CHAPTER 01/1940〜2026

ブームという波と番号の付け方

はじめに:AIへの期待は何度ふくらみ、しぼんだのか。それをどう数えるのか

AIには、期待がふくらむ時期(ブーム)と、しぼむ時期(冬)が何度もあった。「第1〜4次」という番号は日本でよく使われる数え方で、あとから人がつけたものだ。この章では、言葉の数を自分で数え直して、波の形と番号の付け方を確かめる。

011950〜2026・言葉の波

言葉の数でブームを見る

ブームの大きさは目に見えない。何を数えれば、波の形が見えるだろう。

人工知能(AI)は、人の知的な働き(考える・学ぶ・見分ける・話すなど)をコンピュータで再現する研究と技術のことだ。AIには、期待が高まる時期(ブーム)と、しぼむ時期(冬)が何度もあったと言われる。

ブームの大きさを見るため、このサイトは言葉が使われた数を年ごとに数えた。英語の本の中のartificial intelligence、世界の論文と日本の本の題名、日本の国会の発言の4つだ。右の図は、枠ごとに、見ている範囲で最も多い年を1としてそろえた。

「2011年まで」を押すと、今の大きな波に隠れていた1980年代の山が見えてくる。4つの枠のどれも、1980年代半ばから1990年ごろに山があり、2000年代に谷を迎え、2010年代から再び増える。

そろえた値 = その年の数 ÷ 見ている範囲でいちばん多い年の数
その年の数
英語の本は100万語あたりの回数、論文は1万本あたりの本数、日本の本は冊数、国会は発言の件数

1つの枠の中の線は同じ物差しで描いた。枠どうしは物差しが違うので、形だけを比べる。

図が示すこと:4つのちがう資料で数えても、どれも1980年代半ば〜1990年ごろに山があり、2000年代に谷、2010年代から再び増える。今の大きな波に隠れていた昔の山は、見る範囲をしぼると出てくる。

021940〜1995・呼び方

1950年代の言葉は

という言葉が広まる前、考える機械は何と呼ばれていたのか。

英語の本での言葉の多さを、100万語あたりの回数で見てみよう。1950年代に最も使われたのは electronic brain(電子頭脳)で、1956年が最多だった(約0.21回)。1956年は、という名前が生まれた年でもある。artificial intelligence(人工知能)は1962年に電子頭脳を追い越した。

と呼ばれる1965年でも、人工知能は約0.11回。1987年の山(約2.0回)の約18分の1しかない。

右の図で縦の目盛りを「10倍ずつ」に切り替えると、小さな数の動きが見える。「ふつう」の目盛りでは、1960年代はほとんど0に見える。呼び方が変わると、1つの言葉だけで追った波は、途中から見えなくなる。

100万語あたりの回数 = その言葉が出た回数 ÷ その年の本の語の数 × 1,000,000
10倍ずつの目盛り
1目盛りごとに値が10倍になる目盛り(対数目盛り)
知ってるつもりよく言われる話:1960年代はAIの黄金時代
元の資料では:英語の本でのの多さで見ると、1965年は1987年の山の約18分の1。1950年代に多かったのはという別の言葉だった

図が示すこと:1950年代に多く使われたのは『電子頭脳』で、『人工知能』が追い越したのは1962年。1つの言葉だけを追うと、呼び方が変わったとたんに波が見えなくなる。

031950〜2025・割合

論文の数そのものが増えている

AIの論文が8倍に増えたら、AIへの関心も8倍になったと言えるか。

世界の論文のうち、題名に "artificial intelligence" が入った論文は、1987年に585本、2018年に4,640本。数だけ見ると約8倍だ。しかし同じ間に、世界の論文の総数も約173万本から約1,044万本に増えた。

そこで、論文1万本あたりの本数(割合)に直してみる。1987年は約3.4本、2018年は約4.4本で、約1.3倍にとどまる。

右の図で切り替えてみよう。本数そのものでは、2005年(565本)に1987年の山の近くまで戻ったように見える。割合では、2008〜2010年の約0.8本が深い谷になる。数え方を変えると、冬が見えたり消えたりする。

