第1問
次の文章を読み,以下の問(1)〜(5) に答えよ。
生命の基本単位である細胞は,リン脂質が多数集まった膜によって外界から隔てられている。細胞は細胞膜を介して糖やアミノ酸などの栄養物質を取り込む必要があるが,これらの物質は細胞膜を直接通過することができない。そこで,外界からの物質を取り込むために,細胞は 2 つのしくみを備えた。1 つは,細胞膜を貫通して存在する を介して行うもので,膜に選択的な通路を形成することによって,特定の物質を細胞内に取り込む。例えば,おもにイオンの輸送に働くチャネルや,アミノ酸や糖など極性のある物質を運搬する がその代表例である。もう 1 つは,細胞膜が内側に陥入し,外界の物質を含む小胞を形成するもので,この現象を という。 によって取り込まれた小胞の一部は と融合することにより,取り込んだ物質が分解される。
(a)<u>真核生物の細胞内には,原核生物とは異なり,膜で包まれたさまざまな細胞小器官や特有の構造体が存在し,独自の機能を発揮している</u>。これらの細胞小器官はそれぞれ密度が異なるため,(b)<u>段階的に遠心分離することが可能で</u>,分離後にその機能を調べることができる。一般的な動物細胞は無色透明なため,遠心分離によって得られた分画(上澄みあるいは沈殿)にどのような細胞小器官が含まれているか,見た目では判断できない。しかし,メラノサイト(色素細胞の一種)のように,黒色のメラニン(肌や毛髪に沈着する色素)を産生する特殊な細胞小器官(メラノソーム)を持つ場合には,回収された分画を肉眼で判別することができる。メラノソームはメラノサイトに特有の細胞小器官であるが,内部が酸性で一般的な細胞に見られる に由来するものと考えられている。図 1 にメラノサイトの細胞破砕液から段階的な遠心分離を行い,3 種類の上澄み(S1〜S3)と沈殿(P1〜P3)を得た一例を示した。各分画の色を検討した結果,(c)<u>黒色のメラノソームは P2 の分画に回収されていることが明らかになった</u>。また,電子顕微鏡などを用いた観察から,P1 と P3 の分画にはそれぞれ と という細胞小器官がおもに含まれていることも明らかになった。

※ は重力の単位で遠心力の強さを示し,数字が大きくなるほど遠心力が強くなる。
図 1
問(1) 文章内の 〜 に適切な語句を記入せよ。
問(2) 下線部 (a) について,原核生物と真核生物に共通して存在し,タンパク質を合成する構造体の名称を 1 つ記せ。
問(3) 下線部 (b) について,この分離法の名称を記せ。
問(4) 下線部 (c) について,P2 の分画にはメラノソーム以外にも他の細胞小器官が含まれていた。この細胞小器官の膜を緑色蛍光タンパク質で標識し,生きた細胞内で観察したところ,分裂する現象が観察された。この細胞小器官が持つ構造的な特徴を 3 つ記せ。
問(5) 図 1 により得られた S2 の分画を用いて,次の実験 A〜D を行った。図 2 に示した実験結果をもとに,以下の (i)〜(iii) の問いに答えよ。
実験 A S2 の分画に,ある種の細胞外に分泌されるタンパク質 X の mRNA を加えて反応させた後,新たに合成されたタンパク質 X を電気泳動(タンパク質を分子量で分離する手法)により分離し,可視化した。S2 と mRNA の組み合わせではタンパク質 X のバンドが見られたが,S2 のみや mRNA のみではバンドは見られなかった。
実験 B S2 の分画にタンパク質 X の mRNA を加えて反応させた後,(d)<u>タンパク質分解酵素による処理を行ったが,合成されたタンパク質 X のバンドの位置や濃さに特に変化は見られなかった</u>。一方,界面活性剤(膜を溶解する物質)で処理した後,タンパク質分解酵素を作用させるとタンパク質 X のバンドが消失した。
実験 C タンパク質 X の 2 番目のアミノ酸から 21 番目のアミノ酸を削除した欠損型タンパク質 X の mRNA を人為的に作製した。この mRNA を S2 と反応させた後,実験 B と同様にタンパク質分解酵素による処理を行った。その結果,界面活性剤の添加の有無とは関係なく,タンパク質分解酵素により欠損型タンパク質 X のバンドが消失した。
実験 D 培養したメラノサイトにタンパク質 X を発現させたところ,培養液中(細胞外)にタンパク質 X が分泌された。この細胞外のタンパク質 X を回収し,実験 A のように試験管内で合成したタンパク質 X と比較したところ,(e)<u>分子量が明らかに大きかった</u>。

