第1問
次の文章を読んで,設問(1)〜(6)に答えよ。ただし,気体はすべて理想気体とみなす。
①硫酸 は,肥料や各種化学薬品の製造など幅広い分野で使用される重要な化学物質であり,化学工業を支える原料として大量に製造されている。その工業的な製造法として,広く用いられているのが接触法である。接触法では,酸化バナジウム(Ⅴ) を②触媒に用いて,次の反応 1 のように,③二酸化硫黄 を酸素 で酸化し,三酸化硫黄 を生成する。
反応 1
④生成した は と反応させて発煙硫酸として回収され,続いて,⑤この発煙硫酸を水と反応させることで が得られる。反応 1 において生成した を発煙硫酸として回収し除去することにより,⑥反応 1 の平衡が生成物側に移動し,反応の収率を高めることができる。これにより,効率的な硫酸の製造が可能となっている。
設問(1):下線①に関して,加熱した濃硫酸に銅を入れて反応させた。このとき,得られた気体を Pa,0 ℃にしたところ,気体の体積は 11.2 L であった。反応した銅は何 g か。有効数字 2 桁で求めよ。ただし,水の蒸発は無視できるものとする。
設問(2):下線②に関して,次の(a)〜(d)の記述のうち,正しいものをすべて選び,記号で記せ。正しいものがなければ「なし」と記せ。
(a) 触媒を用いると反応の活性化エネルギーが低くなる。
(b) 液体の反応において,触媒が固体状態である場合,その触媒は均一系触媒である。
(c) 発光を伴う化学反応に用いられる触媒を光触媒とよぶ。
(d) 白金を含む触媒が自動車の排ガス浄化に用いられている。
設問(3):下線③に関して,以下の問いに答えよ。
(i) 反応 1 の右向きの反応のエンタルピー変化は次のように表される。
(気)の生成エンタルピー [kJ/mol] を有効数字 3 桁で求めよ。ただし,(気)の生成エンタルピーは kJ/mol であるとする。
(ii) は正三角形の構造をとり,硫黄原子と酸素原子の結合の極性が分子全体で打ち消しあうため,無極性分子であると考えられる。これに対して,アンモニア は極性分子である。 が極性分子となる理由を, 分子の具体的な立体構造に基づいて 60 字以内で説明せよ。
(iii) 密閉容器に, が 2.60 mol と が 1.00 mol のみが入っており,これらを反応させたところ,反応 1 のように平衡状態となり, が 1.20 mol 生成した。このときの の体積百分率 [%] を有効数字 2 桁で求めよ。
設問(4):下線④に関して,設問(3)(iii)の操作に引き続き,密閉容器に十分な量の を加えたところ,気相中の は と反応して発煙硫酸となり,反応 1 の平衡が生成物側に移動し,最終的に は完全に除去された。このとき,容器内に存在する の物質量 [mol] を有効数字 2 桁で求めよ。ただし, と の反応は次の反応 2 に示す不可逆反応であるとし,発煙硫酸は と表されるとする。
反応 2
設問(5):下線⑤に関して,以下の問いに答えよ。ただし, と水の反応は次の反応 3 に示す不可逆反応であるとする。
反応 3
(i) 890 g をすべて水と反応させ,質量パーセント濃度が 10% の希硫酸を得るのに必要な水は何 g か。有効数字 2 桁で求めよ。
(ii) (i)において 890 g を水と反応させると,熱が発生した。この熱がすべて生成した希硫酸の温度上昇に使われたとすると,温度は何℃上昇するか。有効数字 2 桁で求めよ。ただし,反応 3 の反応エンタルピーは 1.00 mol あたり kJ, が水に溶けるときの溶解エンタルピーは kJ/mol,希硫酸の比熱容量は 4.00 J/(g·K) とする。
(iii) 次の(a)〜(d)から,実験室において安全に濃硫酸と水を混合する操作として最も適切なものを 1 つ選び,記号で記せ。
(a) 濃硫酸に水を一度に大量に加える。 (b) 水に濃硫酸を一度に大量に加える。 (c) 濃硫酸に水を少しずつ加える。 (d) 水に濃硫酸を少しずつ加える。
設問(6):下線⑥に関して,密閉容器内に気体の ,, が十分に存在し,反応 1 が平衡状態にあるとする。この状態から,以下の操作(a)〜(d)を行ったとき,平衡が生成物側(右方向)に移動するものをすべて選び,記号で記せ。平衡が生成物側に移動するものがなければ「なし」と記せ。ただし, の体積は無視できるものとする。
