CHAPTER 10/2012〜2019

第3次ブームの山

囲碁・将棋・仕事の予言(2012〜2019年)

ディープラーニングの技術が次々にそろい、囲碁と将棋でAIが一流のプロに勝った。47%、5年以内、2045年と予言が飛び交い、日本でも第3次AIブームという呼び名が広まった。何ができるようになり、何が語られ、どうなったのかを、元の資料と動く図で確かめる。

012015・学習の工夫

層に入る値を毎回そろえる

層を10も20も重ねたネットワークは、なぜ学習しにくかったのか。

深いネットワークは、出力の誤差を入力側へ戻して重みを直す(誤差逆伝播法、8章)。戻る信号には、層ごとに重みとニューロンの傾きが掛かる。S字のシグモイド関数は傾きが0.25以下なので、傾きだけでも 10層で約100万分の1になる。

2010〜2012年のReLUと重みの初期値の工夫は9章で見た。2015年、グーグルのイオッフェとセゲディのバッチ正規化は、層に入る値を、一度に学習するデータのまとまりごとに平均0・分散1にそろえる。右の図は20層のネットワークで、前へ進む値の広がり(青)と戻る信号(紫)を測る。ReLU・重みの初期値・バッチ正規化を切り替えて比べよう。

戻る信号 ≈ 出口の信号 ×(w₁·f′₁)×(w₂·f′₂)× … ×(wL·f′L)
f′
ニューロンの傾き(シグモイドは0.25以下、ReLUは0か1)
w
重み
L
層の数
知ってるつもりよく言われる話:バッチ正規化は層に入る値の分布のずれを直すから効く
元の資料では:論文はそう考え、同じ精度に14分の1の学習回数で達したと書いた。2018年のMITの論文は題に(訳)とつけ、わざと分布をずらしてもほぼ同じく学習できたと報告した。なぜ効くのかは、まだ決着していない。

図が示すこと:戻る信号には層ごとに『傾き×重み』が掛かるので、シグモイドの傾き0.25以下が20回掛かるだけで、入口に戻るころには信号がほぼ0になる。ReLU・重みの初期値・バッチ正規化は、この掛け算が小さくなりすぎないようにする工夫だった。

022012〜2015・過学習

ドロップアウトと知識の蒸留

訓練データに合いすぎる過学習を、どう防ぐか。

訓練データでは正解ばかりなのに、新しいデータでは間違える。これを過学習という。9章で見た2012年のドロップアウトは、データを1つ見せるたびに、隠れ層のニューロンをランダムに半分休ませる。たくさんの細いネットワークの平均に近い効果がある。

右の図で、12個の点(このサイトが作った例)に曲線を合わせてみよう。休ませないと、新しい点(青の丸)との誤差が増えていく。

2015年の知識の蒸留は、大きなネットワークの出力を温度Tでやわらかくした確率を、小さなネットワークにまねさせる。「知識の蒸留」でTを上げると、正解以外の答えどうしの差が見えてくる。そこにも知識がある、というのが論文の見方だ。

やわらかい答えqi =exp(zi/T) ÷ Σj exp(zj/T)
zi
出力iのスコア
T
温度(1で通常の確率。大きいほどなだらか)
知ってるつもりよく言われる話:知識の蒸留は2015年にヒントンたちが始めた
元の資料では:2015年の論文自身が、同じ手法の1つの形は2006年にカルアナたちが先に開拓していたと書く。

図が示すこと:学習した点にぴったり合わせすぎると、新しい点で大きく外す。ニューロンを毎回ランダムに半分休ませると、曲線がなめらかなまま残り、新しい点にも当たりやすくなる。知識の蒸留では、正解以外の答えの確率にも『どれと似ているか』という知識が入っている。

学習した点の誤差(実線)と新しい点の誤差(点線)。青=休ませない、緑=2本目の網。縦は10倍ずつの目盛り
032013・言葉のベクトル

言葉の足し算

単語を数の組にすると、意味の関係まで計算できるのか。

2013年、グーグルのミコロフたちの word2vec は、単語を数百個の数の組(ベクトル)で表す。使われ方の似た単語ほど近くに来るように、大量の文章から学習する。16億語から100万語分の300次元ベクトルを、CPU 1つで1日かからずに作れた。

できたベクトルは、足し算や引き算で意味の関係を表せた。論文は、biggest − big+smallの答えがsmallestになるかという問題の正解率で性能を測った。右の図(このサイトが作った2次元の例)で、単語を3つ押してみよう。

