CHAPTER 09/1763〜2012

データから自分で学ぶ

200年かけてそろった道具と、2006〜2012年に一度に灯った3つのランプ

たくさんの例を見せて、規則を機械に見つけさせる。その道具の多くは、統計学、ハチの分類、刑務所の仮釈放、信号を送る研究、心理テストから生まれていた。2006年からの7年で、深いニューラルネットワーク(ディープラーニング)が急に強くなったのは、その道具箱にGPUと大量のデータがそろったからだった。

012006・深層学習の始まり

3つの条件がそろった

2006年に新しかったのは、アイデアか、それとも条件か。

層を多く重ねたニューラルネットワークは、誤差逆伝播法(8章)だけではうまく学べなかった。2006年、ヒントンたちは、まず正解なしで(訳)データの特徴を学習させ(事前学習)、次に全体を誤差逆伝播法で仕上げる方法を示した。手書き数字MNISTでの誤り率は1.25%。

同じ年のScienceの論文は、深いネットワークが(訳)と書いた。計算の速さ・データの量・重みの初期値の良さを挙げ、(訳)と続けた。

右の図では、3つの条件のランプを点けたり消したりして、縦横の棒の画像の復元を比べられる。重みの初期値を事前学習で決めると、1層ずつ正解なしで学んでから、全体を誤差逆伝播法で仕上げる(ランプの効き目はこのサイトが作った例)。

Δwij =η(⟨vihj⟩データ − ⟨vihj⟩復元)
v, h
可視層(画素)と隠れ層のニューロン
w
重み
⟨ ⟩
平均(データと復元の差で直す。制限ボルツマンマシンの方法)
知ってるつもりよく言われる話:2006年、ヒントンが深層学習という新しいアイデアを発明した
元の資料では:論文自身が1980年代から明らかだったと書き、新しかったのは主に(訳)だった。同じ2006年に、ベンジオたちも似た方法を出している。

図が示すこと:2006年に新しかったのは深いネットワークというアイデアではなく、計算の速さ・データの量・重みの初期値の良さ、という3つの条件がそろったこと。

復元誤差(学習が進むほど小さくなる)
021763・1961・ベイズ

結果から、原因へさかのぼる

手がかりの単語だけで、文書の分野を分類できるか。

ベイズの定理は、証拠を得たあとに、原因や仮説の確からしさを計算し直す考え方だ。論文は1763年12月23日にイギリスの王立協会で読まれた。書いたベイズはすでに亡くなっており、書類の中から見つけて送ったのは友人のプライスだった。

1961年、ランド研究所(RAND)のマロンは、この考え方で論文の要約を32の分野に分類する実験を行った。分野が決まれば単語どうしは無関係に出現すると仮定し、単語ごとの確率を掛け合わせるだけにした(今の呼び名は単純ベイズ、ナイーブベイズ)。手がかりの単語を2つ以上含む新しい85本で、1位の分野が正しかったのは44本(51.8%)、上位3つまでなら68本(80%)だった。

右の図で手がかりの単語を押すと、分野の確率が掛け算で変化する(単語と確率はこのサイトが作った例)。

P(分野 | 単語たち) ∝ P(分野) × Π P(単語 | 分野)
P(A | B)
条件BのもとでAが起きる確率
Π
単語ごとに掛け合わせる
∝
比例する(最後に合計が1になるように割る)
知ってるつもりよく言われる話:ナイーブ(素朴)ベイズは、単語どうしが無関係だと素朴に信じた手法
元の資料では:マロン自身が、独立の仮定は明らかに正しくないが、計算を簡単にするために置くと書いていた。論文にはnaiveという言葉もBayesという名前も見当たらない。

図が示すこと:分野ごとに単語の出やすさを掛け合わせるだけで、手がかりの単語から文書の分野を当てられる。単語どうしは無関係、という正しくない仮定を置いても、そこそこ当たる。

031805・最小二乗法

誤差を2乗して足し、最小にする

測った点がばらつくとき、どの直線がいちばん「合っている」のか。

1805年、パリのルジャンドルは、彗星の軌道を計算する本の付録で最小二乗法を発表した。式の数が求めたい未知数より多いと、誤差をすべて0にはできない。そこで、誤差を1つずつ2乗して足し合わせ、その合計が最も小さくなるように決めるのが、最も一般的で正確で使いやすいと書いた。こうすれば誤差同士がつり合い、極端な誤差に結果が引きずられるのを防げる、とも説明している。

右の図では、誤差が実際の正方形の面積として描かれる。点を動かしたり直線の傾きを変えたりして(切片は自動で調整される)、面積の合計を小さくしてみよう。「最小二乗(谷の底へ)」を押すと、式から一度に求めた直線が引かれる。データに合わせて式の中の数を決める。この章の手法の多くは、この形から始まる。

S=Σ(yi − (a xi +b))² を最小に
a=Σ(xi − x̄)(yi − ȳ) ÷ Σ(xi − x̄)²、b= ȳ − a x̄
(xi, yi)
観測データの点
a, b
直線の傾きと切片
x̄, ȳ
xとyの平均値
知ってるつもりよく言われる話:最小二乗法はガウスが考えた
元の資料では:先に印刷して発表したのはルジャンドル(1805年)。ガウスは1809年の本で1795年から使っていたと書き、スティグラー(1981)は、ガウスが先だった可能性が高いが決定的ではない、とした。アメリカのエイドリアンも1808〜1809年に発表している。

図が示すこと:ばらついた点に合う直線は、ずれを2乗して足した合計が一番小さくなるように決める。

傾きaを変えたときの誤差の2乗の和(谷の底が最小二乗)
041838・1958・S字の曲線

人口の式が、確率の式になるまで

いつも0と1の間に収まる予測は、どうやって作るのか。

1838年、ベルギーのフェルフルストは、人口の増え方を数式で表した。倍々に増える勢いmpから、人口が増えるほど強くかかるブレーキnp² を引いた形だ。解の曲線はS字になり、人口は上限m/nに近づく。1845年、この曲線をlogistiqueと名づけた(理由は書かなかった)。

同じS字曲線は、のちに確率の予測に使われるようになる。答えが「はい(1)」か「いいえ(0)」のデータで、1になる確率を説明変数から予測する手法が、ロジスティック回帰だ。直線だと予測が0より小さくなったり1を超えたりするが、S字曲線なら常に0と1の間に収まる。1958年、ロンドン大学のコックスが、0と1のデータの回帰の論文を発表した。

