山折り谷折り

折り紙と数学

点を重ねる折り方は、線対称の作図になる。折り目の角度は、平らに畳めるかを決める。同じ幾何学が、鶴の展開図から宇宙で開く構造までつながっている。

鶴の展開図赤は山、青は谷
平らに折った鶴面の重なりを灰色で示す

図は「進める」で1ステップずつ動く。白い丸はドラッグできる。

01

折るとは線対称

紙の点 P を点 Q に重ねる。折り目の上の点は、P と Q から等しい距離にある。そのため折り目は、線分 PQ の垂直二等分線になる。

紙の片側は、折り目を軸に回る。平らになるまで折ると、移った点は折り目について線対称の位置に来る。紙の上の長さは変わらない。

XP = XQX は折り目の上の点

辺と辺を重ねて折れば、その角を二等分できる。点を重ねる操作と線を重ねる操作が、折り紙の作図の出発点になる。

点 P・Q を動かす線対称の作図

白い丸をドラッグ。選択した点は矢印キーでも動かせる。

詳しく

折り目の単位方向を u、折り目上の点を c とする。点 p の射影は f = c + u(u·(p−c))。線対称の点は p′ = 2f−p となる。図では、回転中の座標も折り目からの距離を保って計算する。

出典:三谷純「折り紙の中の数学」。

02

芳賀の定理で分数を作る

正方形の辺を 1 とする。上の辺の点 P を、右上の角から距離 a の位置に取る。右下の角を P に重ねて折る。

移った下の辺と左の辺の交点を Q とする。左上の角から Q までの長さは、a だけで決まる。

左上から Q まで = 2a / (1+a)

a を 1/2 にすれば、長さ 2/3 の位置ができる。辺を半分に折って目印を付ければ、定規を使わずに三等分につながる長さを取れる。

上辺の点 P を動かす正方形の辺 = 1
詳しく

折り目は (1,0) と (1−a,1) の垂直二等分線。線対称で移した下辺と x=0 の交点は Q=(0,(1−a)/(1+a)) になる。左上からの距離は 1−(1−a)/(1+a)=2a/(1+a)。

芳賀和夫は「オリガミクス」という言葉を作った生物学者。出典:芳賀, Origamics Part 1(1999)、Wikipedia “Mathematics of paper folding”。一般化:オクムラ(Okumura)(2014)。

03

作図を支える7つの基本操作

点を通る、点を線に乗せる、線を重ねる。折り紙の単純な折り方は、これらの条件を組み合わせた7つの操作で表せる。

条件を指定しても、折り目が1本に決まるとは限らない。操作5では解が0〜2本、操作6では0〜3本ある。図は、条件を満たすすべての折り目を青の点線で示す。どれも谷折りとして描く。

操作6は、2点をそれぞれ別の直線へ同時に乗せる。これが、次の章で3次方程式を解く作図になる。

点と、直線上の丸を動かす青の点線が計算した解(谷折り)
詳しく

操作5では、固定する点を中心とし、動かす点を通る円を考える。その円と目標の直線の交点が、点を移す先になる。交点ごとに垂直二等分線を作る。

操作6では、片方の点の移動先を直線上のパラメータ t で表す。もう片方の点も目標の直線に乗る条件を整理すると、t の3次以下の方程式になる。実根をすべて求め、線対称の条件を再検査する。

1980年代にジャック・ジュスタン(Jacques Justin)が7つの操作を記した。その後に藤田と羽鳥が独立に再発見した。操作7は、新しい作図可能数を増やさない。細かい年の記載は資料によって異なる。出典:三谷純、Wikipedia “Huzita–Hatori axioms”、アルペリン(Alperin)とラング(Robert Lang)(2009)。

