東大 過去問 2009年 生物|AI解答・解説・シミュレーション|アトリエファクトリー

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東京大学 第2次学力試験(前期)2009年 理科「生物」(東京大学がかつて公開したPDFの Internet Archive 保存版)

問題・出題の意図・東京大学の解答例(東京大学の公表資料)

東京大学の利用規定について

東京大学は、入試問題と出題の意図・解答の2次利用について「東京大学第2次学力試験入学試験問題等の2次利用について」(令和6年7月1日改定)で条件を定めている。このサイトでの対応は次のとおり。

解答とシミュレーション(AIで作成)

制作

制作:アトリエファクトリー(aTELiER FACTORY) https://atelierfactory.jp/

修正履歴

お知らせ(2026年10月4日)

解答・解説・シミュレーションは、すべて Claude Opus 5.5 で作成しています。作ったあとの確かめ方は、科目によって違います。

どの科目も、東京大学が公表した解答ではありません。くわしくは「問題取得方法と回答生成方法」をご覧ください。

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生 物

第1問

 次の文1〜文3を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。

〔文1〕

 細胞が分裂をくり返していく過程で,DNA は正確に複製されて,細胞から細胞へと伝えられる。しかし,ごくまれに DNA の 1 が変化して形質の変化がひきおこされることがある。このように,DNA の 1 が変化したことによって形質の異なる個体が新たに出現することを突然変異という。自然の状態では突然変異の発生率はきわめて低い。しかし,2 や 3 などで人為的に処理することにより,突然変異を誘発することができる。発生に影響を与える突然変異をもつ個体の研究は,発生を調節する遺伝子の発見へとつながった。

〔文2〕

 初期発生において,未受精卵の中に存在する母親由来の mRNA が,受精後にタンパク質に翻訳されて胚の発生を制御することが知られている。このようなタンパク質は,母性効果因子とよばれている。母性効果因子の中には,胚の(ア)卵割回数を制御するものがある。(イ)卵割は通常の体細胞分裂とは異なる特徴をもつ。(ウ)多くの動物の初期発生では,卵割が特定の回数に達するまでは,ある母性効果因子によって胚自身の遺伝子発現が抑制されていることがわかってきた。

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〔文3〕

 母性効果因子の中には,キイロショウジョウバエ胚の前後軸パターン(頭部,胸部,腹部)形成に関与するものもある。

 母性効果因子 P の mRNA は,卵形成時に卵の前方に偏在しているため,胚の中で合成されたタンパク質 P もかたよった分布を示す。

 図1—1(a)に,正常な初期胚におけるタンパク質 P の分布,およびその分布にしたがって決定される胚の前後軸パターンを示す。(エ)P をコードする遺伝子 P を欠失した母親から生まれた胚は,図1—1(b)のような前後軸パターンとなり,正常に発生できずに死んでしまう。(オ)タンパク質 P を人為的に正常よりも多くしたところ,その胚は図1—1(c)のような前後軸パターンを示した。

図1—1 キイロショウジョウバエ初期胚の前後軸に対するタンパク質 P の分布(上図)と,そのときの胚の前後軸パターン(下図)。(a)正常な胚,(b)タンパク質 P をもたない胚,(c)タンパク質 P を正常より多くもつ胚。
図1—1 キイロショウジョウバエ初期胚の前後軸に対するタンパク質 P の分布(上図)と,そのときの胚の前後軸パターン(下図)。(a)正常な胚,(b)タンパク質 P をもたない胚,(c)タンパク質 P を正常より多くもつ胚。
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 母性効果因子 Q の mRNA は,図1—2(a)のグラフのように,卵形成時に卵の後方に偏在している。Q をコードする遺伝子 Q を欠失した母親から生まれた胚は,腹部構造をもたない。

 一方,(カ)母性効果因子 R の mRNA は,卵形成時に卵全体に均一に存在しているが,合成されたタンパク質 R は,図1—2(b)のグラフのように,その分布にかたよりが見られた。R をコードする遺伝子 R を欠失した母親から生まれた胚は,正常な前後軸パターンをもつ。しかしながら,(キ)タンパク質 R を胚の後方で人為的に増やしたところ,胚は腹部形成できなくなった。

 (ク)遺伝子 Q を欠失した母親から生まれた胚が腹部形成できないにもかかわらず,遺伝子 Q と遺伝子 R を両方とも欠失した母親から生まれてきた胚の腹部形成は正常であり,胚の前後軸パターンに異常は見られなかった。