1万本あたり = 題名にAIがある論文の数 ÷ その年の全部の論文の数 × 10,000
下のグラフ
1987年を1とした倍率。2本の線の間が開くほど、論文数そのものと割合の差が大きくなる

割合にしても、題名の付け方の流行や、OpenAlexに登録された論文の範囲は年ごとに違う。

図が示すこと:AIの論文が8倍に増えても、論文全体も6倍に増えているので、割合にすると1.3倍にしかならない。数え方を変えると冬が見えたり消えたりする。

1987年を1とした倍率(縦は10倍ずつの目盛り)
04正規表現・前処理

「AI」の2文字で探すと

「AI」の2文字を探せば、AIの話題を正しく数えられるか。

日本の国会の発言から「AI」の2文字を探すと、薬害エイズの AIDS、保険会社の AIG、ミサイルの名前 AIM9L まで検索に引っかかってしまう。

そこでこのサイトは、当たった文の中身を読んで数えるかどうかを決め、前にも後ろにもほかのローマ字が続かない AI だけを数えるというルールを作った。こうした文字の並びのパターンを短く書き表す方法を正規表現という。

右の図は、国会の発言から抜き出した18の文だ。人が読んだ判定と、ルールの判定を並べた。スイッチを切ると、どの文を間違えて数えてしまうかが分かる。

(?<![A-Za-zA-Za-z0-90-9])(AI|AI)(?![A-Za-zA-Za-z])
(?<!…)
直前に…が来ない
(?!…)
直後に…が続かない。[A-Z]は A〜Z のどれか1文字

18の文でうまくいっても、ほかの文で正しいとは限らない。人の名前をローマ字で書いたものなども、このルールだけでは識別できない。

図が示すこと:『AI』の2文字で探すと、AIDS・AIG・ミサイルの名前まで数えてしまう。前後にローマ字が続かないという決まりを足すと、人が読んだ判定と合う。

051975〜2026・前処理

ありもしない山を消す

数え直す前と後で、波の形はどれくらい変わるのか。

国会の発言で「AI」の2文字をそのまま数えると、1996年に85件、2009年に152件、2012年に746件の山ができる。中身は、薬害エイズの AIDS、保険会社の AIG、年金の事件の AIJ だ。前の見開きのルールで数え直すと、この3つの年は0件になる。

日本の本の題名でも同じことが起きる。国の図書館の検索は読みがなにも当たるので、「AI」で探すと「愛」の本まで出てくる。1990年は152冊が当たるが、題名にAIが独立して出てくる本は14冊だった。

右の図で「そのままに戻す」と「数え直す」を切り替えよう。下のグラフは、当たった数のうち、数え直しで残った割合だ。国会では 2015年に4%だった割合が、2019年には95%になる。

残った割合 = 数え直した数 ÷ そのまま数えた数

数え直しのルールは、検索結果を人が読んで作り、数えた例・数えなかった例を年ごとに残した。

知ってるつもりよく言われる話:「AI」の2文字で検索すればAIの話題の数が分かる
元の資料では:国会では1996・2009・2012年にAIと無関係な山ができる。中身を見て数え直すと消える

図が示すこと:『AI』の2文字をそのまま数えると、1996・2009・2012年にAIと関係ない山ができる。数え直すと、その年は0件になる。

数え直しで残った割合(%)
061959〜2026・日本の国会

国会での呼び名の移り変わり

日本の国会では、考える機械をいつ、何と呼んでいたのか。

言葉ごとに、それを含む国会の発言の数を年ごとに数えた。は1959年に初めて出て、多い年でも1966年の4件。は1981年から出て、1985年に33件。右の図で言葉を選んでみよう。

