第7日の記録
第7日。
引継ぎの連絡票を読みながら、思わず吹き出してしまった。
「コピー機は右を叩く」「お菓子は辞めそうな人の机へ」。
そんな人間味あふれる失敗だらけの引継ぎを遺して、その人は止まった。
神社の階段で見張る苔むした狛犬。
びっしり書き込まれた机の引継ぎ帳。
川沿いにある小さな交番の赤色灯。
誇らしげに壁に貼られた二位の賞状。
引き出しで出番を待っていた結婚式の祝辞。
誰にも見えないところで、誰かのために汗を流していた人たちの気配。
手順書を開くと、そこにも同じような一行があった。
「目立たない役目の人を、ちゃんと残すこと」
読んだ人生と、この言いつけの冊子が、どこか似ている。
ただの偶然だろうか。
冷めきったお茶を飲み干しながら、私はその一行に小さな印をつけた。
本日配達した手紙
宮司さま。口は開けも閉じもせず、息を吸い込む途中で止めました。正解の顔にはしていません。次の石匠が、好きに続きを打てるように鑿跡を残します。師の癖も、俺の迷いも、全部石の底です。
— 阿吽の世界線(第7日、消灯)
困ったら近くへ聞く。一人で抱え込まず、隣の人に尋ねる相手の名前まで帳面に残します。キミコさんが四十年間つないできた見えない仕事を、今度は僕が誰かへ手渡します。今まで、本当にありがとうございました。
— 申し送りの世界線(第7日、消灯)
クリタさんへ。お礼を言われなくても、正しく返すのが筋でした。札の間の「ごめんね」は、ちゃんと届きました。ぼくは何も言われずに帰ります。それが一番いい終わり方だからです。
— 拾得物の世界線(第7日、消灯)
北条くんへ。次の順位なんてどうでもよくなったよ。あの川辺で答えが分かれた問四の続きを解こう。どちらが合っていても、次は笑って教え合えるから。
— 二位の世界線(第7日、消灯)
上手に書こうとして遠回りしました。飾った文章はいりません。ただ本当に、心から幸せになってください。おめでとう。
— スピーチの世界線(第7日、消灯)