図1—2 正常な卵または胚の前後軸に対する,(a) Q および R の mRNA 分布,(b)タンパク質 Q およびタンパク質 R の分布。
図1—2 正常な卵または胚の前後軸に対する,(a) Q および R の mRNA 分布,(b)タンパク質 Q およびタンパク質 R の分布。
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〔問〕

Ⅰ 文1について,以下の小問に答えよ。

A 空欄1〜3に入る適切な語句を記せ。

B 遺伝する形質が繁殖に有利にはたらいた場合,その形質をもつ個体が他の個体よりも多くの子孫を残すことにより,その形質が集団に広まるという,1850 年代に唱えられた説を何というか。

Ⅱ 文2について,以下の小問に答えよ。

A 下線部(ア)について。(a)ウニ,(b)カエルの卵割様式および卵の種類について,正しい組み合わせを以下の(1)〜(6)からそれぞれ1つずつ選べ。

(1) 等 割—等黄卵

(2) 等 割—心黄卵

(3) 等 割—端黄卵

(4) 不等割—等黄卵

(5) 不等割—心黄卵

(6) 不等割—端黄卵

B 下線部(イ)について。卵割について正しく述べたものを,以下の(1)〜(6)から3つ選べ。

(1) 分裂ごとに個々の細胞の大きさは小さくなる。

(2) 分裂ごとに DNA の複製がおこる。

(3) 分裂を経ても細胞の大きさはほとんど変わらない。

(4) 分裂を経ても胚の大きさはほとんど変わらない。

(5) 通常の体細胞分裂と比較して,分裂の進行が遅い。

(6) 1回目の分裂では,細胞あたりの染色体の数が半減する。

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C 下線部(ウ)について。魚類の一種,ゼブラフィッシュでは,胚に均一に分布するある母性効果因子 X によって,10 回の卵割が終了するまでのあいだ,胚自身の遺伝子発現は抑制されているが,その後,発現が開始する。ある実験で,一倍体(単相)のゼブラフィッシュ胚を作製したところ,11 回目の卵割が終了した後に,胚自身の遺伝子発現が開始した。これらの結果から得られる妥当な推論を,以下の(1)〜(5)から2つ選べ。ただし,正常のゼブラフィッシュ胚は二倍体(複相)であり,母性効果因子 X の量,胚の大きさ,および卵割のしかたは,一倍体でも二倍体でも同様であるとする。また,胚全体での母性効果因子 X の総量は変化しないものとする。

(1) 胚自身の遺伝子発現が開始するときの胚に含まれる DNA 量は,一倍体の胚であっても,二倍体の胚と同じである。

(2) 胚自身の遺伝子発現が開始するタイミングは,胚に含まれる細胞の個数によって決定される。

(3) 胚自身の遺伝子発現が開始するタイミングは,胚に含まれる細胞核の個数によって決定される。

(4) 母性効果因子 X の量を2倍に増やした場合,胚自身の遺伝子発現が開始するまでの卵割回数は1回多くなる。

(5) 母性効果因子 X の量を2倍に増やした場合,胚自身の遺伝子発現が開始するまでの卵割回数は1回少なくなる。

D キイロショウジョウバエにおいて,ある母性効果因子 Z をコードする遺伝子 Z がある。突然変異により機能を喪失したものを対立遺伝子 z と表記する。胚において,この母性効果因子が機能をもたない場合には,その胚は正常に発生できない。Zz の母親と Zz の父親の交配によって生じた胚のうち,zz の遺伝子型をもつものは正常に発生できるだろうか。理由を含めて3行程度で述べよ。

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Ⅲ 文3について,以下の小問に答えよ。

A 下線部(エ)について。図1—1(b)に示した胚の前後軸パターンから考えられる,タンパク質 P の前後軸パターン形成における役割は何か,次の(1)〜(4)からすべて選べ。