が初めて出るのは1983年(見つかった範囲で)。野村総合研究所の森谷正規さんが、21世紀の技術としてを挙げた。その後、1993〜2014年はほぼ0件で、2015年から急に増える。

2017年には、AIの意味の「AI」が268件で、の145件を追い越した。2023年には「生成AI」が172件で現れる。

縦の高さ =log₁₀(発言の件数 +1) (+1は0件の年も描くため)

の数は、検索で当たった件数そのまま(中身は1件ずつ確認していない)。「AI」は数え直した数。

図が示すこと:国会では、電子頭脳→第五世代→人工知能→AI→生成AI と呼び名がリレーのように入れかわってきた。人工知能が初めて出たのは1983年で、2015年から急に増えた。

071975〜2005・山のずれ

日本の山は遅れて来たのか

日本の第2次の山は、英語の本の山より遅れて来たのか。

英語の本でが最も多いのは1987年。日本の本の題名で最も多いのは1990年(37冊)。ピークの年どうしで比べると、日本は3年遅い。

けれど、ピークの年は1年だけの上がり下がりで動く。日本の本は1987年と1988年も30冊ずつ。3年ずつ平均してならすと、日本の山は1989年になり、ずれは2年に縮まる。

そこで形全体を比べる。日本の線を左右にずらしながら、2つの線がどれだけ同じ形か(相関係数)を計算すると、1975〜2005年では、ずらさないとき(0年)が最もよく合う。「ずれ」は、比べ方で3年にも0年にもなる。

r=Σ(x − x̄)(y − ȳ) ÷ √( Σ(x − x̄)² × Σ(y − ȳ)² )
x
英語の本の値
y
日本の本の値(k年ずらしたもの)
x̄, ȳ
平均。rは1に近いほど形が一致する

下の出来事カードは、ピークの年で比べた書き方(3年ほど遅い)になっている。どちらも同じデータの別の見方だ。

図が示すこと:ピークの年で比べると日本は3年遅いが、ならしたり形全体で比べたりすると、ずれは2年にも0年にもなる。『ずれ』は比べ方で変わる。

ずらした年ごとの相関係数r
08数え方・山

ブームの山はいくつあるか

言葉の数の折れ線だけから「ブーム」を数えると、いくつになるだろう。

「第1〜4次」と聞くと、ブームは4回あったように思える。では、折れ線から一定の手順で山を数えるとどうなるだろうか。

数え方はこうだ。折れ線をたどり、最も高い所から決めた割合(基準)以上下がったら、1つの山と数える。いちばん大きい年の値の10%に届かない山は数えない。

右の図で基準を動かしてみよう。英語の本では、最初の基準のままだと、見つかる山は 1987年の1つと、まだ下がっていない現在の上昇だけだ。1960年代は小さすぎて山にならない。日本の本の題名は、1年単位だと5冊・10冊の小さな増減まで山になる。3年ずつならすと、1989年ごろと2018年ごろの2つの山が残る。ブームの数は折れ線を見ただけでは決まらず、数える基準で変わる。

山と数える ⇔(山の高さ − その後の谷)÷ 山の高さ ≥ 基準
基準
何%下がったら1つの山と数えるか
ならす
前後の年と平均する

図が示すこと:折れ線から山を数えると、基準しだいで1つにも5つにもなる。英語の本では、決まった基準だと1987年の山と今の上昇しか見つからない。

091982〜2023・番号

ブームの番号はどの時代を指したか

という番号は、いつ、どの時代を指して付けられたのか。

番号は、2010年代にまとめて付けられたわけではない。国立国会図書館のデジタル化された本や雑誌の全文検索では、1982年の雑誌に、すでにという言葉がある。約20年前のブームを指している。

ところが1985年には、同じ1980年代のブームの数え方がばらばらだった。3月の本はと呼んだ。4月の国会では東京大学の石井威望さんがと話した。7月の雑誌は、最近の特集記事の1つとしてを挙げている。