(a) を容器に追加する。 (b) 容器の体積を小さくする。 (c) 容器の体積を一定に保ったまま を追加する。 (d) 容器の体積を一定に保ったままアルゴン Ar を追加する。
第2問
次の文章を読んで,設問(1)〜(6)に答えよ。
周期表の第 4 周期第 7 族のマンガン Mn は幅広い酸化数をとる。例えば,①Mn の酸化物には,Mn の酸化数が+4 であるものに加え,Mn の酸化数が+2 である MnO や,Mn の酸化数が ア である などが存在する。
過マンガン酸カリウム は,マンガン酸カリウム (Mn の酸化数:イ)を酸化することで合成される。 を構成する過マンガン酸イオン は,酸性条件で強力な酸化作用を示すほか,②中性〜塩基性条件でも酸化作用を示す。 の濃い赤紫色は,酸化還元滴定の終点を示す指標のほか,③試料水溶液中のマンガン(Ⅱ)イオン を定量する指標に用いられる。
硫化マンガン MnS は, を含む中性〜塩基性の水溶液に④硫化水素 を吹き込むことで沈殿として生じる。⑤Mn の水酸化物は,海底に存在するマンガンノジュール(マンガン団塊)の構成成分である。マンガンノジュールは,コバルトやニッケルなどの希少金属も含むため,将来の金属資源としてわが国でも期待されている。
設問(1):文中の空欄 ア,イ にあてはまる適切な酸化数を,正負の符号を明記した整数で記せ。
設問(2):下線①に関して,以下の問いに答えよ。
(i) 金属酸化物に関連する次の(a)〜(d)の記述のうち,正しいものをすべて選び,記号で記せ。正しいものがなければ「なし」と記せ。
(a) 単体のナトリウム Na は灯油中に保存するが,その目的の一つは,酸化ナトリウム の生成を防ぐことである。
(b) 単体のカルシウム Ca を過剰の水と反応させると,水素 が発生するとともに,酸化カルシウム CaO の沈殿が生成する。
(c) 酸化アルミニウム は塩酸と反応し, が発生するとともに,塩化アルミニウム が生成する。
(d) 単体の銅 Cu を空気中で加熱すると酸化銅(Ⅰ) が得られ,これをさらに 1000 ℃以上の高温で加熱すると酸化銅(Ⅱ) CuO が得られる。
(ii) 以下の[MgO,,,CaO,ZnO]の中に示す酸化物のうち,両性酸化物に分類されるものをすべて選べ。ただし解答欄には,選んだ酸化物が過剰の水酸化ナトリウム NaOH 水溶液に溶解したときに形成される錯イオンの化学式を記せ。
設問(3):下線②に関して,次の【実験】を行った。以下の問いに答えよ。
実験操作: 3.16 g を水に溶かし,中性の 水溶液 100.0 mL を調製した。次に,この 水溶液 20.0 mL をはかり取り,加温した。続いて,質量パーセント濃度が 3.40% の過酸化水素水 100.0 mL を,溶液の温度を一定に保ちつつ滴下し,最終的にすべて加えた。
実験結果:過酸化水素水を滴下する前の溶液は濃い赤紫色であった。ⓐ過酸化水素水を滴下していくと,溶液中には黒褐色の固体が生じ,気体が発生した。この過程で,溶液の濃い赤紫色は消失した。さらに,ⓑ過酸化水素水を継続して滴下していくと,気体の発生は続いた。滴下終了後,しばらくして気体の発生は収まった。反応後の溶液は塩基性であった。
(i) 下線ⓐに関して, と過酸化水素 の反応の化学反応式(反応 1 とする)を記せ。
(ii) が反応 1 ですべて消費されたあとに,下線ⓑで起こる の反応の化学反応式(反応 2 とする)を記せ。また,この【実験】において反応 2 を促進する触媒となった物質を化学式で記せ。
(iii) 【実験】で, は反応 1 ですべて消費されたとし, は反応 1 と反応 2 ですべて消費されたとする。反応 1 と反応 2 で発生した気体の物質量 [mol] をそれぞれ計算し,有効数字 2 桁で求めよ。ただし,質量パーセント濃度が 3.40% の過酸化水素水の密度を 1.00 g/cm³ とする。なお,【実験】において,水の蒸発は無視できるものとする。
設問(4):下線③に関して,試料水溶液に含まれる の定量には,硫酸酸性とした試料水溶液に適切な酸化剤を加え,発生した の赤紫色の濃さを測定する方法がある。この方法では, よりも強力な酸化剤が必要であり,オルト過ヨウ素酸 はその一つである。 と の反応のイオン反応式は次の反応 3 のように表される。
反応 3
空欄 A〜D にあてはまる係数を求め,整数で記せ。なお,係数が 1 の場合は 1 と記せ。ただし, のイオン反応式は次の反応 4 で表されるとする。