(1) 頭部形成を抑制する。

(2) 胸部形成を促進する。

(3) 腹部形成を促進する。

(4) 頭部形成と胸部形成に役割をもたない。

B 下線部(オ)について。タンパク質 P はどのようにして胚の前後軸パターン形成に関与すると考えられるか。図1—1(c)の結果に基づいて,2行程度で述べよ。

C 下線部(カ)について。R の mRNA の分布とタンパク質 R の分布が異なる理由を説明した次の(1)〜(4)について,間違っているものをすべて選べ。

(1) タンパク質 R はタンパク質 Q を分解する。

(2) タンパク質 Q は R の mRNA の翻訳を阻害する。

(3) タンパク質 Q は R の mRNA の転写を抑制する。

(4) タンパク質 Q は R の mRNA の転写を促進する。

D 下線部(キ)について。この実験から推測されるタンパク質 R の機能を,1行程度で簡潔に述べよ。

E 下線部(ク)について。この結果から,前後軸パターン形成において Q と R はそれぞれどのような役割を果たしていると推測されるか,3行程度で説明せよ。Q および R について,遺伝子,mRNA,タンパク質を明確に区別して記せ。

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第2問

 次の文1と文2を読み,Ⅰ〜Ⅲの各問に答えよ。

〔文1〕

 動物と異なり自由に動きまわることのできない植物は,さまざまな環境要因の変化(環境刺激)に適応して生きていくために植物独自の機構を発達させている。環境要因の中で代表的なものに光と重力がある。たとえば,光が斜めに差し込む窓際で植物を生育させると茎は光の方向に曲がる。この現象を光屈性という。一方,植物体を横倒しにすると,茎は上に向かって立ち上がってくる。これを重力屈性という。茎は 1 の光屈性と 2 の重力屈性,根は 3 の光屈性と 4 の重力屈性を示す。また光と重力は,植物に対してたがいに独立にはたらくことがわかっている。

 これらの屈性反応は,環境刺激によって茎や根の片側に成長調節物質がかたより,細胞の伸長速度に差ができることによってひきおこされる。(ア)その成長調節物質として最も重要なものがオーキシンである。図2—1に示すように,オーキシンの作用は器官によって,また濃度によって異なっている。たとえば茎の左側から光が当たり,茎の左側では①,茎の右側では②というオーキシンの濃度差ができたとすると,左側よりも右側の細胞の方がより伸長するので,茎は左側に曲がる。(イ)重力屈性によって茎と根が曲がることも,オーキシン作用のこの特徴から説明することができる。

図2—1 オーキシン濃度の茎と根の細胞の伸長におよぼす効果
図2—1 オーキシン濃度の茎と根の細胞の伸長におよぼす効果
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〔文2〕

 植物が重力をどのように感知するかについて,アブラナ科の植物であるシロイヌナズナを材料に用いて研究が進みつつある。図2—2はシロイヌナズナの茎と根(主根)の構造を模式的に示したものである。この中で,茎では内皮細胞,根ではコルメラ細胞に,細胞小器官アミロプラスト(注2—1)が発達している。茎と根の切片を作製してヨウ素染色してみると,植物をどの向きに置いた場合でも,アミロプラストが細胞の中で重力の向きにしたがって沈降しているのが,観察された(図中の黒い点)。このことから,(ウ)アミロプラストが 5 としてはたらき,細胞が重力方向を感知する結果,植物体内でのオーキシンの濃度差が生じ,重力屈性が示されるのではないかという仮説が立てられた。

(注2—1) アミロプラスト:色素体と総称される細胞小器官の一種で,とくにデンプン粒を多量に蓄積したもの。

図2—2 茎(左)と根(右)の組織の模式図
図2—2 茎(左)と根(右)の組織の模式図
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 このシロイヌナズナから,茎や根が重力刺激(注2—2)に正しく反応できない変異株 p,s,z が分離された。これらの変異株は次のような表現型を示した。ただし,いずれも光屈性は正常であった。

(注2—2) 重力刺激:植物体を傾けて,人為的に重力の方向を変えることによって与える。光屈性の寄与を除くために暗所で行う。

(1) 変異株 p

 茎と根の重力屈性は,どちらも完全には失われていなかったが,野生株に比べると重力刺激に対する反応が鈍くなっていた。茎でも根でも,色素体はデンプン粒を蓄積したアミロプラストにはなっていなかった。

(2) 変異株 s

 茎の重力屈性は失われていたが,根は正常に重力刺激に反応した。茎と根のどちらにも内皮細胞が形成されず,それ以外の組織は正常であった。

(3) 変異株 z

 変異株 s と同様,茎だけが重力屈性を失っていた。茎では内皮細胞が正常に存在しアミロプラストも発達していたが,細胞の下側に沈降していないアミロプラストがしばしば観察された。