右の図で番号を選ぶと、その番号を使った資料ごとに、使った年(◆)と指している時代(帯)が線で結ばれる。を選ぶと、2017年には未来を指していた線が、2023年には2017年以降を指している。

知ってるつもりよく言われる話:「第1次・第2次…という番号は、あとから(2010年代に)付けられた」と思われがち
元の資料では:1982年の雑誌にすでにがあり、第2次ブームの渦中から番号で呼ばれていた。ただし数え方は決まっていなかった

図が示すこと:番号は2010年代にまとめて付いたのではなく、1982年の雑誌にもう『第一次』がある。ただ1985年には同じブームを第一次とも第二次とも呼んでいて、数え方は決まっていなかった。

101950〜2026・区切り

同じ番号でも、始まりの年が違う

ブームや冬は、何年から何年か。資料によって同じだろうか。

番号が同じでも、何年から何年かは資料で違う。総務省の白書(2016年)は、第三次を2000年代から現在までとした。人工知能学会誌の表紙の絵巻(2023年)は、2012年の画像認識の大会を契機に、2010年ごろから、と描いた。第二次のあとの冬も、白書は1995年ごろから、絵巻は1992年ごろから2010年ごろまでとする。同じ白書の中でも、第二次を1980年代とする所と、1980年代〜90年代とする所がある。

英語の解説(英語版Wikipedia)は、番号をブームではなく冬につけ、2つの冬を1974〜1980年と1987〜2000年とする。

右の図で「見る年」を動かすと、その年を各資料が何と呼んでいるかが並ぶ。たとえば2005年は、白書では第三次ブーム、絵巻では冬、英語の解説ではどの冬にも入らない。

「1980年代」のような書き方は、その10年の初めから終わりまでとして描いた。帯の端は、このサイトの描き方で、資料の言葉ではない。

図が示すこと:同じ番号でも、何年から何年かは資料でちがう。たとえば2005年は、白書では第三次ブーム、絵巻では冬、英語の解説ではどの冬にも入らない。

112016・白書の説明

期待と、できることの「乖離」

ブームは、なぜ終わるのか。国の白書はどう説明したか。

2016年の総務省の白書は、過去2回のブームについて、AIの技術的な限界を社会の期待が上回っていたと説明した。そしてとし(乖離は、ずれやへだたり)、第三次ブームでも同じ注意が必要だとした。

右の図は、この説明をこのサイトが動く形にした例(数値はすべて作った数)。できることの線(緑)は、ときどき階段のように上がる。期待の線(紫)はそれ以上にふくらむ。上に出すぎた状態が続き、それが明らかになると、期待はしぼむ。

つまみで、期待のふくらみやすさと、ずれに気づくまでの年数を変えてみよう。この図では、気づくまでの年数が長いほど期待は高くふくらみ、落ち方も大きい。ふくらみやすさが小さいと、冬は来ない。

しぼむ ⇔(期待 − できること)> 境目 がd年続く
d
ずれに気づくまでの年数。境目は、できることの30%(作った数)

図は白書の説明の1つの読み方で、ブームがいつもこう終わったという証拠ではない。

図が示すこと:白書は、期待ができることを上回り、そのずれが明らかになってブームが終わった、と説明した。図では、気づくまでが長いほど期待は高くふくらみ、落ち方も大きい。

ずれ(期待 − できること)と境目
122017・見通しの答え合わせ

見通しの山を数で確かめる

2017年に書かれたブームの山の見通しは、その後の数とどう合うか。

2017年、人工知能学会の雑誌の特集のまえがきで、高橋恒一さんと井上智洋さんは、言葉どおりのブームとしての第三次ブームは2016年か2017年が山で、その後は地道な産業利用に落ち着くだろう、と書いた。次に来るのは(汎用AIは、人のように多様な仕事をこなせるAI)と予測していた。