右の図の「人口(1838年)」ではmとnを動かし、「はい・いいえ(1958年)」では「1歩学ぶ」を押して、S字が点に合っていく様子を見てみよう。

dp/dt=mp − np²
P(y=1)=1 ÷(1+e−(ax+b))
p, m, n
人口、増える勢い、ブレーキの強さ
a, b
学習で決める数
e
約2.718(自然対数の底)
知ってるつもりよく言われる話:ロジスティック回帰はコックスが1958年に考案した
元の資料では:コックス本人は1994年のインタビューで、だれが最初かは分からない、コーンフィールドがやっていたかもしれない、と話した。1944年にはバークソンがロジスティック関数を使い、という言葉を作っていた。

図が示すこと:人口の増え方を表すS字の曲線が、のちに『はい・いいえ』の確率を0と1の間に収めて予測する式として使われた。

051901・1933・主成分分析

点にいちばん近い直線はどれか

xにもyにも測定誤差があるとき、「合う直線」はどう決めるのか。

最小二乗法の直線は、yだけに誤差があると考えて、縦方向のずれを小さくする。そのため、xとyのどちらを基準にするかで違う直線になってしまう。1901年、ロンドンのピアソンは、各点から直線へ下ろした垂線の長さの2乗和を最小にすればよいと考えた。その直線は点の重心を通り、点の散らばりを表す楕円の最も長い軸の向きになる。

右の図で「ピアソンの10個」を選ぶと、10個の点はピアソンの論文の数値例そのままだ。「垂線」を選び、直線を回して、垂線の2乗の平均が最も小さくなる向きを探してみよう。論文の答えは傾き −0.546である。yをxから予測する回帰なら −0.5396、xをyから予測するなら −0.5659となり、3本は違う直線になる。

1933年、コロンビア大学のホテリングは、互いに関連する多くのテストの点から、ばらつきを最も多く説明する成分を順に取り出す方法を、(訳)と名づけた。

Σ di² を最小にする向き = 点の散らばりがいちばん大きい向き(第1主成分)
di
i番目の点から直線へ下ろした垂線の長さ
散らばりの楕円
データの散らばりを表す楕円
知ってるつもりよく言われる話:主成分分析はホテリングが1933年に考えた
元の資料では:点に一番近い直線が散らばりの最も長い軸になることは、1901年にピアソンが示していた。

図が示すこと:点にいちばん近い直線(垂線の2乗の和が最小)は、点の散らばりのいちばん長い向きと同じ。yだけのずれを見る回帰の線とは違う。

直線の向きと、垂線の2乗の平均
061950・日本・数量化

点数を、データから決める

「よくなじむ・ふつう・反抗的」のような答えに、何点をつければよいのか。

1948年の日本人の読み書き能力調査が終わるころ、統計数理研究所の林知己夫は、刑法学者から、仮釈放してよいかの判断を統計でもっと確かにしたいと相談された。それまでは、回答ごとに−2から2のような点数を人が決めて合計していた。

林は横浜刑務所に通い、刑務所によくなじむ優等生もひどく反抗的な人も再犯しやすく、中くらいの人が一番再犯しにくい傾向を読みとった。そこで、再犯しなかったグループとしたグループがよく分かれるように、回答に与える数値そのものをデータから決める方法にたどり着いた(1950年の英語の論文)。

右の図で、人が決めた点数とデータから決めた点数を比べよう(人数はこのサイトが作った例)。

点数sを、相関比η² が最大になるように選ぶ
s
答え(カテゴリー)に与える数値
η²
全体のばらつきのうち、グループの違いで説明できる割合(今の数量化II類の形)
知ってるつもりよく言われる話:数量化I類〜IV類は、林がこの順に作って名づけた
元の資料では:最初に完成したのは仮釈放の予測手法(今のII類)。I〜IVの番号は、1964年に社会心理学者の飽戸弘がつけた呼び名で、作られた順とは関係がない。

図が示すこと:答えに何点をつけるかを人が決めずに、データから決めると、『中くらいの人が一番再犯しにくい』のような、まっすぐ並ばない関係もつかめる。

071951・1967・k近傍法

一番近い例に合わせるだけ

覚えた例のうち一番近いものをまねるだけで、どこまで当たるのか。

k近傍法は、分類したい新しい点から近い順にk個のデータを探し、最も多いクラスに分類する方法だ。事前にデータの分布の形を仮定しない。1951年2月、フィックスとホッジスはアメリカ空軍航空医学校の報告書でこの種の規則を考えた。データ数nが増えるのにあわせてkも増やせば(ただしk/nは0に近づける)、最適な分類に近づくことを示した。

1967年、スタンフォードのカバーとハートは、一番近い1点に合わせる最近傍法(k=1)でも、データが無限にあれば誤り率は理論上の最小値(ベイズ誤り率)の2倍を超えないと証明した。論文は、この意味で、無限にあるデータが持つ分類の情報の半分は、最も近い1点に含まれていると述べている。

右の図で点を置き、kを変えてみよう。k=1では訓練データはすべて正解するが、ノイズの点の周りに小さな島ができる。

R* ≤ R ≤ R*(2 − M R* ÷(M − 1))≤ 2R*
R
最近傍法の誤り率(データが無限にあるとき)
R*
ベイズ誤り率(分布が完全に分かっていても残る誤り)
M
クラスの数
知ってるつもりよく言われる話:k近傍法は1967年にカバーとハートが考案した
元の資料では:2人自身が、近傍の規則を最初に定式化して性質を調べたのはフィックスとホッジスらしいと書いている。1951年の報告書は学術誌の論文にはなっていない。

図が示すこと:一番近い例をまねるだけでも当たる。kを1にすると訓練データは全部正解するが、ノイズの点のまわりに小さな島ができる。

R* と、Rの上限(クラスが2つのとき)
081957・1967・k-means

分けて、平均に動かす

正解を与えずに、データをk個の組に分けられるか。

k-meansは、(1)点を一番近い代表に分ける、(2)代表をその組の平均に動かす、の2つを交互に繰り返して、組の中のばらつきを小さくしていく手順だ。繰り返すたびに、ばらつきの合計は減るか、そのまま止まる。

同じ形の手順には、何人もが別々にたどり着いた。1957年、ベル研究所のロイドは、信号の電圧を決まった数の代表値に置き換えて送るとき(PCM)、誤差が一番小さくなる区切りと代表を求める手順を、研究所内で回覧する原稿に書いた(学術誌に載ったのは約25年後)。1967年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のマックイーンは、点を1つずつ一番近い組に入れて平均をすぐ直す手順に、k-meansという名前をつけた。

右の図で「分ける」「動かす」を交互に押してみよう。初めの代表の置き方を変えると、違う答えに止まることもある。

W=Σ組 Σ組の点x ‖x − μ組‖²
x, μ
点と、組の代表(平均)
‖ ‖²
距離の2乗
W
組の中のばらつきの合計
知ってるつもりよく言われる話:k-meansはマックイーンが1967年に発明した
元の資料では:本人が同じ論文で、先の例にセベスチェン(1962)、フォージーとジェンリッチ、ウォレスとボールを挙げている。1956年にシュタインハウス、1957年にロイドも同じ考えを出していた。

