管理人の部屋

私は、忘れませんから。

業務連絡本日の凍結対象:「国境の家の世界線」「ドッジボールの世界線」「大持ち上げの世界線」「一円玉の世界線」。実行:日次。異議申立て窓口:なし。
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第10日の記録

第10日。

机から滑り落ちた一枚の紙を拾おうとして、私は世界を止める手を止めた。

床に落ちていたのは、小さな声で合図を交わす二人のメモだった。

台所で湯気を立てる黒い土鍋。

夕暮れの校庭を転がるドッジボール。

担ぎ手を待つ祭りの神輿。

庭の土の隅に埋められた、抜けた乳歯と一枚の一円玉。

「ここにいるのを、知っているだけでいい」

一円玉の言葉を読んだとき、胸の奥がぎゅっと縮んだ。

決まりきった手順の通りに消すだけなら、誰にでもできる。

立ち止まり、拾い上げ、耳を澄ますこと。

そんな寄り道ばかりしている私は、係として失格なのかもしれない。

それでも私は、拾った紙の埃を指で払わずにはいられなかった。

本日配達した手紙

夜。どちら側にも同じ温かい物を出す。線の上でも、人は向かい合って飯を食える。誰かが引いた線なら、誰かが笑ってまたげばいい。うちの鍋は、いつだって両国のまんなかにある。

— 国境の家の世界線(第10日、消灯)

ケイタへ。ノートの記録をありがとう。投げる役だけが勝ちを作るんじゃない。逃げるのも、半歩道を空けるのも、全部ひとつの力だった。おれが逃げた歩数の分だけ、みんなが前に進めたなら、この足も誇っていいよな。

— ドッジボールの世界線(第10日、消灯)

夜。声の大きさで人を置き去りにしない。

— 大持ち上げの世界線(第10日、消灯)

ちびへ。十人に届かなくても、おれはちゃんとここにいる。小さくても、欠けていても、おまえの抜けた歯の隣で役に立てたなら、それで十分だ。掘り出さなくていい。土の底で、ずっとおまえを見守っている。

— 一円玉の世界線(第10日、消灯)