反応 4
設問(5):下線④に関して, に関連する次の(a)〜(e)の記述のうち,正しいものをすべて選び,記号で記せ。正しいものがなければ「なし」と記せ。
(a) は腐卵臭のある褐色の気体である。
(b) 硫化鉄 FeS に希硫酸を加えると が発生する。
(c) の水溶液は強酸である。
(d) の水溶液に二酸化硫黄 を吹き込むと硫黄 S が析出するが,これは が酸化剤として働くためである。
(e) を含む酸性水溶液に を十分に吹き込むと,硫化銅(Ⅱ) CuS の沈殿が生じる。
設問(6):下線⑤に関して, を含む水溶液に塩基を加えると水酸化マンガン(Ⅱ) の沈殿が生じる。 の濃度が mol/L である水溶液から が沈殿し始める pH を計算し,小数第 2 位まで求めよ。ただし,生じた は酸化されずに沈殿するものとする。また, の溶解度積を mol³/L³,水のイオン積を mol²/L² とし, として計算せよ。
第3問
問 1 次の文章を読んで,設問(1)〜(4)に答えよ。
①ベンゼンは分子式 の環式炭化水素であり,その構造は 1865 年に ア によって提唱された。②ベンゼンの正六角形構造は安定であるため,付加反応は起こりにくく,置換反応が起こりやすい。ベンゼン環をもつ化合物は芳香族化合物とよばれる。芳香族化合物には工業製品の原料となるものも多い。例えば,ベンゼンの水素原子の 1 つをアミノ基に置換した化合物を硫酸酸性の二クロム酸カリウム水溶液で酸化すると,イ とよばれる水に溶けにくい物質が得られ,これは染料に用いられる。
ベンゼン環を含む化合物 A は,炭素,水素,酸素のみからなり,その分子量は 202 である。A を水酸化ナトリウム水溶液で加水分解した後に,酸性になるまで希塩酸を加えたところ,化合物 B と C が得られた。B を過マンガン酸カリウムで酸化すると化合物 D が得られた。D は化合物 E や F と構造異性体の関係にある。E はペットボトルの主原料である。F は,ナフタレンを酸化バナジウム(Ⅴ)触媒を用いて高温で酸化して得られた化合物を加水分解したものである。化合物 C 42.0 mg を完全に燃焼させたところ,二酸化炭素 110 mg と水 36.0 mg が生成した。C は五員環を含む。C に水を付加させると化合物 G が得られ,他に構造異性体は得られなかった。
設問(1):文中の空欄 ア に入る人名と,空欄 イ に入る最も適切な語句を,それぞれ記せ。
設問(2):下線①に関して,次の文章を読んで以下の問いに答えよ。
化学の歴史において,ベンゼンの構造が明らかになるまでには多くの異なる構造が提唱された。そのうち 2 つの構造 H および I を図 1 に示す。H はデュワーベンゼンとよばれる。I はプリズマンとよばれ,正三角柱形の構造を有する。なお,図 1 では I のみについて立体的な構造式を示しており,太線は紙面の手前側に位置する結合である。

図 1
(i) ベンゼンは以下の(a)から(e)の特徴を示すが,H や I にはすべての特徴が該当するとは限らない。H に該当する特徴と I に該当する特徴をそれぞれすべて選び,記号で答えよ。該当する特徴がなければ「なし」と記せ。
(a) 不飽和炭化水素である。 (b) すべての原子は同一平面上にある。 (c) ひずんだ環を含まない。 (d) いずれかの水素原子の 1 つを塩素原子に置換した場合,生じうる化合物はただ 1 つである。 (e) いずれかの水素原子の 2 つを塩素原子に置換した場合,生じうる構造異性体の数は 3 つである。
(ii) I のいずれかの水素原子の 2 つを塩素原子に置換した場合,生じうる異性体には鏡像異性体が含まれる。これらの鏡像異性体のうち,どれか 1 つの構造を答えよ。なお,解答用紙には既に構造の一部を記載しているので,空欄に元素記号を記し,構造を完成させよ。
設問(3):下線②に関して,ベンゼンの安定性を,反応エンタルピーをもとに考える。図 2 に示すように,1,3,5-シクロヘキサトリエンという単結合と二重結合が交互に並んだ仮想的な構造 J は不安定である。実際には,ベンゼンのすべての炭素原子間の結合距離は等しく,その構造は K のようにも表記される。J から K への結合距離の均等化に伴うエンタルピー変化 X kJ/mol を,以下に示す 2 つの反応エンタルピー(a)および(b)を用いて求め,正負の符号を明記して有効数字 2 桁で答えよ。なお,構造 J において複数の二重結合が単結合を介して隣り合うことによる安定性への影響は無視できるとせよ。
