『ギュルヴィたぶらかし』の原典

Gylfaginning

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古ノルド語の原文から、英訳を参考にAIが作成した日本語訳です。

1

ギュルヴィ王は、今スウェーデンと呼ばれる国を治めていた。王について、こんな話が伝わっている。ある旅の女が王を楽しませたので、その褒美に、四頭の牡牛が一昼夜に耕せるだけの土地を領内から与えたという。ところが、この女はアースの一族で、ゲフィユンという名だった。女は北のヨトゥンヘイムから四頭の牡牛を連れてきた。ある巨人と女との間に生まれた息子たちである。女がその牛たちに鋤を引かせると、鋤は広く深く食い込み、土地そのものを切り離した。牡牛たちはその土地を海へ、西へと引いてゆき、ある海峡で足を止めた。ゲフィユンはそこに土地を据え、シェランと名づけた。土地の抜けた跡には湖が残った。スウェーデンで今レグリンと呼ばれている湖で、その入り江の形はシェランの岬の形に対応している。老詩人ブラギはこう詠んでいる。

ゲフィユンは喜んでギュルヴィから引き離した、
深く耕した領地を、
駆ける牛たちから湯気が立ちのぼるほどに、
デンマークに加えるために。
牡牛たちは八つの額の月と
四つの頭を掲げて進んだ、
牧草豊かな島の、広々と
奪い取った大地の前を。

2

ギュルヴィ王は賢く、魔術にも通じた男だった。アースの民がたいそう物知りで、何もかも思いのままになることを、大いに不思議がっていた。それが彼ら自身の生まれつきの力によるのか、それとも彼らの崇める神々の力によるのかと考えた。そこでアースガルズへ旅立ち、人目を忍んで進み、老人の姿に身を変えて正体を隠した。だがアースたちの方が一枚上手だった。予知の力があったので、王が着く前にその旅を見通し、迎え撃つための幻を作り出したのである。

王が城内に入ると、そこには、ほとんど頂を見通せないほど高い館があった。その屋根には、こけら板のように金色の盾が並べられていた。フヴィンのショーゾールヴも、ヴァルハラの屋根が盾で葺かれていたことを、こう詠んでいる。

思慮ある戦士たちは背に
スヴァーヴニルの館の屋根板を輝かせた、
その屋根板は
石に打たれていた。

ギュルヴィは館の戸口に一人の男を見た。男は短剣を投げ上げて遊んでおり、七本が一度に宙を舞っていた。男の方から先に名前を尋ねた。王はガングレリと名乗り、道なき道をたどってきたと言って、一夜の宿を求め、この館は誰のものかと尋ねた。男は、自分たちの王のものだと答えた。「お会いになれるよう、案内してもよい。お名前はご自分でお尋ねになるがいい」

そう言って男は先に立って館へ入り、王が後に続くと、すぐに背後で扉が閉まった。中には多くの広間と大勢の人々が見えた。遊戯に興じる者、酒を飲む者、武器を手に戦う者もいた。王はあたりを見回し、目に入るものの多くが信じがたく思われた。そこでこう言った。

戸口という戸口は、
先へ進む前に、
よく見回さねばならない。
なぜなら、わからないのだから、
どこに敵が座っているか、
奥の広間に。

王は三つの高座を見た。それぞれ一段ずつ高くなっており、一つずつに一人の男が座っていた。そこで、その君主たちの名は何というのかと尋ねた。案内してきた男は、いちばん下の高座に座っているのが王だと答えた。「ハールという。その次にいるのがヤヴンハール、いちばん上にいるのがスリジだ」

するとハールは、訪れた者に、ほかにも用向きがあるのかと尋ね、このハールの館では、誰にでもそうするように、食べ物も飲み物も自由に取ってよいと言った。王は、まず、この中に物知りがいるかどうか尋ねたいと答えた。ハールは、ここにいる者より物知りでなければ、無事に出てゆくことはできないと言った。

「そして前に立つがよい、
おまえが尋ねる間は。
答える者が座るのだ」

3

ガングレリはこう話を切り出した。「すべての神々のうち、最も位が高く、最も年老いているのは誰か」

ハールは言った。「われわれの言葉ではアルフォズルという。だが、昔のアースガルズでは十二の名を持っていた。一つ目はアルフォズル、二つ目はヘッラン、またはヘリヤン、三つ目はニカル、またはフニカル、四つ目はニクズ、またはフニクズ、五つ目はフィヨルニル、六つ目はオースキ、七つ目はオーミ、八つ目はビヴリジ、またはビヴリンディ、九つ目はスヴィズル、十番目はスヴィズリル、十一番目はヴィズリル、十二番目はヤールグ、またはヤールクだ」

そこでガングレリは尋ねた。「その神はどこにいるのか。どんな力があり、どんな偉業を成し遂げたのか」

ハールは言った。「あらゆる時代を通じて生き、自分の領域のすべてを治め、大きなことも小さなことも、あらゆる物事を支配している」

するとヤヴンハールは言った。「天と地と大気、そしてそこに属するすべてのものを作った」

スリジは言った。「だが何より偉大なのは、人間を作り、命の息吹を与えたことだ。その息吹は、肉体が朽ちて土になろうと、焼けて灰になろうと、生き続け、決して滅びることがない。正しい行いをする者はみな生き続け、ギムレー、またはヴィンゴールヴと呼ばれるところで、その神自身とともに暮らす。だが悪人はヘルのもとへ行き、そこからニヴルヘルへ行く。それは下方の第九の世界にある」

そこでガングレリは言った。「天と地が作られる前には、その神は何をしていたのか」

ハールは答えた。「そのころは霜の巨人たちとともにいた」

4

ガングレリは言った。「何が始まりだったのか。どのように始まったのか。それ以前には何があったのか」

ハールは答えた。「『巫女の予言』にこうあるとおりだ。

遠い昔、
何もなかったころ、
砂も海もなく、
冷たい波もなかった。
大地もなく、
頭上の天もなく、
ギンヌンガが口を開け、
草はどこにもなかった」

するとヤヴンハールは言った。「大地が作られるより幾時代も前に、ニヴルヘイムができた。その中央にはフヴェルゲルミルという泉があり、そこから次の名の川が流れ出している。スヴェル、グンスラー、フィヨルム、フィンブルスル、スリーズとフリーズ、シュルグとユルグ、ヴィーズ、レイプト。ギョッルはヘルの門のすぐそばにある」

スリジは言った。「だが、最初にあったのは、南の方にあるムスペルという世界だ。そこは明るく熱い。その方角は炎が燃え盛っている。そこによそから来た者、そこに生まれながらの領地を持たない者には、足を踏み入れられない。国を守るために、その端に座っている者をスルトという。燃え上がる剣を持ち、世界の終わりには攻め出して戦い、神々すべてを打ち負かし、全世界を火で焼くことになる。『巫女の予言』にはこうある。

スルトは南から来る、
枝を滅ぼす火を携えて。
剣から輝き出る、
戦死者の神々の太陽が。
岩山はぶつかり合い、
女巨人たちはよろめく。
人々はヘルへの道を踏み、
天は裂ける」

