生 物 (4 問題 100 点)
生物問題 Ⅰ
次の文章(A),(B)を読み,問 1 〜問 7 に答えよ。解答はすべて所定の解答欄に記入せよ。
(A) 一本鎖 RNA は分子内で塩基対を形成して多様な高次構造をとる。例えば,転移 RNA は,約 80 ヌクレオチドからなる機能性 RNA であり,その高次構造は図 1 に示すような 3 つのステムループ構造を含むクローバーの葉に模したモデルで描かれる。ステムループ構造は,分子内で複数の塩基対形成によって生じる二本鎖構造であるステム構造と,一本鎖のループ構造から構成される。図 1 の転移 RNA の 34 番目から 36 番目の 3 ヌクレオチドは,伝令 RNA 上に刻まれた情報の読み取りを担っており,ア と呼ばれる。34 番目の塩基がヒポキサンチンへと変換されている場合は,ヒポキサンチンと伝令 RNA 上のアデニン,ウラシルおよびシトシンとの間に塩基対形成が可能である。
原核生物の伝令 RNA は機能連関した複数のタンパク質の配列情報をもっており,一括した遺伝子発現制御を可能としている。例えば,トリプトファン生合成を担う酵素遺伝子群では,細胞内のトリプトファン濃度が過剰になると イ タンパク質の発現が誘導され,それが染色体 DNA 上の ウ に結合することで,RNA 合成酵素による伝令 RNA の転写が不可能になるためトリプトファン合成が抑制される。
また,伝令 RNA 内のステムループ構造が細胞内の低分子化合物や金属などと結合または解離することで,遺伝子発現のスイッチとしても機能するリボスイッチと呼ばれる機構も存在する。たとえば,チアミン二リン酸(TPP)は哺乳動物にとってはビタミンであるチアミンから生成されるエネルギー代謝に関わる補酵素である。細菌内では,TPP がチアミン合成酵素群のタンパク質配列情報をもつ伝令 RNA の翻訳開始点の上流に位置するステムループ構造に結合すると,RNA 合成酵素による RNA 合成反応が停止することが知られている。
問 1 文章中の空欄 ア 〜 ウ に適切な語句を記入せよ。
問 2 メチオニン転移 RNA の(エ)35 番目と(オ)36 番目に入る塩基は,アデニン(A),ウラシル(U),グアニン(G),シトシン(C)のうち何か,それぞれ 1 つ選び,記号を記せ。