答えは、問いの3語を外した中でいちばん近い単語だった(9月の版の論文で書き足された注)。外さないと、この例では1位がsmallになる。

v(答え) ≈ v(biggest) − v(big)+v(small)
v(単語)
その単語のベクトル
答え
計算した点に最も近い単語(問いの3語を除く)
知ってるつもりよく言われる話:king − man+woman=queenはword2vecの論文が見つけた計算で、ぴったり答えが出る
元の資料では:2013年1月の論文自身は、この例を先行研究の結果として引用している。答えは、問いの3語を候補から外して探していた。

図が示すこと:単語を数の組にすると、『いちばん〜』にする向きが、どの単語でもほぼ同じ矢印になる。だからbiggest − big+smallでsmallestの近くに着く。ただし答えは、問いの3語を外して選んでいた。

042013〜2015・強化学習

点数だけで遊び方を覚える

ルールを教えずに、画面と点数だけでゲームは上手になるか。

強化学習は、試行錯誤して、得点につながった行動を増やす学習法だ。Q学習は、ある状態でどう動くと将来どれだけ得点できるか(Q値)を表にし、行動のたびに少しずつ更新する。右の迷路(このサイトが作った例)で、ゴールの得点が1歩ずつ手前のマスへ伝わるのを見よう。

2013年12月、ロンドンのDeepMindのDQNは、表の代わりに畳み込みニューラルネットワークを使った。画面のピクセルをそのまま入力し、Q学習に手を加えた方法で学習した。昔からある7本のテレビゲームのうち、6本で従来の手法を、3本で人間の熟練者を上回った。2015年のNatureの論文は、同じ仕組み1つで49本を学習した。

Q(s, a) ← Q(s, a)+α[r+γ maxa′ Q(s′, a′) − Q(s, a)]
s
現在の状態
a
行動
r
得た報酬
s′
次の状態
α
学習率
γ
将来の報酬の重み
知ってるつもりよく言われる話:AIがテレビゲームで人間を超えた
元の資料では:2015年の論文の表現は(訳)。人間の得点の75%以上をとれたのは49本中29本。先の計画が要るゲーム(モンテズマの復讐など)は、まだ大きな課題だと論文自身が書いている。

図が示すこと:ルールは教えず、ゴールで +1、穴で −1の点数だけを与えると、くり返すうちにゴールの点数が1歩ずつ手前のマスへ伝わり、出発点までの道が自分で見つかる。

1回ごとの結果(緑=ゴール、紫=穴、灰=時間切れ)
052013〜2014・転移学習

学習済みのネットワークを使い回す

写真が数十枚しかない仕事でも、ディープラーニングは使えるのか。

2012年のAlexNetは、ImageNetの大会の約120万枚・1000種類で学習した。2013年10月、カリフォルニア大学バークレー校のドナヒューたちの DeCAF は、同じ形のネットワークの重みを固定したまま、出力に近い層の反応(4096個の数)を別の仕事の特徴量にした。1種類30枚しか学ばないCaltech-101でも、線形分類器を載せるだけで86.9%を当て、手作りの特徴量を5つ合わせた当時の最高を上回った。これを転移学習という。

ネットワーク全体を、新しい仕事のデータで小さな歩幅で学習し直すのが微調整(ファインチューニング)。次の見開きのR-CNNでは、微調整でmAPが8ポイント上がった。

右の図(このサイトが作った8×8の例)は、線1本の識別で学んだネットワークを、線2本の組の識別に使う。例の数を変えて比べよう。

新しい答え =softmax( W新 · φ(x) )
φ(x)
前に学んだ層の反応(DeCAFでは4096個。固定なら変えない)
W新
新しく学習する最後の層
知ってるつもりよく言われる話:転移学習は、ディープラーニングの時代に生まれた考え
元の資料では:2010年の人工知能学会誌の解説はと書き、1995年のNIPSのワークショップから機械学習の一分野になったとしている。DeCAFの論文も、関連する仕事から学ぶ研究の歴史を1996〜1997年から数えている。

図が示すこと:別の仕事でたくさん学んだ層をそのまま使えば、新しい仕事の例が数枚しかなくても当たる。例が増えると、一から学ぶ方も追いついてくる。

062013〜2015・物体検出

どこに、何が、いくつあるか

写真の中の物を、四角で囲んで名前をつけるにはどうすればよいか。

画像の分類は1枚に1つの答えを出す。物体検出は、写真の中の物を1つずつ四角で囲み、名前をつける。

2013年11月、カリフォルニア大学バークレー校のギルシックたちの R-CNN は、学習しない方法で候補の四角を約2000個作り、1つずつCNNに通して種類ごとのSVMでスコアをつけた。同じ物を囲む四角がいくつも残るため、スコアの高い四角と大きく重なる四角を取り除く(非最大値抑制)。学会版はPASCAL VOC 2012でmAP 53.3%とそれまでの最高を大きく上回ったが、1枚にGPUで13秒かかった。