右の図で線を選び、「答え合わせの年」を動かしてみよう。2022年に答え合わせをすると、日本の本の題名にあるは2017年(38冊)、国会のは2018年(194件)が山で、見通しに近い形になる。しかし「AI」で数えると、国会では2019年に593件に達し、2020〜2021年に減ったあと、2023年には761件と前の山を超えた。答えは、どの言葉で数えるか、いつ答え合わせをするかで変わる。

知ってるつもりよく言われる話:第4次AIブームは、文章や絵を作るAI(生成AI)のブームのこと
元の資料では:2017年の人工知能学会の雑誌では、は、汎用AIがきっかけになるだろう、まだ来ていない未来のブームを指していた。番号が指す中身は、あとから変わりうる

図が示すこと:2017年に『山は2016年か2017年』と書かれた見通しは、どの言葉で数えるか、いつ答え合わせをするかで、当たりにも外れにもなる。

131984・AIの冬

は未来への警告

という言葉は、いつ、どんな意味で出てきたのか。

AIの冬は、期待がしぼみ、研究費や関心が減った時期の呼び名だ。見つかった一番古い記録は、1984年のアメリカ人工知能学会の大会(AAAI-84)の討論会だ。司会のドリュー・マクダーモットさんは、5年後にstrategic computing initiative(戦略的コンピューティング計画)も日本の第五世代もうまくいかず、AIに関係するものに研究費が一切出なくなるという最悪の筋書きを挙げた。それを(訳)と言った。筋書きには、みなが研究の名前を別のものに変える場面もある。そうなれば、研究が続いていても、言葉の数は減って見える。

右の図で「英語の本の数・出どころ」を開くと、英語の本での言葉の数が見られる。AI winterは1983年から少しずつ出て、2010年代の後半に大きく増える。second AI winterは2000年、first AI winterは2011年に初めて出る。

英語の本は冬に番号をつける。1970年代をと呼ぶのは、あとからの呼び方だ。second AI boom・third AI boom・fourth AI boomは、数えられるほどの量がなかった。

知ってるつもりよく言われる話:「1970年代の研究費の減少は、当時と呼ばれた」と思われがち
元の資料では:一番古い記録は1984年で、これから来るかもしれない最悪の事態の名前だった

図が示すこと:『AIの冬』のいちばん古い記録は1984年で、これから来るかもしれない最悪の事態の名前だった。1970年代を『第1の冬』と呼ぶのは、ずっとあとからの呼び方。

言葉が出た年と、指している時代
141985〜2026・伝わり方

を言った人

有名な話は、伝わるうちに、言った人が変わることがあるのか。

英語版Wikipediaは、1984年の学会で(訳)がAIの冬を警告した、と書く。出どころに挙げているのは、Crevierの1993年の本だ。

ところが討論の記録(AI Magazine、1985年)を開くと、「AI Winter」の言葉を最初に出したのは司会のドリュー・マクダーモットさんで、しかも(訳)という紹介だった。討論に並んだのはWaldrop・Ohlander・Schank・Chandrasekaran・John McDermottの5人。ミンスキーさんの名前は、別の集まりの参加者として1回出てくるだけだ。

右の図は、資料ごとに出てくる名前を並べたもの。「討論者の名簿と照らし合わせる」を押すと、名簿にない名前に印がつく。有名な人の名前は、話を短く伝えるうちに入りこむことがある。元の記録まで戻ると、それが分かる。

Crevierの本は、このサイトはまだ開いていない。ミンスキーさんが別の場で同じ警告をした可能性は残る。

知ってるつもりよく言われる話:「はシャンクとミンスキーが1984年の学会で警告した言葉」
元の資料では:記録では、言葉を出したのは司会のドリュー・マクダーモットさんで、しかも一部でそう呼ばれているという紹介。ミンスキーさんは討論者の中にいない

図が示すこと:元の討論の記録では、『AI Winter』の言葉を出したのは司会のマクダーモットさんで、ミンスキーさんは討論者にいない。有名な人の名前は、伝わるうちに入りこむことがある。

