CHAPTER 11/2017〜2022

第4次ブームのはじまり

文章や絵を作るAI(2017〜2022年)

2017年の翻訳の論文から、生成AI(文章・絵・音などを作り出すAI)が少しずつ育ち、2022年に誰でも使える形で登場した。ブームは、ある日突然始まったわけではない。そのあいだに登場した有名な仕組みを、1つずつ動かして確かめよう。

012017・トランスフォーマー

どの言葉を、どれだけ見るか

文の中の言葉どうしの関係を、機械はどうやって数で表すのか。

2017年6月、グーグルの研究者たちとトロント大学の学生の8人が、トランスフォーマーの論文を発表した。前の章の2014年の翻訳で生まれた注意(アテンション)は、RNN(言葉を1つずつ順に読むネットワーク)と一緒に使われていた。この論文はRNNを使わず、注意だけでネットワークを組み立てた。

言葉ごとに、探す側の問い(Q)、探される側の鍵(K)、中身の値(V)という3つのベクトル(数の組)を作る。問いと、すべての言葉の鍵との内積を √dで割り、ソフトマックス(すべて正で合計1にする計算)で重みにする。その重みで値を混ぜ合わせる。右の図でを押すと、「さかな」に太い線が向く。論文はこれを8つ並べ(マルチヘッド)、頭ごとに別の関係を見られるようにした。

Attention(Q, K, V)=softmax( QKT / √dk ) V
Q, K, V
問い・鍵・値のベクトルを並べた行列
dk
鍵のベクトルの長さ(論文は64)
図の数の組
このサイトが手で決めた値
知ってるつもりよく言われる話:会話するAI(チャットAI)を作るための論文
元の資料では:論文が試したのは、翻訳と英文の構文解析。結びで次の目標に挙げたのも画像・音声・動画への拡張で、会話の話は本文に出てこない。

図が示すこと:どの言葉も『問い』を出し、ほかの言葉の『鍵』とどれだけ合うかで、だれをどれだけ見るかを自分で決める。『それ』は、前の文の『さかな』を強く見る。

022017・位置エンコーディング

単語の順番を波で書き込む

注意の計算は順番を見ない。「ねこがねずみを追う」と「ねずみがねこを追う」をどう区別する?

注意の計算では、言葉の順番を入れ替えても重みは変わらない。RNNのように順に読まないので、何番目かの情報を別に足す必要がある。

論文は、位置ごとに、周期の異なるsinとcosの波の値を並べたベクトル(位置エンコーディング)を作り、言葉のベクトルに足した。波の周期は、最も短い2πから最も長い10000・2πまで。時計の秒針と時針のように、速い波で近くを、遅い波で遠くを区別する。下のグラフは、選んだ位置とほかの位置の内積。位置の差が同じなら、どこでもほぼ同じ値になる。

PE(pos, 2i)=sin( pos/100002i/d ) PE(pos, 2i+1)=cos( pos/100002i/d )
pos
単語の位置
i
何番目の波か
d
ベクトルの次元(論文は512。図は32)

図が示すこと:注意だけだと、言葉の順番を入れかえても計算の結果が同じになる。位置ごとに速い波と遅い波の値を足しておくと、順番の違いが数に入る。

選んだ位置と、ほかの位置のベクトルの内積
032018・文脈

同じ単語でも、文によって数が変わる

playは、野球のプレーにも劇にもなる。1つの単語に1つの数の組で足りるのか。

前の章のword2vec(2013)などは、1つの単語に1つのベクトルを割り当てた。そのためplayは、野球の文でも劇の文でも同じベクトルだった。2018年2月、アレン人工知能研究所とワシントン大学のピーターズたち7人は、ELMo を発表した。

大量の文章で、前から読んで次の語を予測するLSTMと、後ろから読んで前の語を予測するLSTM(各2層)を学習させる。単語の表現は、各層の内部の状態を、課題ごとに学習した重みで足し合わせたもの。論文は、下の層は品詞に、上の層は語の意味の識別に強いと書く(右の図)。