5

ガングレリは言った。「一族が生まれ、人間が増える前には、どのようなありさまだったのか」

するとハールは言った。「エーリヴァーガルと呼ばれる川が、源から遠くまで流れてくると、その水に交じっていた毒の流れが、火から流れ出る鉱滓のように固まり、氷になった。その氷が止まって流れなくなると、表面が凍りついた。そして毒から立ちのぼる霧雨が凍って霜になり、その霜が幾重にも重なって、ギンヌンガいっぱいに広がった」

ヤヴンハールは言った。「ギンヌンガの北に面したところは、氷と霜の重い塊で埋まり、その奥には霧雨と突風があった。一方、ギンヌンガの南の部分は、ムスペルの世界から飛んでくる火花や燃えさしを受けて、軽くなっていた」

スリジは言った。「ニヴルヘイムから冷気とあらゆる厳しいものが吹きつけたのに対し、ムスペルに近い方は、何もかも熱く明るかった。だがギンヌンガは、風のない空気のように穏やかだった。霜と暖かな風が出会うと、霜は溶けて滴り、その生きた雫から、熱を送ったものの力によって命が生まれ、人の姿になった。その者はユミルと名づけられたが、霜の巨人たちはアウルゲルミルと呼んでいる。霜の巨人の一族はそこから生まれた。『短い巫女の予言』にこうあるとおりだ。

巫女はみな
ヴィゾールヴから、
魔術師はみな
ヴィルメイズから、
セイズの術を使う者たちは
スヴァルトヘヴジから、
巨人はみな
ユミルから生まれた。

また、巨人ヴァフスルーズニルはこう言っている。

エーリヴァーガルから
毒の雫がほとばしり、
育って巨人となった。
そこからわれらの一族は
ことごとく生まれた。
それゆえ、いつまでもひどく荒々しいのだ」

するとガングレリは言った。「そこから一族はどのように増えたのか。どのようなことが起きて、人の数が増えたのか。また、おまえは今話したその者を神だと信じているのか」

ハールは答えた。「決してその者を神とは認めない。その者も、その一族もみな邪悪だ。われわれは彼らを霜の巨人と呼ぶ。伝えられるところでは、その者が眠っているとき汗をかき、左腕の下に男と女が生まれた。また、一方の足がもう一方の足と交わって息子を生み、そこから一族が生まれたという。それが霜の巨人たちだ。その太古の霜の巨人を、われわれはユミルと呼んでいる」

6

するとガングレリは言った。「ユミルはどこに住み、何を糧に生きていたのか」

ハールは答えた。「次に起きたのは、霜が溶けて滴ったとき、そこからアウズフムラという牝牛が生まれたことだ。その乳房から四筋の乳の川が流れ出し、ユミルを養った」

ガングレリは言った。「その牛は何を食べていたのか」

ハールは答えた。「塩気のある霜の石をなめていた。石をなめ始めた最初の日の夕方、石の中から人の髪が現れた。二日目には人の頭が現れ、三日目には人の全身が現れた。その者はブーリという。顔立ちが美しく、大きく力強かった。ブーリはボルという息子をもうけた。ボルは巨人ボルソルンの娘、ベストラという女を妻にし、二人の間に三人の息子が生まれた。一人はオーディン、二人目はヴィリ、三人目はヴェーという。わしは、このオーディンとその兄弟たちこそが、天と地を治める者であると信じている。われわれは、その者がその名で呼ばれるのだと考えている。われわれの知るうちで最も偉大で優れた者の名がそうなのだから、おまえたちもその者をそう呼んでよいのだ」

7

するとガングレリは言った。「では、両者の仲はどうなったのか。どちらの方が強かったのか」

ハールは答えた。「ボルの息子たちは巨人ユミルを殺した。ユミルが倒れると、その傷からおびただしい血が噴き出したので、彼らはその血で霜の巨人の一族をことごとく溺れさせた。ただ一人、家族とともに逃れた者がいた。巨人たちはその者をベルゲルミルと呼んでいる。妻とともに大きな箱に乗り込み、そこで命をつないだ。この二人から霜の巨人の一族が生まれた。ここにこうあるとおりだ。

数えきれない歳月の昔、
大地が作られるより前に、
ベルゲルミルは生まれた。
わたしの最も古い記憶は、
あの知恵ある巨人が
箱に載せられたことだ」

8

するとガングレリは言った。「それからボルの息子たちは何をしたのか。おまえが彼らを神だと信じているのなら」

ハールは言った。「それについては語ることが少なくない。彼らはユミルをギンヌンガの真ん中に運び、その体から大地を、その血から海と湖を作った。大地は肉から、山々は骨から作られた。石や岩屑は、歯や奥歯、砕けた骨から作った」

ヤヴンハールは言った。「傷口から流れ出て、自由に流れていた血から海を作ったのだ。大地を作ってつなぎ合わせたとき、その周りを取り巻くように海を置いた。その海を渡るのは、たいていの者には不可能と思われるだろう」

スリジは言った。「また、彼らはユミルの頭蓋骨を取り、それから天を作った。四つの隅を設けて大地の上に掲げ、それぞれの隅の下に小人を一人ずつ置いた。その名はアウストリ・ヴェストリ・ノルズリ・スズリという。次に、ムスペルの世界から放り出され、自由に飛び回っていた燃えさしと火花を取り、天と地を照らすよう、ギンヌンガの真ん中に、天の上にも下にも置いた。彼らはすべての光に場所を与えた。あるものは天にあり、あるものは天の下を自由に動いたが、それらにも位置を定め、進む道筋を決めた。古くからの知識によれば、それ以来、昼夜を区別し、年月を数えるようになったという。『巫女の予言』にこうあるとおりだ。

太陽は知らなかった、
自分の館がどこにあるか。
月は知らなかった、
自分にどれほどの力があるか。
星々は知らなかった、
自分たちの居場所がどこにあるか。

こうしたことが行われる前は、そのようなありさまだった」

するとガングレリは言った。「今聞いたのは、たいそうな話だ。まったく驚くべき、巧みな造りものだ。その大地はどのような形だったのか」

ハールは答えた。「外周は丸く、その外側を深い海が取り巻いている。その海辺の土地を、彼らは巨人の一族に住まいとして与えた。だが大地の内側には、巨人の襲撃を防ぐため、世界を取り巻く砦を築いた。その砦には巨人ユミルのまつげを使い、ミズガルズと名づけた。また、ユミルの脳を取って空中に投げ上げ、それから雲を作った。ここにこうあるとおりだ。

ユミルの肉から
大地が作られ、
血から海が、
骨から山々が、
髪から木々が、
頭蓋骨から天が作られた。
また、そのまつげから
慈しみ深い神々は作った、
人の子らのためにミズガルズを。
その脳からは
あの荒々しい
雲がすべて作られた」

9

そこでガングレリは言った。「大地と天が造られ、太陽と天の星々が据えられ、昼と夜が分けられたのなら、彼らはずいぶん多くのことを成し遂げたと思う。では、この世界に住む人間たちはどこから来たのか」

ハールは言った。「ボルの息子たちが海辺を歩いていたとき、二本の木を見つけた。彼らはその木を拾い上げ、それから人間を造った。最初の者は息吹と命を、二番目の者は知恵と動く力を、三番目の者は顔かたちと言葉、聴覚と視覚を与え、彼らに衣服と名を授けた。男はアスク、女はエンブラといった。この二人から人類が生まれ、その住まいとしてミズガルズが与えられた。