図が示すこと:近い代表に分ける・代表を平均へ動かす、を交互にくり返すと、正解を教えなくてもデータが組に分かれる。始め方しだいで違う答えに止まることもある。

091958・1963・階層クラスタリング

似たものから順につないで、木にする

グループの数を決めずに、データのまとまりを見つけるには。

1958年、カンザス大学の昆虫学者ソーカルとミッチェナーは、ハチ97種を1種あたり122個の特徴で比べた。似ている種どうしをまずグループにし、できたグループどうしをさらにつなぐことを繰り返して、全体を木の形の図(樹形図)にまとめた。

1963年、アメリカ空軍の基地の研究所のウォードは、このまとめ方を一般的な手順にした。今あるグループから2つを選ぶ組み合わせをすべて調べ、まとまりの良さを表す数(目的関数)が最も良くなる2つを合わせる。これを全体が1つになるまで繰り返す。

右の図は、ウォードの論文の例そのもの。10人の点数2, 6, 5, 6, 2, 2, 2, 0, 0, 0を1つのグループにすると、平均からのずれの2乗の合計は50.5。{0,0,0} {2,2,2,2} {5} {6,6} の4組に分けると0になる。「2つ合わせる」を押して、木が育つのを見よう。

合わせる2組 = 合わせた時のESSの増え方が一番小さい2組(この模型の目的関数)
ESS
各グループの、平均からのずれの2乗の和を合計したもの
知ってるつもりよく言われる話:ウォード法は、ずれの2乗の合計の増え方が最も小さい組を合わせる方法
元の資料では:1963年の論文は、目的関数は調べる人が目的に合わせて選ぶどんな関数でもよい、という一般的な手順として書いた。ずれの2乗の合計は、説明の例の1つだった。

図が示すこと:似たもの同士から順につないでいくと、グループの数を決めなくても、全体が1本の木(樹形図)にまとまる。

101966・1975・隠れマルコフモデル

見えない状態を、記号から当てる

声のように、同じ言葉でも毎回ゆれる信号を、どう認識するのか。

1966年、アメリカの国防分析研究所のバウムとペトリーは、外からは見えない状態が確率で移り変わり、各状態から確率で記号が出力される数学モデルを作った。出力された記号の列だけから、状態が移り変わる確率や記号が出る確率を推定できる。これが現在の隠れマルコフモデル(HMM)である。

1975年、ベイカーは音声理解システムDRAGONでこの仕組みを使い、1976年にはIBMのジェリネックが連続音声認識に導入した。1989年、AT&Tベル研究所のラビナーによる解説で広く知られるようになった。

右の図では、見えない状態(声・静か)が移り変わり、観測できるのは音の大きさだけである。ここから、最も確率の高い状態の並びを推定する(ビタビのアルゴリズム)。

P(状態の並び | 記号の列)が最大の並びを探す
状態と記号
状態は直接見えず(声・静か)、記号だけが観測できる(音の大きさ)
ビタビ
途中までの最も確率の高い経路だけを記録して進む動的計画法(5章のDPマッチングと同じ考え方)
知ってるつもりよく言われる話:隠れマルコフモデルの登場で、音声認識の性能は一気に向上した
元の資料では:ラビナー(1989)の実験では、1語ずつの数字で、HMMとそれまでのパターンマッチング(DTW)の誤り率は同程度だった(1.3%対2.0%、1.8%対1.1%)。強みは、音の仕組みを表す力と、語彙の多い認識へ広げられる点にあった。

図が示すこと:外から見えない状態(声・静か)が確率で移り変わり、見えるのは音の大きさだけ。前後のつながりを使えば、1コマずつ当てるより正しく状態の並びを当てられる。

111971〜2010・日本・モデルの選び方

当てはまりすぎを、どう見抜くか

調整する数を増やすほど、データによく合う。どこで止めればよいのか。

調整できる数(パラメータ)を増やすほど、式は手元のデータにぴったり合う。だが新しいデータでは外れやすくなる(過剰適合、過学習)。1971年、統計数理研究所の赤池弘次は、データへの当てはまりに、パラメータの多さへのペナルティを足した基準AIC を発表した。小さいほどよい。

1974年、ロンドンのストーンは、データを学習用と検証用に分け、分け方を変えながら成績の平均でモデルを選ぶ交差検証を論文にした。1977年には、1つ抜きの交差検証とAICが、データが多いと同じようにふるまうと示した。2010年、東京工業大学の渡辺澄夫は、AICの前提が成り立たないニューラルネットワークなどにも使えるWAICを作り、1つ抜きの交差検証と同じ値に近づくと証明した。

右の図で多項式の次数を上げてみよう。訓練誤差は下がり続けるが、交差検証の誤差とAICは途中から上がり始める。

AIC= −2 log L̂ +2k
L̂
最大尤度(そのデータが最も出やすくなる値での確からしさ)
k
パラメータの数
知ってるつもりよく言われる話:AICのAは赤池(Akaike)のA
元の資料では:本人は1974年の論文で、AはBIC、DICのような似た基準が後に続けられるように付けたと書き、1981年の回想でもan information criterionの略だと書いた。WAICのWも、渡辺の論文ではwidely applicable(広く使える)の略。

図が示すこと:式の数を増やすほど手元のデータにはよく合うが、新しいデータでは外れやすくなる。AICや交差検証は、そのちょうどよい所を教える。

次数ごとの訓練誤差・交差検証の誤差・AIC
121977・EMアルゴリズム

見えない部分を埋めて計算し直す

データの一部が見えないとき、どうやって一番もっともらしい値を求めるのか。

1977年、ハーバード大学などのデンプスター、レアード、ルービンは、データの一部が見えないときに、もっともらしいパラメータを求める一般的な方法を示した。見えない部分の期待値を現在の値で計算する Eステップ(expectation)と、埋めたデータから値を計算し直すMステップ(maximization)を交互に繰り返す。繰り返すたびに、データの尤度は下がらない。

最初の例は、197匹の動物が遺伝の仕組みで4つの種類に125, 18, 20, 34匹と分かれたデータだ。右の図で「197匹の例」を選び、「E:埋める」「M:計算し直す」を交互に押してみよう。πは0.5から8回で0.6268214… に落ち着き、論文の表1と同じ数になる。「2つの山」では、混ざった点を山ごとに分ける。

E:x₂ =125 ×(π/4)÷(1/2+π/4)
M:π=(x₂ +34)÷(x₂ +18+20+34)
π
求めたい値(遺伝モデルの中の確率)
x₂
125匹のうち、見えない2つ目のグループに属する数の期待値
知ってるつもりよく言われる話:EMアルゴリズムは1977年にデンプスターたちが発明した
元の資料では:特別な場面では以前から何度も提案されていたと3人自身が書いている(ハートリー1958、バウムたちなど)。3人の仕事は、一般の形にまとめて名前を付け、尤度が下がらないことを証明したことだ。

