端の細胞そのものが光の向きを感じ、伸びる向きを光の方へ変えていく から。デモでは、子葉鞘は陰の側の線が長くなって全体がしなり、原糸体は通った道すじが弧になるだけで後ろの細胞は動かない。同じ「光の方へ向かう」でも、しくみはちがう。
答え (a) 子葉鞘の先端で光を受けると,オーキシンが光の当たらない側へ移動してから下方へ運ばれ,陰側の細胞の伸長が促されるので,光の方へ屈曲する。(67字) (b) 当てはまらない。原糸体は細胞が一列につらなり頂端細胞の先端だけが伸びるので,先端の伸びる向きが光の方へ変わって曲がる。子葉鞘のように,先端で受けた光でオーキシンが陰側へ移り,下方の伸長部で光側と陰側の細胞の伸長に差ができて曲がるしくみはとれない。(123字)
Ⅱ C 単相(n)と複相(2n)のほかの核相をもつ組織を探す。被子植物の重複受精では、精細胞の1つが卵細胞(n)と合体して受精卵(2n)になり、もう1つが中央細胞の2つの極核(n+n)と合体する。
n + n + n = 3 n
こうしてできた細胞が分裂して作る組織が、種子の中で胚の栄養になる組織。
Ⅱ D 変異は葉緑体ゲノム に起きている。葉緑体は細胞質の中にあり、分裂で増えて子の細胞に分けられる。受精では、卵は細胞質(葉緑体を含む)をたくさんもつが、精子は細胞質をほとんど持たず、葉緑体は子に伝わらない。
そのため、受精卵から育つ胞子体の葉緑体はすべて卵のもの。胞子体が作る胞子にも、同じ葉緑体が分けられる。子はすべて、卵をつくった親と同じ葉緑体をもつ ので、変異株の卵からは変異型だけ、野生株の卵からは正常型だけが生じる。これが細胞質遺伝(母性遺伝)。
なお「胞子形成には影響が無い」とあるのは、変異型の胞子体でも胞子を作れる、という意味で、比べる材料をそろえるための約束。
答え 葉緑体は卵の細胞質を通して子に伝わり,精子の葉緑体は伝わらないので,胞子体とその胞子の葉緑体の遺伝子は,すべて卵をつくった親のものになるから。(71字)
Ⅱ E こちらの FtsZ の遺伝子は細胞核 にあるので、メンデルの遺伝のしかたをする。変異株(こわれた遺伝子を z とする)と野生株(Z )はどちらも配偶体で単相(n)なので、それぞれの配偶子は z と Z 。
受精してできる胞子体は Z z (2n)。これが減数分裂すると、胞子(n)は Z と z に半分ずつ分かれる。コケでは胞子から育つ原糸体も単相なので、胞子のもつ遺伝子がそのまま表現型に出る 。優性・劣性を考えなくてよい。
z をもつ胞子からは、葉緑体が分裂できずに細胞あたり1個の巨大葉緑体をもつ原糸体ができ、Z をもつ胞子からはふつうの(20個以上の葉緑体をもつ)原糸体ができる。問D とちがい、どちらを卵にしても結果は同じ。
答え 細胞あたり1個の巨大葉緑体をもつ原糸体を生じる胞子と,野生型(細胞あたり20個以上の葉緑体)の原糸体を生じる胞子が,1:1の比で現れる。(68字)
Ⅲ A 空欄3:酸素がたまったことで可能になった、大量のエネルギーを得るしくみ。酸素を使って有機物を二酸化炭素と水まで分解する呼吸は、酸素を使わない分解(発酵など)よりずっと多くの ATP を作れる。
空欄4・5:酸素に太陽の光のうち波長の短いもの(紫外線)が当たると、オゾンができる。成層圏にたまったオゾンの層が、生物に有害な紫外線を吸収して地上に届きにくくし、生物が陸に上がれるようになった。
答え 3 呼吸(酸素を使う呼吸),4 紫外線,5 オゾン
Ⅲ B (1) 光合成細菌(緑色硫黄細菌・紅色硫黄細菌など)は、光のエネルギーを使うが、水ではなく硫化水素などを使うので酸素を出さない。正しい。
(2) 文3にあるように、酸素を最初に大量に出したのはシアノバクテリア で、その化石(ストロマトライト)は20〜30億年前の地層から見つかる。海での光合成は、大型の藻類が生まれるずっと前から行われていたので、これが正しくない。
(3) は、光合成生物より前の生物が、無機物を酸化するなどしてエネルギーを得ていた(化学合成など)という内容。(4) は、食物連鎖をたどると、ほとんどの炭素とエネルギーが光合成に行きつくという内容で、どちらも文3の流れと合う。
第3問 三毛猫と X 染色体 — 同じ遺伝子でも同じ模様にならない 答えは東大の正解ではなく、自分で解いて、式とは別の計算で確かめたもの。