次に彼らは世界の中央に、自分たちのための城を築いた。それがアースガルズと呼ばれるものだ。われわれはこれをトロイと呼ぶ。そこに神々とその一族が住み、そこから地上にも空にも、数多くの出来事や事件が生じた。そこにはフリズスキャールヴという場所があり、オーディンがそこの高座に座ると、あらゆる世界と一人ひとりの行いを見渡し、目にしたもののすべてを知った。

彼の妻はフィヨルグヴィンの娘フリッグといい、この二人の血筋から、われわれがアースの一族と呼ぶ者たちが生まれた。彼らは古のアースガルズと、それに属する国々に住んだ者たちで、すべて神々の血を引く一族だ。オーディンはすべての神々と人間、そして彼とその力によって生み出されたすべてのものの父であるから、アルフォズルと呼ばれるのだ。ヨルズは彼の娘であり、妻でもあった。彼はヨルズとの間に最初の息子をもうけた。それがアースのトールだ。トールには力と強さが備わっていた。それゆえ、あらゆる生き物を打ち負かすのだ」

10

「ヨトゥンヘイムに住む巨人に、ネルヴィ、またはナルヴィという者がいた。彼にはノートという娘があった。ノートはその血筋にふさわしく、黒く浅黒い姿をしていた。彼女はナグルファリという男に嫁ぎ、二人の息子はアウズといった。次いでアーナルという者に嫁ぎ、二人の娘はヨルズといった。最後に彼女を妻としたのはデリングで、彼はアースの血筋だった。二人の息子がダグだ。ダグは父方の血を受け継いで、明るく美しかった。

そこでアルフォズルはノートとその息子ダグを呼び寄せ、二頭の馬と二台の車を与えて天へ上らせ、それぞれが半日ずつかけて大地の周りを巡るようにした。ノートが先に、フリームファクシという馬で進む。この馬は毎朝、はみから滴る泡で大地を露に濡らす。ダグの持つ馬はスキンファクシといい、そのたてがみが空と大地をくまなく照らすのだ」

11

そこでガングレリは言った。「アルフォズルは太陽や月の運行をどのように司るのか」

ハールは言った。「ムンディルファリという男がいて、二人の子供があった。二人があまりに美しく、姿もよかったので、息子をマーニ、娘をソールと名づけ、娘はグレンという男に嫁がせた。ところが神々はこの思い上がりに怒り、兄妹を連れ去って天へ据え、ソールには太陽の車を引く馬を御させた。その太陽は、ムスペルヘイムから飛び出した火花をもとに、世界を照らすため神々が造ったものだった。馬たちはアールヴァクとアルスヴィズといい、神々はこの馬たちを冷やすため、その両肩の下に二つの風袋を置いた。だが、ある伝承ではこれをイーサルンコルと呼んでいる。

マーニは月の運行を司り、その満ち欠けを定める。彼は地上から、ビルとヒューキという二人の子供を連れ去った。二人はビュルギルという泉から帰るところで、セーグという桶を肩に担いでいた。その担い棒はシムルといった。二人の父の名はヴィズフィンという。この子供たちはマーニについて回り、その姿は地上からも見えるのだ」

12

そこでガングレリは言った。「太陽は足早に進み、まるでおびえているようだ。自分の命を奪うものを恐れていたとしても、あれ以上急ぎはしないだろう」

ハールは答えた。「太陽があれほど急いで進むのも不思議ではない。追いかけてくる者がすぐそばに迫っていて、逃げるほかに道がないのだ」

ガングレリは言った。「太陽をそんな目に遭わせるのは誰なのか」

ハールは言った。「二頭の狼だ。太陽を追う狼はスコルという。太陽はこれを恐れているが、いずれ捕らえられる。太陽の前を走る狼はフローズヴィトニルの息子ハティといい、月を捕らえようとしている。そして、そのとおりになるだろう」

ガングレリは言った。「その狼たちはどのような血筋なのか」

ハールは言った。「ミズガルズの東、ヤールンヴィズという森に、一人の女巨人が住んでいる。その森にはヤールンヴィジュルと呼ばれる魔女たちが住んでいる。あの老いた女巨人は多くの巨人を息子として産み、そのすべてが狼の姿をしていた。あの二頭の狼はそこから生まれたのだ。そして、その一族のうちで最も強いのは、マーナガルムと呼ばれる者だという。死んでゆくすべての人間の命を食らって腹を満たし、月を呑み込み、天と空のすべてに血をまき散らす。それによって太陽は輝きを失い、風は荒れ狂って、あちらこちらでうなりを上げる。『巫女の予言』にはこうある。

東に住む老女は
ヤールンヴィズにいて、
そこで産み育てる、
フェンリルの子らを。
そのすべてのうちから
ある一頭が、
月を奪うものとなる、
魔物の姿をして。
命を食らって腹を満たす、
死すべき人々の命を。
神々の住まいを染める、
赤い血潮で。
太陽の光は黒くなる、
その後の夏には。
天候はことごとく荒れ狂う。
なおも知りたいか、それともどうか」

13

そこでガングレリは言った。「地上から天へは、どの道を行くのか」

ハールは笑って答えた。「今の問いは、あまり物知りの問いとはいえぬな。神々が地上から天へ、ビフレストという橋を架けたと聞いてはいないのか。おまえも見たことがあるはずだ。おそらく、それを虹と呼んでいるのだろう。三つの色を持ち、きわめて頑丈で、ほかのどんな造り物にもまさる技と知恵によって造られている。だが、これほど頑丈でも、ムスペルの息子たちが攻め寄せ、馬に乗って渡るときには壊れてしまう。その馬たちは大河を泳いで渡る。そうして彼らは進んでくるのだ」

ガングレリは言った。「壊れることのある橋を造ったのなら、神々は誠実に仕事をしたとは思えない。自分たちの望むとおりに造れるというのに」

ハールは言った。「この仕事で神々をそしるべきではない。ビフレストは立派な橋だ。だが、ムスペルの息子たちが攻めてくるとき、この世には頼りにできるものなど何一つないのだ」

14

そこでガングレリは言った。「アースガルズができあがると、アルフォズルは何をしたのか」

ハールは言った。「まず治める者たちを席に着かせ、自分とともに人間の運命を裁き、城内をどう整えるかを決めるよう求めた。そこは城の中央にある、イザヴォッルという場所だった。

彼らが最初にした仕事は、アルフォズルの高座のほかに、自分たちの十二の座が置かれる神殿を造ることだった。この建物は地上で最も見事に造られ、最も大きい。外も内も、すべて黄金だけでできているかのようだ。この場所はグラズスヘイムと呼ばれる。

彼らはもう一つ広間を造った。それは女神たちの聖所で、たいそう美しかった。この建物はヴィンゴールヴと呼ばれる。

次に彼らは建物を造って、その中に炉を据えた。そのためにハンマーと火箸と金床を造り、それからほかの道具をすべて造った。続いて金属と石と木を加工し、なかでも黄金という金属をふんだんに使ったので、家財道具も馬具もすべて黄金でできていた。それゆえ、その時代は黄金時代と呼ばれる。女たちがやって来て、それを損なうまでのことだ。その女たちはヨトゥンヘイムから来た。