問 3 次の RNA はステムループ構造をとる。最長のステム構造を形成するときのループを構成する一本鎖部分のヌクレオチドの数はいくつか,答えよ。
5′–CUCCUAAGGUUAAGUCGCCCUCGCCCUGACCCAGCGAGGGCGACUUAACCUUAGGUUUU–3′
問 4 ピリチアミンはチアミンと類似した化学構造をもつ抗菌物質であり,細菌内へ取り込まれると,チアミンと同じ経路によってピリチアミン二リン酸へと変換される。ピリチアミンによって細菌内で低下するものを(あ)〜(お)からすべて選び,記号を解答欄①に記せ。また,解答欄②にピリチアミンの作用機構を説明せよ。
(あ) チアミンリン酸化酵素の反応速度
(い) チアミン量
(う) メチオニン転移 RNA 量
(え) TPP リボスイッチへの TPP の親和性
(お) チアミン合成酵素群の伝令 RNA 量
(B) 動物のからだを形成する胚発生過程は,「何を」,「いつ」,「どこに」形成するのかという情報を基盤としている。この情報には,さまざまな遺伝子の発現に対する時間空間的な制御が主要な役割を果たしている。例えば,ショウジョウバエの初期発生過程では,胚の前後軸に沿って異なった領域で複数の調節遺伝子が発現することにより,段階的に体の区画化がおこなわれる。
ショウジョウバエの卵形成の過程では,さまざまな母性因子が卵内に貯えられる。このうち図 2 に示すように,卵の前端に局在するビコイド伝令 RNA と,卵の後端に局在するナノス伝令 RNA が,胚の前後軸の形成に重要な役割を担っている。これらの伝令 RNA の翻訳は受精後に開始され,胚の前後軸に沿ってそれぞれのタンパク質の濃度勾配が生じる。そのとき,各細胞の配置によって細胞内のビコイドとナノスの濃度が異なる状態になる。ビコイドとナノスは,からだを区画化して体節の形成を促す調節タンパク質として働く。このように,それぞれの濃度に応じて,特定の調節遺伝子の発現を促進または抑制する調節遺伝子を分節遺伝子と総称する。
①分節遺伝子には,ギャップ遺伝子,ペアルール遺伝子,セグメントポラリティー遺伝子という順番で段階的に働く遺伝子群が存在する。ある遺伝子群の遺伝子が発現することによって合成される調節タンパク質は,次の段階の調節遺伝子の発現を制御する。このようなしくみによって胚が前後軸に沿って次第に細かく区画化され,さらにショウジョウバエのからだの基本構造となる体節が形成される。
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問 5 図 2 は,ショウジョウバエの卵内に存在する 4 種類の母性因子であるビコイド,ナノス,ハンチバック,コーダルの各伝令 RNA 濃度について,胚の前後軸に沿った分布を示している。ビコイドタンパク質は,コーダル伝令 RNA の翻訳を阻害し,ナノスタンパク質はハンチバック伝令 RNA の翻訳を阻害する。この結果,初期胚においてハンチバックとコーダルの各タンパク質は,胚の前後軸に沿ってどのような分布を示すようになるか,各々適切なものを図 3 の(あ)〜(し)から 1 つ選び,ハンチバックについては解答欄①に,コーダルについては解答欄②に,記号を記せ。なお,図中の胚はすべて,左が前方,右が後方である。
問 6 遺伝子 X は,ハンチバックとコーダルの両タンパク質によって転写が促進され,ビコイドとナノスの両タンパク質によって転写が抑制されることにより発現が制御されている。この遺伝子 X の伝令 RNA は,胚の前後軸に沿ってどのような分布を示すと考えられるか,図 3 の(あ)〜(し)から 1 つ選び,記号を記せ。


問 7 下線部①の過程を経て,ショウジョウバエのからだは,最終的に 14 の体節に区画化され,各体節の前半部分には細かい突起が多数生えたパターンが形成される。
図 4 は,ショウジョウバエの正常な野生型の胚と,それぞれ別の分節遺伝子が 1 つずつ欠失した 2 種類の変異体 A と B の胚のスケッチである。いずれも図中の胚は,左が前方,右が後方であり,各体節内の灰色の部分は突起が生えた部分を示している。変異体 A の卵から発生した胚では,胚の前方から数えて偶数番目の体節が消失しており,前後軸に沿って短い胚になっていた。変異体 B の胚も同様に体が前後軸に沿って短くなっていたが,体節の数に変化はなく,各体節の全体に突起が現れていた。これらの変異体 A と B は,どの種類の分節遺伝子の変異体であるか,それぞれ解答欄①に記入せよ。また,各々の変異体でそのような形態の変化が生じる理由を解答欄②に述べよ。