図が示すこと:見えない部分を今の値で埋める(E)・埋めたデータから値を計算し直す(M)、を交互にくり返すと、一番もっともらしい値に近づく。

くり返しごとのπ
131979・日本・大津の二値化

白と黒の境目を自動で決める

濃淡画像を白と黒に分けるとき、境目の明るさをどう決めるのか。

文字や物体を背景と分けるには、ある明るさ(しきい値)を境にして画素を2つに分類する。1979年、電子技術総合研究所の大津展之は、このしきい値を自動で決める方法を英語の論文で発表した。明るさの度数分布(ヒストグラム)をしきい値kで2つに分けたとき、グループ間のばらつき(クラス間分散)が最大になるkを選ぶ。これは、各グループ内のばらつきを最小にすることと同じになる。

計算には、その明るさまでの画素の割合と明るさの合計だけを使うため、非常に簡単だ。正解の例を使わずに決める、教師なしの手法だ。論文では、新しいリボンと古いリボンで打ったタイプライターの文字A、布の模様、細胞の画像を例に挙げた。

右の図でしきい値を動かし、グラフの山の頂上を探そう(画像はこのサイトが作った例)。

σB²(k)=ω₀ ω₁(μ₀ − μ₁)² → σB² が最大のkを選ぶ
ω₀, ω₁
暗いグループ・明るいグループの画素の割合
μ₀, μ₁
それぞれのグループの平均の明るさ
知ってるつもりよく言われる話:大津の二値化は、画像を白黒にするための小技
元の資料では:大津は判別分析から導き、パターン認識の基本的な問題の1つとして扱った。論文の結論も、ヒストグラムさえあれば、ほかの教師なしの分類にも使えると書いている。

図が示すこと:白と黒に分ける境目の明るさは、分けた2つのグループの離れ方(クラス間分散)が最大になる所を選べば、正解の例なしで自動で決まる。

しきい値kとクラス間分散σB²
141985・ベイジアンネットワーク

証拠が入ると確からしさが網を伝わる

たくさんの手がかりから、確率の規則を曲げずに推論できるか。

1980年代初めの専門家システム(6章)の多くは、不確かな推論に場当たりの計算規則を使っていた。カリフォルニア大学のパールは1982年、多くのAI研究者が、確率の規則を少なくとも一部は曲げなければならない、という神話を受け入れていると書いた。そして事柄を点、直接の依存を矢印で結び、その強さを条件付き確率で表すグラフを考えた。これなら、点が隣とだけ短い知らせをやりとりして、全体の確率を正しく更新できると示した。1985年、この形をベイジアンネットワークと呼んだ。

右の図は、「雨」と「水まき」が「芝生がぬれる」の原因になる小さなネットワークだ(確率はこのサイトが作った例)。「芝生がぬれていた」を入れると雨も水まきも疑わしくなるが、さらに「雨だった」を入れると、水まきの確率は下がる。一方の原因で説明がつくからだ。

P(雨 | ぬれた)=P(ぬれた | 雨) × P(雨) ÷ P(ぬれた)
P(A | B)
Bが分かったときのAの確率
矢印
直接の原因から結果への向き
知ってるつもりよく言われる話:ベイジアンネットワークは、データから学習するための統計の道具として生まれた
元の資料では:パールの1985年の報告の題は、証拠から推論する自分で動く記憶のモデルで、発表先は認知科学の学会だった。1982年の論文は、専門家システムの場当たり的な計算への答えとして書かれた。

図が示すこと:原因と結果を矢印でつないでおくと、証拠が入ったとき確からしさが網を伝わる。片方の原因で説明がつくと、もう片方の原因は疑われなくなる。

151986・決定木

どの質問から先に聞くか

質問を並べて答えを出す「木」は、どう作ればよいのか。

決定木は、「天気は?」「湿度は高い?」のような質問を枝分かれの形に並べ、答えに合わせて枝をたどり、葉に着いた所で答えを出す。1986年、オーストラリアのクインランは、ID3という作り方を論文にまとめた。データを分けたときに得られる情報の量(情報利得。ビットで測る)が一番大きい質問を先に選び、分かれた先でも同じことを繰り返す。

右の図の14枚の札は、論文の表1の各行。行の番号と、答えのPかNが並ぶ。「くわしく:資料の14行・木の全体・情報の量」を開くと、土曜の朝の天気・気温・湿度・風も読める。天気で分けると0.246ビットの情報が得られて一番大きいので、木の根は天気になる。質問を押して、木を自分で育ててみよう。

情報利得 =I(全体) − Σ(分けた組の割合 × I(その組))  I= −p log₂ p − n log₂ n
p, n
グループ内のPとNの割合
I
答えを知るのに必要な情報の量(ビット)
知ってるつもりよく言われる話:決定木はAI(機械学習)の研究から生まれた
元の資料では:統計学の側にも、1963年のモーガンとソンキストのAID、1984年のブレイマンたちのCARTという別の流れがある。1986年の論文の参考文献にCARTは出てこず、2つの流れは別々に育った。教科書の「天気とテニス」と同じ形の例がこの論文にあるが、テニスという言葉は出てこない。

図が示すこと:決定木は、答えについて一番多くの情報が得られる質問から先に聞き、分かれた先でも同じことをくり返して作る。

161988・1989・1994・強化学習

ごほうびから学ぶ

正解を教えてもらえず、ときどき「ごほうび」があるだけで学習できるか。

強化学習は、報酬(ごほうび)を手がかりに、試行錯誤しながら行動のしかたを身につける機械学習だ。1988年、GTE研究所のサットンは、最後の結果を待たずに、明日の予測とのずれで今日の予測を直すTD法を理論にまとめた。1989年、ワトキンスは博士論文で、状態xで行動aをとったときの価値Q(x, a)を、1回試すごとに少しずつ直すQ学習を示した。どの行動も何度も試せば、最もよい価値に近づくことも証明した。

1994年、東京工業大学の宮崎和光・山村雅幸・小林重信は、報酬が出たときに、それまでの一連の行動をまとめて強めるprofit sharing法を研究した。遠回りにしかならない行動を学習しないための条件を証明し、人工知能学会の論文賞を受けた。

右の図の迷路で、宝(報酬)までの道を、Q学習とprofit sharingで学習させてみよう。

Q(x, a) ← Q(x, a)+α(r+γ maxb Q(x′, b) − Q(x, a))
r, x′
得られた報酬と次の状態
α, γ
学習率と、将来の報酬を割り引く割引率(0〜1)
知ってるつもりよく言われる話:TD学習は1988年にサットンが発明した
元の資料では:サットン自身が、TD法はサミュエルのチェッカーのプログラム(1959、3章)などですでに使われていたが、よく理解されていなかった、と書いている。Q学習も、1992年の論文ではなく1989年の博士論文で生まれた。