6つの課題のどれでも、ELMoを足すだけで当時の最高を上回り、誤りを最大で約20%減らした。

ELMok =γ Σj sj hk,j
hk,j
k番目の単語を読んだ時のj層目の状態
sj
層ごとの重み(ソフトマックスで合計1)
γ
全体の大きさ
知ってるつもりよく言われる話:文脈で意味が変わる単語の表現はELMoが最初
元の資料では:ELMoの論文自身が2017年の研究とCoVeを先行例に挙げ、自分たちの違いは(訳)を使う点だと書く。8か月後のBERTの論文は、ELMoを(訳)と呼んだ。同じ手法を、作った人たちは深いと呼び、次の論文は浅いと呼んだ。

図が示すこと:word2vecではplayは1つの点だったが、ELMoでは文ごとにplayの点が動く。下の層では名詞か動詞かでまとまり、上の層では野球・劇・音楽の意味でまとまる。

042018・言語モデル

次の言葉を当てる学習だけで

正解のついていない文章から、機械は何を学習できるのか。

2018年6月、OpenAIは次のやり方を発表した。まず12層のトランスフォーマーに、本7,000冊分の文章で次の言葉を当てる学習(事前学習)をさせる。そのあと、少しの例で個々の課題を教える。調べた12の課題のうち9つで、それまでの最高を上回った。

ここまでの文の次に来る言葉の確率を出す仕組みを言語モデルという。確率で次を選ぶことを繰り返すと、文ができる。考え方は古く、1948年のシャノンの論文も、前の2文字から次の文字の確率を決めて、英語らしい文字の並びを作っている。右の図は、このサイトの記録の文で数えた、前の字から次の1字への確率。前の字数は、初めは2字で、1〜3字に切り替えられる。温度を上げると確率がならされ、下げると確率の高い字に選択が集中する。

第4次の違いは、確率を出すのが大きなニューラルネットワーク(トランスフォーマー)で、ずっと多くの文章で学習することだ。

pi =exp(zi /T)/Σj exp(zj /T)
zi
字iのスコア(図では数えた回数の対数)
T
温度
pi
字iを選ぶ確率
知ってるつもりよく言われる話:最初のGPT(GPT-1)と呼ばれる
元の資料では:2018年6月の論文と発表文には、GPTという言葉が1度も出てこない。4か月後のグーグルのBERTの論文が「Generative Pre-trained Transformer(OpenAI GPT)」と呼んでいる。GPT-1という呼び方の出どころは、まだ確かめられていない。

図が示すこと:『ここまでの文の次に来る字』の確率を数えるだけで、それらしい文が作れる。温度を上げると確率がならされてめずらしい字が出て、下げると同じ言い回しをくり返す。

052018〜2019・トークン

文をトークンに分ける

言語モデルは、文を1字ずつ読むのか、1語ずつ読むのか。

言語モデルが扱う文の切れはしをトークンという。1字ずつでは列が長くなり、1語ずつでは辞書に無い語が出た時に困る。GPTやGPT-2が使ったのはバイトペア符号化(BPE)だ。最初は1字ずつに分け、文章の中で最も多く隣り合う2つをくっつけて新しいトークンにする。これを繰り返す。右の図で「1回くっつける」を押してみよう。

2018年のGPTは、4万回くっつけた辞書を使った。2019年のGPT-2の論文によると、文字(Unicode)のままでは、くっつける前の辞書が13万を超える。そこで文字を1バイト(256種類)ずつに分けてからBPEをかけ、辞書を50,257にした。一度に読める長さも、512から1,024トークンに広げた。

いちばん多く隣り合う組 (a, b) → 新しいトークンab(くり返す)
数える物
文章の中でaのすぐ後にbが現れた回数

GPT-2の論文は、字の種類をまたいではくっつけない工夫を加えた。dog. dog! dog? のように、同じ語が記号つきで別々のトークンになる無駄を避けるためだ。