2015年6月、ワシントン大学のレドモンたちの YOLO は、画像を7×7の格子に分け、マス目ごとの四角2つ(計98個)と種類をネットワーク1回で同時に出す。1秒45枚で63.4%。同月のレンたちの Faster R-CNN は候補もネットワークに作らせ、1秒5枚で73.2%。右の図で比べよう。

IoU= 重なった面積 ÷ 合わせた面積
IoU
予測の四角と正解の四角が重なる割合(1で完全一致、0で重なりなし)
知ってるつもりよく言われる話:YOLOが初めてリアルタイムで物体を見つけた
元の資料では:YOLOの論文自身が、先に1秒30枚で動いていたDPM(2014年のサデギとフォーサイス)を挙げている。YOLOの主張は、リアルタイムの手法の中で正確さが2倍以上(26.1% → 63.4%)になったこと。1秒0.5枚のFast R-CNN(70.0%)のほうが正確で、YOLOは位置のずれが多かった。

図が示すこと:R-CNNは候補の四角を約2000個作って1つずつ調べたので遅かった。YOLOは格子に分けて、ネットワーク1回で全部の四角を同時に出したので速い。ただし位置のずれは多かった。

072013・生成モデル(1)

縮めて、また広げる

データを2つの数に縮めたら、その2つの数から新しいデータを作れるか。

オートエンコーダーは、入力と同じものを出すように学習するネットワークで、中間層を細くする。前半(エンコーダー)が少しの数に縮め、後半(デコーダー)が元に戻す。この形は1985〜1987年にあったが、縮めた数の間はすき間だらけで、そこから作ると形が崩れる。

2013年12月、アムステルダム大学のキングマとウェリングの VAE(変分オートエンコーダー)は、縮めた数の分布を平均0・ばらつき1の正規分布に近づけて学習する。だから正規分布から数を選べば、新しいデータを作れる。右は、このサイトがPythonで学習させた、12×12の顔を2つの数に縮める例。2つを比べてみよう。

z=μ+σ × ε(εは平均0・ばらつき1の乱数)
μ
エンコーダーが出す平均
σ
ばらつき
z
選んだ点
知ってるつもりよく言われる話:オートエンコーダーは2006年にヒントンが始めた
元の資料では:入力と同じものを細い層を通して出させる課題は、1985年と1986年の論文にすでにあった。2006年の論文自体も、深いオートエンコーダーがよく働くことは(訳)と書いている。

図が示すこと:ふつうのオートエンコーダーでは、縮めた2つの数の地図がすき間だらけなので、適当に選んだ点から作ると顔が崩れる。VAEは地図を円の中にぎゅっと詰めるので、どこを選んでも顔になる。

082014・生成モデル(2)

偽札づくりと警察

本物そっくりを作る力は、見破る相手と競わせると育つのか。

2014年6月、モントリオール大学のグッドフェローたちの GAN(敵対的生成ネットワーク)は、データを作るネットワークGと、本物か偽物かを識別するネットワークDを競わせる。論文はGを(訳)、Dを(訳)にたとえた。行き着く先は、Dがもう見分けられなくなる状態だ。

右は、1本の数直線上のGAN(このサイトが作った小さな例)。開くと、紫の偽物の山が青の本物の山へ寄り、Dの線は0.5に近づく。GとDの学ぶ速さの組み合わせによって、1か所に固まったり、振動したりする。競争は、いつもきれいに収束するとは限らない。

Dはlog D(x)+log(1 − D(G(z)))を大きく、Gはlog(1 − D(G(z)))を小さく
x
本物のデータ
z
乱数
G(z)
生成した偽物
D(·)
本物と判定する確率

図が示すこと:にせものを作るGと、見破るDを競わせると、にせものの山が本物の山に寄っていき、Dはもう見分けられない(どこでも0.5)に近づく。ただし、競争はいつもきれいに終わるとは限らない。

偽物の平均(紫)とばらつき(緑)。点線は本物の値
092014〜2016・ニューラル翻訳

細い管か、注意か

長い文を訳す時、ネットワークは元の文のどこを覚えればよいか。

2014年、文をまるごとニューラルネットワークで訳す研究が続いた。6月のチョたちや9月のスツケヴァーたちの seq2seq は、文を決まった長さの数の組にまとめ、そこから訳文を出した。チョたちはLSTMを簡略化した部品(のちの GRU)も示した。右の「細い管(seq2seq・GRU)」で、長い文ほど前の単語が薄れるのを見よう。

