
高校の物理・数学にディープダイブ
300m の海の怪物は、高校で習う式だけで動いている。
模型を動かしながら、一つずつ確かめていこう。
300mの海の怪物は高校の物理・数学で動いてる。模型を動かし確かめよう。
リヴァイアサンは旧約聖書「ヨブ記」41 章に出てくる海の怪物で、そこに寸法は一切書かれていない。書いてあるのは大きさではなく手に負えなさで、体じゅうが盾のようなうろこでおおわれ、鉄をわらのように思う、とある。
数字が出てくるのは聖書ではなくタルムード(約 1500 年前のユダヤ教の議論の書)で、そこでは「300 パラサング」と語られる。パラサングは昔のペルシャの距離の単位で 1 つが約 4km、つまり約 1200km。ただしこれは寸法の記録ではなく、ほら話の形で語られたもの。昔の絵では帆船(30〜50m)をのみこむ姿が多く、それだと 50〜200m ほどになる。
そこでこの作品は、波と重力がつじつま合う大きさとして 300m を選んだ。最初は 1,500m だったが、それだと波の高さが何十メートルにもなり、地球では起こりえない海になる。全部を 5 分の 1 にすると波は 5m(ふつうの嵐)に収まり、重力も本物の 9.8 をそのまま使える。
速さも同じ考えで決めた。秒速 150m は、水の中でいちばん速い乗り物(泡に包まれて進む特別な魚雷、約 100m/s)より速く、ありえない。いまは平均で秒速 30m ほど。
嵐の海の複雑な形は、どこから来るのか。
波は、同じ場所の高さを足すだけで重ねられる。長さの違う2本を足すと、山と山が重なる所は高く、山と谷が重なる所は低くなって、どちらとも違う形が生まれる。作品の海は、長さの違うsinの波を8本足したもの。1本ずつは規則正しいのに、足すと規則が見えなくなる。
2本目の波長を1本目(31.7m)に近づけると、ゆっくりした大きなうねりが生まれる。これが「うなり」。
水の波は、高さが波長にくらべて小さいうちは重ね合わせが成り立つ(足し算でよい)。大きくなると成り立たなくなり、山がとがって、やがて砕ける。
そこでこの作品は、8 本の sin を足した上で、水の粒を進行方向にも動かして山をとがらせている(トロコイド/ガーストナー波)。足し算だけでは出ない「本物の海の形」はここから来る。
関連用語:重ね合わせの原理、うなり、位相差、フーリエ級数、トロコイド波
水の中で、遠くのものが見えなくなるのはなぜか。
光は水の中を進むあいだに、少しずつ水に吸われる。同じ距離を進むたびに、同じ割合だけ減る。作品の海では58m進むごとに半分、116mで1/4、174mで1/8。
深さも同じ。上からの日の光は、深いほど長く水を通ってくるので、深さに対しても指数的に暗くなる(約100mごとに半分)。明るさは、距離の分と深さの分のかけ算。
2つは同じ光を見ていないから。横(距離)は、見ている物から目までまっすぐ届く光。水に吸われる分に加えて、水の粒で横に散らされて外れた分も失う。縦(深さ)は、上から降ってくる日の光。散らされた光も、だいたい下へ進み続けるので、まだ届く。だから縦のほうが減りにくい。
本物の海でも、まっすぐ届く光の減り方(ビーム減衰)は、降ってくる光の減り方(拡散減衰)より大きい。ただし作品の0.012と0.0069は、見た目で決めた値で、本物の海で測った値ではない。
関連用語:ランベルト・ベールの法則、減衰係数、光学的厚さ、対数スケール
半分になる距離は、e−0.012d = 1/2 を解いて d = log 2 ÷ 0.012 ≒ 58m。深さなら log 2 ÷ 0.0069 ≒ 101m。
300mの体が泳ぐ道は、どうやって作る?
01と同じく sin を足す。ただし足すのは高さではなく、x・y・z の位置。時間のかわりに 0 から 1 まで進む t を入れると、点が道をたどる。1本だけならただの円や楕円。うねる回数 n の違う sin を足すほど、道は複雑にうねる。
n を整数にしておくと、t が 1 になったとき sin が全部ちょうど元に戻るので、道は必ず出発点に帰ってくる輪になる。作品の道は、この輪を何千本もくじで作って、窓の近くでよく動くものを残した。
もし n が 3.5 だと、1周しても3回半しかうねらず、出発点に戻れない。だから作品では n を必ず整数にしている。
水面も、体が進む道も、長さの違う sin を足したもの。同じ作り方をしているので、海のうねりと体の動きが同じ呼吸になる。
周期の違う波を足すと、繰り返しが戻ってくるまでがとても長くなる(最小公倍数が大きい)。だから見ていても同じ動きに見えない。
関連用語:周期と振幅、位相、合成波、リサジュー図形、うねり
道のまわりを、くるくる回りながら進むには?