04

折る作図は3次方程式を解く

定規とコンパスの作図は、2次方程式を解く操作まで扱える。角の三等分と立方体の体積を倍にする作図は、それだけではできない。

折り紙の操作6は、2つの条件を同時に満たす折り目を作る。阿部恒の方法では角を三等分できる。メッサー(Peter Messer)の方法では、立方体の体積を倍にする辺の比、2の3乗根を作れる。

阿部の方法では、角の頂点 O を水平線へ、左辺の点 B を角の斜めの辺へ同時に乗せる。O とその移動先 O′ を結ぶ線が、角を三等分する。

補助線 → 同時折り → 結果操作6を使う
詳しく

阿部の作図では O=(0,0)、B=(0,2h) とする。折り目の法線の角を φ とすると O′=(h cotφ,h)。B′ が角 θ の辺に乗る条件は tanθ=tan3φ になる。図は正方形の中に移動先が来る φ=θ/3 の解を使う。

メッサーの作図では O=(0,0)、B=(0,1/3)。O を右辺へ、B を高さ 2/3 の線へ乗せる。O′=(1,u) とすると 3u³−3u²+3u−1=0。r=(1−u)/u とおけば r³=2 となる。

阿部の方法は1980年に報告された。メッサーの作図は1986年。ベロッホ(Margherita Beloch)は1936年に同時折りで一般の3次方程式を解いた。出典:三谷純、ハル(Hull)(2011)、メッサー, Crux Mathematicorum 12(10)。正七角形も折り紙で作図でき、2cos(2π/7) は z³+z²−2z−1=0 の解となる。

05

1点のまわりに平らに折れる条件がある

折り線が1点に集まると、そのまわりに角が並ぶ。川崎の定理では、折り線が偶数本で、1つおきの角の和がどちらも180°なら、山谷を適切に選んで平らに折れる。

α₁ + α₃ + … = 180°
α₂ + α₄ + … = 180°

前川の定理は、平らに折れた頂点で、山と谷の本数の差がちょうど2になることを示す。

|山の本数 − 谷の本数| = 2

山谷を指定した場合は、その並び方も効く。両隣より小さい角の両側は、山谷が異なる。図では角度と本数に加え、指定した山谷で折り返せることも確かめる。

端の丸で角度、線を押して山谷扇形を折り返す

折り線の角度と山谷を変えられる

詳しく

平らに畳んだとき、隣の扇形は折り線で鏡映になる。向きが交互に反転するため、最初の面と最後の面がつながるには、角の交互和が0でなければならない。

川崎の条件だけでは山谷の指定は決まらない。前川の条件を加えても、任意の山谷の並びを許せるわけではない。図は最小の角を山谷の異なる折り目で消していく方法で、山谷の並びを調べる。

これらの結果は複数の人が独立に見つけた。村田の1966年の論文にも結果があり、1970年代末〜1980年代に川崎・ロバートソン(Robertson)・ジュスタンらが独立に得た。名称は カサハラ(Kasahara)とタカハマ(Takahama)(1987)に見られる。出典:三谷純、Wikipedia “Kawasaki's theorem” “Maekawa's theorem”。

鶴の展開図にも同じ条件が現れる

内部の頂点を押して数字を表示鶴の内部頂点 54個

手元の150作品の展開図で、内部頂点3,654個を調べた。すべてで川崎と前川の条件が成り立った。内部頂点のない作品は4つある。

平らに折った結果から得た展開図を使うため、これは定理どおりになることの確かめに当たる。

詳しく — 確かめの方法

紙の外周に接する頂点を除く。山・谷の折り線だけを集め、方向の角度を順に並べる。隣り合う角度の差から1つおきの角の和を計算し、山と谷の本数も数える。

検査そのものも確かめた。各頂点の山谷を1本変えると、3,654個すべてで前川の条件が不成立になった。折り線を約1.7°回すと、3,654個すべてで川崎の条件が不成立になった。