図 2
(i) 下線部 (d) について,合成されたタンパク質 X がタンパク質分解酵素で分解されなかった理由を,界面活性剤ありの結果と比較しながら 5 行以内で記せ。
(ii) 実験 B と実験 C の結果の比較により,このタンパク質 X において欠損させた 20 個のアミノ酸(2 番目から 21 番目)にはどのような機能があると想定されるか,5 行以内で記せ。
(iii) 下線部 (e) について,細胞外に分泌されたタンパク質 X の分子量が大きくなった理由を,糖,ゴルジ体,輸送という 3 つのキーワードを用いて 6 行以内で記せ。
第2問
次の〔Ⅰ〕,〔Ⅱ〕の文章を読み,以下の問(1)〜(9) に答えよ。
〔Ⅰ〕 図 1 のように,,, を含む培養液の中に神経細胞を 1 つ入れた。その後,神経細胞に微小な記録電極を挿入して,膜電位を測定した。この神経細胞に電気刺激を与えると,活動電位が発生し,図 2 のような一連の電位変化が記録された。
(a)<u>このような活動電位の発生には,細胞膜に存在するチャネルが重要である</u>。

図 1(左)・図 2(右)
問(1) 下線部 (a) について,活動電位の発生は, と のどのような細胞内外の移動によって説明されるか,それぞれのイオンについて細胞内外の流れの順番と,そのような流れによって起こる膜電位の変化を含めて,4 行以内で記せ。
問(2) 神経細胞が正常な活動電位を繰り返し発生させるためには,ATP が必要である。どのようなしくみに ATP が必要か,3 行以内で記せ。
問(3) 図 1 において培養液中の 濃度を 2 倍に上昇させた。その後,数分間この神経細胞に電気刺激を与えて活動電位を発生させると,神経細胞の静止電位は −40 mV に上昇した。この理由を, 濃度と濃度勾配という 2 つのキーワードを用いて 5 行以内で記せ。
問(4) シナプスにおける伝達と神経伝達物質について,以下の①〜⑤の中から適切な記述を 2 つ選び,その番号を記せ。
① 神経伝達物質の放出は,活動電位の発生とは無関係に起こる。
② 神経伝達物質の放出は,シナプス前細胞から起こり,これらの物質は拡散して,他の細胞に回収されるか,酵素によって速やかに分解される。
③ 伝達においては,シナプス後細胞の細胞内外ではイオンの流入や流出は起こらないが,神経伝達物質の取り込みが行われる。
④ 1 つのシナプスにおいて,神経伝達物質を含むシナプス小胞の数は 1 つである。
⑤ 一部のアミノ酸は,神経伝達物質として用いられる。
〔Ⅱ〕 図 3 のように,図 1 とは異なる神経細胞を ,, を含む培養液の中に入れた。この神経細胞には,遺伝子を導入する技術を用いて,光を受容する性質のあるタンパク質 A を発現させた。このタンパク質 A はチャネルであり,青色の光を照射するとチャネルが開いて,陽イオンが細胞内に流入する。この神経細胞に青色の光を 1 ミリ秒間,1 回照射すると,図 2 のような活動電位の発生が確認された。この実験で用いる青色の光は,1 つの神経細胞のみに照射範囲を限定するような光であるとする。

図 3
さらに,図 4 のように,もう 1 つの神経細胞を培養液に入れると,図 3 の神経細胞をシナプス前細胞として,シナプスが形成された。次に,シナプス後細胞に記録電極を挿入して膜電位を測定した。シナプス前細胞に青色の光を照射すると,シナプス伝達が起こり,図 5 のように膜電位が上昇する興奮性シナプス後電位が記録された。


問(5) 図 5 の条件において,培養液を を含まない培養液に置換した場合,この培養液中でシナプス前細胞に青色の光を 1 回照射すると,シナプス後細胞にはどのような膜電位が記録されるか,図 5 にならって図示せよ。
問(6) 次に, を含む培養液に戻し,さらにタンパク質 A を発現させた神経細胞を 4 つ加えると,図 6 のように,これらの神経細胞はシナプス前細胞として興奮性シナプスを形成した。そこで,シナプス前細胞に #1 から #5 まで番号を付けた。このような条件において,さまざまな数のシナプス前細胞の組み合わせを選び,青色の光を同時に照射して,興奮性シナプス後電位を計測するような実験を計画した。全部で何通りの組み合わせが必要となるか記せ。ただし,この実験では,最低 1 つ以上のシナプス前細胞に青色の光を照射するものとする。