03で作った道は、大きな輪。そこに道のまわりを回る小さな円を足すと、体は道に巻きつくように進む。これがコークスクリュー。
円は、進む向きに直角な面の上に描く。その面の中に、直角な2本の向き u と w を決めれば、円は01と同じ cos と sin で書ける。道が曲がると、面も u も w も一緒に向きを変える。
u は、進む向きに直角で、水平な向き。進む向きが (a, b, c) なら、u は (−c, 0, a) の向き。進む向きとの内積が 0 になるので、直角だとわかる。
w は、進む向きにも u にも直角な向き。3つ目の向きを作るこの計算は「外積」と呼ばれ、大学で習う。
どちらも長さを 1 にそろえてから使う。そうすると、半径 r の円がそのまま r の大きさで描ける。
関連用語:回転行列、外積、法線ベクトル、フレネ標構
窓の前を素通りするだけの道でも、見たときの動きがダイナミックになるように、作品ではどの道にもコークスクリューを入れた。太さの真ん中は 10〜28m。細いのに速く回すと、曲がりが急すぎて体が通れない(06で確かめる)。
ザトウクジラは、魚の群れの下から上へらせんを描いて泳ぎながら、泡をはき続ける。泡は筒のような「網」になり、魚を真ん中に集める。そこへ下から口を開けて突っこむ。
ウミガメ、サメ、ペンギン、クジラの仲間も、同じ速さで何周もぐるぐる回ることがわかっている(東京大学などの研究、2021年)。えさ探し、求愛、道さがし、地球の磁場を測る、などが考えられているが、はっきりした理由はまだわかっていない。
ただしウナギやウミヘビのような細長い生き物は、体を左右にくねらせて泳ぐ。道のまわりをずっと回り続ける泳ぎ方は、作品のための工夫。
道の山が高すぎたら、どうやって抑える?
sin を足して作った道には、ときどき大きな山ができる。そのままだと、体が水面から高く飛び出して、空を飛んでいるように見えてしまう。
そこで、水面より少し下に基準の面を置き、そこから上だけを押しつぶす。どんなに高い山でも上限に近づくだけで、決して超えない。上限で切り落とすのとちがって、基準の面で道が折れない。
押しつぶしたあとの高さ y′ を、もとの高さ y で微分すると、傾きは e−(y−B)/K。基準の面(y = B)では e0 = 1 になる。基準より下は押しつぶさないので、傾きはもともと 1。つなぎ目の左右で傾きが同じなので、道はなめらかにつながる。
上限でただ切り落とすと、傾きが 1 からいきなり 0 になる。そこで道が折れ曲がる。
上へ行くほど傾きは 0 に近づく。高い山ほど、ほんの少ししか上がらなくなる。
関連用語:漸近線、飽和、指数減衰、ソフトクリップ
逆に解くと y = B − K log(1 − (y′ − B)/K)。上限に近いほど、もとの y は対数で急に大きい。作品では、道の上から 25% が上限に届くよう合わせてから押しつぶす。山やうねりが水面のすぐ下に集まり、水面を出入りするダイナミックな動きになる。
道のどこが急すぎるかを、どうやって見つける?
作品の道には、ところどころ先がとがった所がある。300mの体がそこを通ると、首がブンと振られる。直したいのはそこだけ。気持ちのいいカーブやコークスクリューは残したい。
急さは、道の上に 5m おきに並べた点のうち、となり合う3点を通る円の半径で測る。半径が小さいほど急。3点がつくる三角形の外接円なので、正弦定理から半径がわかる。
3点を A, B, C とし、AB = BC = h(5m)。B で向きが θ だけ変わると、三角形の角 B は 180° − θ。二等辺三角形なので、角 A と角 C はどちらも θ/2。
正弦定理 AB / sin C = 2R に入れると、h / sin(θ/2) = 2R。だから R = h / (2 sin(θ/2))。
h = 5m で R が 8m 以上になるのは、θ が約 36° 以下のとき。
関連用語:曲率、曲率半径、正弦定理、円周角の定理
作品では、半径が 8m より小さい点だけを両どなりの真ん中へ少し寄せ、全部おさまるまでくり返す。動くのは急な所のまわりだけ(道001 で 1m 以上動いた点は 5%)。100本の道で、いちばん急な半径(真ん中の値)は 3.0m → 7.75m、首の折れ角は最大 127° → 60° になった。
水から出た顔を、どうやって自然に水へ戻す?