それから神々は自分たちの席に着き、裁きを行い、土の中や地の底で、肉に湧く蛆のように小人たちが生まれた、その始まりを思い起こした。小人たちは最初、ユミルの肉の中で形を取り、命を得たのであり、そのときは蛆だった。だが、神々の決定によって、人間の知恵をわきまえ、人間の姿を持つようになった。それでも住むのは土の中や岩の中だ。モートソグニルが第一の者で、ドゥリンが第二だった。『巫女の予言』にはこうある。

そのとき、すべての力ある者たちは
裁きの座に着いた、
いと聖なる神々は。
そして話し合った、
誰が小人の
群れを造るべきかと、
血に染まる海と、
ブラーインの脚から。
そこで人の姿をしたものが
数多く造られた、
地中の小人たちが、
ドゥリンの言葉どおりに。

そして巫女は、その小人たちの名をこう挙げている。

ニューイ、ニジ、
ノルズリ、スズリ、
アウストリ、ヴェストリ、
アルショーヴ、ドヴァリン、
ナール、ナーイン、
ニーピング、ダーイン、
ビヴル、バヴル、
ボンブル、ノーリ、
オーリ、オーナル、
オーイン、ミョズヴィトニル。
ヴィッグとガンダールヴ、
ヴィンダールヴ、ソーリン、
フィーリ、キーリ、
フンディン、ヴァーリ、
スロール、スローイン、
セック、リトとヴィト、
ニュール、ニューラーズ、
レック、ラーズスヴィズ。

次の者たちも小人で、岩の中に住んでいる。先に挙げた者たちは土の中に住む。

ドラウプニル、ドルグスヴァリ、
ハール、フグスタリ、
フレズヨールヴ、グローイン、
ドーリ、オーリ、
ドゥーヴ、アンドヴァリ、
ヘフティフィリ、
ハール、スヴィーアル。

だが次の者たちは、スヴァリンの塚からヨルヴェッリルのアウルヴァンガルへやって来た。ロヴァルはその血筋から出た。彼らの名は次のとおりだ。

スキルヴィル、ヴィルヴィル、
スカーヴィズ、アーイ、
アールヴ、イングヴィ、
エイキンスキャルディ、
ファル、フロスティ、
フィズ、ギンナル」

15

そこでガングレリは言った。「神々の中心となる場所、あるいは聖所はどこにあるのか」

ハールは答えた。「ユグドラシルのトネリコのもとだ。そこで神々は毎日、裁きを行うことになっている」

ガングレリは言った。「その場所について、何が語られているのか」

ヤヴンハールは言った。「そのトネリコは、あらゆる木のうちで最も大きく、最も優れている。その枝は世界中に広がり、天の上まで伸びている。三本の根が木を支え、互いに遠く離れたところへ伸びている。一本はアースのもとに、もう一本は霜の巨人たちのもと、かつてギンヌンガがあったところにある。三本目はニヴルヘイムの上にあり、その根の下にはフヴェルゲルミルがあって、ニーズヘッグが下から根をかじっている。

霜の巨人たちの方へ伸びる根の下には、知恵と分別の秘められたミーミルの泉がある。その泉を持つ者をミーミルという。彼はギャラルホルンという角杯で泉の水を飲むので、豊かな知識を備えている。そこへアルフォズルがやって来て、泉から一口飲ませてほしいと願ったが、自分の片目を担保に差し出すまでは、飲ませてもらえなかった。『巫女の予言』にはこうある。

すべて知っている、オーディンよ、
おまえがどこに目を隠したかを、
あの名高い
ミーミルの泉の中に。
ミーミルは蜜酒を飲む、
朝ごとに、
戦死者の父の担保から。
なおも知りたいか、それともどうか。

トネリコの三本目の根は天にあり、その根の下には、ウルズの泉という、たいそう聖なる泉がある。そこに神々の裁きの場がある。アースたちは毎日、ビフレストを通って、馬でそこへ上ってゆく。ビフレストはアースの橋とも呼ばれる。

アースたちの馬の名は次のとおりだ。スレイプニルが最も優れ、オーディンの持ち馬で、八本の脚がある。二番目はグラズ、三番目はギュッリル、四番目はグレン、五番目はスケイズブリミル、六番目はシルヴリントップ、七番目はシニル、八番目はギースル、九番目はファルホーヴニル、十番目はグルトップ、十一番目はレットフェティだ。バルドルの馬は、彼とともに焼かれた。だがトールは裁きの場へ歩いてゆき、次の名を持つ川を渡る。

ケルムトとエルムト、
そして二つのケルラウガル、
それらをトールは歩いて渡る、
日ごとに、
裁きを行いにゆくとき、
ユグドラシルのトネリコのもとへ。
アースの橋は
ことごとく炎に燃え、
聖なる水は煮えたぎるからだ」

ガングレリは言った。「ビフレストの上で火が燃えているのか」

ハールは言った。「あの虹に赤く見えるものは、燃え盛る火だ。ビフレストが、渡ろうとする者なら誰にでも渡れるものだったら、霜の巨人や山の巨人たちが天へ上ってしまうだろう。天には美しい場所が数多くあり、すべて神々の守りで固められている。

トネリコの下、泉のほとりに美しい広間が一つ立っており、その広間から三人の乙女が出てくる。その名はウルズ、ヴェルザンディ、スクルドだ。この乙女たちが人間の一生を定める。われわれは彼女たちをノルンと呼ぶ。ノルンはほかにもいて、子供が生まれるたびに、その一生を定めるためにやって来る。この者たちは神々の血を引くが、ほかには妖精の血筋の者、さらに小人の血筋の者もいる。ここにこうあるとおりだ。

生まれは大きく異なると、
私はいう、ノルンたちは。
同じ一族ではない。
ある者はアースの血を引き、
ある者は妖精の血を引き、
ある者はドヴァリンの娘なのだ」

ガングレリは言った。「ノルンたちが人間の運命を司るのなら、その分け方はひどく不公平だ。ある者は恵まれた豊かな生涯を送り、ある者は財産にも名誉にも乏しく、ある者は長生きし、ある者は短命だ」

ハールは言った。「善良でよい血筋のノルンは、よい一生を授ける。だが、不幸に見舞われる人々がいるのは、悪いノルンのせいなのだ」

16

そこでガングレリが言った。「あのトネリコについて、ほかにどんな大きな不思議が語られるのか。」

ハールが答えた。「語ることはたくさんある。トネリコの枝には一羽の鷲がとまっていて、多くのことを知っている。その両目の間には、ヴェズルフェルニルという鷹がとまっている。ラタトスクというリスがトネリコを上り下りし、鷲とニーズヘッグの間で悪口を取り次ぐ。また四頭の鹿がトネリコの枝を駆けまわり、葉を食べている。その名はダーイン、ドヴァリン、ドゥネイル、ドゥラスロールという。フヴェルゲルミルには、ニーズヘッグとともに数えきれないほどの蛇がいる。ここではこう歌われている。