問題の読み方 視覚・発生・遺伝の3つの話が、最後に「三毛猫」と「赤緑色盲」でつながる問題。文1は、左右の眼の情報が脳でどう合わさるか。文2は、色素細胞が背中の神経管の近くで生まれて体表に広がること。文3は、哺乳類のメスでは X 染色体の片方が細胞ごとにくじ引きで止まる(不活性化)こと。文4は、それをヒトの赤緑色盲に当てはめる。
読むときの一番の道具は、「どちらの X を止めるか」は細胞ごとの偶然で決まり、決まったあとは子孫の細胞にそのまま受けつがれる ということ。1個の細胞が決めた向きが、増えた細胞のかたまり(斑)全体に広がる。三毛猫の模様も、ヘテロの女性の網膜も、この「くじ引き+受けつぎ」でできている。
もう1つの道具は、性染色体の数。オスは X が1本(XY)、メスは2本(XX)。X 上の遺伝子は、オスでは1つしかないので、ヘテロ(2種類を両方もつ)になれない。
Ⅰ 図2を見ると、視野の同じ位置をとらえる左右の眼の視細胞は、一次視覚皮質の同じ場所に情報を送っている。
盲点は、視神経が束になって眼から出ていく所で、網膜の中心より少し鼻の側 にある。レンズで像が反転するので、右眼の盲点は視野の右側 、左眼の盲点は視野の左側 をとらえる位置になる。参考図で、右眼のときは右の ×、左眼のときは左の × が消えるのはこのため。
つまり、左右の眼の盲点は視野の別々の場所に対応していて、重ならない。右眼の盲点に入った所は左眼が見ていて、その情報が一次視覚皮質の同じ場所に届くので、両眼で見ると穴が埋まる。デモで「両眼」にすると、見えない点が1つも無くなる。
答え 左右の眼の盲点は視野の異なる位置にあり,一方の眼の盲点に入る像は他方の眼がとらえ,その情報が一次視覚皮質の同じ位置に送られて補われるから。(69字)
Ⅱ 脊椎動物の発生では、背中側の外胚葉が厚くなって神経板になり、それが溝になって丸まり、管として閉じたものが神経管になる。のちに脳や脊髄になる。
神経管ができるとき、その背側のふちから離れて移動していく細胞が神経冠細胞(神経堤細胞)で、色素細胞などになる(図3)。神経管と神経冠細胞は、同じ胚葉から生まれる。
Ⅲ A X 染色体上の対立遺伝子 O(茶)と o(黒)について、メスは X を2本もつので、2本の組み合わせを考える。
茶一色になるのは茶色遺伝子のホモ接合、黒一色は黒色遺伝子のホモ接合、黒と茶の斑になるのはヘテロ接合。本文の順番(茶のホモ → 黒のホモ → ヘテロ)に合わせて並べる。
答え 1 OO,2 oo,3 Oo(X 染色体どうしの組み合わせ)
Ⅲ B 白斑遺伝子 S をもつと、色素細胞が体表全体には広がらず、一部の毛は白くなる。だから、ss のときの色に「白」が加わる。
空欄1(茶一色の遺伝子型)なら茶と白の斑、空欄2(黒一色)なら黒と白の斑、空欄3(黒と茶の斑)なら黒と茶と白の斑になる。最後の場合が三毛猫(下線部(ウ))。
Ⅲ C 三毛猫になるには、X 上の O と o の両方 をもって、体の場所によって O がはたらく細胞と o がはたらく細胞に分かれる必要がある。
オスは X 染色体を1本しかもたないので、O か o のどちらか一方しかもてない。だから体色は黒系か茶系のどちらかで、黒と茶の両方は出ない。デモで猫を「オス」にすると、色の付いた所は1色だけになる。
「ほとんど」とあるのは、まれに XXY のように X を2本もつオスがいて、それが三毛になることがあるから。
答え 三毛には X 染色体上の O と o の両方が要るが,オスは X 染色体が1本で O か o の一方しかもてず,黒と茶の斑にならないから。(69字)
Ⅳ A 母は茶と白の斑のメスなので、X は茶色遺伝子のホモ接合(O と O)、白斑遺伝子は SS か Ss。
三毛猫はメスで、O と o のヘテロ、しかも S をもつ。母は O しか渡せないので、o は父から来るしかない 。父から X を受けとるのは娘なので、父は X に o をもつオス、つまり毛色が黒系のオス。
白斑遺伝子のほうは、母が S をもっているので、父が S をもたなくても(ss でも)、子は母から S を受けとれる。だから黒一色のオスでも、黒と白の斑のオスでもよい。茶系のオスでは娘が O と O になるだけで、三毛は生まれない。デモで父を切りかえると、三毛の割合が 0 になるかどうかで確かめられる。