生物問題 Ⅱ
次の文章を読み,問 1 〜問 8 に答えよ。解答はすべて所定の解答欄に記入せよ。
ニューロンは脳を構成する主要な細胞であり,お互いに情報のやりとりをおこなっている。ニューロン同士が情報伝達をおこなう場所はシナプスと呼ばれ,約 20 ア の隙間をあけて接続している。
動物の神経-骨格系には,迅速な運動を可能とする様々な情報伝達のしくみが存在する。大脳の運動野にある上位運動ニューロンは,長い軸索をのばし脊髄前角にある下位運動ニューロンに信号を送る。下位運動ニューロンは筋肉へ信号を送る。軸索での信号の伝達速度は,神経繊維の太さと有髄か無髄かによって決まり,ヒトでは速いもので イ 近くに達する。有髄神経繊維の軸索は髄鞘が取り囲んでおり,ウ 以外の部分では外部と絶縁されている。ウ の部分が脱分極すると,離れた次の ウ との間で活動電流が生じ,とびとびに信号が伝わる跳躍伝導が起きる。これにより,速い興奮の伝導が可能となる。信号が神経筋接合部に到達すると,神経伝達物質である エ がシナプス間隙に放出され,筋細胞の受容体を刺激し筋肉が収縮する。
神経筋接合部における情報伝達速度を考察するために,シナプス前膜から短時間,一定速度で神経伝達物質が放出されるモデルを考える。まず,時刻 において軸索を伝わる信号がシナプス前膜に到達する。すると, から ミリ秒の間,シナプス前膜から一定の速度 で神経伝達物質がシナプス間隙に放出される。シナプス間隙に存在する神経伝達物質は単位時間あたり一定の確率で消失し,その半減期(量が半分になるまでの時間)は である。なお,このモデルでは,シナプス間隙は非常に狭く,放出された分子はシナプス間隙を速やかに拡散し均一の濃度になり,その分子数は受容体数よりつねに十分に多いと仮定する。 個/ミリ秒, ミリ秒のときの,このモデルにおけるシナプス間隙の神経伝達物質の変化を図 1 に示す。

問 1 ア に適切な長さの単位を記せ。また,ウ,エ に適切な語句を記せ。
問 2 イ にもっとも適切なものを(あ)〜(お)から 1 つ選び,記号を記せ。
(あ) 0.01 m/秒 (い) 0.1 m/秒 (う) 1 m/秒
(え) 10 m/秒 (お) 100 m/秒
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問 3 図 1 に比べ が 1.5 倍に増えたときの,このモデルにおけるシナプス間隙の神経伝達物質量の変化としてもっとも適切なものを図 2 の(あ)〜(か)から 1 つ選び,記号を記せ。
問 4 図 1 に比べ が 2 分の 1 になったときの,このモデルにおけるシナプス間隙の神経伝達物質量の変化としてもっとも適切なものを図 2 の(あ)〜(か)から 1 つ選び,記号を記せ。
問 5 このモデルでは,シナプス間隙の神経伝達物質が 5000 個以上になると信号が伝わる。シナプスでの迅速な情報伝達には,シナプス間隙の神経伝達物質量が素早く増加し,かつ短時間だけある値以上であることが望ましい。このモデルのシナプスにおける迅速な情報伝達にもっとも重要な性質を,(あ)〜(え)から 1 つ選び,記号を記せ。
(あ) の値が大きいこと
(い) の値が小さいこと
(う) の値が大きいこと
(え) の値が小さいこと
問 6 実際の神経シナプスでは,問 5 で答えた性質がどのような機構によって実現されるか。2 つ挙げよ。

問 7 脳内では,ニューロンはシナプスを介して他のニューロンと複雑な神経回路を形成している。これについて,活動電位にともない蛍光輝度の上昇する膜電位感受性蛍光タンパク質を用いて神経回路を調べる実験をおこなった。マウスの脳に膜電位感受性蛍光タンパク質を導入し,顕微鏡を使って大脳皮質視覚野の観察をおこなった。観察した 6 つのニューロン(N0 〜 N5)について,ニューロンの蛍光輝度を経時的に測定したところ,図 3 のような結果が得られた。このとき,N1 とシナプスを形成していると考えられるニューロンを解答欄にすべて記入せよ。ただし 6 つのニューロンはこれら以外のニューロンとシナプスを形成していないものとする。また,シナプス伝達にかかる時間および軸索伝達にかかる時間はいずれのニューロンでも等しいものとする。