図が示すこと:いちばん多く隣り合う2つをくっつける、をくり返すだけで、よく出る字の組(『いはな』『あか』など)が1つのトークンにまとまり、トークンの数が減っていく。

くっつけた回数と、トークンの数
062018・穴埋め

穴をあけて前後から予測する

次の言葉ではなく、文の途中の穴を当てさせると、何が変わるのか。

2018年10月、グーグルの4人は BERT(バート) を発表した。GPTは左から右へ読んで次の言葉を当てた。一方BERTは、文のトークンの15%を選んで隠し、左右両方を手がかりに当てる学習をした(選んだ所の80%は [MASK]の印、10%は別の言葉、10%はそのまま)。論文は、1953年のClozeという穴埋めテストから着想を得たと書く。

右の図の「ぼく は [MASK]を のんだ」で、左だけでは、みず・おちゃ・パン・りんごを区別できない。右の「を のんだ」まで見ると、飲み物に絞れる。

本の文章8億語と英語のウィキペディア25億語で学習し、11の課題で最高の成績を出した。2019年10月にはグーグル検索で使い始め、アメリカの英語の検索の(訳)の理解に役立つと発表した。

損失 = −Σ隠した所 log p( 本当の言葉 | 左右の言葉 )
p
モデルが出す確率
隠した所
選んだトークンの15%

図が示すこと:左だけ見ると、穴に入る言葉の候補が絞れない。右の『を のんだ』まで見ると、飲み物に絞れる。BERTは左右両方を手がかりに当てる学習をした。

072019・段階公開

悪用を心配して、9か月かけて公開

作ったAIを、すぐには全部出さないと決めたら、何が起きたか。

2019年2月、OpenAIは、ネットの文章40GBで学習した GPT-2 を発表した。パラメータ(学習で決まる数。この章の式では部品とも呼ぶ)は15億。うその記事などへの(訳)として、小さいモデルと論文だけを公開した。(訳)とも書いた。

その後は大きさを順に上げて公開し、11月に最大の版を出した時は(訳)と書いた。右の図で月を動かしてみよう。

部品の数 ≈ 12 × 層の数 × d2 + 辞書の大きさ × d+ 位置の数 × d
d
ベクトルの長さ
12 × 層の数 × d2
本体の数え方(2020年のスケーリング則の論文)
全体の足し算
このサイトの見積もり
知ってるつもりよく言われる話:OpenAIが「危険すぎて公開できないAI」を作った
元の資料では:発表文にdangerous(危険)という単語は無い。当日のガーディアン紙の見出しが(訳)だった。9か月後には全部を公開した。

図が示すこと:GPT-2は、悪用の心配から、小さい版から順に9か月かけて公開された。最後の版を出した時、作った側は『今のところ悪用の強い証拠は見ていない』と書いた。

パラメータ数(10倍ごとの目盛り)
082020・スケーリング則

パラメータを増やすか、文章を増やすか

パラメータ数だけ増やしても、学習する文章が足りないとどうなるか。

2020年1月、OpenAIとジョンズ・ホプキンズ大学の10人は、パラメータ数・文章の量・計算量を増やすと、文章AIの損失(次の言葉の当てにくさ)がべき乗の法則で下がること、それが7けた以上の幅で続くことを示した(12章で詳しく)。

論文は、パラメータ数Nと文章の量Dの両方が効く式も示した。片方だけ増やすと、良くなり方が鈍る。パラメータを8倍にするなら、文章を約5倍にすれば損をしない、と論文は書く。右の図で「Nを8倍・Dを5倍」を押してみよう。