同じ9月、バーダナウたちは訳語を1つ出すたびに、元の文の各単語への注目度(合計1の重み)を決めた。これが注意(アテンション)の始まりだ。「注意(2014)」で訳語の札を押してみよう。2016年、Google翻訳は文全体を読むニューラルネットワーク方式に変わった。

αij =exp(eij) ÷ Σk exp(eik)  ci =Σj αij hj
eij
i番目の訳語を出す時の、元のj番目の単語のスコア
hj
元の単語の特徴のまとめ
ci
注目して集めた中身
知ってるつもりよく言われる話:注意(アテンション)は2017年のトランスフォーマーの論文で生まれた
元の資料では:2014年のこの論文にすでにあり、2017年の論文も引用している。2017年の論文が新しいとしたのは、RNNを使わず注意だけで組んだ点。

図が示すこと:seq2seqは文をまるごと決まった長さの数の組に押しこむので、文が長いほど前の単語が薄れる。注意は、訳語を1つ出すたびに元の文のどこを見るかを選び直すので、長くても前の単語に戻れる。

102014・学習法

細長い谷の下り方

誤差が小さくなる向きへ進む時、1歩の幅はどう決めればよいか。

ネットワークを学習させる基本は勾配降下法だ。誤差の地形で、下り坂の向き(勾配)へ少しずつ進む。地形が細長い谷だと、急な向きには行きすぎ、緩やかな向きにはなかなか進まない(右の紺の玉)。

2014年12月、キングマとバーの Adam は、重みごとに、勾配の移動平均と、勾配の2乗の移動平均を記録し、その比で幅を決める。勾配が常に大きい向きは控えめに、小さい向きは大きめに進むため、紫の玉は小さく行きすぎながら谷底へ向かう。初めのうち移動平均が0に寄る偏りを直す計算(バイアス補正)を、「バイアス補正」のチェックを外して比べよう。

m ← β₁m+ (1−β₁)g  v ← β₂v+ (1−β₂)g²  w ← w − η · m̂ ÷ (√v̂ +ε)
g
勾配
m, v
勾配と、勾配の2乗の移動平均
m̂, v̂
補正した値
η
学習率(進む幅)
知ってるつもりよく言われる話:Adamは、必ず収束すると証明された方法
元の資料では:2018年、グーグルのレディたちの論文は、単純な問題でもAdamが最適な解にたどり着かない例を示し、元の証明のどこに問題があるかを書いた。

図が示すこと:細長い谷では、同じ歩幅で坂を下ると急な向きで行きすぎてジグザグになる。Adamは向きごとに歩幅を変えるので、まっすぐ谷底へ向かう。

歩数ごとの誤差(紺=勾配降下法、紫=Adam。縦は10倍ずつの目盛り)
112015・近道

層を飛び越す近道

層をもっと深くすれば、ネットワークは賢くなるのか。

マイクロソフト・リサーチのヒーたちは、層を重ねただけでは、56層の方が20層より、訓練データの誤り率まで高くなることを示した。そこで、層の組の出力に、入る前の値をそのまま足す近道をくり返し入れた(ResNet)。152層まで深くでき、2015年の画像の大会で1位(誤り率3.57%)になった。

同じ2015年、フライブルク大学のロンネベルガーたちの U-Net は、縮めて全体をつかみ、広げて戻すU字型の構造で、縮める前の細かい特徴をコピーしてつなぐ近道を使った。顕微鏡画像の領域分割のために作られた。右の図で2つの近道を切り替えてみよう。

ResNet:出力 =F(x)+x  U-Net:広げる段の入力 =[下から広げたもの, 同じ大きさの段のコピー]
x
層の組に入る値
F(x)
層の組が学習する残り(残差)
知ってるつもりよく言われる話:層を飛び越す接続はResNetが初めて
元の資料では:論文自身が、近道は長く研究されてきたと書き、同じ時期のhighway networks(2015年5月、門つきの近道で数百層)を挙げている。ResNetの違いは、門の無い、値をそのまま渡す近道。

図が示すこと:層をただ重ねると、深い方がかえって訓練の誤りまで増えた。入る前の値をそのまま足す近道を入れると、152層まで深くできた。U-Netは、縮める前の細かい特徴をコピーして渡す近道で、細かい形を取り戻す。

122014〜2016・人間の線

超えた相手の人間は誰か

AIが人間を超えたと言う時、比べた人間は誰なのか。

画像認識の大会(1000種類、5つまで答えてよい)の1位の誤り率は、2010年の28.2%から2017年の2.3%まで下がった(右。公式の数字)。2015年2月、マイクロソフト・リサーチのヒーたちは4.94%を出し、(訳)と書いた。

その5.1%は、大会の主催者が測った2人のうち1人の数字(500枚で練習して1500枚を識別)。100枚だけ練習したもう1人は、258枚で12.0%だった。右の「人間の線」を切り替えると、超えた年が動く。