問 8 記憶には,記銘(書き込む),保持(維持する),想起(思い出す)の 3 つの過程が存在する。記憶を評価するための実験手法として,モリス水迷路という行動実験が用いられる。この実験では,図 4 に示すように,大型の円形プールに濁った水を満たしてマウスをその中で泳がせる。水面下には,マウスに見えないようにプラットフォーム(台)が置いてあり,マウスはそこにたどり着くと足をついて休むことができる。マウスは最初,ランダムに水迷路を泳いでいるうちに偶然プラットフォームに到着するが,実験を毎日繰り返すうちに周囲の目印を利用して学習し,短時間でプラットフォームに到着できるようになる。
野生型マウスならびに,ある脳領域に局所的に神経活動阻害剤を継続して投与し続けたマウスを用いて,モリス水迷路実験をおこなった。水迷路周囲の目印の数を 4 つにして 7 日間実験をおこなったところ,プラットフォームに到着するまでの時間変化について,図 5 のような結果が得られた。さらに,最後の水迷路実験から 1 ヶ月後,図 4 の水迷路周囲の目印をそのままにした場合と,3 個とり除いた場合でプラットフォームに到着するまでの時間を比較すると,図 6 のような結果が得られた。以上の実験結果から,この脳領域の記憶に関する機能について,上述の記憶の過程をふまえて解答欄の枠の範囲内で説明せよ。



生物問題 Ⅲ
次の文章(A),(B)を読み,問 1 〜問 11 に答えよ。解答はすべて所定の解答欄に記入せよ。
(A) 植物の成長量は個体群密度や時間に依存する。図 1 は異なる個体群密度で栽培したダイズ群落における平均個体重と個体群密度の関係を示したもの,図 2 は異なる個体群密度で植栽された 13 年後のアカマツの林における,土地面積あたりの幹,枝,葉の現存量と個体群密度の関係を示したものである。密度効果が生じると,ある時点における土地面積あたりの現存量が個体群密度に依存しない現象が知られており,この現象を最終収量一定の法則と呼ぶ。また表 1 は異なる 4 つの森林生態系 A 〜 D における総生産量,一次生産者の呼吸量,地上部と地下部を合わせた枯死・脱落・被食量,分解者の呼吸量を示している。



単位はいずれも gC/(m²・年)。gC は物質生産によって固定された炭素の量を表す単位である。
問 1 図 1 では,84 日目には最終収量一定の法則が成り立っていた。土地面積あたりの現存量と個体群密度の関係を表した図として,もっとも適切なものを,図 3 の(あ)〜(か)から 1 つ選び,記号を記せ。なお,6 本の線は下から 12,21,31,45,84,110 日目のデータを示している。

問 2 図 1 では,自己間引きと呼ばれる現象が生じるため,84 日目と 110 日目の高い個体群密度のデータが欠損している。この現象に関する説明としてもっとも適切なものを(あ)〜(え)から 1 つ選び,記号を記せ。
(あ) 高い個体群密度になると,一個体あたりの葉や茎の量は減るが,個体群密度そのものは変わらない。
(い) 高い個体群密度になると,群落は,生産を維持するために一部の個体を枯らす。
(う) 高い個体群密度になると,資源不足により,一部の個体が自然に枯れる。
(え) 個体群密度は,成長とともに減少し,最終的に一定になる。
問 3 図 2 において,幹の現存量に対して最終収量一定の法則は成り立たない。その理由を,個体群密度の違い(個体間の距離の違い)に依存した各器官(幹,枝,葉)の現存量の違いから説明せよ。
問 4 表 1 の A の森林生態系での純生産量(gC/(m²・年))を答えよ。
問 5 表 1 の A,B,C,D の森林生態系を成長量の小さいものから順に並べて記入せよ。
問 6 生態系の有機物の年間蓄積量が負になる場合もある。それはどのような場合か。(あ)〜(え)から適切なものをすべて選び,記号を記せ。
(あ) スギやヒノキの人工林などで成長が旺盛な場合。
(い) 温暖化で気温が高くなり,土壌炭素が分解されて分解者呼吸量の放出が大きい場合。
(う) 土壌有機物が土壌中に多く蓄積された場合。
(え) 大規模な山火事が発生した場合。
(B) ある諸島の 3 つの島(島 A,島 B,島 C)に,コオロギの一種が生息している。このコオロギのオスには,メスを誘引するために鳴く通常タイプと,鳴く能力が失われている変異タイプの 2 つのタイプがあることが知られている。このコオロギは 20 世紀末にこの諸島に移入し,移入後に変異タイプが出現した。ここでは,移入前の形質を受け継いでいるものを通常タイプと呼ぶ。表 2 に示すように,各島で 2 つのタイプの割合は異なる。
コオロギの移入と同時期に,寄生バエの一種もこの諸島に移入した。寄生バエのメスは宿主となるオスのコオロギの位置をその鳴き声により特定し,鳴いている個体に産卵する。寄生バエの幼虫は宿主の体内に潜り込み,最終的に宿主は死に至る。

