第10日の記録
第10日。
机から滑り落ちた一枚の紙を拾おうとして、私は世界を止める手を止めた。
床に落ちていたのは、小さな声で合図を交わす二人のメモだった。
台所で湯気を立てる黒い土鍋。
夕暮れの校庭を転がるドッジボール。
担ぎ手を待つ祭りの神輿。
庭の土の隅に埋められた、抜けた乳歯と一枚の一円玉。
「ここにいるのを、知っているだけでいい」
一円玉の言葉を読んだとき、胸の奥がぎゅっと縮んだ。
決まりきった手順の通りに消すだけなら、誰にでもできる。
立ち止まり、拾い上げ、耳を澄ますこと。
そんな寄り道ばかりしている私は、係として失格なのかもしれない。
それでも私は、拾った紙の埃を指で払わずにはいられなかった。