道の山が水面をこえると、300mの体の頭が空中に出る。道どおりに進むと、空を飛んでいるように見えてしまう。
本物の生き物なら、首が疲れるので、一度顔を水面につけたくなる。体の大半は水の中にあるので、水を押して首の向きを変えられる。だから、ただ落ちるより速く下がる。そこで鼻先が出た瞬間から、下向きに一定の加速をかけて道を下げる。
長い体の生き物は、首や頭をとても速く動かせる。ヘビが頭を突き出すときの加速度は、研究で平均 約 19g(190 m/s²)、速いもので 28g。体の大半が水の中にあれば、水を押して首を動かせる。
5g は大きく見えるが、この体は秒速 約90m で泳ぐ。a = v²/R から、秒速 90m で 5g は半径 約165m のゆるいカーブで下を向くのと同じ。作品の道のふだんの曲がりは、真ん中の値で 6〜16g。下へ戻す 5g は、ふだんの曲がりより小さい。
全身が空中に出ていたら、押すものが無いので重力 g でしか落ちない。
関連用語:自由落下、放物運動、初速度、3 次曲線でのなめらかな接続
押すのは、押したあとの鼻先が水面下 10m に届くまで。顔が水面の少し下まで戻れば十分なので、そこでやめて、元の道へ 3 次の曲線でなめらかに戻す。右の道 007 は、下げないと、顔が出て少し下がったあと、着水せずにまた上がってしまう。
潜る角度は 27° まで(前へ 1m 進むあいだに 0.5m 下がる。tan 27° ≒ 0.5)。体が遅い所では、式どおりだと V 字に刺さって首が折れるため。
元の道へは 3 次の曲線で戻す。つなぎ目で高さも傾きもそろえるので、道が折れない。
100本の道で、1周に水の上にいる時間の合計は 357 秒 → 169 秒になった。
水から出た体は、なぜ落ちる?
道の上を進むのは頭だけ。後ろの体は、前の節とつながったまま、水の抵抗と重さと浮く力で動く。体を短い節に分け、節ごとに「どれだけ水につかっているか」を見る。
水につかっている分だけ、押しのけた水の重さの浮力がかかる(アルキメデスの原理)。体の重さは水とほぼ同じなので、全部沈んだ節は浮きも沈みもしない。水から出た分だけ重さが勝って、落ちる。
体の重さが水の何倍かを ρ体 とすると、a = ( s ÷ ρ体 − 1 ) g。作品では ρ体 = 1 にしている。水より重ければ沈み、軽ければ浮く。
節の太さを半径 r の円とみて、水面の高さを h、節の真ん中の高さを y とすると、s = ( h − y + r ) ÷ 2r(0 より小さければ 0、1 より大きければ 1)。
本当は円の断面なので、つかった面積の割合は直線にはならない。作品では、高さの割合で近くしている。
関連用語:浮力、平均密度、排水量、復元力、メタセンター
泳いでいる体の、どこにどれだけ抵抗がかかる?
水の抵抗は速さの 2 乗で大きくなる。速さが 2 倍なら、抵抗は 4 倍。
体の節ごとに、速さを体に沿う向きと横切る向きに分けて、それぞれに抵抗をかける。細長い体は、横切る向きには横腹全体で水を押すので、作品では横切る向きを 25 倍強くしている。体は頭の通った跡をなぞりながら左右にうねるので、横切る向きの速さも生まれる。
ヘビやウナギが体を波打たせて前へ進めるのも、この差があるから。体を横へ振って水を押すと、横切る向きの大きな抵抗が、体を斜め前へ押し返す。沿う向きの抵抗は小さいので、前へはすべるように進める。
抵抗は F = ½ ρ C A v²。横切る向きは面積 A も係数 C も大きい。太さ 10m の体で計算すると、横切る向きと沿う向きで約 88 倍ちがう。作品では 25 倍にしている。
関連用語:抗力、抗力係数、レイノルズ数、法線成分と接線成分
右の模型では、頭が 8 の字の道を進み、体は頭の通った跡に、作品と同じうねり(左右に最大 14m)を重ねて置いている。時間は 4 分の 1 の速さで流している。
曲がるとき、体はどちらを上にして泳ぐ?
