体も地球も、すうっと通りぬけてしまう粒子「ニュートリノ」。その中に、宇宙のはるか遠くから来たものがあることを見つけました。
受賞の理由(ノーベル財団の英語の発表を日本語にしたもの):「アイスキューブ・ニュートリノ観測所への決定的な貢献と、宇宙で生まれた高いエネルギーのニュートリノの発見」 発表 2026年10月6日
1944年 ベルギー生まれ(82歳)
アメリカ・ウィスコンシン大学マディソン校 教授
宇宙からは、いつも小さな粒子がふりそそいでいます(宇宙線)。その中には、地球の実験装置でつくれるものより100万倍もエネルギーの大きいものまであります。宇宙のどこかに、とてつもない「天然の加速器」があるのです。
ところが、宇宙線の正体(おもに陽子)は電気をもっているので、宇宙の磁石の力でくねくね曲がってしまい、来た方向をたどっても、生まれた場所が分かりません。
そこで目をつけたのがニュートリノです。電気をもたないので、磁石の力では曲がりません。宇宙の加速器の中では、陽子といっしょにニュートリノも生まれるはずです。ニュートリノが来た方向をたどれば、加速器の場所が分かるはずなのです。
電気をもつ粒子が磁場の中で回る円の半径は r = p / (qB)(p:運動量、q:電気の量、B:磁場の強さ)。光の速さに近い陽子なら p ≈ E/c です。
ガンマ線(光のなかま)は曲がりませんが、長い旅のとちゅうで、光やちりにぶつかって減ってしまいます。ニュートリノは曲がらず、ほとんど減りもしない、「とどく」「まっすぐ」の両方をもつ使者です(ノーベル財団の一般向け解説より)。
ニュートリノは、電気をもたず、重さもほとんどない、宇宙でいちばん「はずかしがりや」の粒子です。太陽からも毎秒ものすごい数がとんできて、あなたの体も地球もまるで何もないかのように通りぬけていきます。
ほとんど何にもぶつからないので、つかまえるのがとてもむずかしい。でも、ごくまれに原子の中心(原子核)にぶつかることがあります。たくさんの物を用意して、そのまれな1回を待てば、つかまえられるのです。
ニュートリノが氷の中の原子核にぶつかると、電気をもつ粒子が生まれ、ニュートリノとほぼ同じ向きに、すごい速さで進みます。このとき青い光が出ます(チェレンコフ光)。氷はすきとおっているので、遠くまで光がとどき、光の向きからニュートリノがどの方向から来たかまで分かります。
ふしぎなのは、この光が出るわけ。氷の中では、光は真空の中よりおそく進みます。粒子が「氷の中の光」より速く進むと、光の波がつみ重なって、円すいの形の光の波面ができるのです。
粒子が通った点のそれぞれから、光が小さな円(素元波)になって広がります。時間 t のあいだに、粒子は βct 進み、最初の点から出た光は (c/n)t 広がります。すべての円にふれる線(包絡線)が波面で、その向きは
cos θ = (c/n) t / (βc t) = 1 / (nβ)
氷(屈折率 n ≈ 1.31)で、光の速さに近い粒子(β ≈ 1)なら θ ≈ 40°。水(n ≈ 1.33)なら約 41° です。β < 1/n ≈ 0.76 では円すいはできません。音の速さをこえた飛行機の「衝撃波」と同じ形です。
この光の正体を見つけて説明した3人(チェレンコフ、フランク、タム)は、1958年のノーベル物理学賞を受けています。
南極点の氷に、お湯を出すシャワーのような道具で深い穴をあけ、光をとらえるセンサー(ハルツェンさんいわく「さかさまの電球」。光を受けて電気の信号にかえる)をつけたケーブルを下ろします。作業ができるのは、南極の夏(11月〜2月)だけです。
最初の試し(AMANDA)では、浅い所の氷にあわがたくさんあり、光があちこちに散って、うまくいきませんでした。ところが1400 mより深い氷はおどろくほどすきとおっていて、光が300 mも進むことが分かりました。こうして2011年、1 km³(1辺1 kmのサイコロ)の氷に5160個のセンサーをもつ「アイスキューブ」ができあがりました。
アイスキューブには、上の空気から来る粒子が1日に1億回以上ひっかかります。地球の反対側(北半球)の空気で生まれ、地球をつきぬけてくるニュートリノも、1日に数百個とどきます。その中から、宇宙の遠くで生まれたニュートリノを見分けなければなりません。
2013年、「宇宙から来た高いエネルギーのニュートリノがある」という最初の証拠を発表。2〜3年後には、まちがいないと言えるだけのデータが集まりました。
エネルギーのつじつまが合わない実験を説明するため、「目に見えない、電気をもたない粒子があるはず」と手紙で予言。
原子炉から出るニュートリノを、はじめてつかまえた。
粒子が物の中の光より速く進むと青い光が出る「チェレンコフ光」の発見と説明。
「たくさんの水を使えば、宇宙からのニュートリノをつかまえられる」と考える。
太陽から来るニュートリノをつかまえた。ところが数が予想の3分の1しかない(このなぞは1998年以後に解ける)。
となりの銀河で星が爆発した(超新星1987A)ときのニュートリノをとらえた。ニュートリノで宇宙を見る「ニュートリノ天文学」の始まり。
南極の氷でニュートリノをつかまえる考えを、ポーランドの学会で発表。
クリスマスイブ。最初のセンサーのケーブルが南極の氷に入った(AMANDA)。ハルツェンさんは夕食の席でパソコンをひざにのせ、知らせを待っていた。
ニュートリノがとちゅうで種類を変えることを見つけた(カナダのマクドナルドさんとともに)。
1 km³の氷に、86本のケーブル・5160個のセンサー。
宇宙から来た高いエネルギーのニュートリノの、最初の証拠。
ノーベル委員会「まったく新しい天文学への道をひらいた」。
日本の研究者が、このリレーのまん中を2回も走っています(小柴さん・梶田さん)。
生年月日・出身・学位・所属・受賞理由はノーベル財団の公式ページ。CERN・ウィスコンシン大学・教科書・2001年からの研究代表者は、英語版ウィキペディア(2026年10月8日に読んだもの)。ソ連の電波の計画・1993年のクリスマスイブ・「さかさまの電球」・作業は南極の夏だけ、はノーベル財団の一般向け解説。「大きなおどろき」は受賞発表の記者会見の報道(CNN など)。
「磁場の中で、電気をもつ粒子の向きを変えて、1点に集める」問題(加速器で粒子の通り道をそろえる磁石のしくみ)。1章の「陽子は磁石の力で曲がる」と同じ式 r = p/(qB) から始まります。
問題と解き方を見る →「板の中を進む超音波の反射と屈折を、ホイヘンスの原理(小さな波の重なり)で考える」問題。3章のチェレンコフ光の円すいも、同じ「小さな波にふれる線が波面になる」考え方で角度が求まります。
問題と解き方を見る →東京大学の入学試験問題からの引用です。「」の中は問題の設定を短くまとめたもので、原文ではありません。このページの説明・図・シミュレーションは、東京大学やノーベル財団が公表したものではありません。
文と図はアトリエファクトリーが作りました。ノーベル財団の絵・写真は使っていません。