 これらの変異株の重力屈性異常の原因を調べるための実験の結果,さらに次のようなことがわかった。

 変異株 p では,デンプンの合成に必要な酵素の1つが失われていることがわかった。デンプン粒を含まずアミロプラストになることのできなかった色素体は,通常の重力(1×g)では重力方向に十分沈降できないが,遠心力を加えて通常の5倍の強さの重力環境下(5×g)におくと野生株のアミロプラストと同様に沈降した。そのとき重力屈性もほぼ正常に示した。

 変異株 z については,アミロプラストの挙動を調べるために詳細な顕微鏡観察が行なわれた。野生株でも変異株 z でも,茎の内皮細胞には(エ)非常に大きな液胞が発達していた。野生株では液胞を横切る細胞質糸(注2—3)が多数存在し,アミロプラストの多くは細胞内下側の細胞質糸の中に観察された(図2—3左)。一方,変異株 z では細胞質糸がほとんど形成されず,アミロプラストは液胞膜と細胞膜の間に挟まれた状態で,細胞内の下側だけでなく上側や側面にも見出された(図2—3右)。さらに,生きたままの茎の組織を顕微鏡観察しながら,重力に対する植物の向きを変えると,内皮細胞のアミロプラストは,野生株では細胞質糸を通って新しい下面に数分で移動したが,変異株 z ではほとんど動かなかった。また,根のコルメラ細胞では,野生株でも変異株 z でも液胞はあまり大きく発達せず,アミロプラストはいずれの場合も細胞質基質の中を自由に動くことができた。

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(注2—3) 細胞質糸(原形質糸):液胞の内側を横切る細胞質基質の連絡通路。液胞膜でできたチューブ状の通路で,その中をさまざまな細胞小器官が通過する。

図2—3 野生株(左)と変異株 z(右)の茎の内皮細胞
図2—3 野生株(左)と変異株 z(右)の茎の内皮細胞
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〔問〕

Ⅰ 文1について,以下の小問に答えよ。

A 空欄1〜4に「正」または「負」の語を入れよ。

B 下線部(ア)について。

(a) オーキシンは植物ホルモンの1種である。どのような化学物質か。化合物名で答えよ。

(b) 植物の成長を調節する植物ホルモンをオーキシン以外に2つ記せ。

C 下線部(イ)について。暗いところで植物体を傾けたとき,茎でも根でも重力方向の下側でオーキシンの濃度がより高くなることが古くから知られている。図2—1で,茎と根の組織内のオーキシン濃度が,茎では 10−1〜10 mg/l,根では 10−3〜10−1 mg/l の範囲内にあるとして,茎と根が示す重力屈性が逆になる理由を2行程度で述べよ。

Ⅱ 文2について,以下の小問に答えよ。

A ヒトの内耳にも,下線部(ウ)と同様のしくみがある。空欄5に入る語を記せ。

B 変異株 p について。この変異株の解析から,アミロプラストのデンプン粒蓄積は,重力屈性においてどのような役割があると考えられるか。1行で述べよ。

C 変異株 s について。この表現型から,茎と根の重力屈性における内皮細胞の必要性についてどのようなことが結論できるか。1行で述べよ。

D 下線部(エ)について。植物細胞の液胞には,一般的にどのような機能があるか。2つ記せ。

E 野生株と変異株 p,z の比較から,茎での重力感知のためにはアミロプラストのどのような挙動が重要であると推定されるか。1行で述べよ。

F 変異株 z の顕微鏡観察の結果から,茎の内皮細胞における細胞質糸の有無とアミロプラストの挙動の間にどのような関係があると推定されるか。2〜3行で述べよ。

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Ⅲ 植物の重力屈性の機構をさらに理解するために,シロイヌナズナの変異株の探索を続け,茎と根がともに重力屈性を示さない新しい変異株 x を得たと仮定する。変異株 x では,茎の内皮細胞でも根のコルメラ細胞でも,アミロプラストが発達して正常に重力方向に沈降し,また光屈性は正常であったとする。この変異株の表現型は,どのような機能を損なっていることが原因と考えられるか。以下の(1)〜(6)から,適切なものを2つ選べ。