大きくすればもっと賢くなる、という期待の土台の1つがこれだ。ただし著者自身が(訳)と書いている。

L(N, D)= [ (Nc /N)αN/αD +Dc /D ]αD
N
パラメータ数
D
文章の量(トークン数)
αN, αD
論文の値0.076、0.095
Nc, Dc
論文の値8.8×10¹³、5.4×10¹³
知ってるつもりよく言われる話:大きくすればいくらでも賢くなる、という法則
元の資料では:論文自身が、いつかは必ず頭打ちになること、理論的な理解は無いことを書いている。

図が示すこと:パラメータ数だけ増やしても、文章の量が足りないと良くなり方が鈍る。パラメータを8倍にするなら文章を約5倍にすれば損をしない。そしてこの傾向もいつかは頭打ちになる。

文章の量を決めて、パラメータ数だけ増やした時の損失
092020・例を見せる

学習し直さず、例を見せるだけで

新しい課題を教えるのに、AIの中の数(重み)を変えずにできるか。

2020年5月、OpenAIの31人は、パラメータ1,750億の GPT-3 を発表した。それまでの同種のAIの10倍の大きさで、3,000億トークンで学習させた。

課題ごとに学習し直す(重みを変える)代わりに、文の中で課題の説明と例をいくつか見せ、続きを書かせる。例なし(ゼロショット)、1つ(ワンショット)、いくつか(フューショット)。重みは変えない。これで翻訳・質問への答え・3桁の計算などをこなした。右の図は、このサイトが作った小さな仕組み(GPT-3の中身ではない)。例に合う規則だけを残すので、例が増えると答えが絞られていく。

GPT-3が書いたニュース記事と人の記事を人に見分けてもらうと、正解率は52%で、当てずっぽう(50%)とほとんど変わらなかった。

見せる文 = 仕事の説明 + 例1+ … + 例k+ 問い → 続きを書く
k
見せる例の数
一度に読める長さ
2,048トークン(GPT-3)

図が示すこと:中の数を変えなくても、文の中に例をいくつか見せるだけで、何をしてほしいかが絞りこまれる。例が増えるほど、答えの候補が減っていく。

パラメータ数(10倍ごとの目盛り。記録にある数)
102020・自己教師あり学習

正解なしで、似た画像を近づける

写真に正解ラベルを付けずに、識別に役立つ特徴を学習できるか。

自己教師あり学習は、人が正解(ラベル)を付けず、データそのものから作った問題で学習する方法だ。次の言葉を当てる学習や穴埋めもその仲間。2020年2月、グーグルのチェン、ヒントンたち4人は、画像の対照学習を簡単にまとめたSimCLRを発表した。

写真1枚に切り抜き・色変え・ぼかしなどの加工を2回かけ、2枚の正しい組を作る。この組は近く(コサイン類似度が大きく)、ほかの写真とは遠くなるように学習させる。右の図で「続けて学ぶ」を押してみよう。

正解なしで学習した特徴の上で、簡単な分類の層だけを正解付きで学習させると、ImageNetで76.5%になった。正解付きで学習したResNet-50に並ぶ成績だ。

ℓi,j = −log [ exp( sim(zi, zj)/ τ )/Σk≠i exp( sim(zi, zk)/ τ ) ]
z
写真の特徴ベクトル
(i, j)
同じ写真から作ったペア
sim
コサイン類似度
τ
温度パラメータ
知ってるつもりよく言われる話:正解なしで画像を学習する対照学習はSimCLRが始めた
元の資料では:論文自身が(訳)と書き、対照学習の例の最初に 2006年のニューヨーク大学の論文を挙げている。その論文は(訳)と書いていた。

図が示すこと:同じ写真から作った2枚は近く、ほかの写真とは遠く、というだけの決まりで学ぶと、だれも正解を教えないのに、写真ごとにまとまった特徴ができる。

損失(学習の回数ごと)
112020・画像のトランスフォーマー

画像を16×16の四角の列にする

文章のためのトランスフォーマーに、絵を読ませるには?