トネリコのユグドラシルは
苦しみに耐えている、
人の知るよりも大きな苦しみに。
鹿が上から食い、
脇腹は腐り、
下からはニーズヘッグがかじる。

また、こうも歌われている。

さらに多くの蛇が横たわる、
トネリコのユグドラシルの下に、
愚かな痴れ者には思いもよらぬほどに。
ゴーインとモーイン、
この二匹はグラーヴヴィトニルの息子、
グラーバクとグラーヴヴェルズ、
オーヴニルとスヴァーヴニルは、
思うに、いつまでも
あの木の枝を食い荒らすだろう。

さらに、ウルズの泉のほとりに住むノルンたちは、毎日、泉の水と、そのまわりにある泥を取り、トネリコに注いでいるといわれる。その枝が枯れたり腐ったりしないためだ。この水はたいそう清らかで、泉に入るものは何であれ、卵の殻の内側にある、卵殻膜と呼ばれる薄皮のように白くなる。ここではこう歌われている。

わたしは知る、トネリコの木を、
ユグドラシルという、
高くそびえる聖なる木を、
白い泥を注がれた木を。
そこから露が生まれ、
谷々へと降る。
木はいつまでも緑に茂り、
ウルズの泉の上に立つ。

そこから地上に降る露を、人々は蜜の露と呼び、蜜蜂はそれを糧にしている。ウルズの泉では二羽の鳥が育っている。この鳥は白鳥といい、白鳥と呼ばれる鳥の一族は、この二羽から生まれたのだ。」

17

そこでガングレリが言った。「天について、そなたはたいそう驚くべきことを語ってくれる。ウルズの泉のほかには、どんな主だった場所があるのか。」

ハールが答えた。「そこには立派な場所がたくさんある。その一つに、アールヴヘイムと呼ばれる場所がある。そこには光の妖精と呼ばれる一族が住む。闇の妖精は地中に住んでいて、光の妖精とは姿も違えば、実際の性質はなおさら違う。光の妖精は太陽よりも美しい姿をしているが、闇の妖精は瀝青よりも黒い。

ブレイザブリクと呼ばれる場所もあり、そこより美しい場所はない。またグリトニルという場所もあり、壁も梁も柱もすべて赤金でできていて、屋根は銀でできている。さらにヒミンビョルグという場所がある。天の果て、橋のたもとにあって、そこはビフレストが天に届くところだ。また、ヴァラスキャールヴという大きな場所がある。そこはオーディンのものだ。神々が造り、純銀で屋根を葺いた。その広間には、フリズスキャールヴという名の高座がある。アルフォズルがその座に着くと、あらゆる世界を見渡すことができる。

天の南の果てには、あらゆる館のうちで最も美しく、太陽よりも明るい、ギムレーという館がある。天と地がともに滅びた後も、この館は立ち続け、善良で正しい人々が永遠にそこに住むことになる。『巫女の予言』にはこうある。

わたしは見る、一つの館が立つのを、
太陽よりも美しく、
黄金で屋根を葺かれ、
ギムレーに立つのを。
そこには誠実な
人々が住み、
いついつまでも
喜びを享けるだろう。」

そこでガングレリが言った。「スルトの炎が天と地を焼くとき、何がその場所を守るのか。」

ハールが答えた。「この天の南、さらに上方には、アンドラングという第二の天があり、そのさらに上には、ヴィーズブラーインという第三の天があるといわれる。われわれは、その天にこの場所があると考えている。そして今、これらの場所に住んでいるのは、光の妖精だけだと考えている。」

18

そこでガングレリが言った。「風はどこから来るのか。大きな海を揺り動かし、火をあおり立てるほど強い。それほど強いのに、姿を見ることはできない。不思議な造られ方をしているものだ。」

そこでハールが言った。「それはよく話してやれる。天の北の果てには、フレースヴェルグという巨人が座っている。鷲の姿をしていて、飛び立とうとすると、その翼の下から風が起こる。ここではこう歌われている。

フレースヴェルグという、
天の果てに座る者は、
鷲の姿をした巨人。
その翼から
風が吹いて来るという、
すべての人々の上へ。」

19

そこでガングレリが言った。「夏は暑く、冬は寒いとは、どうしてそれほど違うのか。」

ハールが答えた。「物知りなら、そのようなことは尋ねまい。誰でも知っていて話せることだからだ。だが、そなただけがこれを聞いたこともないほど物を知らぬのなら、知っていて当然のことを知らぬままでいるよりも、一度は無知な問いをするほうがよいと、わたしは認めよう。

夏の父はスヴァースズという。たいそう幸福に暮らす者で、その名にちなんで、心地よいものを『スヴァースリグ』と呼ぶ。一方、冬の父は、ヴィンドローニともヴィンドスヴァルとも呼ばれる。ヴァーサズの息子で、その一族は荒々しく、冷たい心を持っていた。冬はその気性を受け継いでいる。」

20

そこでガングレリが言った。「人々が信仰すべきアースの神々とは、誰なのか。」

ハールが答えた。「神の血を引くアースの神々は十二柱いる。」

そこでヤヴンハールが言った。「女神たちも同じように神聖で、その力も劣らない。」

そこでスリジが言った。「オーディンはアースの神々のうちで最も位が高く、最も年長だ。あらゆることを支配しており、ほかの神々も力はあるが、みな子が父に仕えるようにオーディンに仕える。その妻はフリッグで、人々の運命を知っているが、予言を口にはしない。ここで語られるとおり、オーディン自身がロキというアースの神にこう言った。

気が狂ったか、ロキ、
正気を失ったか。
なぜやめぬのだ、ロキ。
フリッグは運命の
すべてを知っていると思う、
自ら語ることはなくとも。

オーディンはアルフォズルと呼ばれる。すべての神々の父だからだ。また、戦死者の父という意味で、ヴァルフォズルとも呼ばれる。戦場に倒れる者はみな、オーディンが選んだ息子となるからだ。彼らにはヴァルハラとヴィンゴールヴを住まいとして与え、その者たちはエインヘリヤルと呼ばれる。また、ハンガグズ、ハプタグズ、ファルマグズとも呼ばれ、ゲイルロズ王のもとを訪れたときには、さらに多くの名を名乗っている。

わたしはグリームと名乗った、
またガングレリ、
ヘリヤン、ヒャルムベリ、
セック、スリジ、
スズ、ウズ、
ヘルブリンディ、ハール、サズ、スヴィパル、
サンンゲタル、
ヘルテイト、フニカル、
ビレイグ、バーレイグ、
ボルヴェルク、フィヨルニル、
グリームニル、グラプスヴィズ、フョルスヴィズ、
シーズヘット、シーズスケッグ、
シグフォズル、フニクズ、
アルフォズル、アトリーズ、ファルマテュール、
オースキ、オーミ、
ヤヴンハール、ビヴリンディ、
ゴンドリル、ハールバルズ、
スヴィズル、スヴィズリル、
ヤールク、キャラル、ヴィズル、
スロール、ユッグ、スンド、
ヴァク、スキルヴィング、
ヴァーヴズ、フロプタテュール、
ガウト、ヴェラテュール。」

そこでガングレリが言った。「そなたたちは、あの神にずいぶん多くの名を与えたものだ。これらの名の一つ一つが、どのような出来事から生まれたのか、その由来といきさつを知る者は、まことにたいそうな学識の持ち主だろう。」