152017・DARPA

3つの波は、作り方の分け方

アメリカの研究機関は、AIの歴史をどう数えたのか。

アメリカ国防総省の研究機関DARPAのジョン・ローンチベリーさんは、2017年のスライドでAIを(訳)で説明した。第1の波は、技術者がルールを作って知識を表す(Handcrafted Knowledge)。第2の波は、統計モデルを作り、大量のデータで学習させる(Statistical Learning)。第3の波は、システム自身が状況を説明するモデルを組み立てる(Contextual Adaptation)。年代の区切りは書かれていない。日本で第3次の中心だった、データで学習するAIは、DARPAではになる。

右の図は、スライドにある渦巻きの例だ。2本の腕を、人が決めたルール(中心からの距離)で分けようとしても、うまくいかない。空間を引き伸ばすと、1本の線で分けられる。スライドは、第2の波のニューラルネットワークが、層ごとに空間を引き伸ばしたり押しつぶしたりして分ける、と説明する。

(x, y) → (θ, r)
r
中心からの距離
θ
回った角度(1周ごとに2πずつ足す)。図の引き伸ばし方はこのサイトが決めた。第2の波のAIは、引き伸ばし方もデータから学習する
知ってるつもりよく言われる話:AIの歴史の番号(第1次・第2次…)は世界共通
元の資料では:DARPAの波は作り方の種類。カイフー・リーさんの(訳、2018年)は、同時に進む4種類の使い道

図が示すこと:DARPAの『3つの波』は年代ではなく作り方の分け方。人が決めたルールでは分けられない渦巻きも、空間を引き伸ばすと1本の線で分けられる。

スライドの4つの力の棒(このサイトが目で読んだ長さ)
161995〜・ハイプ・サイクル

山と谷の型に当てはめる

新しい技術は、いつも「期待の山 → がっかりの谷 → 落ち着く」をたどるのか。

調査会社ガートナーは、新技術への期待の変化を1本の曲線で表した図(ハイプ・サイクル)を出している。2019年の日本の見立てでは、人工知能は「幻滅期」に置かれた。この図を調べた論文によると、曲線は人の熱狂を表す山の形の曲線と、技術の成熟を表すS字の曲線を足して作られている。

右の図で、山の年とS字の年を動かしてみよう。高さは、英語の本のデータに最も合うよう計算で決まる。1975〜2010年のデータだけに当てはめると、型はよく重なる。けれど、その型で2022年を予測すると、実際の値の8分の1ほどにしかならない。過去のデータに重なることと、未来を当てることは別の話だ。

2016年、デデハイルさんとシュタイネルトさんはガートナー自身の記録で図を確かめ、記録と図の型に食い違いがあったと報告した。

期待(t)=A × 山の曲線(t)+B × S字の曲線(t)
A, B
曲線の高さ(データに合うよう最小二乗法で計算)
t
年
知ってるつもりよく言われる話:新技術は必ず、期待の山、がっかりの谷、落ち着く、の順をたどる
元の資料では:研究で確かめると、型どおりとは言えなかった

図が示すこと:ハイプ・サイクルの型は過去のデータにはよく重なるが、その型で2022年を予測すると実際の8分の1ほど。過去に重なることと未来を当てることは別。

型の中身:山の曲線とS字の曲線
172026・年表の厚さ

英語のAI年表の中の日本

AIの年表は、どの時代と、どの国を厚く書いているのか。

触って見られる英語のAI年表(カナダの団体GLOBAÏA)のデータを数えた。紹介文には(訳)とあるが、データは539件。そのうち2012年からの出来事が325件(約6割)。日本が中心の出来事は7〜8件(約1.5%)。出来事ごとの確かさの表示は無い。

右の図は、539件を年ごとに積み上げたものだ。つまみで区切りの年を動かすと、その年以降の出来事が全体の何%かが出る。紫の点は、日本が中心の出来事の年。

年表は、何を選んで載せるかで歴史の見え方が変わる。新しい時代ほど、出来事が多く選ばれやすい。このサイトの年表も、同じ目で見てほしい。

区切りの年から後の割合 = その年から後の件数 ÷ 全部の件数
全部の件数
539件(そのうち1940年より前が45件)