問(7) 問(6) の実験における 5 つのすべてのシナプスでは,興奮性シナプス後電位は等しいとする。この条件において,同時に青色の光を照射するシナプス前細胞の数を 1 つから 5 つまで徐々に増やしていくと,4 つのシナプス前細胞へ同時に青色の光を照射したときに,シナプス後細胞において興奮性シナプス後電位に加えて,活動電位の発生が初めて確認された。同じ実験を数分おきに 10 回繰り返したところ,すべて同じ結果が観察された。この実験結果を踏まえて,横軸に青色の光を照射したシナプス前細胞の数,縦軸にシナプス後細胞の活動電位の発生確率を図示せよ。解答は図 7 を参考にし,点を直線で結んで表せ。

問(8) ヒトの脳は,数百億個の神経細胞から構成され,これらがシナプスを形成することで複雑なネットワークを形成している。このようなネットワークの中で,それぞれの神経細胞がランダムなパターンで他の神経細胞とシナプスを形成し,それらがランダムな大きさの興奮性シナプス後電位を発生させて,シナプス伝達を行うと考えられる。こうした条件において,さまざまな数のシナプス前細胞に活動電位を生じさせて,20 ミリ秒以内に活動電位を生じたシナプス後細胞の数を計測する実験を行った。その結果を図示したグラフとして,最も適切なものを図 8 の①〜④の中から選び,その番号を記せ。このグラフにおける細胞数は十分に大きいものとする。

問(9) 脳の構造と機能を説明した以下の文章内の 〜 に適切な語句を記入せよ。
は運動を調節し,体の平衡を保つために重要である。 は呼吸や心拍動など生命維持にかかわる機能を調節する。 は視床や視床下部からなり,視床下部は体温を調節する。大脳は運動や感覚などの情報処理を担い,その外層において,神経細胞の細胞体が集まっている構造を という。
第3問
次の文章を読み,以下の問(1)〜(6) に答えよ。
ショウジョウバエにおいて成体の雄は雌に対して (a)<u>求愛行動</u>を示す。雄は雌を見つけると,近づいて体の向きを合わせたあとに,雌の腹部に触れる。その後,雄は羽音を出して求愛する。雄の求愛を雌が拒絶をしなければ雄は交尾に成功する。この求愛行動に (b)<u>フルートレス遺伝子</u>が関わるかを調べるために,フルートレス遺伝子が突然変異した変異体を用いて求愛行動を観察する実験を行った。その結果,雄の変異体は雌に求愛しないことがわかった。一方で,(c)<u>雌の変異体はフルートレス遺伝子が突然変異していない野生型と同様の行動を示した</u>。
問(1) 下線部 (a) で示す動物の求愛行動についての以下の説明文を読み,文章内の 〜 に適切な語句を記入せよ。
動物の行動には遺伝的にプログラムされた 行動と,生まれてからの経験によって変化する による行動がある。動物において遺伝的にプログラムされた特定の行動を引き起こす刺激を 刺激という。ショウジョウバエやイトヨの求愛行動では 1 つの行動が相手の次の行動の 刺激となり,一連の複雑な行動を示す。これを行動の と呼ぶ。
問(2) 下線部 (b) で示すフルートレス遺伝子の転写についての以下の説明文を読み,文章内の 〜 に適切な語句を記入せよ。
ショウジョウバエの脳では単一のフルートレス遺伝子から雄と雌で異なる mRNA が転写される。図 1 ではフルートレス遺伝子から mRNA が作られる過程を模式的に示しており,矢印で転写開始点,転写終結点,開始コドン,終止コドンの位置を示している。真核生物では 1 つの遺伝子には と という 2 種類の領域が存在し,転写開始点から転写終結点までの全ての と が RNA に転写される。ここで転写された RNA は mRNA 前駆体という。mRNA 前駆体から特定の組み合わせの が選択され,選択された の端がつながって,mRNA が完成する。フルートレス遺伝子の場合,図 1 のように雌では 1 番目から 5 番目までの が選択されるが,雄では 3 番目の が選択されない。このように単一の遺伝子から複数の異なる mRNA を転写するしくみを という。雄型 mRNA からは転写を調節するタンパク質(調節タンパク質)が翻訳され,第 4 の に調節タンパク質としての機能に必要なアミノ酸配列がコードされている。雄型 mRNA から翻訳された調節タンパク質はさなぎから成体になる過程で (d)<u>神経発生</u>に働くことがわかっている。