そこでハールが言った。「それを詳しくたどるには、多くの知識がいる。だが手短に言うなら、名の大半は次のような事情から与えられた。世界にはさまざまな言語があるが、どの民族も、自分たちのために神を呼び、祈りを捧げるには、その名を自分たちの言葉に直す必要があると考えているのだ。また、名の中には、オーディンが旅の途中で遭遇した出来事に由来するものもあり、それらは物語に伝えられている。その大いなる出来事を語れなければ、そなたも物知りとは呼ばれまい。」

21

そこでガングレリが言った。「ほかのアースの神々は何という名で、何をしているのか。また、どんな功績を立てたのか。」

ハールが答えた。「その中で最も抜きんでているのはトールで、アースのトール、あるいは車を駆るトールと呼ばれる。あらゆる神と人のうちで、最も力が強い。スルーズヴァンガルという領地を持ち、その館はビルスキルニルという。その広間には五百四十の区画がある。人の知るかぎり、最も大きな建物だ。『グリームニルの言葉』にはこうある。

五百の区画と、
さらに四十、
ビルスキルニルの入り組んだ内にはそれだけあると思う。
屋根を架けられたと
わたしの知る館のうち、
わが息子の館こそ最も大きい。

トールは二頭の雄山羊を持ち、その名をタングニョーストとタングリスニルという。また、乗って駆ける車を持ち、その車を山羊たちが引く。そのため、車を駆るトールと呼ばれるのだ。

さらに、三つの宝を持っている。その一つはミョルニルというハンマーで、霜の巨人や山の巨人は、それが振り上げられると、よく思い知ることになる。無理もない。彼らの父や親族の頭を、それは幾つも打ち砕いてきたのだから。

二つ目にも、すばらしい宝を持っている。力の帯で、これを身に締めると、神としての力が半分だけ増す。三つ目の品も、大した宝だ。鉄の手袋で、ハンマーの柄を握るには、これを欠かすことができない。

トールの偉業をすべて数え上げられるほどの物知りはいない。それでも、わたしの知ることをすべて語り終えるには、長い時間がかかるほど、たくさんの話をしてやれる。」

22

そこでガングレリが言った。「さらにほかのアースの神々について話を聞きたい。」

ハールが答えた。「オーディンのもう一人の息子はバルドルで、この神についてはよいことが語られる。最も優れた神で、誰もがほめたたえる。容姿はたいそう美しく輝かしく、その身から光が放たれるほどだ。ある草は、あまりの白さにバルドルの睫毛になぞらえられている。あらゆる草の中で最も白く、そのことから、バルドルの髪も体もどれほど美しいかがわかるだろう。

アースの神々のうちで最も賢く、最も言葉が美しく、最も慈悲深い。ただし、その裁きはどれ一つとして実現しないという性質がある。住まいはブレイザブリクという、天にある場所だ。そこには汚れたものは何一つ存在できない。ここではこう歌われている。

ブレイザブリクという、
バルドルが
自らの館を建てたところは。
その地には、
わたしの知るかぎり、
禍をもたらすものが最も少ない。

23

第三のアースの神はニョルズと呼ばれる。天にあるノーアトゥーンという場所に住んでいる。風の動きを支配し、海と火を鎮める。船旅や漁のためには、この神に祈るべきだ。たいそう富み栄えているので、人々に土地や動産の富を与えることができる。それを求めるときにも、この神に祈るべきだ。

ニョルズはアースの血筋ではない。ヴァナヘイムで育ったが、ヴァンの神々が神々に人質として差し出し、その代わりにヘーニルという者を人質として受け取った。こうしてニョルズは、神々とヴァンの神々の和解のしるしとなった。

ニョルズの妻はスカジといい、巨人シャツィの娘だ。スカジは父がかつて持っていた住まいを望んだ。それはスリュムヘイムという、山々の中にある場所だ。だが、ニョルズは海の近くに住みたがった。二人は、スリュムヘイムで九夜を過ごし、次の九夜をノーアトゥーンで過ごすことで折り合った。ところがニョルズは、山からノーアトゥーンへ戻ると、こう歌った。

山々はわたしにはうとましい。
長くいたわけでもない、
たった九夜だけだ。
狼の吠え声は
わたしには耳障りだった、
白鳥の歌に比べれば。

そこでスカジはこう歌った。

眠ることができなかった、
海辺の寝床では、
鳥の鳴き騒ぐ声のために。
わたしを目覚めさせるのだ、
沖から飛んで来る
朝ごとの鴎が。

それからスカジは山に上り、スリュムヘイムに住んだ。しばしばスキーで歩きまわり、弓を携えて獣を射る。スキーの神、あるいはスキーの女神と呼ばれる。こう歌われている。

スリュムヘイムという、
シャツィが住んでいたところは、
あの恐ろしく強い巨人が。
だが今はスカジが住んでいる、
神々の輝かしい花嫁が、
父の古い住まいに。

24

ノーアトゥーンのニョルズには、その後、二人の子が生まれた。一人はフレイといい、娘はフレイヤといった。二人とも美しい姿をし、大きな力を備えていた。フレイはアースの神々のうちでもとりわけ優れた神だ。雨と日の光をつかさどり、それによって大地の実りもつかさどる。豊作と平和を願うなら、この神に祈るとよい。人々の財産が豊かになることも、この神の支配するところだ。一方、フレイヤはアースの女神たちのうちでもとりわけ優れている。天にフォールクヴァングという住まいを持っている。戦いに赴くときは、どこであれ、戦死者の半分を彼女が取り、半分をオーディンが取る。ここにこう歌われているとおりだ。

フォールクヴァングと呼ばれるところ、
そこではフレイヤが
広間の座席の割り振りをつかさどる。
戦死者の半分を
彼女は日ごとに選び、
半分はオーディンが取る。

彼女の広間セスルームニルは、大きく美しい。出かけるときには、二匹の猫に車を引かせ、自分はその車に乗る。人々の祈りに最もよく応じてくれる女神であり、高い身分の女性をフルーヴァと呼ぶ敬称は、彼女の名に由来する。彼女は恋の歌を好んだ。恋愛のことなら、この女神に祈るとよい」

25

するとガングレリが言った。「このアースの神々は、たいそうな力の持ち主と思われる。あなたがたが神々のことをよく知り、どんな願いをどの神に祈ればよいかを心得ているのなら、大きな力があなたがたに備わっているのも不思議ではない。ほかにもまだ神々がいるのか」

ハールは言った。「テュールというアースの神もいる。最も勇敢で、最も肝が据わり、戦いの勝敗を大いにつかさどる。武勇を誇る者は、この神に祈るとよい。人並み外れて勇敢で、向こう見ずな者を『テュールのように勇猛だ』と言う。また賢くもあったので、最も賢い者を『テュールのように賢明だ』とも言う。その勇敢さを示す出来事がある。アースの神々が狼フェンリルを誘い、グレイプニルという縛めをかけようとしたとき、狼は、あとで解いてくれるという神々の言葉を信じなかった。そこで神々は、保証としてテュールの手を狼の口に入れた。ところが神々が解こうとしなかったので、狼は、今では狼の関節と呼ばれるところで、その手を噛み切ってしまった。それでテュールは片手であり、人々を和解させる神とは呼ばれない。