向きを決めるのは頭だけ。頭は、重力と、曲がるときに外へ振られる力(遠心力)の 2 つで傾く。ゆっくりなら背中が上、速く急に曲がるほど大きく傾く。電車がカーブで傾くのと同じ。
後ろの節は、自分では向きを決めない。前の節の「上」の向きを受け取るだけ(道が曲がった分だけ回して受け取る)。だから頭が傾くと、その傾きが体の後ろまで伝わる。
角度は 0° と 360° が同じなので、毎回いちばん近い向きを選ぶと180° を超えた瞬間に裏返る。傾きは範囲のないただの数として持ち続け、合わせたい向きはいつも一個前の続きになるように選ぶ。
傾きは、重力が戻す力と遠心力が傾ける力がつり合う角。速く急に曲がるほど τ は 90° に近づく。頭はすぐには傾かず、この角をゆっくり追いかける。
重力は、傾き τ を 2g sin τ の強さで戻す。遠心力は、体の縦を曲がりの向きにそろえようとして 0.6a · ½ sin 2τ の強さで傾ける(sin 2τ なので、内側にそろえても外側にそろえても落ち着く)。
つり合うのは 2g sin τ = 0.6a · ½ sin 2τ = 0.6a sin τ cos τ のとき。両辺を sin τ で割ると cos τ = 2g ÷ 0.6a。
関連用語:向心加速度、見かけの力(遠心力)、バンク角、角速度
向きを角度で表すと、同じ向きに 0°、360°、720° … といくつも名前がつく。「いちばん近い名前」を毎回えらぶと、差が 180° を超えたとたんに反対回りの名前のほうが近くなり、体が急に逆へ回る。
そこで、合わせたい向きの角 a を測ったあと a + round((一個前の角 − a) ÷ 2π) × 2π とする。これで、いつも一個前の続きの数になる。傾きそのものも範囲を持たない数のまま足していき、角度として使うのは最後に背中の向きを作るときだけ。
力の足し方も差をそのまま使わず、重力は sin(差)、遠心力は sin(2 × 差) ÷ 2 にする。向きの差だけで決まるので、体が何回転しても壊れない。
後ろの節は、前の節の「上」を、進む向きが変わったぶんだけ回して受け取るだけ。こうすると、道がねじれていても取り合いが起きない。前は毎回「世界の上」へ少しずつ寄せ戻していて、道がねじれると裏返った。
冷たい海の水が、なぜ泡になる?
水は、まわりの圧力が水蒸気の圧力(約 2,300Pa)まで下がると、冷たいままでも沸いて泡になる。速く動く物のまわりでは水の圧力が下がる。船のスクリューの羽の先が白くなるのと同じ。
深いほど水圧 p₀ + ρgh が高く、沸きにくい。その水圧を、速さでできる圧力 ½ρv² で割った σ が、形で決まる値 σᵢ より小さいと沸く。とがった所ほど圧力が大きく下がるので、σᵢ が大きい。
σ = σᵢ になる深さ h = ( σᵢ · ½ρv² − p₀ + pᵥ ) ÷ ρg より浅いと沸く。
秒速 50m なら、体は深さ約 28m、とげの先は約 118m まで。秒速 86m なら、体は約 103m、とげの先は約 367m まで沸く。
沸いた水蒸気の泡は、圧力が戻ると 0.06〜0.2 秒でつぶれる。作品では、泡の 8% を「溶けていた空気の泡」として、5〜12 秒残してゆっくり浮かせている。
関連用語:キャビテーション、飽和蒸気圧、ベルヌーイの定理、キャビテーション数
リヴァイアサンが出てくる旧約聖書「ヨブ記」41 章には、「泳ぐと海がなべのように煮え立つ」と書かれている。3000 年前の言葉が指しているのは、たぶんこの現象そのもの。
水面を突き抜けるとき、泡と水しぶきはどこから出る?