出典:同梱の展開図データと検査結果。図も同じ頂点・辺のデータから描く。

06

頂点の条件だけでは全体は決まらない

各頂点のまわりで折れても、離れた部分どうしが交差して、紙全体を平らに折れない場合がある。全体の判定には、面の重なり方まで扱う必要がある。

細長い紙なら、隣り合う山谷で短い区間を畳む「クリンプ」と、短い端を折る操作を繰り返して判定できる。クリンプは、中の区間が両隣以下の長さで、両側の山谷が異なるときに使える。

一般の展開図の判定は NP 困難である。これは、広い種類の難しい計算問題を、この判定に置き換えられることを指す。

山谷を指定した m×n の地図折りは、NP 困難か多項式時間で解けるかが未解決。細長い紙と 2×n の地図は、多項式時間で判定できる。

短い区間から折る細長い紙の判定
詳しく

多項式時間とは、入力の大きさのある固定の累乗で計算量を抑えられること。細長い紙では、クリンプと端の折りを取り除いても、残った部分の折れる・折れないが保たれる。

出典:バーン(Bern)とヘイズ(Hayes), SODA(1996)、アキタヤ(Akitaya)ら “Box pleating is hard”(2016)、アーキン(Arkin)ら “When can you fold a map?”(2004)、モーガン(Morgan)(2012)、三谷純。

番号つきの切手の折り方の数は 1, 2, 6, 16, 50, 144, 462 と続く。一般式は知られていない。出典:OEIS A000136。

07

折る回数が増えると必要な長さが急に増える

数学の紙に厚さがなくても、実際の紙には厚さがある。同じ方向に半分ずつ折ると、折り返す部分は内側の紙を回り込む。折る回数が増えると、必要な長さが急に増えていく。厚さを変えたときの長さは、厚さに比例する。

L = (πt / 6)(2ⁿ+4)(2ⁿ−1)n:折る回数 t:紙の厚さ L:必要な長さ

ギャリバン(Britney Gallivan)は高校生のときにこの式を導いた。2002年、長さ1,219 mのトイレットペーパーを、同じ方向に12回半分に折った。

回数が増えるほど、式の中の2ⁿが長さを大きくする。薄い紙に変えると、必要な長さは厚さに比例して小さくなる。

1方向に折る紙の断面長さと厚さを計算

厚さの値は計算用に設定した値。断面は拡大して表示する。

詳しく

ギャリバンは2001年12月に式を導き、2002年1月27日に実際に折った。紙の長さは4,000フィート。13回の記録は St. Mark's School の生徒によるもので、複数の巻きをつないでいる。

出典:Guinness World Records。図の厚さは計算用の入力値。紙の製品ごとの実測値は用いていない。断面の曲線は半円で描き、厚さと層数の増え方を示す。

08

突起の長さを紙の上の距離へ移す

脚や角を作るには、その長さに使える紙を確保する。長さ r の突起に半径 r の円を対応させると、円の配置として考えられる。

作りたい形を、枝分かれする線の図「ツリー」で表す。枝先どうしを紙に配置するときは、木に沿って測った距離以上の間隔が必要になる。

紙の上の距離 ≥ 木の上の距離中心から枝分かれする木では、枝先 i・j の距離 ≥ rᵢ+rⱼ

図では円の重なりと紙の外へのはみ出しを減らすように、位置を少しずつ更新する。枝を長くすると必要な円も大きくなり、同じ紙に収める条件が厳しくなる。

突起のツリー
正方形への円の配置
詳しく

1980年代に前川淳の「悪魔」が、部品に分けて展開図を組み立てる考え方を広めた。目黒俊幸とラングらが理論を進めた。両者は1990年代初めに独立に近い考えに至った。

Tree Method はツリーから距離の制約を作る設計方法。ラングは設計ソフト TreeMaker を公開した。出典:三谷純、ラング, Origami Design Secrets。

図の更新は円の重なりを減らす局所的な計算。重なりとはみ出しの量は、円の重なり量と外へのはみ出し量をそれぞれ二乗して足したもの。最適な配置を必ず見つけるという意味ではない。