Ⅳ B 息子は、X を母から、Y を父から受けとる。母の X はどちらも O なので、息子は必ず茶系。白斑は、S を受けとれば茶と白の斑、受けとらなければ(母 Ss から s、父から s)茶一色になる。
娘は、母から O、父から o を受けとるので、必ずヘテロ(黒と茶)。S をもてば三毛、ss なら黒と茶の斑になる。ss の娘は、母が Ss で父も s をもつとき(父が黒一色か、Ss の黒と白の斑)に生まれうる。
オス親の候補が2つとも入るように、全部の場合をまとめて列挙する。三毛以外の毛色を聞いているので、娘の三毛は除く。
Ⅴ A 男性は X が1本なので、赤緑色盲の男性の割合がそのまま遺伝子の頻度になる。20人に1人なので q = 0.05 。
女性で「赤緑色盲遺伝子をもつ」のは、X の2本のうち少なくとも1本がその遺伝子である人。ハーディー・ワインベルグの法則が成り立つとすると、2本とも正常である割合は ( 1 − q ) 2 なので、
1 − ( 1 − q ) 2 = 1 − 0.95 2 = 0.0975
これに女性志願者の数 3224 をかける。確かめとして、男性は 11673 × 0.05 ≈ 584 で、問題文の約580名と合う。ヘテロの人だけを数えても(2 × 0.05 × 0.95 )有効数字2ケタでは同じになる。
Ⅴ B ヘテロの女性の網膜では、視細胞ごとに、正常な遺伝子をもつ X と色盲の遺伝子をもつ X のどちらかが止まっている。どちらを止めるかは細胞ごとのくじ引きなので、ふつうは正常な遺伝子がはたらく視細胞が半分くらいになる。
でも、くじ引きはかたよることがある 。網膜のもとになる細胞がまだ少ない時期に不活性化が起きると、少ない数のくじの結果が網膜全体に広がるので、かたよりが大きくなりやすい。正常な X が止まった細胞がほとんどになれば、網膜の視細胞のほとんどで色盲の遺伝子だけがはたらき、色盲の表現型になる。
左右の眼で別々にかたよれば、片眼だけ色盲の表現型を示す女性もいることになる(文4の最後の話)。デモでは、網膜のもとの細胞を 16 個とすると片眼だけ色盲の人は約 0.05%、6 個にすると約 3% になった。
答え X 染色体の不活性化がかたより,網膜の視細胞の大部分で正常な遺伝子をもつ X 染色体が不活性化されて,色盲の遺伝子だけが発現している。(67字)
Ⅴ C ほとんどのヘテロの女性では、正常な遺伝子がはたらく視細胞が網膜の半分くらいあり、しかも網膜全体に細かく混ざって 散らばっている。
視野のどこを見ても、その近くに正常な視細胞があるので、そこからの情報で赤と緑を区別できる。脳はまわりの視細胞の情報をまとめて色を感じるので、全体としてふつうに色を見分けられる。
「約半分が変異」でも、半分の正常な細胞がまんべんなくあれば、はたらきとしては足りる、というのがなるほどの点。デモの網膜の絵で、青と赤が細かく混ざっているのがこの状態。
答え 正常な遺伝子が発現する視細胞が網膜全体に細かくまざって分布しており,それらからの情報で色を区別でき,脳で統合されると正常に見分けられるから。(70字)
Ⅵ クローンは遺伝子のセットが元の猫と全く同じ。でも三毛の模様は、遺伝子だけでは決まらない。
1つ目の偶然は、X の不活性化 。発生のとちゅうで、色素細胞のもとの細胞それぞれが、父由来と母由来のどちらの X を止めるかをくじ引きで決める。クローンの子猫でもくじ引きはやり直しになるので、黒と茶の斑の配置は元の猫とちがう。
2つ目の偶然は、色素細胞の移動 。文2の最後にあるように、色素細胞がどこへ移動しどこにとどまるかは細胞ごとに厳密に決まっていない。白斑遺伝子をもつ猫では、白い所の形もこれで変わる。
黒と白の斑や茶と白の斑のオスでは、X は1本なので不活性化のくじ引きは無く、色(黒か茶か)は元の猫と同じ。でも白い所の形は色素細胞の移動で決まるので、やはり元の猫と全く同じにはならない。デモでは、三毛のクローンは色の付いた所の色が約半分しか一致せず、オスのクローンは色は全部一致するが、体の各場所で白か色つきかが一致するのは約 9 割だった。
答え 三毛猫のクローンは模様が違う。X の不活性化と色素細胞の移動が偶然で決まるから。オスは X が1本で毛色は同じだが,白斑の形は色素細胞の移動が偶然なので違う。(79字)