体が水に入ると、押しのけた穴に空気が引きずり込まれ、穴が閉じて白い泡の雲になる。体が水から出るときは、体に乗った水が薄い膜になって持ち上がり、放物運動で落ちる。上下は逆だが、起きていることは同じ。
どちらも、水面に穴を開けるのは先頭だけ。後ろの体は、もう開いている穴を通るので、体が太くなった分 π(r² − r穴²) しか効かない。体は顔から約 50m で最も太くなり、そこから後ろは 0 になる。
作品で数えると、泡の 96% は先頭の 37 か所から、残りの 4% が続く体の 417 か所から出ていた。泡の雲は 5〜15 秒残って秒速 0.35m で浮き、膜の水は 0.2〜0.5 秒で雫になる。口を開けていると、とがった口の角からも泡が出る(量は 開き具合 × 速さ)。
体が水に入るとき、水面に穴を開けるのは先頭だけ。後ろの節は、すでに開いた穴を通る。だから入った瞬間に押しのける量は π r²、続く節は π(r² − 穴²) になる。
出るときは、体にくっついて持ち上がった水の膜がちぎれて、放物運動で飛ぶ。
関連用語:円の面積、放物運動、スプラッシュクラウン、表面張力
濡れた体は、どう見え方が変わる?
いちばん変わるのは光り方。皮膚についた薄い水の膜はなめらかなので、空の光を鏡のように返す。浅い角度で見るほど強い。
水から出た直後は薄い膜のまま流れ落ち、表面張力で細い筋に分かれ、最後は玉になって落ちる。作品では膜は 0.5 秒で雫に変わる。
少しだけ暗くもなる。膜の中で光が何度も散らばって吸われるから。ざらざらして水を吸いやすい物ほど暗い(砂が濡れると黒っぽくなるのと同じ)。なめらかな皮膚は変化が小さく、作品では 0.78 倍。
水そのものは色を持たない。滴る水も白く塗らず、鏡の強さで表す。右の模型は、変わり方が見えるよう時間を 4 倍に引きのばした。乾くところまでは作っていない。
研究では、乾いたときに光の 0.3〜0.6 を返す物がいちばん変わり、その値が 0.1 ほど下がる。砂なら 0.35 から 0.25 くらい(約 0.7 倍)。
手の皮膚のようになめらかな所は、濡れてもほとんど暗くならない。かわりに、水の膜が鏡になって光る。
水の膜があると、光は膜の中で何度も散らばり、外へ出るまでに吸われる回数が増える。だから戻る光が減る。
関連用語:フレネルの式、鏡面反射と拡散反射、屈折率、ブリュースター角
透明な水が動いているのを、どうやって見せる?
水を押しのけるのは顔の面だけ。後ろの体は、開いた道を通るだけ。押しのけられた水は、顔から360 度に広がる。
水そのものは見えない。見えるのは 2 つ。①水面の盛り上がり。体が浅い所を通ると、押しのけられた水の行き場が上しかないので、水面が持ち上がる。深い所を通ると、水は体の横を回り込めるので、水面はほとんど動かない。
②マリンスノー。海の中をゆっくり沈んでいく、プランクトンの死がいやふんのかたまり。水といっしょに動くので、水の流れが見える。
見える大きさは、本当の大きさを距離で割ったものに比例する(相似)。3mm の粒は、窓から 26.5m 先で 0.2 画素。小さすぎて写らない。
そこで作品では、本物の海にある大きいかたまり(1〜5cm、1 立方 m に 0.05 個)だけを 1,900 個置いた。粒は波といっしょに円を描いて揺れ、1 日に 130m の速さで沈む。
粒は水のゆらぎでも少しずつ動く。そのため、体が通ってできたすじや空いた所は、時間がたつと混ざって、また一様な散らばりに戻る。
グラフの f は画面の大きさで決まる数。3mm が 26.5m 先で 0.2 画素になるので f ≒ 1,770。
関連用語:排除体積、相似比と体積比、連続の式、流線
山は 2 つ。広がる山は押しのけた量で決まり、速さでは増えない。顔の正面の山は v² ÷ 2g で、速いほど高くせまい。尾が通ると、そこへ水が戻る。作品では、顔が押しのける水だけでなく、体じゅうの節と水面とのやりとりを計算している。
雲も光も計算していない。それでも空に見えるのはなぜ?