09

平らに折れば一刀で輪郭を切れる

線分でできたどんな図形も、紙を平らに折って、1回まっすぐ切るだけで切り抜ける。これが一刀切りの定理である。

ここでは五角の対称性を使う。円形の紙を半分に折る。さらに折り返すと、扇形が10枚重なる。重なった紙を直線で切ると、開いた輪郭は、その線を10枚の紙で折り返して写した形になる。

切る線の角度を変えると星になる。五角の対称軸に垂直な切り方では、隣り合う線がつながって正五角形になる。

一刀切りの問題は1721年の『和国知恵較』にも見られる。ベッツィー・ロスが一刀で五芒星を切ったという話は、言い伝えとして伝わる。

折る → 切る → 開く折り返しで計算する輪郭

角度は切り線に垂直な向きと水平線のなす角。4回折ったあと、「進める」で切り、次に開く。

詳しく

一般の図形に対する定理はドメイン(Demaine)・ドメイン・ルービウ(Lubiw)(1999)。輪郭の辺を内側へ平行に動かし、その頂点の軌跡を使う方法と、円を配置する方法がある。

歴史資料には フーディーニ(Houdini)の Paper Magic(1922)、ロー(Loe)の Paper Capers(1955)、ガードナー(Gardner)の Scientific American(1960)がある。ベッツィー・ロスの話は1873年の Harper's 記事に見られる。

図は五角の対称性による作図を計算する。角幅 π/5 の扇形上で n·p=d を切り線とし、鏡映して輪郭を得る。

10

三浦折りは面の形を保って開く

三浦折りは、平行四辺形を繰り返す折り方である。向かい合う両端を引くと、全体が一度に開く。どの面も平らなまま動く。

各頂点には4本の折り線が集まる。山3本・谷1本、またはその逆になる。角の1つおきの和も180°で、5章の前川と川崎の条件を満たす。

α + (180°−α) = 180°
|3−1| = 2

三浦公亮によるこの構造は、人工衛星で宇宙に開いた。1995年打ち上げの Space Flyer Unit の実験で使われた。

ドラッグで視点を回す赤は山、青は谷

辺長 a=b=1 の4×4面。図の内側を横へドラッグすると回転する。上下のページ移動は図の外から操作できる。

詳しく

ジグザグの折り線は全部山か全部谷になる。直線の折り線は山谷が交互になる。図では、内部頂点の山谷が分かるように色を付けた。

平行四辺形の辺を a,b、鋭角を α、折りのパラメータを θ とする。X=a cosθ、H=a sinθ、S=b cosα/cosθ、Y=√(b²−S²)。頂点は (iX+(j mod 2)S, jY, (i mod 2)H)。この閉じた式で、すべての面の辺長と対角線の長さを保つ。

出典:三浦, Tech Report 618(1985)、JAXA “2D Array”、Wikipedia “Miura fold”。実験の打ち上げ日は1995年3月18日。

—

折り方から数学と設計が育った

紙を折って図形を作る実践から、作図の理論と平らに折れる条件が整理された。さらに、折り目を逆に設計して形を作る方法へ広がっている。

1721
『和国知恵較』に一刀切りの問題
1893
ロウ(Row)『Geometric Exercises in Paper Folding』
1936
ベロッホが折り紙による3次方程式の解法
1966
村田の論文に頂点の条件
1980
阿部の角の三等分
1985
三浦折りの技術報告
1986
メッサーの立方根の作図
1989
第1回 折り紙の科学国際会議
1996
バーンとヘイズが全体の判定の NP 困難性
1999
芳賀『Origamics Part 1』/ドメイン・ドメイン・ルービウの一刀切り
2002
ギャリバンが同じ方向に12回折る
2017
ドメイン・タチ(Tachi)の Origamizer。どの多面体も折れる実用的な方法
詳しく — 出典一覧