図が示すこと:正解を教えられず、宝に着いた時だけごほうびがあるだけでも、試すことをくり返すと宝への道を覚える。

挑戦の回数と、宝に着くまでの歩数
171990・1995・1999・ブースティング

弱学習器を、誤りに合わせて重ねる

当てずっぽうより少しましなだけの方法を集めて、強い方法にできるか。

始まりは理論上の問いだった。当てずっぽうよりわずかによいだけの弱い学習と、いくらでも正しくできる強い学習は、同じ力を持つか。1990年、MITのシャピーアは両者が等価だと証明し、弱い手法を強い手法に変えるアルゴリズムを示した。1995年、フロイントとシャピーアはAdaBoostを発表した。前の回で間違えたデータほど重みを大きくして次の分類器に学習させ、最後に重み付き多数決で判定をまとめる。

1999年、スタンフォードのフリードマンは、現在の予測と正解の誤差(残差)を次の小さな決定木に予測させ、少しずつ足し合わせる勾配ブースティングを、坂を下る最適化の計算として一般化した。

右の図で「1回ふやす」を押すと、間違えたデータが大きくなり、次の境界線がそこを分類しに来る。

αt = ½ log((1 − εt) ÷ εt)  まちがえた例の重み ← 重み × eαt
εt
t回目の分類器の、重み付き誤り率
αt
その分類器の、多数決での重み
知ってるつもりよく言われる話:ブースティングは過学習しない
元の資料では:シャピーア自身は2013年の解説で、訓練データの誤りが0になった後もテストデータの誤り率が下がり続ける例(5回目8.4% → 1000回目3.1%)を示しつつ、ブースティングも過学習することはある、と書いている。

図が示すこと:当てずっぽうより少しましなだけの分類器でも、前に間違えたデータを重くして次を学ばせ、多数決で重ねると強くなる。

回数ごとの、訓練データの誤り数
181992・サポートベクターマシン

境目からの余白を最大にする

2つの組を分ける線は何本も引ける。どれが一番よいのか。

1992年7月、ボーザー、ギヨン、バプニクの3人(研究の場はAT&Tベル研究所)は、学会COLT '92で新しい学習手法を発表した。2つの組を分ける境界を、最も近い点との距離(マージン、余白)が最大になるように引く。境界は、それに最も近い少数の点だけで決まり、ほかの点を動かしても変わらない。

さらに、点どうしの似かよりを測る関数(カーネル)だけを使う形に書き換えると、曲がった境界でも同じ計算で余白を最大にできる。郵便物の手書き数字(訓練データ7300枚・テストデータ2000枚)では、4次の多項式カーネルで誤り率4.9%。同じデータの5層のニューラルネットワーク(5.1%)より、わずかに低かった。

右の図で点を引っ張ってみよう。輪がついた点(境界を支える点)以外は、余白の帯に入れない限り、動かしても線は動かない。

余白を最大に ⇔ ‖w‖ を最小に
K(x, x′)=exp(−γ‖x − x′‖²)
w, b
境界の向きと位置(どの点もyi(w·xi+b) ≥ 1。yは組を +1・−1で表す)
K, γ
カーネル(点どうしの似かより)と、影響が届く範囲の狭さ
知ってるつもりよく言われる話:サポートベクターマシンは1995年にコルテスとバプニクが発明した
元の資料では:余白を最大にし、カーネルで曲がった境界にも使える学習手法は、1992年に3人が発表していた。その論文にsupport vectorという言葉は無く、境界を支える点をsupporting patternsと呼んでいる。カーネルの考えも、1964年のアイゼルマンたちのポテンシャル関数の方法を例に引いている。

図が示すこと:8章の『最も広い道』は、まっすぐな線しか引けなかった。境界は一番近い点からの余白が最大になるように引く、という考えはそのままに、点どうしの似かより(カーネル)で計算を書き換えると、まっすぐでは分けられない並びでも、同じ計算で曲がった境界が引ける。境界を決めるのは、今度も境界に一番近い少数の点だけ。

191995・2001・ランダムフォレスト

ランダムに育てた木の多数決

1本の木は訓練データに合わせすぎる。たくさん集めるとどうなるか。

決定木を深く育てると、訓練データには全部合うが、ノイズまで覚えてしまう。1995年、AT&Tベル研究所のホーは、特徴の一部をランダムに選んで使う木を何本もまとめると、手書き数字の認識精度が上がることを示した(random decision forests)。

2001年、カリフォルニア大学バークレー校のブレイマンは、ランダムフォレストをまとめた。データをランダムに選び直して木を育て、枝分かれのたびにランダムに選んだ特徴から一番よい分け方を選ぶ。木を増やすと、誤り率はある値に落ち着く。選ばれなかった約3分の1のデータ(out-of-bag)で、別のテストデータなしに誤り率を見積もれる。

右の図で木の本数を増やすと、ぎざぎざの境目がなめらかになる。

森の答え = 多数決(木₁ の答え, 木₂ の答え, …, 木B の答え)
B
木の本数
森のまちがい
1本1本の木の強さ(正確さ)と、木どうしの相関(似かより)で決まる
知ってるつもりよく言われる話:ランダムフォレストはブレイマンが1人で思いついた
元の資料では:名前のよく似たrandom decision forestsは1995年にホーが発表していた。ブレイマン自身も、バギング(1996)やホーの手法、アミットとゲマン(1997)を先行研究に挙げ、それらをまとめてrandom forestsと呼んでいる。

図が示すこと:1本の深い木はノイズまで覚えてしまうが、ランダムに育てた木をたくさん集めて多数決すると、境目がなめらかになり誤り率が落ち着く。

木の本数と、out-of-bagで見積もった誤り率
201873・1936・特異値分解

どんな表も3つに分解できる

数の表(行列)を、少ない数でよく表すには。

特異値分解(SVD)は、どんな行列も、回転 → 軸ごとに伸縮させる → もう一度回転させる、という3つのかけ算に分解できる。伸縮の倍率を特異値と呼ぶ。1873年にベルトラミが最初に発表し、イタリアの大学生向けの数学雑誌に掲載された。翌1874年にはジョルダンも別に示した。

大きい特異値だけを残すと、元の表を少ない数で精度よく近似できる。1936年、シカゴ大学のエッカートとヤングは、心理テストの得点分析に関連して、低い階数で最もよく近似する行列を求める問題を解いた。答えは、小さい特異値を0にしたものになる。

右の図の「円(2×2)」では、円が「回す・伸ばす・回す」で楕円になる。「絵(24×24)」では、24×24の数の表で描いた絵を、特異値をk個だけ残して作り直す(絵はこのサイトが作った例)。