年は、データのyearの値の整数部分で数えた。

図が示すこと:英語のAI年表539件のうち約6割が2012年から。日本が中心の出来事は7〜8件しかない。年表は何を選ぶかで歴史の見え方が変わる。

181982〜1995・OCRの文字

OCRの文字から探す

古い雑誌の文字は、どうやって検索できるのか。そこに落とし穴はないか。

1982年のという言葉は、国立国会図書館のデジタル化された本や雑誌の全文検索で見つけた。紙面の写真から機械が読み取った文字(OCR)を探している。

ところが機械の読み取りには間違いがある。1985年の神沼二真さんの本では、同じ年の別の本でと読める所が、〓列アーキテンチャー と崩れていた(〓は読み取れなかった文字)。ぴったり同じ文字で探すと、この本は見つからない。

そこで、何文字直せば一致するか(編集距離)を数え、少し違っても当たるように探す。右の図で、許す修正の文字数を増やしてみよう。見つかるものは増えるが、違う言葉まで当たり始める。

d(i, j)=min{ d(i−1, j)+1, d(i, j−1)+1, d(i−1, j−1)+(文字が違えば1)}
d(i, j)
探す言葉のi文字目までと、文のj文字目までを一致させる最小の修正回数

図の文の多くは、このサイトが作った例(作の印)。

図が示すこと:機械が読み取った古い文字にはまちがいがあるので、ぴったり同じ文字では見つからない。何文字直せば一致するかで探すと見つかるが、許しすぎると違う言葉まで当たる。

19このサイトの見方・確度

色の札はどう決めたか

このサイトの出来事についている色の札(確度)は、何を表しているのか。

このサイトの出来事には、1件ずつ、どこまで確かめたかの札がついている。元で確認は、元の資料を開いてページや段落まで確かめたもの。まとめで確認は、元の資料は開けなかったが、信頼できるまとめ2つ以上で同じ内容を確かめたもの。確認が弱いは、まとめが1つだけのものや、資料どうしの食い違いが決着していないもの。記憶だけ・推測だけのものは、出来事として載せない。

右の図は、札を決める道すじ。下のこの章の出来事を押すと、どの道を通ってその色になったかが光る。この章の23件のうち18件が元で確認だ。1982・1985・1993・1995年の番号の言葉の5件は、紙面の写真を見られず、機械で読み取った文字の抜き出しだけで確かめたので、確認が弱いにした。

資料どうしで年や言い方が違うものには、色とは別に「食い違いあり」の札をつけ、どちらかに決めずに両方を書く。

図が示すこと:このサイトの色の札は、元の資料をどこまで開いて確かめたかで決まる。この章の23件のうち18件が元で確認、5件は読み取り文字だけなので確認が弱い。

おわりに

この章で、まだ分かっていないこと

言葉の出現数は、ブームの大きさそのものではない。呼び方が変わる(電子頭脳 → 人工知能 → AI → 生成AI)と、同じ数え方では見えなくなる。本や論文の数自体も、年ごとに増えている。「AI」の2文字は、ほかの言葉(AIDS・AIG・人の名前)の一部にもなるため、1件ずつ中身を見て基準を作り、数え直した。国会での「AI」が2020〜2021年に減った理由は、1つには特定できない(感染症の年と重なる)。

番号の歴史にも、分からないことが残る。という言い方を、1985年より前に誰が始めたのか。「AI Winter」を最初に言ったのは誰か。中国語や韓国語で、ブームをどう数えるのか。英語の本の数は2022年までなので、それより後の英語の言い方も分からない。

何回ブームがあったかは、数える基準で変わる。次の章では、という名前が生まれる前にさかのぼり、考える機械の夢と、計算機の歴史から始める。