変異タイプの繁殖戦略(できるだけ多くの子孫を残すための行動・生態)を調べるために,以下の実験を行った。各島のコオロギの生息地に,半径 2 m の円状の観測領域(サークル)を 1 か所ずつ設置した。サークル内のオスの数を計測した後に,オスをすべて取り除いた。次に,サークルの中央に設置したスピーカーで通常タイプのオスの鳴き声を 20 分間再生した後,サークル内のオスの数を計測した。さらに,通常タイプか変異タイプかを記録し,スピーカーからの距離を計測した。実験の結果を図 4 および図 5 に示す。
なお,気温などの外的要因はすべての島で等しいものとする。
問 7 この文および図から読み取れる変異タイプのオスが鳴かないことのメリットを解答欄①に,デメリットを解答欄②に,それぞれ簡潔に説明せよ。
問 8 図 4 の結果からわかる,このコオロギの性質について,もっとも適切なものを(あ)〜(お)から 1 つ選び,記号を記せ。
(あ) 変異タイプのオスは,通常タイプよりも交配相手としてメスに好まれる。
(い) 変異タイプのオスは互いに排斥し合う。
(う) 通常タイプのオスは,その鳴き声により変異タイプのオスを排斥する。
(え) 変異タイプのオスは,鳴き声により通常タイプのオスの位置を特定することができる。
(お) 通常タイプのオスは,他のオスの鳴き声のない環境を好む。
問 9 図 5 について,(ア),(イ),(ウ)にあてはまる島名を A,B,C から選んで記せ。
問10 図 5 について,コオロギのオスが変異タイプであるものを(あ)〜(え)からすべて選び,記号を記せ。
問11 変異タイプの繁殖戦略を,図 4 および図 5 の結果にもとづき説明せよ。


生物問題 Ⅳ
次の文章を読み,問 1 〜問 3 に答えよ。解答はすべて所定の解答欄に記入せよ。
生物には,外部の環境因子の変化にかかわらず体内の生理状態を常に一定に保とうとする性質,すなわち恒常性がある。例えば,ヒトを含む哺乳類の体温や血糖濃度は,自律神経の作用,ホルモン分泌,細胞の代謝などが連携して維持される。
哺乳類の褐色脂肪組織は,急性の寒冷暴露に応じて熱を生産する特殊な脂肪細胞(褐色脂肪細胞)が集まった組織であり,体温調節に寄与する。寒冷刺激を与えたときの褐色脂肪組織における代謝の変化や熱の生産のしくみを調べることを主な目的として,実験 1 〜実験 3 をおこなった。
実験 1 :ラットを用いて,以下の 3 種類の実験条件のもとで全身のさまざまな組織へのグルコース取り込み活性を測定した。
① 25 ℃で 24 時間絶食状態にする。
② 25 ℃で 24 時間絶食後,4 ℃で 4 時間の寒冷刺激を与える。
③ 25 ℃で 24 時間絶食後,2 時間食餌摂取をさせ,さらに 25 ℃で 1 時間置いておく。
このとき,褐色脂肪組織を支配する交感神経を切除する群と無処理の群を設定した。また,①〜③の実験条件下でのラットの血中インスリン濃度も測定した。結果を図 1 に示す。
実験 2 :25 ℃において,ラットの褐色脂肪組織を支配する交感神経を電気刺激した結果,褐色脂肪組織へのグルコース取り込み量が増加するとともに,褐色脂肪組織の温度が上昇した。また,ラットにノルアドレナリンを投与した場合も褐色脂肪組織において同様の応答があることを確認した。これらの応答は,アドレナリン受容体の阻害物質の存在下では消失した。さらに,褐色脂肪細胞を試験管内に取り出して 37 ℃で培養し,インスリン非存在下でノルアドレナリンを添加すると,ノルアドレナリンを添加しない群と比較してグルコースの取り込み量が増加した。
実験 3 :褐色脂肪細胞のミトコンドリア内膜には,ATP 合成酵素を介さずにマトリックスへの の流入を可能にするタンパク質 A が多量に存在することがわかっている。野生型ラットおよびタンパク質 A 欠損ラットに短時間の寒冷刺激を与えたとき,表 1 に示すような変化が観察された。
(Shimizu et al. 1991 を改変)