A=U Σ VT  Ak =σ₁u₁v₁T + … +σkukvkT
U, V
回転(向きを変える)
Σ
軸ごとに伸ばす(特異値σ₁ ≥ σ₂ ≥ … を対角に並べた表)
Ak
大きいk個だけ残した近似
知ってるつもりよく言われる話:近似の定理はエッカートとヤング(1936)が見つけた
元の資料では:スチュワート(1992)によれば、1907年にシュミットが証明し、2人は再発見した。

図が示すこと:どんな表も『回す・伸ばす・回す』の3つに分けられ、大きい伸び(特異値)だけを残すと、少ない数で元の表をよく近づけられる。

特異値の大きさ(大きい順)
212006〜2009・Netflix Prize

空欄だらけの表を学習する

見ていない映画に、その人が何点をつけるかを当てられるか。

2006年10月、Netflixは大会を始めた。自社のおすすめより10%正確に、人が映画につける点を予測できたら賞金100万ドル。配ったデータは、約48万人が約1万8000本の映画につけた、1億件を超える評価だった。

2006年12月11日、参加者のファンクは手法をブログですべて公開した。人の好みと映画の特徴を40個ずつの数で表し、そのかけ算の合計で評価を予測する。表の約85億マスのうち84億マスが空欄なので、本来の特異値分解は使えない。そこで、分かっている評価だけで誤差を計算し、少しずつ値を直した。本人はこれを、手直ししたSVDと呼んだ。

右の図で「続けて学ぶ」を押すと、空欄が埋まっていく(表はこのサイトが作った例)。

予想r̂ =pu · qm
pu ← pu +η e qm(qm も同じ形。e=r − r̂)
pu, qm
人uの好みと、映画mの特徴(数の組)
r, η
分かっている評価と、学習率
知ってるつもりよく言われる話:Netflixは大会で見つかった仕組みで、おすすめを良くした
元の資料では:同社のブログ(2012)では、優勝した方法は手間に見合わず不採用だった。

図が示すこと:人の好みと映画の特徴を少しの数で表し、分かっている評価だけを使って少しずつ直すと、空欄だらけの表の空欄が当たるようになる。

繰り返しの回数と、検証用データの誤差
221770・2005・2009・中に人がいる

正解のラベルは誰がつけたのか

「AIが写真を見て自分で学んだ」とき、その正解はどこから来たのか。

2005年11月、Amazonは、プログラムが人に小さな作業を頼んで結果を受け取るサービス、メカニカル・タークを始めた。発表文は、コンピュータが大勢の人に作業をさせ、その結果を使うことを(訳)と呼んだ。

2009年、プリンストン大学のリーたちは、言葉の意味を上下の階層で整理したWordNetの名詞のまとまりごとに写真を集めたImageNet(この時点で320万枚)を発表した。写真は検索エンジンで集め、本当にその物が写っているかを、メカニカル・タークで報酬を受けて働く世界中の人が1枚ずつ確かめ、何人もの投票で決めた(論文4ページ)。「中に人がいる」は、1770年のチェスの機械(トルコ人と呼ばれた)だけの話ではない。

右の図は投票の仕組み(1人ずつの正答率はこのサイトの仮の数)。

多数決の正しさ =Σk>n/2 C(n, k) pk(1 − p)n−k
n
1枚を確認する人数(奇数)
p
1人あたりの正答率
C(n, k)
n人からk人を選ぶ組み合わせの数
知ってるつもりよく言われる話:Amazonは、1770年のチェスの機械(トルコ人)から名前をとったと説明している
元の資料では:このサイトで確認したAmazonの2005年の発表文と現在のトップページには、名前の由来は書かれていない。

図が示すこと:『AIが写真から学んだ』ときの正解は、報酬を受けて働く世界中の人が1枚ずつ確かめ、何人もの多数決で決めたものだった。

人数と、多数決の正答率
232009・データに従え

訓練とテストに分けて確かめる

手のこんだ仕組みと、大量のデータ。勝つのはどちらか。

2009年、グーグルのハレヴィ、ノーヴィグ、ペレイラは論文(訳)を書いた。(訳)と述べ、(訳)と説いた。

ただし、学習した性能は、学習に使っていないデータで評価しなければ分からない。右の図で訓練データの数を変えてみよう。少ないと、訓練データでは100%正解なのに、テストデータでは正解率が低い(過剰適合)。

テストの正しさ = 学ぶのに使わなかった例のうち、当たった数 ÷ その例の数
練習用(訓練データ)
モデルの学習に使うデータ
テスト用(テストデータ)
学習後に性能を確かめるためだけに使うデータ

図が示すこと:学習した性能は、学習に使っていないデータで確かめないと分からない。データが少ないと練習では100%でも本番で外れる。

この章に出てくるデータの大きさ(10倍ずつの目盛り)
242006・2009・GPU

同じ計算を、同時にたくさん

ゲームの画像を描く部品が、なぜAIの学習を速くしたのか。

ゲームの画像を描く部品GPUには、たくさんの小さなコア(芯)で同じ計算を同時に行う力がある(2006年のGeForce 8800 GTXでは最大128個)。2006年11月、NVIDIAは、この部品をふつうのC言語で画像以外の計算にも使える仕組みCUDAを発表した。

ニューラルネットワークの学習は、大半が「かけて足す」の繰り返しだ。1つひとつが同じ形の計算なので、手分けして同時に行える。2009年、スタンフォードのライナ、マダバン、エンは、正解なしで学習する深いネットワークをGeForce GTX 280で学習させ、2コアのCPUより最大70倍速くした。1億個のパラメータを持つ4層のネットワークの学習が、(訳)から(訳)になった。

右の図は、コアの数を変えて掛け算の表のマスを埋める競争(このサイトが作った模式)。コアが多いほど、同じ時間に埋まるマスが増える。

かかる時間 ≒ 計算の数 ÷(芯の数 × 1つの芯の速さ)
図の約束
どのマスも計算の手間は同じで、分ける手間は0とした(本物ではデータを運ぶ時間などがかかる)
知ってるつもりよく言われる話:ディープラーニングはGPUで広まった
元の資料では:2012年のグーグルの大きな試み(猫の論文・DistBelief)は、GPUではなく何千台ものふつうのコンピュータを使った。論文は、当時のGPUはメモリ(6 GB未満)に入らない大きなモデルでは速くなりにくい、と書いている。道は1つではなかった。