2020年10月、グーグルのドソヴィツキーたち12人は ViT(Vision Transformer)を発表した。画像を同じ大きさの小さな四角(パッチ)に切り、1枚ずつを1列のベクトルに直す。そこに位置のベクトルを足し、文章の単語と同じようにトランスフォーマーに入れる。先頭には、答えを出すための印を1つ足す。

論文が学習に使った画像は224×224。16×16で切ると196枚の列になる。右の図で四角を小さくすると、列が長くなり、注意の計算が重くなる(列の長さは、四角の1辺の2乗に反比例)。

ImageNet(約130万枚)だけで学習させると、前の章のCNN(畳み込み)のResNetより数ポイント低かった。1,400万〜3億枚で事前学習させるとCNNに並ぶか上回り、最も良いモデルは88.55%。論文は、大規模な学習が、CNNが初めから持つ画像向けの仕組みに勝る、とまとめた。

N=H × W/P2
H, W
画像の縦と横の画素数
P
四角の1辺の長さ
N
列の長さ(四角の数)
知ってるつもりよく言われる話:画像を小さな四角に切ってトランスフォーマーに入れる考えはViTが最初
元の資料では:学会に出した最終版は、最も近い研究としてコルドニエたち(2020)を挙げ、入力の絵から、(どちらも訳)と書き足した。論文が新しいとしたのは、大規模なデータで事前学習させれば、特別な工夫の無いトランスフォーマーでもCNNに並ぶと示した点だった。

図が示すこと:絵を同じ大きさの四角に切って1列に並べれば、文の単語と同じように読める。四角を小さくすると列が長くなり、計算はその2乗で重くなる。

122018・2020・タンパク質

距離の地図から、形を組み立てる

アミノ酸の並びだけから、タンパク質の立体構造を予測できるか。

文章や絵を作るAIではないが、同じころ、科学の道具としてのAIも大きく進んだ。タンパク質は、アミノ酸の鎖が折りたたまれて形が決まる。2018年の構造予測の大会CASP13で、DeepMindの最初のAlphaFoldは、CNNでアミノ酸どうしの距離の地図を予測した。その地図から点数の式を作り、勾配降下法で形を少しずつ直した。

右の図は、この方法をいちばん小さくしたもの。左の地図(このサイトが決めた数)に合うように、でたらめな形の鎖が動いていく。

2年後のCASP14(2020年)のAlphaFold 2は、ノーベル委員会の解説によると(訳)。畳み込みをやめてトランスフォーマーの注意を使い、原子の位置を直接出す形になった。難しい問題の点数は、約60%から約90%に上がった。

E=Σi<j ( |xi − xj| − dij )2  x ← x − η ∂E/∂x
xi
i番目のアミノ酸の位置
dij
地図の距離
η
動かす歩幅(学習率)
本物の点数の式
この2乗誤差とは別の形
知ってるつもりよく言われる話:AIがタンパク質の折りたたみの謎を解いた
元の資料では:論文自身は(訳)と区切っている。

図が示すこと:2018年の最初のAlphaFoldは、距離の地図に合うように、でたらめな形の鎖を少しずつ動かして形を組み立てた(10章の図のやり方)。2020年のAlphaFold 2は、このやり方を『すっかり作り直し』(畳み込みをやめて注意のしくみを使い、原子の位置を直接出す)、難しい問題の点数を約60%から約90%にした。

誤差の合計E(10倍ごとの目盛り)
132021・絵と文

絵と文を、同じ地図に置く

犬の写真とそれを説明する文。どれだけ合うかを数値で測れるか。

2021年、OpenAIのラドフォードたち12人は CLIP を発表した。ネットから集めた4億組の画像と説明文で、画像をベクトルに直す部分と、文をベクトルに直す部分を同時に学習させる。一度に32,768組を並べ、正しい組は向きが近く、ほかは遠くなるように学習する(対照学習)。