(a) ベンゼンに水素を付加させてシクロヘキサンに変換する際の反応エンタルピー kJ/mol
(b) シクロヘキセンに水素を付加させてシクロヘキサンに変換する際の反応エンタルピー kJ/mol

図 2
設問(4):化合物 A,D,G の構造式を図 3 にならって記せ。ただし,立体異性体を区別する必要はない。なお,不斉炭素原子が含まれる場合は,すべての不斉炭素原子に*を記せ。

図 3
問 2 次の文章を読んで,設問(1)〜(7)に答えよ。
5 つの α-アミノ酸から構成されるペプチド W がある。W を構成するアミノ酸を N 末端側から A,B,C,D,E とする。これらは表 1 の中のいずれかのアミノ酸であることがわかっている。W のアミノ酸配列を決定するために,以下の実験を行った。
表 1

実験 1.67.0 mg のペプチド W をアミノ酸にまで完全に加水分解した。得られたアミノ酸混合物は 75.0 mg であった。
実験 2.W の水溶液を空気中で数日間放置したところ,新たなペプチドが生成した。
実験 3.W の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱した後,酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えると黒色沈殿が生じた。
実験 4.W の水溶液に濃硝酸を加えて加熱すると溶液が黄色に呈色した。
実験 5.W を完全に加水分解して生じた 5 種類のアミノ酸 A,B,C,D,E の混合液の電気泳動を,pH 5 の緩衝溶液中に浸したろ紙上で行ったところ,最も陽極側に移動したアミノ酸は B であった。
実験 6.酵素 G は,ペプチド中のベンゼン環を含むアミノ酸の C 末端側のアミド結合を特異的に加水分解する。W に G を作用させたところ,2 種類のアミノ酸 A,E と,3 種類のペプチド X,Y,Z のみが生じた。X,Y,Z を構成するアミノ酸は表 2 の通りであった。これら 5 種類の生成物の中には不斉炭素原子をもたない分子が存在した。続いて,得られた X,Y,Z を完全に加水分解し,生じたアミノ酸を分離した。それぞれのアミノ酸溶液に①塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えたところ,1 種類のアミノ酸溶液のみが紫色に呈色した。なお,呈色したアミノ酸は,X,Y,Z のうち 1 種類のペプチドのみから生じた。
表 2

設問(1):実験 1 の結果からペプチド W の分子量 M を計算し,整数値で答えよ。
設問(2):実験 2 について,生成物の分子量は 2(M − 1) であった。この結果から W に含まれると考えられるアミノ酸として適切なものを表 1 から選び,簡略記号で答えよ。
設問(3):実験 3 において生じた黒色沈殿を化学式で答えよ。
設問(4):実験 4 の呈色反応に関する以下の説明文について,空欄 a,b に入る最も適切な語句を記せ。
説明文:アミノ酸側鎖の a が b 化される反応である。
設問(5):実験 5 に関連して,アミノ酸の電離平衡に関する以下の問いに答えよ。
アミノ酸の水溶液が特定の pH になると,そのアミノ酸の陽イオン,双性イオン,陰イオンの電荷の総和が 0 になる。この pH をそのアミノ酸の等電点という。酸性アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)の等電点におけるイオン濃度の関係を考える。Glu の電離平衡は電荷状態が異なる Glu 由来の各イオンを P,Q,R,S として,図 1 の式で表される。

図 1
(i) 等電点において最も濃度が低いイオンを P〜S の中から選び,記号で答えよ。
(ii) 等電点において,P〜S の濃度である [P]〜[S] の間には,以下の関係式が成立する。係数 c〜e の適切な値を,0 以上の整数で答えよ。
関係式:
設問(6):実験 6 の下線①に関して,この呈色反応を引き起こすアミノ酸として最も適切なものを表 1 から選び,簡略記号で答えよ。
設問(7):実験 1〜6 の結果をふまえて,A〜E に該当するアミノ酸を表 1 から選び,簡略記号で答えよ。