フルートレス遺伝子の構造は簡略化して示している。
図 1
問(3) フルートレス遺伝子の翻訳について,以下の (i),(ii) の問いに答えよ。
(i) タンパク質合成に働く翻訳の機構について,以下の①〜⑥の中から正しい記述を 2 つ選び,その番号を記せ。
① 開始コドン(AUG)に対応するアンチコドン(UAC)を持つ tRNA が直接結合することで,翻訳が開始する。
② RNA はデオキシリボースといわれる糖,塩基からなるヌクレオチドが鎖状に結合した物質である。
③ 真核生物では核内で mRNA の情報を元にタンパク質が翻訳される。その後,合成されたタンパク質は核内から細胞質に移動する。
④ すべてのウイルスの遺伝物質は RNA であり,RNA から DNA を合成する酵素をもつ。
⑤ 原核生物では真核生物と同様に mRNA の転写が終了してから,翻訳が開始する。
⑥ tRNA は一部の塩基が水素結合をかいして対をつくっている。
(ii) フルートレス遺伝子の雌型 mRNA からは調節タンパク質としての機能をもったタンパク質が翻訳されない。その原因を 2 行以内で記せ。
問(4) 下線部 (c) で示すように,フルートレス遺伝子の変異体で雌の行動に変化がなかった理由を 2 行以内で記せ。
問(5) 下線部 (d) の神経発生とは,受精卵から機能を持った神経系が形成されるまでの一連の過程を指す。ショウジョウバエではさなぎから成虫になる時期に脳で神経回路の大きな再編が生じて,成体の行動に必要な神経回路が形成される。このことについて,以下の (i),(ii) の問いに答えよ。
(i) 神経発生について,以下の①〜⑦の中から正しい記述を 3 つ選び,その番号を記せ。
① BMP が調節タンパク質として働くことで,外胚葉の細胞は表皮に分化する。
② ノギンやコーディンというタンパク質が BMP の働きを阻害することで,外胚葉の細胞を神経に分化する。
③ イモリでは後期原腸胚において形成体(オーガナイザー)が未分化な領域に働きかけて,神経に分化させる。
④ 形成体は β カテニンを細胞外に分泌することで,周辺の未分化な領域に働きかけることができる。
⑤ イモリの神経胚で予定神経域を予定表皮域に移植した場合,その移植片は神経になる。
⑥ 適切な標的細胞とシナプスを形成できなかった神経細胞はエネルギーを保持するために細胞分裂を停止する。
⑦ 頻繁に活動するシナプスはエネルギーを消費するため消滅する。
(ii) フルートレス遺伝子の雄型 mRNA から翻訳される調節タンパク質の機能について,以下の①〜⑤の中から正しい記述を 2 つ選び,その番号を記せ。
① フルートレス遺伝子から発現する調節タンパク質はニューロンの軸索から細胞外に分泌されることで,他のニューロンとのシナプス形成を促進する働きがある。
② フルートレス遺伝子から発現する調節タンパク質は神経形成に関わる遺伝子の転写を制御することで,雄の求愛に関わる神経回路の形成に働くと考えられる。
③ フルートレス遺伝子の雄型 mRNA から翻訳される調節タンパク質は特定の RNA 配列に結合する働きがある。
④ フルートレス遺伝子の変異体では調節タンパク質の機能が欠損しており,雌の脳において求愛行動に必要な神経回路がなくなっている。
⑤ フルートレス遺伝子の雄型 mRNA から翻訳される調節タンパク質はホメオティック遺伝子がコードするタンパク質と同様に遺伝子発現を制御する働きがある。
問(6) 遺伝子導入技術を用いて,ショウジョウバエの雌において,特定の脳領域に雄型のフルートレス mRNA を転写させる実験を実施した。表 1 では各系統で雄型 mRNA を転写させた脳領域を示しており,各系統においてその脳領域は異なっている。例えば系統 1 では,A,D,E,F という 4 つの脳領域で雄型 mRNA が転写されている。系統 1〜9 まで使用して雌の集団を観察したところ,系統 1,4,6 において,雌が他の雌に対して,下線部 (a) で示す雄のような求愛行動をする様子が観察された。一方で,他の系統では,雌の求愛行動は観察されなかった。系統 1,4,6 において雄型 mRNA から翻訳された調節タンパク質が「いつ」「どの脳領域で」「どのように」働くことによって,雌が雄と同じような求愛行動をするようになったのか,2 行以内で記せ。
表 1
| 脳の領域名 | A | B | C | D | E | F | G | H |
| 系統 1 | + | − | − | + | + | + | − | − |
| 系統 2 | − | + | + | + | − | − | − | − |
| 系統 3 | + | − | − | + | − | − | + | + |
| 系統 4 | − | + | + | − | + | + | − | − |
| 系統 5 | + | − | − | + | − | + | + | + |
| 系統 6 | + | + | + | − | + | − | − | − |
| 系統 7 | + | + | − | − | − | + | − | − |
| 系統 8 | − | − | + | + | − | − | − | − |
| 系統 9 | − | + | − | − | − | + | + | + |
遺伝子導入技術で作製した 9 つのショウジョウバエ系統において雄型 mRNA を転写させた脳領域を +,転写させなかった脳領域を − で示す。