第12日の記録
第12日。
途中のページに栞を挟み、明日の朝の手順を読み直した。
「明日からは、朝のうちに、今日止まることを知らせる」
唐草模様の風呂敷に包まれた古い弁当箱。
押し入れの奥に押し込まれた茶色い段ボール。
カチカチと音を立てて回るぜんまい仕掛けの小鳥。
母の家の奥で重い扉を閉ざしたままの鉄の金庫。
先に終わりを知らせてしまえば、その人の最後の一日はどうなるのだろう。
分かったような顔をして、相手の時間を奪う怖さが指先をかすめる。
「開けない引き出しは、そのままにしておくこと」
手順書の指示をなぞりながら、私は手紙を封筒に詰めた。
夜が明けるのが、少しだけ恐ろしい。
本日配達した手紙
お母さんへ。私の荷物を見せてくれてありがとう。全部は背負えないけれど、半分なら一緒に持てます。まだ重いって、ちゃんと言えるようになりました。少し空いたその場所を、二人で確かめながら歩こうね。
— 肩の荷が見える町の世界線(第12日、消灯)
先輩へ。開けない箱は、開けたい誰かのためにあるんだと思います。中身を聞かずに、置く場所だけを聞けました。手順書に書き足しておきます。開けなかった箱も、開けなかったと書くこと。
— 段ボールの世界線(第12日、消灯)
帰る舟のために、縄の結び目を残します。私一人では支えきれませんでした。鍵を緩めて待っていてください。三つ目の合図で舟が届きます。
— ぜんまい遠征の世界線(第12日、消灯)
カギオ、鍵は開けるためだけにあるんじゃない。開けないまま守るために、閉ざしておく意思もある。あの子が開けない引き出しは、開けないままにしときな。看板の文句は、明日あたしが下ろすよ。
— 錠前の世界線(第12日、消灯)