2016年の会話の音声認識でも、人間の誤り率は4%・5.9%・5.1%と測り方で違った。2014年に(訳)と発表されたイベントの30%という線も、主催者が決めたものだった。

知ってるつもりよく言われる話:2015年、画像認識AIが人間を超えた
元の資料では:比べた人間の5.1%は1人の数字で、もう1人は12.0%。超えたと書いた論文自身も、(訳)と書いている。

図が示すこと:『人間を超えた』の人間の数は、誰を、どう練習させ、何枚で測ったかで大きく変わる。人間の線を取りかえるだけで、超えた年が2年動く。

132015・画像生成

絵を描く2つの方法

学習済みのネットワークで絵を描くには、どうすればよいか。

2015年8月、テュービンゲン大学などのゲイティスたちの画風変換は、学習済みのネットワークは変えず、画像の画素を直す。深い層の反応を中身、特徴どうしが一緒に強く出るかの表(グラム行列)を画風とし、両方のずれを小さくする。右の「画風変換」は、小さなフィルターだけの最小の形(このサイトが作った例)。

同年3月、スタンフォード大学のソール=ディックスタインたちの拡散モデルは、データにノイズを繰り返し足して壊し、逆向きの1歩をネットワークに学ばせる。ノイズから逆向きを繰り返せば、新しいデータができる。「拡散モデル」で、渦巻きを壊して戻してみよう。

画風変換:ずれ =α ×(中身のずれ)+β ×(グラム行列のずれ)  拡散の1歩:x ← √(1−βt)·x+ √βt·ε
α, β
2つのずれの重み
βt
t歩目のノイズの量
ε
平均0・分散1の乱数
知ってるつもりよく言われる話:拡散モデルは2022年ごろ(または2020年のDDPM)にできた新しい方法
元の資料では:考えは2015年の論文にあり、物理学の考えに(訳)と書く。2020年のDDPMの論文は、それまで(訳)と書き、それを示した。

図が示すこと:画風変換は、ネットワークは変えずに画像の画素の方を直していく。拡散モデルは、ノイズを足して壊す1歩の逆を学び、ノイズの霧から形を戻す。

142014〜2015・日本

動かしながら組み立てる

ネットワークの形を先に全部決めないと、学習できないのか。

2014年3月、西川徹と岡野原大輔がPreferred Networks(PFN)を創業した。2015年6月、PFNは、ニューラルネットワークをPythonで書いて学ばせるツール Chainer を、誰でも使える形で公開した。

それまでの多くのツール(Caffeなど)は、先に計算の道すじをすべて決めてからデータを流した(Chainerの論文ではDefine-and-Run)。Chainerは、計算するその時に道すじを記録し、逆にたどって勾配を出す(Define-by-Run)。長さの違う文を扱うネットワークも、ふつうのfor文やif文で書ける。右で「1行すすめる」を押してみよう。

2019年のPyTorchの論文は、この書き方を切りひらいたのはChainerとDyNetだとした。PFNは2019年12月、研究開発の土台をPyTorchに移した。

知ってるつもりよく言われる話:動かしながら組み立てる書き方(Define-by-Run)は、アメリカのPyTorchが始めた
元の資料では:PyTorchの2019年の論文自身が、この設計を切りひらいたのはChainerとDyNetだと書いている。ただし同じ論文は、Chainerのやり方は速さを犠牲にしていたとも書く。

図が示すこと:Chainerは、ふつうのプログラムが動いた分だけ計算の道すじを記録し、それを逆にたどって学ぶ。だから、長さの違う文もfor文のままで書ける。

152006〜2017・囲碁

試し打ちと2つのネットワーク

局面の良し悪しを点数にしにくい囲碁で、どうやって手を選ぶのか。

囲碁は打てる手が多く、局面を点数にするのも難しい。2006年、フランスのクーロンのモンテカルロ木探索は、先をでたらめに最後まで何度も打ってみて、勝った割合で手を比べ、有望な枝ほど深く調べる(どの手をどれだけ試すかのUCTも同じ年)。右は四目並べで動かす例。列を押して対戦してみよう。

DeepMindのAlphaGoは、これに手を選ぶネットワークと局面を評価するネットワークを加えた。2015年10月、ファン・フイ二段に5勝0敗。論文は、ハンデなしでプロに勝つのは(訳)と書いた。2016年3月、イ・セドル九段に4勝1敗。2017年10月のAlphaGo Zeroは自己対戦だけで学び、72時間後にイ・セドルさんに勝った版に100戦100勝。