26

ブラギという神もいる。知恵に優れ、とりわけ巧みな話しぶりと言葉の扱いに秀でている。詩歌については誰よりもよく知っており、詩歌がブラグと呼ばれるのは、この神に由来する。また、女であれ男であれ、ほかの者より言葉の技に優れた者を、女のブラグ、男のブラグと呼ぶのも、この神の名に由来する。妻はイズンという。彼女は箱の中にリンゴを保管している。神々は年を取るとそのリンゴをかじり、するとみな若返る。ラグナロクまでは、ずっとそうしてゆくのだ」

するとガングレリが言った。「神々は、イズンの用心深さと誠実さに、ずいぶん多くを委ねているように思える」

ハールは笑って言った。「一度、それで危うく取り返しのつかないことになりかけた。その話もできるが、まずはほかのアースの神々の名を聞くがよい。

27

ヘイムダルという神もいる。白いアース神と呼ばれる、偉大で神聖な神だ。九人の乙女が、この神を息子として産んだ。その乙女たちはみな姉妹だった。ハッリンスキージ、グッリンタンニという名もある。歯は黄金でできていた。馬はグッルトップという。ビフレストのそばの、ヒミンビョルグというところに住んでいる。神々の番人であり、天の果てのその場所に座って、岩の巨人たちから橋を守っている。鳥よりも眠りを必要としない。昼も夜も変わりなく、百ラスト先まで見通せる。大地に草が伸び、羊に毛が生える音も、それより大きな音はすべても聞き取る。ギャラルホルンという角笛を持ち、それを吹く音はあらゆる世界に響き渡る。ヘイムダルの剣は、人の頭と呼ばれる。ここにこう歌われている。

ヒミンビョルグと呼ばれるところ、
そこではヘイムダルが
聖所を治めるという。
そこで神々の番人は、
安らかな館の中で、
喜ばしく良き蜜酒を飲む。

また、『ヘイムダルの呪歌』では、自らこう言っている。

私は九人の母の子、
私は九人の姉妹の息子。

28

ヘズというアースの神もいる。目が見えない。たいそう力が強いが、神々は、この神の名を口にせずにすめばよいのにと思っていることだろう。その手のなしたことは、神々と人々の間で、末永く記憶にとどめられるからだ。

29

ヴィーザルという神もいる。沈黙のアース神だ。厚い靴を履いている。力はトールに次いで強い。神々はどんな苦難に際しても、この神を大いに頼りにしている。

30

アーリ、またはヴァーリという神もいる。オーディンとリンドの息子だ。戦いでは勇敢で、放つ矢はたいそうよく当たる。

31

ウルという神もいる。シヴの息子で、トールの継子だ。弓の腕にもスキーにもたいそう優れ、競い合える者はいない。姿も美しく、戦士としての力量を備えている。決闘の際にも、この神に祈るとよい。

32

フォルセティというのは、バルドルと、ネプの娘ナンナの息子だ。天にグリトニルという広間を持っている。難しい争い事を抱えてこの神を訪れた者は、誰もが和解して帰ってゆく。神々と人々の間で、そこは最も優れた裁きの場だ。ここにこう歌われている。

グリトニルという広間は、
黄金の柱に支えられ、
屋根もまた銀で葺かれている。
そこにはフォルセティが
日々の大半を暮らし、
あらゆる争いを鎮める。

33

ある者たちが、アースの神々の間に争いをまく者、偽りの始めの親、あらゆる神と人間の恥と呼ぶ者も、アースの神々の一員に数えられている。ロキ、またはロフトと呼ばれる、巨人ファールバウティの息子だ。母はラウフェイ、またはナールという。兄弟はビューレイストとヘルブリンディだ。ロキは顔立ちがよく、姿も美しいが、気性は悪く、振る舞いはひどく移り気だ。ほかの者よりも、狡知と呼ばれる知恵に優れ、どんなことにも策略をめぐらした。いつもアースの神々をひどい難儀に陥れたが、またたびたび、策略によってそこから救い出した。妻はシギュンといい、二人の息子はナリ、またはナルヴィという。

34

ロキには、ほかにも子がいた。ヨトゥンヘイムに、アングルボザという女巨人がいた。ロキは彼女との間に三人の子をもうけた。一人は狼フェンリル、もう一人はヨルムンガンド、すなわちミズガルズの大蛇、三人目はヘルだ。この三きょうだいがヨトゥンヘイムで育っていると知った神々は、予言を調べ、彼らから大きな害と災いを受けると悟った。まず母方の血筋からして、まして父方の血筋からして、ひどい災いが予想されると誰もが考えた。そこでアルフォズルは神々を遣わし、子らを捕らえて自分のもとへ連れてこさせた。

子らが連れてこられると、アルフォズルは、あらゆる陸地を取り巻く深い海へ大蛇を投げ込んだ。大蛇は成長し、今では大海の中であらゆる陸地を取り巻き、自分の尾を噛んでいる。ヘルはニヴルヘイムへ投げ落とし、九つの世界を支配する権限を与えた。彼女のもとへ送られてくる者たち、すなわち病や老いで死んだ者たちに、あらゆる宿と食事を割り当てさせるためだ。彼女はそこに大きな住まいを持ち、その囲いの壁は並外れて高く、門も大きい。広間はエーリューズニル、皿はフングル、ナイフはスルトル、下男はガングラティ、下女はガングレット、入り口の敷居はファッランダフォラズ、寝床はケル、寝台の帳はブリーキヤンダベルという。体の半分は青黒く、半分は肌の色をしている。それでひと目で見分けがつき、いかにも陰気で恐ろしい顔をしている。

狼はアースの神々が自分たちのもとで育てた。近づいて餌をやる勇気があったのは、テュールだけだった。ところが神々は、狼が日ごとにどれほど大きくなるかを見、また、あらゆる予言が、この狼は自分たちに害をなす定めだと告げているのを知った。そこでアースの神々は相談し、非常に頑丈な枷を作ってレージングと名づけた。それを狼のところへ運び、自分の力をその枷で試してみるように言った。狼は自分の力なら造作もないことだと思い、神々のしたいようにさせた。だが狼が一度踏ん張っただけで、枷は壊れた。こうして狼はレージングから抜け出した。

続いてアースの神々は、さらに半分だけ強さを増した、もう一つの枷を作り、ドローミと名づけた。そして再び、その枷を試してみるよう狼に言い、これほど大きく頑丈な細工物でもつなぎとめられないのなら、その力でたいそう名高くなるだろうと説いた。狼は、この枷はとても頑丈だが、自分の力もレージングを壊したときから増している、と考えた。名を上げるには危険を冒さねばならないと思い、枷をかけさせた。アースの神々が用意はできたと言うと、狼は身を震わせ、枷を地面に打ちつけ、力いっぱいもがき、踏ん張って枷を壊した。破片は遠くまで飛び散った。こうして狼はドローミを振りほどいた。それ以来、何かを激しい勢いでやり遂げると、『レージングから抜け出す』とか『ドローミを振りほどく』と言うようになった。