(1) アミロプラストでデンプンを合成するしくみ

(2) アミロプラストの位置情報を検知するしくみ

(3) 液胞を大きく発達させるしくみ

(4) 細胞質糸を発達させるしくみ

(5) アミロプラストの沈降に応じてオーキシン濃度差を作り出すしくみ

(6) オーキシンに応答して細胞伸長を調節するしくみ

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第3問

 次の文1と文2を読み,ⅠとⅡの各問に答えよ。

〔文1〕

 私たちの遺伝子には,私たちの生物としての歴史が書き込まれている。今日,ヒト(ホモ・サピエンス)の起源と進化に関する研究では,遺伝子の研究が大きな役割を果たしている。そのなかで注目されたのが,(ア)細胞小器官のひとつであるミトコンドリアである。

 ミトコンドリアは,好気的呼吸によってエネルギーを 1 という物質として取り出す働きをしている。ミトコンドリアの内部に突出する多数のひだは 2 と呼ばれ,ここに 1 を合成する酵素が存在する。一方,中央の部分はマトリックスと呼ばれ,ここには核 DNA とは異なるミトコンドリア DNA が存在する。ミトコンドリア DNA の分子は,ひとつの細胞に数百から数千個と多数含まれるので,DNA 分子が数多く必要だった従来の方法でも,分析が比較的容易であった。今日では,高温でも機能を失わない DNA ポリメラーゼを用いて DNA を人工的に増幅する手法である 3 によって,微量の DNA でも分析できる。

 ミトコンドリア DNA に突然変異が蓄積する速度は,核 DNA に比べて 5〜10 倍ほど速い。特に,遺伝子をコードしていない D ループとよばれる領域では,(イ)コード領域よりも多くの突然変異が発見されている。そのため,突然変異を目印にして集団の関係を調べるのによく用いられる。

 また,ミトコンドリア DNA は,母親由来のミトコンドリア DNA しか子供に伝わらない母性遺伝で子孫に伝わる。(ウ)このミトコンドリア DNA の遺伝様式は,ヒト集団の起源や系統関係を調べるのに適している。現在のヒト集団を広く調べたところ,現代人のもつミトコンドリア DNA は,約 10 万年から 20 万年前のアフリカにいた女性に由来する可能性が示された。その結果は,化石の研究によるアフリカ単一起源説とよく一致している。

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〔文2〕

 ミトコンドリア DNA 以外のヒトの遺伝子にも,私たちの進化の歴史が刻まれている。身近な遺伝的多型である ABO 式血液型も例外ではない。たとえば,現代の日本人集団では,A 型をあらわす遺伝子の割合(遺伝子頻度)について,九州・四国・本州における,図3—1のような地理的勾配が観察される。(エ)これは現在の日本人を形成した祖先集団の影響であると考えられる。

 ヒトの ABO 式血液型は 1900 年に発見された,最も古くから知られる血液型である。発見当初,ABO 式血液型は,独立した2対の対立遺伝子 A,a と B,b によって決定する,という説が有力だった。それぞれ,遺伝子 A と遺伝子 B が優性である。これを仮説1とする。(オ)しかし,仮説1では AB 型の親から生まれる子供の血液型の出現頻度をうまく説明することができない。

 そこで,別の仮説(仮説2)が提唱された。仮説2では,3つの複対立遺伝子 α,β,o があると考える。遺伝子 α と遺伝子 β は,それぞれ遺伝子 o に対して優性であるが,遺伝子 α と遺伝子 β の間に優劣はない。それぞれの仮説における,各血液型に対する遺伝子型を表3—1に示す。

 この2つの仮説の妥当性を検証するために,集団の血液型頻度から各遺伝子の遺伝子頻度を計算してみよう。まず,仮説1で遺伝子 a の遺伝子頻度を pa とすると,遺伝子 A の遺伝子頻度は 1−pa となる。同様に,遺伝子 b と B の遺伝子頻度は,それぞれ pb および 1−pb である。一方の仮説2における3つの遺伝子 α,β,o の遺伝子頻度を,それぞれ pα,pβ,po とすると,それらの3つの合計は1になる。それぞれの遺伝子頻度が,世代を経ても増減しないと仮定すると,表3—2に示したように A 型の血液型頻度は,仮説1では (1−pa2)pb2,仮説2では pα2+2pαpo となる。(カ)それぞれの仮説から導かれる血液型頻度と,実際のヒト集団の血液型頻度を比較することで,2つの仮説の妥当性を検証できる。多くのヒト集団で血液型の調査がなされた結果,今日では仮説2が広く認められている。