UCTの点 = 勝った割合 +C √( ln N ÷ n )
N
その局面を試した合計の回数
n
その手を試した回数
C
あまり試していない手も試す度合い
知ってるつもりよく言われる話:AlphaGoは自分だけで学んで強くなった
元の資料では:2016年にイ・セドルさんに勝った版も、まず人の対局16万局をお手本に学んでから、自分どうしの対戦で強くなった。人の対局を使わなかったのは2017年10月のAlphaGo Zeroから。そのZeroも、ルールと、盤を19×19の画像として扱う作りは人が与えていた。

図が示すこと:局面を点数にできなくても、そこから先をでたらめに最後まで何度も打ってみて、勝った割合で手を比べれば、強い手が選べる。試す回数が多いほど強くなる。

162007〜2017・日本

逆転した10年

プロとソフトの実力が逆転したのは、いつだったのか。

将棋では2005年、化学の研究者の保木邦仁がBonanzaを公開した。プロの棋譜と同じ手を指すように、評価関数(局面の良し悪しを点数にする式)の重みを機械に学習させた。2007年3月に渡辺明竜王がBonanzaに勝った直後、研究者の松原仁は、トッププロに勝ち越すのはと書いた。

右の四角は、公開対局1局ずつを表す。2015年10月、情報処理学会はとして、将棋のプロジェクトを終えた。2017年、PONANZAが名人の佐藤天彦さんに2連勝した。「囲碁(電聖戦)」では、日本の電聖戦で、ソフトがもらうハンデの石が5個から0個に減っていく。

図が示すこと:将棋も囲碁も、10年のうちにプロが勝つ側からソフトが勝つ側へ入れかわった。予言(2015年までに)と、学会の宣言(2015年)と、実際の対局(名人の2連敗は2017年)は少しずつずれている。

172018・科学へ

距離の地図から形を組む

ゲームで強くなったAIの手法は、科学の問題にも使えるのか。

タンパク質は、アミノ酸がつながったひもが折りたたまれて形が決まる。2018年の予測の大会CASP13(約100の研究グループ)で、DeepMindの最初の AlphaFold は、畳み込みネットワークでアミノ酸2つずつの距離の地図を予測した。その地図から作った点数の式に合うよう、勾配降下法で形を直して組み立てた。

右は、その組み立て方を最小の形にした例(このサイトが作った2次元のひもと地図)。開くと、まっすぐなひもが地図に合う形へ折れていく。地図を乱したり、近い組の距離だけにしたりしてみよう。難しい部門の合計点は68.3で、2位の48.2を上回った。ただし高い精度が出たのは43のうち11だった。

誤差 =Σi<j(|pi − pj| − dij)² を小さくするようにpを動かす
pi
i番目のアミノ酸の位置
dij
予測したiとjの距離
知ってるつもりよく言われる話:AlphaFoldは2020年に突然現れ、そのままノーベル化学賞になった
元の資料では:最初のAlphaFoldは2018年のCASP13に出ていた。ただし2020年のAlphaFold2は(訳)もので、畳み込みをやめてアテンションを使った。受賞対象はAlphaFold2で、11章で扱う。

図が示すこと:アミノ酸2つずつの距離の表さえ予測できれば、その表に合うようにひもを少しずつ動かすだけで、立体の形が組み上がる。距離の表が近い組だけでは、形は決まらない。

組み立ての歩数と地図との誤差(縦は10倍ずつの目盛り)
182013〜2015・仕事の予言

47%と49%の中身

仕事の47%がなくなる、は論文のどこに書いてあるのか。

2013年9月、オックスフォード大学のフレイとオズボーンは、アメリカの702の職業がコンピュータに置き換えられうる確率を推計した。自信のある70の職業にだけ、自動化できる(1)・できない(0)のラベルを手でつけた。知覚と手先・創造性・人とのやりとりを表す9つの変数から、残りを分類器で推し量った。

確率0.7以上を高い区分、0.3未満を低い区分とし、働く人の数で数えると、低33%・中19%・高47%。右の図で区切りの線を動かすと、見出しの数が変わる(仕事と人数はこのサイトが作った例)。2015年、野村総合研究所は同じ2人との共同研究で、と発表した。

高い区分の割合 =(確率0.7以上の職業で働く人の数)÷(働く人の全部)
確率
その職業が、技術的に自動化されうる見込み(推計)
知ってるつもりよく言われる話:10〜20年でアメリカの仕事の47%がなくなる
元の資料では:論文の表現は(訳)で、そうした職業が、はっきりしない年数(たぶん10〜20年)のうちに自動化されうるという意味。実際に何人の仕事がなくなるかの予測ではない。野村総研も、実際に代わるかは社会の要因も大きく、試算に入れていないと書いた。