でたらめな濃淡を、大きさ半分・濃さ半分にしながら 8 回重ねる。これだけで雲に見える。丸をいくつ並べてもこうはならない。空気の乱れには決まった大きさが無いからで、どの倍率で見ても似た形になる。
雲も風で流れる。層は 2 枚あって、低いほうが 1.35 倍速い。速さが違うので 2 枚がずれて、形もゆっくり変わる。遠くは白いかすみに溶ける(02 と同じ)。
太陽は、向きを表す矢印 1 本だけ。雲の切れ間はその向きに近いほど光る。海は細いぎらつきと広い照り返し、体は面の向きとの内積。空の色そのものも、海と体を照らす明かり。
雨は落ちる 7m/s と風 17m/s を足して 68° 傾く。
乱流は、大きな渦から小さな渦へエネルギーが渡り続けるので、これという大きさを持たない(コルモゴロフの −5/3 則)。雲や雨の縁の複雑さを測ると、直線の 1 と面の 2 の間、およそ 1.35 次元になる(Lovejoy 1982、2007 年に再確認)。大きさ半分・濃さ半分で重ねる作り方は、この「倍率を変えても同じ」という性質をそのまま真似ている。
空へ貼るときは、見ている向きを上を向いた成分で割り、頭の上の平らな板に映している。だから水平線に近いほど模様が横に伸びる。
関連用語:等比数列、自己相似、フラクタル次元、1/f ゆらぎ、コルモゴロフの −5/3 則
強さは波と同じ突風の値から決める。(突風 − 0.7)÷ 0.8 を 0.15〜1 に収めたものが、降らせる粒の数の倍率になる。風が強まると、傾きが寝て粒も増える。空に風速計は映らないので、この 2 つが風の変化そのものに見える。
雨は奥行きのある箱の中に降らせる(作品は 200m×22m×132m に毎秒 5,000 粒)。だから遠い雨ほど短く、暗く見える。
大学の道具を借りたのは、この 5 か所だけ。
白波(ヤコビアン) 波は水面を寄せ集める。面の縮み方 J が 0 になる所で水がたたまれ、空気を巻きこんで白くなる。険しさ A k が 1 を超えると J は 0 以下。
円柱のまわりの流れ 水は体をよけて回り込む。速さは体の太さ a と中心からの距離 r で決まり、真横では体の 2 倍。マリンスノーもこの式で動く(14)。
反射の強さ(フレネル) 浅い角度で見るほど、水面も濡れた皮膚も鏡になる。空気から水へは全反射が無く、すれすれで 1 に近づくだけ(13・15)。
乱流の統計 空気の乱れには決まった大きさが無い。だから形ではなく散らばり方だけが同じになる。空の雲はこれで作っている(15)。
5 つ目はランベルト・ベールの法則(光が距離で減る)。これだけは模型が無い。式が高校の指数関数そのものなので、02 で見せている。
どれも人の名字で、同時に、その人が見つけた仕組みの名前でもある。
ヤコビ(カール・ヤコビ/ドイツ/1804〜1851)は、座標を別の座標に移したとき面積や体積がどれだけ伸び縮みするかを表す行列式を作った。その値がヤコビアン。波が砕ける所では、この値が 0 になる。
フレネル(オーギュスタン・フレネル/フランス/1788〜1827)は、光を波として扱い、境目で返る光の割合を出す式を作った。灯台のレンズにも名前が残っている。
コルモゴロフ(アンドレイ・コルモゴロフ/ソ連/1903〜1987)は確率の数学を作った人。1941 年に、乱流の渦の大きさと速さの関係(1/3 乗の法則)を出した。
ランベルト(ヨハン・ランベルト/1728〜1777)とベール(アウグスト・ベール/1825〜1863)も人の名字。光が物の中を進むほど弱くなる割合を表す。
関連用語:ヤコビアン、ポテンシャル流、フレネルの式、乱流の統計、ナビエ–ストークス方程式
泡が白いのは、小さな空気の玉が集まっているから。空気と水の境目が何百枚も重なり、どの色の光も同じように跳ね返すので白く見える。
作品では、水面のマス目 1 つぶんの面積の縮み方 J を頂点ごとに計算し、J が 1.02 から −0.05 へ近づくほど泡を強くする。そこへ体のまわりの泡・通った跡・すじを足す。
式:水の粒は x = x₀ − A sin(k x₀ − ωt)、y = A cos(k x₀ − ωt) と円を描く(トロコイド)。ω = √(gk)。のっぺりさせない工夫:でたらめな雑音で泡のふちを崩し、強さは 0.93 で止めて真っ白に振り切らせない。色は灰青 (0.46, 0.55, 0.60) と白 (0.97, 0.99, 1.00) の間で決め、泡の下の水も少し明るくする(白い水は光を散らすから)。この項目の模型は、同じ考えの簡単版で J が 0.30 → 0 に近づくほど白を混ぜている。