右の図は、画像と文の似ている度合い(コサイン類似度)の表。「学ぶ」を押すと、正しい組の対角線が明るくなる。学習後は、種類の名前をA photo of a dog. のような文にし、最も近い文を選ぶだけで分類できる(ゼロショット)。ImageNetの訓練用の画像を1枚も使わずに76.2%。

似ている度合い =cos(ui, vj)=ui・vj / ( |ui| |vj| )
u
画像のベクトル
v
文のベクトル
損失の向き
行ごと(画像→文)と列ごと(文→画像)の両方
知ってるつもりよく言われる話:CLIPは絵を作るAI
元の資料では:CLIPは絵を作らない。画像と文がどれだけ合っているかを測るモデル。

図が示すこと:絵の数と文の数を同じ地図に置き、正しい組は近く、ほかは遠くなるように学ぶと、あとは名前を文にして、いちばん近い文を選ぶだけで分類できる。

損失(学習の回数ごと)
142015→2020・拡散モデル

雑音を足して、少しずつ取り除く

ただの雑音から、絵を作れるのか。

2015年、スタンフォード大学などのソール=ディックスタインたちは、物理学の非平衡統計力学から(訳)方法を発表した。データに小さなガウス雑音(正規分布の乱数)を何度も足して形を壊し、その逆向きの1歩ずつをニューラルネットワークに学習させる。

右の図は、2015年の論文の図と同じ渦巻きの点。tを進めると霧になり、「雑音から作る」を押すと、1歩ずつ雑音が取れて形が戻る。

2020年、バークレー校のホーたち3人のDDPMの論文は、拡散モデルで(訳)と書く。そして、1,000歩の過程と、足した雑音そのものを当てる学習で、質の高い画像を作れると示した。

xt = √ᾱt x0 + √(1 − ᾱt) ε  学ぶこと:xt からεを当てる
x0
元のデータ
ε
足した雑音
ᾱt
t歩目に残る元の割合(1から0へ)
知ってるつもりよく言われる話:拡散モデルはStable Diffusionのころに生まれた新しい方法
元の資料では:考えそのものは2015年の論文にある。Stable Diffusionの元の論文(2021年12月)も、拡散モデルの元として2015年の論文を挙げている。

図が示すこと:10章で見た2015年の拡散モデルは、形に雑音を少しずつ足して霧にし、その逆向きの1歩ずつをニューラルネットワークに学ばせる考えだった。2020年のホーたちのDDPMは、その逆向きの1歩を『いまの点に足された雑音そのもの(ε)を当てて、少し引く』という学ばせ方にし、1,000歩の過程で、質の高い画像を作れると示した。霧の点のひとつひとつで『足された雑音はこれ』と当てて引くのをくり返すと、霧から形が戻ってくる。

t歩目に残る元の割合 ᾱ
152021〜2022・画像生成AI

小さく縮めてから、雑音を取る

512×512の画像に、そのまま雑音を足して取るのは重すぎないか。

2021年12月、ミュンヘン大学・ハイデルベルク大学とRunwayのロンバッハたちは、潜在拡散モデルを出した。絵をオートエンコーダー(前の章。縮めて戻す)で潜在表現に縮め、そこで拡散モデルを動かす。縮める割合fは1〜32を比べ、4〜16が速さと質の両立に良いとした。

2022年8月の Stable Diffusion はこの形だ。説明書によると、縦横を8分の1に縮め、文はCLIPの文の部分でベクトルにして、雑音を取るU-Net(前の章)に注意でつなぐ。右の図でfを変えてみよう。

誰が使えたかも、2年足らずで変わった。2021年1月のDALL·Eは作例の公開だけ、2022年4月のDALL·E 2は選ばれた少数の人だけ。2022年8月のStable Diffusionは、学習済みの本体を誰でも取ってきて、自分のパソコンで動かせる形で公開された(使い方の制限つきで商用も可)。