図が示すこと:47%は『自動化されうる確率が0.7以上の職業で働く人の割合』で、区切りの線をどこに置くかで数は変わる。実際に何人の仕事がなくなるかは、どこにも計算されていない。

192011〜2016・日本

どこまで読み、どこまで書いたか

AIが東大をあきらめた、AIの小説が賞の審査を通った。本当は何が起きたのか。

国立情報学研究所の東ロボくん(2011年〜)は、、を目標にした。2016年の模試では、センター試験が525点・偏差値57.1、東大模試の数学(理系)が偏差値76.2。同じ年、ことが難しいとして、センター試験を人と同じように解く取り組みを止めると話された。

2016年3月、AIに小説を書かせる研究の作品の一部が、日経「星新一賞」の1次審査を通り、2次で落ちた。図の「星新一賞2016」で箱を押してみよう。筋書き(オチも)と文の部品は人が用意し、プログラムが組み合わせた。

知ってるつもりよく言われる話:東ロボくんは東大合格をあきらめた(失敗した)
元の資料では:国立情報学研究所の発表に断念という言葉はない。報告会で話されたのは、とだった。

図が示すこと:東ロボくんは東大合格を『あきらめた』のではなく、人と同じように解く取り組みを止めた。AIの小説は、筋書きと文の部品を人が用意していて、プログラムがしたのは並べることだった。

202016・予言の時計

予言の時計

ブームの時代に年を決めて出た予言は、答えの年にどうなったか。

2016年、ヒントンはトロントの会議で(どちらも訳)と話した。同じ年の8月、フォードは、ハンドルもペダルもないレベル4の自動運転車を、2021年に配車・相乗りサービスで(どちらも訳)走らせると発表した。日本の国は、限られた地域で運転する人が乗らない移動サービスをと書いた。国の白書は、一部の研究者はと見ている、と紹介した。

右の図で「いまの年」を動かすと、答えの年が来た予言から、その後に起きたことが出る。「ヒントン・放射線科医」を選ぶと出る棒の数は、アメリカの研修医の募集の数(公式の表の2016年と2025年の2点)。

知ってるつもりよく言われる話:5年でAIが放射線科医に取って代わる
元の資料では:元の動画では、直後に(訳)と足していた。言ったのはAIではなくディープラーニングで、仕事がいつなくなるかの年は言っていない(動画の自動字幕で確認)。

図が示すこと:ブームの時に出た『○年までに』の予言は、答えの年が来ると、多くが外れたり、言い方がずれていたりした。まだ答えの年が来ていない予言もある。

212014〜2019・決まりごと

誰に向けた決まりか

AIの研究者や国は、どんな決まりを、誰に向けて作ったのか。

2014年1月、人工知能学会誌の新しい表紙(ほうきを持って掃除をする女性型ロボットの絵)にと批判が集まった。学会はと書いた。これが倫理委員会をつくるきっかけの1つになった。2017年の学会のの最後の第9条はで、AI自身に向けて書かれている。

2016年3月、マイクロソフトの会話AIのTayは、示し合わせた一部の人たちに弱点を突かれ、24時間のうちに不適切な言葉を投稿して停止された。右の「まねして学ぶ会話」(このサイトが作った、最も単純な図。Tayの実際の仕組みではない)で、示し合わせる人の割合を動かしてみよう。

図が示すこと:決まりごとは、研究者・国・社会・AI自身と、向ける相手がちがう。まねして学ぶ会話の機械は、少しの人が示し合わせて同じことを言い続けるだけで、その言葉をいちばん多く返すようになる。

222015〜2019・山の終わり

ブームの山はいつ過ぎたのか

ブームの山は、いつ、どうやって過ぎていったのか。

2015年3月の松尾豊の本は、AIの歴史を第1〜3次AIブームの章に分けた。2016年の国のは、この本などを参考に、AIの研究は来て、今は第三次のブームだと説明した。2015年、ソフトバンクはPepperがようになったと発表した。

右の棒は、国会の発言でAIの意味の「AI」が出た回数(このサイトが会議録で数えた)。2015年の11件から 2019年の593件まで増え、2020・2021年は減った。2019年10月、ガートナー・ジャパンは人工知能を「幻滅期」(期待が高まりすぎた後に失望が広がる時期)に置いた。

期待の山の形(ハイプ・サイクル)は調査会社の見立ての型で、法則として確かめられたものではない。2020〜2021年に回数が減った理由も1つには絞れない(感染症の年と重なる)。

図が示すこと:国会でAIが話題になった数は、2015年の11件から2019年の593件まで50倍以上になり、2020・2021年に減った。ただし2022年にはまた増えていて、山が冬の始まりだったかは決められない。