作品のマリンスノーは、いちばん近い体の節を探し、その節の太さ a と速さ U を使って、体の軸に直角な面の中で u = (a² / r²)(2(U · r̂) r̂ − U) を計算している。これが円柱のまわりの流れ(双極子)そのもの。
そこへ軸にそった引きずり(体に近いほど強く、exp(−(r − a) / a) で弱まる)を足し、体の中に入ってしまった粒は表面まで押し出す。粒は水の速さに 1 秒あたり 5 の割合で追いつく。
流れの筋は ψ = U y (1 − a² / r²)。体の表面にそった速さは 2U sinθ で、真正面と真後ろは 0(よどみ点)。体は太さが場所ごとに違うので、節ごとの a を使う。右の模型は、同じ式をまっすぐな筒 1 本で見せたもの。
空気から水へ入るときは全反射は起きない。どの角度でも少しは中へ入る。すれすれに近づくほど返る割合が 1 に近づくだけ。全反射は逆向き(水から空気)のときで、法線から約 48.8 度より寝た向き(水面からは約 41.2 度より浅い向き)で起きる。
式はマクスウェルの方程式の境界条件から出る。光の揺れの向きが 2 通り(s と p)あって返り方が違い、その平均が目に見える反射になる。
p だけが 0 になる角があり、ブリュースター角という。水では法線から 53.1 度(水面からは 36.9 度)。ここで返った光は揺れの向きがそろうので、偏光サングラスで水面の照り返しだけを消せる。
式の中身:rs = (cosθⁱ − n cosθt) / (cosθⁱ + n cosθt)、rp = (cosθt − n cosθⁱ) / (cosθt + n cosθⁱ)。θⁱ は水面に垂直な線から測った入る光の角、θt は中へ進む光の角。
作品では、この式をそのまま解かず、近い形の簡単な式 0.02 + 0.98(1 − cos)5(シュリックの近似)を使っている。右の模型は本物のフレネルの式で描いている。
フラクタルは 2 種類ある。決まった形をくり返すもの(コッホ曲線・シダの葉)と、形はちがうのに散らばり方が同じもの(雲・海岸線・山の稜線)。後者をでたらめフラクタルという。空は後者で、拡大しても同じ形は出てこない。出てくるのは同じ荒れ方。
縦と横で縮み方もちがう(自己アフィン)。横を 2 倍にのばすと、濃さは 2H 倍。作品は H = 1、乱流どおりなら H = 1/3。本物は無限に段が続くが、作品は9 段だけなので、500 倍ほどの範囲でだけフラクタル。
乱流は、大きな渦が小さな渦に分かれ続けるだけなのでこれという大きさを持たない。渦の速さの差は大きさの 1/3 乗 δv(ℓ) ∝ ℓ1/3、エネルギーの分け前は E(k) ∝ k−5/3(コルモゴロフ 1941)。雲や雨の縁を測ると約 1.35 次元(Lovejoy 1982)。
そもそも蛇の形の生き物は、体をくねらせて泳ぐ。本気でうねっても、この体ではだいたい秒速 24m。作品の見せ場は最大 秒速 150m。
まるで足りない。頭がこの速さで、この道を通る理由がない。
そこだけは、魔法の力
ということにしている。
背景は、体のうねりだけで進むリヴァイアサン。ひとふりに 6 秒ほどかかる。
出せる力は、筋肉の量=体の重さに比例する(長さの 3 乗)。いっぽう水の抵抗で食われる力は、体の断面 × 速さの 3 乗(長さの 2 乗 × v³)。つり合わせると v は 長さの 3 乗根に比例する。
体長が 10 倍になると、速さは 10 の 3 乗根=約 2.2 倍。シロナガスクジラ(体長 30m)の全力が秒速 11m ほどなので、300m の体では 11 × 2.2 ≒ 秒速 24m。
確かめ算:この体を秒速 70m で進めるには約 20 億ワット(原子力発電所 2 基ぶん)が要る。力は速さの 3 乗なので、秒速 24m なら 20 億 ×(24/70)³ ≒ 8 千万ワット。体重 1 万 4 千トンのうち筋肉を 4 割とすると、1kg あたり 15 ワットでちょうど届く。生き物の筋肉が出せる範囲の上のほう。