図が示すこと:ニューラルネットワークの学習は同じ形の計算の山なので、小さな芯をたくさん持つGPUで手分けすると、ずっと速くなる。

252009〜2012・声

画像より先に、声で

ディープラーニングを使うAIの最初の大きな成功は、画像だったのか。

ディープラーニングは、2009年ごろから音声認識で、それまで長く使われてきた統計手法(GMM)を上回り始めた。2012年、トロント大学・マイクロソフト研究所・グーグル・IBMの4つのグループが(訳)として論文をまとめ、会話の書き起こしテストで、単語の誤り率を27.4%から18.5%に減らした結果などを示した。2012年8月には、グーグルがAndroidの音声認識に採用していた。どれも、2012年10月の画像の大会より前の出来事だ。

同じころ、声で頼むアプリが次々と登場した(2010年8月のNICTのVoiceTra、2011年10月のアップルのSiri、2012年3月1日のNTTドコモのしゃべってコンシェル。日本語のSiriはその1週間後)。

右の図は、音声認識の誤りの数え方(単語の誤り率)。

誤り率 =(置きかえ + ぬけ + よけい)÷ 正解の単語数
数え方
2つの文を、最も少ない手直しでそろえて数える(動的計画法。5章のDPマッチングと同じ考え方)
知ってるつもりよく言われる話:ディープラーニングの最初の大きな成功は、2012年秋の画像の大会
元の資料では:音声認識では2009年から成果が出始め、2012年8月にはグーグルがAndroidに採用していた。グーグルのブログは、音声にニューラルネットワークを使う最初の試みとして、1980年代終わりの論文(大阪のATRの研究者2人が共著)を挙げている。

図が示すこと:深層学習の最初の大きな成功は、画像より先に声だった。音声認識の誤りは、2つの文を一番少ない手直しでそろえて数える。

262010〜2012・深いネットワーク

深く重ねても、信号が消えないように

層を30も重ねると、何が起きるのか。

深いニューラルネットワークでは、誤差を逆伝播する信号が、層を通るたびに弱まったり大きくなりすぎたりする。2010〜2012年に、これを防ぐ工夫が3つそろった。

活性化関数ReLU(入力が正ならそのまま、負なら0。正の側で傾きは常に1)。ニューロン数で幅をそろえる重みの初期値(2010年のグロロとベンジオ)。そして学習ごとに、隠れ層のニューロンを無作為に半分休ませるドロップアウト(2012年)だ。

右の図で活性化関数と初期値を変え、層ごとの信号の大きさを見よう。

ReLU(x)=max(0, x)
重みの幅 ±√6 ÷ √(n入 +n出)、標準偏差 √(2 ÷ n入)
n入, n出
層の入力・出力のニューロン数(幅はグロロとベンジオ、標準偏差はヒーたちの決め方)
知ってるつもりよく言われる話:ReLUは2010年にヒントンたちが発明した
元の資料では:2010年の論文自身が、2009年のジャレットたちの試みを挙げている。同じ形の活性化関数は1968〜1969年の福島邦彦のネットワークにある(4章)が、2010〜2012年の3つの論文は福島を引用していない。

図が示すこと:層を深く重ねると、逆に伝わる信号が層ごとに弱まって消える。ReLUと重みの初期値の工夫で、30層でも信号が届くようになった。

層ごとの、逆伝播する信号の大きさ(10倍ずつの目盛り)
272012・1年に3つ

交通標識と、グーグルの猫

2012年、ディープラーニングの成果はいくつあったのか。

2月、スイスの研究所IDSIAのチレシャン、マイヤー、シュミットフーバーは、深い畳み込みネットワークを何本も並べて結果を平均する手法をGPUで学習させ、ドイツの交通標識の識別(テスト1万2569枚)で誤り率0.54%を達成した。論文によると人の誤り率はその倍だった。ただし答えは43種類で、1000種類の写真とは難しさが違う。

6月、グーグルとスタンフォード大学のル、エンたちは、YouTubeの1000万本の動画から1枚ずつ取った画像を、正解ラベルなしで10億の結合を持つ9層ネットワークに学習させた(1000台のコンピュータ・1万6000コアで3日)。教えていないのに人の顔に反応するニューロンができ、猫の顔や人の体に反応するものもできた。グーグルのブログは、このネットワークは(訳)と念を押した。

そして10月に画像認識の大会(次の見開き)。右の図で、猫のニューロンの成績を「でたらめに答えた時」と比べよう。

論文の表1:人の顔のニューロン81.7%、猫の顔のニューロン74.8%、でたらめに答えた時64.8%(猫のテスト)。成績は、何もしなくても取れる点と比べて読む。

知ってるつもりよく言われる話:グーグルのAIが、自分で猫を識別できるようになった
元の資料では:論文の中心は人の顔のニューロン(81.7%)で、猫の顔のニューロンは74.8%。でたらめに答えても64.8%になるテストだった(論文の表1)。

図が示すこと:2012年には深層学習の成果が続けて出た。グーグルの猫のニューロンは、でたらめに答えても64.8%のテストで74.8%だった。成績は何もしなくても取れる点と比べて読む。

282012・画像の大会

大差の1位、2位は東京大学

2012年10月の画像の大会で、何が(訳)だったのか。

1000種類の物体を写真から識別する大会ILSVRCで、トロント大学のクリジェフスキー、サツケバー、ヒントンのチームSuperVisionは、5回答えてよいルールの誤り率を15.3%(大会が用意したデータだけなら16.4%)にした。2位の東京大学のチーム(ISI)は26.2%で、約11ポイントの差がついた。6000万個のパラメータを持つ8層の畳み込みニューラルネットワークを、ゲーム用のGPU 2つで学習させた。大会の主催者は、この年をたくさんの種類の物体を識別する研究の(訳)と書いた。

畳み込みは、小さな窓(フィルター)を画像の上ですべらせ、窓と同じ形の場所で強く反応させる計算だ。1979年の福島邦彦のネオコグニトロン(5章)、1989年のルカンたちのネットワークから続く構造である。右の図で窓の形を選び、画像の上をすべらせてみよう。下のグラフは、大会の1位の誤り率の8年分だ。

出力(i, j)=Σa Σb 窓(a, b) × 画像(i+a, j+b)
窓
3×3の重みの表(学習すると、縦の線・横の線などに反応する形になる)
知ってるつもりよく言われる話:2012年にディープラーニングが突然生まれた
元の資料では:勝った仕組みは、1989年のルカンたちのネットワーク(元は1979年の福島のネオコグニトロン)を大きくしてGPUで学習させたもの。論文も(訳)と書く。

図が示すこと:2012年の画像の大会で、畳み込みのネットワークが2位に約11ポイントの大差で勝った。その中身は、1979年と1989年から続く『小さな窓をすべらせる』計算だった。