おわりに

この章で、まだ分かっていないこと

この時代、深いネットワークを学習させる技術(ReLU、重みの初期値、ドロップアウト、バッチ正規化、Adam、近道)がそろった。ところが、バッチ正規化やResNetがなぜよく効くのかは、論文の後で問い直されたり、仮説のままだったりする。使い方が先に広がり、理由はあとから議論されている。大きなデータで学んだネットワークを使い回す転移学習も広がったが、どれだけ例があれば一から学ぶ方がよいのかは、仕事によって変わり、まだ調べられている。

「人間を超えた」の人間の数字は、誰を、どう練習させ、何枚で測るかで大きく変わる。AIが書いたと言えるのはどこからか(人がどこまで手を加えたら人の作品か)にも、はっきりした線はまだない。AIが画像を読む力と、放射線科医の仕事全体の関係も、まだ研究が続いている。47%や49%は、技術的に置き換えられうる確率の推計で、実際に何人の仕事がなくなるかの予測ではなかった。

2019年、国会でAIが話題になった数は山を越え、調査会社は人工知能を幻滅期に置いた。それが冬の始まりだったのかは、この章の資料だけでは決められない。国会の数は2022年からまた増えた。次の章では、2017年のトランスフォーマーから、文章や絵を作るAIが現れる。

この章のほかの出来事(3件。どれも元の資料と確度つき)
2015年12月11日元で確認

OpenAI設立の発表(2015年12月):の非営利研究会社

2015年12月11日、OpenAIは自らをと紹介する最初の発表を行った。目的は、利益をあげる必要に縛られず、人類全体の利益にいちばんなりそうな形でAIを発展させることである。研究は論文やコードで公開し、特許があれば世界と共有するとした。寄付する人や会社は合わせて10億ドルを約束したが、とも記している。

分かっていないこと:発表文自身が、AIの歴史は驚きの連続であり、人間並みのAIがいつ実現するかを予測するのは難しいと書いている。昔の人はチェスのような課題を解けば人間並みの知能の仕組みが分かると考えたが、そうはならなかった、と振り返っている。

元の資料1件と確かめた所
  1. Introducing OpenAI(archive.orgの2015-12-16の写し)(Greg Brockman, Ilya Sutskever, and the OpenAI team・2015・本文の第1段落、Background・Looking …・元の資料)
2017年3月31日元で確認日本

政府の「人工知能技術戦略会議」(2016年)と(2017年)

2016年4月、での首相の指示を受け、政府に『人工知能技術戦略会議』が発足した。この会議が司令塔となり、総務省・文部科学省・経済産業省の研究機関(情報通信研究機構、理化学研究所の革新知能統合研究センター、産業技術総合研究所の人工知能研究センターなど)を連携させた。2017年3月31日、会議はと、AIの普及を3段階で示したを策定した。重点分野として『生産性』『健康、医療・介護』『空間の移動』、横断的分野として『情報セキュリティ』を掲げた。

分かっていないこと:ロードマップ自身がと断っている(時期は目安)。

元の資料2件と確かめた所
  1. 人工知能技術戦略(人工知能技術戦略会議 とりまとめ)(人工知能技術戦略会議・2017・p.22.政府における人工知能技術開発に係る推進体制 (1)関係…・元の資料)
  2. 人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ(人工知能技術戦略会議・2017・p.1(1-1)フェーズによる人工知能(AI)の発展段階の整理・元の資料)
2017年7月8日元で確認

中国政府がで2020・2025・2030年の3段階目標を決める

2017年7月、中国の国務院(中国政府)はを発表した。計画はとし、3段階の目標を定めた。2020年にAIの技術と応用を世界の先進水準に並べ、中心産業の規模を1,500億元超とする。2025年に基礎理論で大きな突破を果たして一部で世界をリードし、産業規模を4,000億元超として、AIの法律や倫理の決まりの最初の形をつくる。2030年には全体で世界をリードしてとなり、産業規模を1兆元超に引き上げるとした。同時に、AIが雇用構造を変える懸念や、法律・倫理との衝突、プライバシー侵害などの課題も挙げ、安全で信頼でき制御可能な発展を求めた。

その後:中国政府の発表によれば、2022年7月に(工業情報化部の記者会見)、2026年3月に(工業情報化部の大臣)とされた。数字の上では、2025年の目標も2030年の目標(1兆元)も超えたことになる。ただし、どちらも政府側の試算であり、算定方法が2017年の計画と同じかは発表に書かれていない。などの目標は、開いた資料では確かめていない。

元の資料1件と確かめた所
  1. 国务院关于印发新一代人工智能发展规划的通知(国发〔2017〕35号)(国务院・2017・一、战略态势 / 二、总体要求(三)战略目标:分三步走・元の資料)