潜在の数 = (H/f) × (W/f) × c
H, W
画像の縦横の画素数
f
縮める割合(Stable Diffusionは8)
c
1か所あたりの数(4)
数の量
512×512×3=786,432個 → 64×64×4=16,384個(48分の1)
知ってるつもりよく言われる話:Stable DiffusionはStability AIという会社が作った
元の資料では:Stability AI自身の発表文が(訳)と書いている。

図が示すこと:絵を縦横8分の1に縮めてから雑音を取れば、扱う数が48分の1で済む。縮めすぎると細かさが消える。そして2022年、それが誰でも自分のパソコンで動かせる形で公開された。

162017〜2022・日本

学習のための利用と機械学習パラダイス

AIが作品から学習することを、日本の法律はどう定めたのか。

2018年5月、日本の著作権法が改正された(2019年1月施行)。作品を人が味わって楽しむためではない使い方なら、必要な範囲で、著作権者の許諾なしで利用できるという第30条の4ができた。見出しは。ただしという但し書きがある。右の図で使い方を選ぶと、札が最初の関門で止まるか、関門2・3の判断の入口まで進む。

条文や国の要約にはAIの言葉がない。文化庁の解説ページ(2018年)が例としてを挙げ、翌年の文書がを効果の例の先頭に挙げた。早稲田大学の法学者・上野達弘は、2017年からと説明してきた。

2022年8月29日、自分のイラストを15枚ほど学習させると似た絵柄の画像を作る日本のAI、mimicのベータ版が公開された。他人の絵が無断で使われるのでは、という心配の声が相次ぎ、翌日、すべての機能を止めた。

知ってるつもりよく言われる話:日本は機械学習パラダイスだから、AIは何でも自由に学習でき、生成物も自由
元の資料では:言葉を広めた本人の文章は、学習段階の話だ。必要な範囲に限ること・但し書きがあること・生成物に元の表現が残れば著作権が及ぶことも、同じ文章の中で書いている。

図が示すこと:第30条の4は、人が味わって楽しむためではない使い方なら、必要な範囲で許諾なしに使える、という条文で、AIの言葉は入っていない。関門は3つあり、2つ目と3つ目は1件ずつ判断される。

2022年8月:海外と日本
172017→2022・人の好み

2つを比べて、どちらが良いか

良い答えの点数の付け方を、式で書けない時はどうするか。

強化学習(もらえる点数=報酬が多くなるように行動を学ぶ方法)は、点数の付け方を式で書けない課題が苦手だった。2017年6月、OpenAIとDeepMindのクリスティアーノたち6人は、AIの動きの1〜2秒の動画を2つ人に見せ、良い方を選んでもらった。その選び方を当てる報酬モデルを学習させた(のちに RLHF と呼ばれる)。ロボットの後ろ宙返りは、900回の比較で覚えた。

右の図で、良いと思う答えを押していこう。2つの点数の差から、人がこちらを選ぶ確率を出し(下の式)、結果に合うように点数を直す。

2022年3月のInstructGPT(オウヤンたち)は、これをGPT-3に使った。手本で学習し直し、4〜9個の答えの順位から報酬モデルを作り、強化学習(PPO)をする。パラメータ13億のInstructGPTの答えが、100倍大きいGPT-3より好まれた。

P(A)=erA / ( erA +erB )
P(A)
人がAを選ぶ確率
r
報酬モデルの点数
図の答え
このサイトが作った5つ(本当の良さも、このサイトが決めた)
知ってるつもりよく言われる話:RLHFはChatGPTのために作られた
元の資料では:2017年に試したのはゲームとロボットの動き。呼び名も論文に無い。

図が示すこと:点数を式で書けなくても、2つを比べて良い方を選ぶ、をくり返せば、その選び方に合う点数の付け方を機械が学べる。

順位の組が、本当の良さの順と合う割合
182022・心?