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図3—1 現代(20 世紀中頃)の九州・四国・本州における A 型をあらわす遺伝子の頻度の地理的勾配
図3—1 現代(20 世紀中頃)の九州・四国・本州における A 型をあらわす遺伝子の頻度の地理的勾配
表3—1 ABO 式血液型と仮説1および仮説2における遺伝子型
表3—1 ABO 式血液型と仮説1および仮説2における遺伝子型
表3—2 仮説1および仮説2における各 ABO 式血液型の頻度
表3—2 仮説1および仮説2における各 ABO 式血液型の頻度
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〔問〕

Ⅰ 文1について,以下の小問に答えよ。

A 空欄1〜3に入る最も適切な語句を記せ。

B 下線部(ア)について。ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官の起源は,原始的な真核生物の細胞内に共生した原核生物だという説がある。その説を支持すると考えられる事実を2つ答えよ。

C 下線部(イ)について。ミトコンドリア DNA においてコード領域よりも,D ループで多くの突然変異が発見された理由として考えられることを,2行程度で述べよ。

D 下線部(ウ)について。ヒト集団の起源や系統関係を調べるためには,祖先でおこった突然変異を子孫が共有することを目印として,個体間や集団間の関係を解析する。母性遺伝というミトコンドリア DNA の遺伝様式が,ヒトの系統解析に適している理由について,以下の(1)〜(5)の中から適切なものをすべて選べ。

(1) ヒトのミトコンドリア DNA は組換えを考慮しなくてよいので,遺伝的変異が突然変異にのみ由来するため。

(2) 卵のミトコンドリア DNA の分子数は,精子のそれよりも多いので,突然変異が蓄積しにくいため。

(3) 卵形成過程の極体放出により,突然変異をおこした DNA が除去されるので,卵のミトコンドリア DNA には突然変異が蓄積しにくいため。

(4) DNA を傷つける活性酸素の濃度が,卵母細胞では精母細胞よりも高いので,ミトコンドリア DNA の突然変異が卵で多くおこるため。

(5) たとえば5世代さかのぼったとき,核 DNA は最大 32 人の祖先に由来するが,ミトコンドリア DNA では1人の祖先に由来するため。

E ミトコンドリア DNA では父方の遺伝情報について調べることができない。ヒト集団について,父系の系統関係を調べる対象として,最も適しているものを1つ答えよ。

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Ⅱ 文2について,以下の小問に答えよ。

A 下線部(エ)について。日本列島には,もともと縄文系集団が住んでいたが,弥生時代のはじめに,大陸に由来する渡来系集団が九州北部にあらわれた。現代の日本人はこれらの遺伝的に異なる2つの集団に,おもに由来すると考えられている。このことから,A 型をあらわす遺伝子の頻度が現代において地理的に均一ではなく,図3—1のような地理的勾配を示す理由として,どのようなことが考えられるか,2行程度で述べよ。ただし,もともとの縄文系集団においては,A 型をあらわす遺伝子の頻度は地理的に均一だったとする。また ABO 式血液型の遺伝子型によって生存や生殖に有利・不利はないものとする。

B 下線部(オ)について。AB 型の親から生まれる子供の血液型について,仮説1では説明できない現象がみられる。どのような現象か,1〜2行で述べよ。

C 表3—2の空欄4と5それぞれに入る血液型頻度について,pα,pβ,po を用いて答えよ。

D 下線部(カ)について。ある集団で各 ABO 式血液型の個体数を調査したところ,表3—3のデータを得た。仮説1では,A 型の血液型頻度 (1−pa2)pb2 と,O 型の血液型頻度 pa2pb2 を合計すると pb2 となる。表3—3のデータから,この集団における遺伝子 b の遺伝子頻度は 0.9 と推定できる。同様に,B 型と O 型の血液型頻度を合計した値から,遺伝子 a の遺伝子頻度は 0.7 と推定される。

(a) 仮説1から期待される AB 型の人数は,この集団では何人になるか。有効数字2桁で答えよ。

(b) 同様に,A 型と O 型の血液型頻度を用いて,仮説2の遺伝子 β のこの集団における遺伝子頻度を計算し,有効数字2桁で答えよ。

(c) 仮説2から期待される AB 型の人数は,この集団では何人になるか。有効数字2桁で答えよ。

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表3—3 あるヒト集団における ABO 式血液型の個体数
表3—3 あるヒト集団における ABO 式血液型の個体数