大会の1位の誤り率(2010〜2017年)
292005〜2012・日本・将棋とチェッカー

棋譜から学習し、多数決で指す

将棋ソフトの強さは、作る人の将棋の強さで決まるのか。

それまでの多くの将棋ソフトは、局面の良し悪しの点のつけ方を、作り手が手作業で決めていた。化学の研究者の保木邦仁が作ったBonanza(2005年公開)は、プロの棋譜と同じ手を指すよう、点のつけ方を機械に学習させた。2006年5月に初出場の世界コンピュータ将棋選手権で優勝、2007年3月には渡辺明竜王と公開対局した(112手で竜王の勝ち)。

2010年10月、情報処理学会の「あから2010」が清水市代女流王将に勝った。日本のトップ4つのソフトに同じ局面を考えさせ、最も多く選ばれた手を指す多数決の仕組みだった。2012年1月の第1回将棋電王戦では、Bonanzaをもとにしたボンクラーズが、引退した棋士で連盟の会長だった米長邦雄永世棋聖に113手で勝った。

右の図は、プロの手が一番高い点になるように重みを更新していく学習法(このサイトの模式)。

w ← w+η(f(プロの手) − f(m))
m
プロの手より点が高くなってしまった手
w, η
点数のつけ方の重みと、学習率
f
手を指したあとの局面の特徴(駒の得・玉の守り・駒の働き)
知ってるつもりよく言われる話:強い将棋ソフトを作るには、作る人も将棋が強くなければならない
元の資料では:Bonanzaの作者は将棋をほとんど知らない化学の研究者だったが、棋譜から点数のつけ方を機械に学習させる方法で、初出場した世界大会で優勝した。

図が示すこと:将棋ソフトの点のつけ方を作り手が決めるのをやめ、プロの手と同じ手が一番高い点になるように機械に学ばせると、作り手が将棋に詳しくなくても強くなる。

学習回数と、プロと同じ手を選べた割合
302001・2011・日本・予言

期日つきの目標と市場の予測

この時代の日本では、どんな「この年までに」が出ていたか。

2011年11月、国立情報学研究所は(東ロボくん)を始めた。目的は、1980年以降に細かく分かれたAI研究を統合することと、若い人に夢を与えることだった。具体的な目じるしとして、という期日つきの目標をかかげた(答え合わせは10章)。

その10年前の2001年、日本の機械工業とロボットの業界団体の報告書は、2010年にロボットの市場は約3兆円(うち生活分野1.5兆円)、2025年に約8兆円と予測した。しかし実際には、製造業以外の次世代ロボット市場は年14〜68億円で 100億円にも届かず、むしろ縮んでいた(2009年の産業技術総合研究所の荒井裕彦の分析)。2015年の政府の戦略でも、ロボットの市場全体はと書かれた。

右の図は、予測と実際を10倍ずつの目盛りで並べたもの。

予測 ÷ 実際 = 何倍ずれたか
10倍ずつの目盛り
1 → 10 → 100が同じ間隔で並ぶ(2点の間の長さが、何倍ずれたかを表す)
知ってるつもりよく言われる話:(ロボットの研究者の間の通説)
元の資料では:工業会自身の実態調査では、次世代ロボットの市場は年14〜68億円にとどまり、むしろ縮んでいた(年平均 −10.2%)。

図が示すこと:この時代の日本では『この年までに』という予測や目標が出ていた。ロボットの市場の予測は、実際とは数百倍以上も離れていた。

おわりに

道具は古く、そろったのが新しかった

データから学習する道具の多くは、AIという言葉より古い。ベイズ(1763)、最小二乗法(1805)、S字の曲線(1838)、特異値分解(1873)、主成分(1901・1933)。そのあとの道具も、ハチの分類、仮釈放の予測、信号を送る研究、心理テスト、動物の行動の問いなど、AIの外の現場から多く生まれた。そして同じ手法に、何人もが別々にたどり着いていた。「だれが最初か」は、たいてい1人に決まらない。

2006〜2012年に新しかったのは、発想というより条件だった。GPUによる速い計算、大勢の人がラベルを付けた大量のデータ、よい重みの初期値と活性化関数。それらがそろった2012年、音声・交通標識・猫・画像の大会で、ディープラーニング(深層学習)の成果が続けて出た。

まだ分かっていないことも多い。ImageNetのラベル付けを、何人が・どの国で・いくらで行ったのか。学習したネットワークの中で何が起きているのか(外から調べる試みが始まったばかりだった)。独立でないものを独立とみなすHMMや単純ベイズが、なぜそれでもうまく働くのか。ブースティングで、訓練データの誤りが0になったあともテストの成績が伸び続けるのはなぜか。なぜ層が深い方がよいのか。どれも、この章の資料の中では、はっきりした答えが出ていない問いだ。次の章では、2012年のあと、囲碁と将棋でAIがプロに勝ち、東ロボくんの答え合わせがあり、「仕事がなくなる」という予測が世界中で話題になる。

この章のほかの出来事(1件。どれも元の資料と確度つき)
2006年元で確認食い違いあり

囲碁ソフトを強くしたの元になった2本の論文

囲碁は1つの局面で打てる手が多く、局面の評価も難しい。そのため、チェスのような探索法では強くならなかった。2006年、フランスのクーロンさんの論文は、新しい探索法(モンテカルロ木探索、MCTS)を示した。ある局面から終局までランダムに何度も打ってみて(モンテカルロ)、勝率で手を比べ、有望な枝ほど深く調べる方法である。クーロンさんは9路盤の囲碁ソフトCrazy Stoneで、コンピュータ囲碁大会(KGS)に優勝した。同じ年、ハンガリーのコチシュさんとセペシュヴァーリさんは、どの枝をどれだけ試すかを決める手法UCTを提案した。10年後のAlphaGoの論文(2016年)は、この2本をMCTSの文献として引用し、MCTSに2つのニューラルネットワーク(次の一手の予測と局面評価)を組み合わせた。

元の資料3件と確かめた所

食い違い:コチシュとセペシュヴァーリの論文の会議が第何回か:AlphaGoの文献表には『15th European Conference on Machine Learning』とある。一方、Springerの書誌ではECML 2006は第17回とされている(検索結果で確認したのみで、原典は開いていない)。どちらが正しいかは決着させていない。

  1. Efficient Selectivity and Backup Operators in Monte-Carlo Tree Search (CG 2006。著者のサイトのPDF)(Rémi Coulom・2006・PDF 1枚目Abstract / 5 Game Results(pdf…・元の資料)
  2. Bandit based Monte-Carlo Planning (ECML 2006。著者の大学のページのPDF)(Levente Kocsis, Csaba Szepesvári・2006・PDF 1枚目Abstract / 1 Introduction・元の資料)
  3. Mastering the game of Go with deep neural networks and tree search (Nature 529。DeepMindの置き場のPDF)(David Silver, Aja Huangほか(Google DeepMind・Google)・2016・PDF 1枚目 要旨・本文1ページ目、pdf 4〜5枚目の比べる相手…・元の資料)