誘導する問いに合わせて答える

AIが「こわい」と答えたら、AIに心があるのか。

2022年6月、グーグルの技術者ブレイク・ルモワンは、会話AIのLaMDAに感情があるかもしれないと主張した。会話を(訳)記録も公開した。記録の中でLaMDAは、(どちらも訳)などと答えていた。

グーグルは(訳)と退けた。広報の説明は(訳)。右の図は、このサイトが作った、問いの言葉に合う答えを選ぶ小さな仕組み。同じ仕組みでも、問いの書き方で答えの向きが変わる。

LaMDAを作った研究者たちは、半年前の論文で、人が(訳)おそれを書いていた。1966年のELIZA(4章)の時代から続く話だ。

答えの確率 =p( 答え | 問いの文 )
縦線の右側
与えられた条件(ここでは問いの文)。問いの文が変われば、同じ仕組みでも確率が変わる
知ってるつもりよく言われる話:2022年、グーグルのAIに心が宿った(とグーグルの社員が言った)
元の資料では:主張したのは技術者1人で、会社は退けた。記録は本人がまとめたもの。作った研究者たち自身が、人が機械を擬人化するおそれを、半年前の論文に書いていた。

図が示すこと:問いの言葉に合う答えを選ぶ仕組みは、『こわいですよね?』と聞けば『こわい』と答え、『プログラムですよね?』と聞けば『プログラムです』と答える。答えの中身は、心があるかどうかの証拠にならない。

192022・会話

なめらかな間違い

なめらかな文章を作れることと、正しいことを伝えることは同じなのか。

2022年11月30日、OpenAIは会話の形で答える ChatGPT を公開した。中身は、2022年の初めに学習を終えたGPT-3.5系列のモデルを、InstructGPTと同じ方法(この章の17)で学習し直したもの。発表文の呼び方はで、その間は無料だった。

発表文は最初から(訳)と書き、直すのは(訳)とした。右の図は、正しい文12本だけで学習した小さな仕組み。文はなめらかでも、名前と年の組が入れかわる。

2023年2月に広まった「ChatGPTは2か月で1億人」は、会社の発表ではなく、銀行のアナリストの(訳)だった(12章で詳しく)。

次の言葉 ~p( w| ここまでの文 ) (くり返す)
~
確率に応じて1つ選ぶ
正しさ
この式のどこにも入っていない
知ってるつもりよく言われる話:ChatGPTは新しくて完璧なAIとして大々的に発売された
元の資料では:発表文の呼び方は。中身は同じ年の初めに学習を終えていたモデルで、公開の日から弱点を書いていた。

図が示すこと:正しい文だけで学んでも、前の1語だけ見て次を選ぶと、なめらかな文のまま、名前と年の組が入れかわった間違いが出る。正しさは、次の言葉を選ぶ式のどこにも入っていない。

おわりに

この章で、まだ分かっていないこと

大きくすれば良くなる流れは、どこまで続くのか。なぜそうなるのか。2020年の論文の著者自身が(どちらも訳)と書いている。大きくすればもっと賢くなるという期待(2020年の論文)と、悪用されるかもしれないという心配(2019年のGPT-2)は、同じころに出ていた。

もっともらしい間違いが、なぜ、いつ起きるのか(ChatGPTの発表文は、直すのは〈訳〉と書いている)。機械に心や感じる力があるかを、外から確かめる方法も決まっていない。AIの絵に人がどれだけ手を加えればになるかの線引きも、1件ずつ判断されている。

この章の仕組みの多くは、前の章までのアイデア(注意、LSTM、オートエンコーダー、U-Net、強化学習)を組み合わせ、大きくしたものだった。次の章では、2023年からの第4次ブームのいまと、答え合わせを待っている予言を見ていこう。

先生へ(このサイトの見立て):情報Ⅰ(1)知的財産・情報モラル(この章の16)、情報Ⅱ(3)深層学習の使われ方(この章の全体)。今の学習指導要領と国の教材には生成AIが無い(国の生成AIの手引きは、仕組みの理解を大事にしている)。