問 1 絶食後に食餌摂取をすることにより,血中インスリン上昇とあいまって,いずれの組織でもグルコース取り込み量が著しく増加していることが,図 1 から読み取れる。以下の文章はインスリンを介してグルコース取り込み活性が促進する調節のしくみについて述べたものである。ア 〜 カ に適切な語句を記入せよ。
食後に血糖濃度が上昇したことを,血流により間脳の ア の血糖調節中枢が感知し,血糖調節中枢は イ を通じて膵臓の ウ の エ を刺激する。これにより エ からのインスリンの分泌が促進される。インスリンは全身のさまざまな組織の細胞に作用して,オ を介したグルコースの取り込み・分解・脂肪への変換,カ の合成を促進する。
問 2 実験 1 と実験 2 の結果から,短時間の寒冷刺激後の哺乳類の褐色脂肪細胞におけるグルコース取り込み調節においてどのようなしくみが働いていると考えられるか。実験結果から推定できることを解答欄の枠の範囲内で説明せよ。
問 3 以下の文章は,実験 3 において野生型ラットの褐色脂肪組織の温度が上昇した理由を考察したものである。キ 〜 ス にあてはまるもっとも適切な語句を,以下の語群の(あ)〜(ぬ)から 1 つ選び,記号を記せ。また空欄 ① については「熱エネルギー」という語句を含めて 30 字程度で文章の一部を完成せよ。
寒冷刺激後に褐色脂肪組織に取り込まれたグルコースは キ と ク を経て代謝され,ケ によりミトコンドリア内膜の内外に コ が形成される。褐色脂肪組織に存在していた脂肪は寒冷刺激によって サ と シ とに加水分解される反応が促進され,サ は キ で代謝されて ク に入る。一方,シ は炭素を 2 個ずつ含む部分で順次切断される反応により繰り返し酸化され,ス となって ク に入る。すなわち,脂肪由来の代謝中間物質によってもミトコンドリア内膜の内外で コ が形成される。
褐色脂肪組織以外の組織の細胞ではこの コ が ATP 合成酵素を駆動して ADP と無機リン酸を縮合させることで ATP が合成される。それに対して,褐色脂肪細胞ではタンパク質 A が多量に存在するので,タンパク質 A を介したマトリックスへの 流入が優先的に起こり,コ が解消される。コ として蓄積されていたエネルギーは ① ため,褐色脂肪組織の温度が上昇すると考えられる。
語群:
(あ) アルコール発酵,(い) オルニチン回路,(う) 解糖系,
(え) 電子伝達系,(お) 糖新生,(か) 乳酸発酵,(き) クエン酸回路,
(く) ピルビン酸,(け) アセチル CoA,(こ) オキサロ酢酸,
(さ) グリセリン,(し) エタノール,(す) 乳酸,(せ) 脂肪酸,
(そ) グリシン,(た) グルタミン,(ち) ,(つ) ,
(て) ,(と) 濃度勾配,(な) 濃度勾配,
(に) 濃度勾配,(ぬ) 電子密度勾配
生物問題は,このページで終わりである。