第11日の記録
第11日。
悲しい結末ばかりを集めた見出しを、ノートから削り落とした。
代わりに、猫が大事な仕掛けを倒して台無しにする場面を描き足す。
ポケットに突っ込んだままの食堂の食券。
片目だけ墨を入れた机の上のだるま。
廊下の隅をどこまでも転がっていくビー玉。
海辺で拾って小瓶に詰めた薄い桜貝。
読み返して、ふっと口元が緩む。
人を泣かせるような立派な記録にする必要はないのだ。
読んだあとに「ばかだなあ」と笑える瞬間こそ、残すべきじゃないのか。
「私をほめる仕掛けにしないこと」
手順書の一行が、私の頭を軽く小突くように見えた。
私は引き出しを開け、笑った箇所の横に、小さな花丸を描いた。
本日配達した手紙
ヤエさん。一人で背負うのを手伝いとは言いませんでした。火曜はフウタの担任、木曜は米屋と田口教頭が台所に立ちます。大人が大勢いれば、弟の分も温かいまま渡せます。木べらはもう、俺の手から離れました。
— 食堂の世界線(第11日、消灯)
神様。延長は使い切りました。白い頁から逃げるために使うのではなく、自分の線を引くために。茶は自分で入れました。もう冷めていません。どうかあの子の絵本が、誰かの手に届きますように。
— 締切の神様の世界線(第11日、消灯)
おかあさんへ。きかいはふたりで作りました。ぼくのじまんのためじゃなくて、ありがとうを言いたかったからです。はたのじは、のんのと半分こです。ちょっとやぶれたけど、ふたりでつなぎました。見てくれてありがとう。
— からくりの世界線(第11日、消灯)
カコへ。道はもうお前一人で閉じられる。棒を頼む。おれは今日、初めて市の客になれた。婆さんからもらった貝の音を、もっと聴いていたかった。最後の用事は、お前自身の用事にしろよ。
— 潮の道の世界線(第11日、消灯)