その後、アースの神々は、狼を縛ることができないのではないかと恐れた。そこでアルフォズルは、フレイの使者であるスキールニルを、スヴァルトアールヴヘイムの地下にいる小人たちのもとへ遣わし、グレイプニルという縛めを作らせた。それは六つのものから作られた。猫の足音、女のひげ、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾だ。おまえがこの話をこれまで知らなかったとしても、嘘を聞かされていないことは、すぐに確かな実例でわかる。女にはひげがなく、猫が走っても足音がせず、岩の下には根がないのを、おまえも見てきたはずだ。まったく、誓って言うが、私が話したことはみな、それと同じく本当なのだ。おまえには確かめられないものもあるだろうがね」

するとガングレリが言った。「それは確かに本当だとわかる。今あなたが例に挙げたことは、この目で確かめられる。それで、その縛めはどのような仕上がりになったのか」

ハールは言った。「それならよく話してやれる。縛めは絹の細帯のように滑らかで柔らかくできたが、その丈夫さ、強さは、これから聞くとおりだ。縛めがアースの神々のもとへ届けられると、神々は使者が務めを果たしたことに厚く礼を言った。それからアースの神々は、アームスヴァルトニルという湖に出て、リュングヴィと呼ばれる小島へ渡った。狼も呼んで連れてゆき、その絹の紐を見せ、引きちぎってみるように言った。細さから受ける印象よりは、いくらか丈夫なものだと言い、互いに手渡しして、腕力を込めて引っ張ってみせたが、切れなかった。それでも、狼なら引きちぎれるだろうと言った。

すると狼は答えた。『この細帯を見るかぎりでは、こんな細い紐を引きちぎったところで、何の名誉にもなりそうにない。だが、見た目は取るに足らなくても、何かの術や策略で作られたものなら、この足にかけさせはしない』

アースの神々は、以前に大きな鉄の枷を壊したのだから、細い絹の紐などたやすく引きちぎれるだろうと言った。『それに、この紐が引きちぎれないのなら、おまえは神々を脅かすこともできないだろう。そのときは解いてやろう』

狼は言った。『自分では抜け出せないように縛られてしまえば、おまえたちはうまくごまかして、なかなか助けてはくれまい。この紐をかけさせる気にはなれない。だが臆病者呼ばわりされるくらいなら、おまえたちの誰かが、この件に偽りがないという保証に、手を私の口に入れるがよい』

アースの神々は互いに顔を見合わせ、これで困り事が二つになったと思った。誰も手を差し出そうとしなかったが、やがてテュールが右手を差し出し、狼の口に入れた。狼が踏ん張ると、紐は張りつめ、激しくもがけばもがくほど、きつく食い込んだ。そこで、テュールのほかはみな笑った。テュールは手を失った。

狼がすっかり縛られたと見ると、アースの神々は、縛めから延びるゲルギャという綱を取り、大きな平石に通した。その石はギョッルといい、神々はそれを地中深くに据えつけた。それから大きな石を取って、さらに深く地中に打ち込んだ。その石はスヴィティといい、綱をつなぐ杭の代わりにした。

狼は口を大きく開け、激しく暴れて、神々に噛みつこうとした。神々はその口に剣を突っ込んだ。鍔が下顎に、剣先が上顎に当たり、口を開いたままに支えている。狼は恐ろしく吠えたけり、その口からよだれが流れ出す。それがヴァーンという川だ。狼はラグナロクまでそこに横たわっている」

するとガングレリが言った。「ロキは、驚くほどたちの悪い子らをもうけたものだ。それに、このきょうだいはみな、たいそうな力を持っている。だが、狼から災いを受けるとわかっているのに、アースの神々はなぜ殺さなかったのか」

ハールは答えた。「神々は自分たちの聖所と平和の守られる場をそれほど尊び、狼の血で汚そうとはしなかったのだ。たとえ予言が、狼はオーディンの命を奪うことになると告げていようとも」

35

そこでガングレリが尋ねた。「女神たちには誰がいるのか」

ハールが言った。「フリッグが最も高い位にある。フェンサリルという、たいそう壮麗な館を持っている。二番目はサガだ。セックヴァベックに住んでおり、そこは広大なところだ。三番目はエイルだ。最も優れた医者である。四番目はゲフィユンだ。処女であり、処女のまま死んだ女たちが仕えている。五番目はフッラだ。この女神も処女で、髪をほどき、頭に金の帯を巻いている。フリッグの小箱を運び、その履物を預かり、ひそかな計画も打ち明けられている。フレイヤはフリッグと並んで最も尊ばれている。オーズという男と結婚し、二人の娘はフノスという。この娘はたいそう美しいので、美しく貴重な品は、その名にちなんでフノシルと呼ばれる。オーズは遠い旅に出てしまい、フレイヤはその留守を嘆いて泣いている。その涙は赤い黄金だ。フレイヤには多くの名がある。それは、オーズを捜して見知らぬ民の間を旅したとき、さまざまな名を名乗ったためだ。マルデッル、ヘルン、ゲヴン、シュールという名がある。フレイヤはブリーシンガメンを持っていた。ヴァナディースとも呼ばれる。七番目はショヴンだ。女も男も、人の心を恋へと向けることに大いに力を尽くしている。その名にちなんで、恋心はシャヴニと呼ばれる。八番目はロヴンだ。たいそう情け深く、祈願にもよく応えるので、男女の結びつきがそれまで禁じられ、あるいは断じて許されないとされていても、アルフォズルかフリッグから許しを得てくれる。その名にちなんで、許しはロヴと呼ばれる。また、人々から大いにたたえられるのも、その名に通じている。九番目はヴァールだ。人々の誓いと、男女が互いに交わす内々の約束に耳を傾けている。それゆえ、こうした約束はヴァーラルと呼ばれる。約束を破る者には報復もする。十番目はヴォルだ。賢く、よく問いただすので、何事もこの女神には隠せない。女が何かを知ると、それにヴォルとなる、つまり気づくと言うのは、そのためだ。十一番目はシュンだ。館の戸口を見張り、入ってはならない者の前で戸を閉ざす。また、民会では、自分が偽りとしたい訴えに対して弁護に当たる。それゆえ、人が否認すると、シュンが立ちはだかると言う。十二番目はフリーンだ。フリッグが何らかの危険から救いたいと望む人々を守る役目に就いている。それゆえ、難を逃れる者について、フレイナ、つまり庇護を受けると言う。十三番目はスノトラだ。賢く、立ち居振る舞いが美しい。その名にちなんで、慎み深い女や男をスノトルと呼ぶ。十四番目はグナーだ。フリッグはこの女神を、用事を果たすためにさまざまな世界へ遣わす。空も海も駆ける馬を持っており、その名はホーヴヴァルプニルという。あるとき、グナーが馬を走らせていると、ヴァンの神々の何人かが、その空を行く姿を見た。その一人が言った。

あそこで何が飛ぶ、
あそこで何が行く、
何が空を渡るのか。

グナーは答えた。

私は飛んではいない、
それでも進み、
空を渡ってゆく、
ホーヴヴァルプニルに乗って。
ハムスケルピルが
ガルズローヴァとの間にもうけた馬に。

グナーの名にちなんで、高くそびえるものをグナイヴァと言う。ソールとビルも女神に数えられるが、その素性については先に語った」

36

ほかにも、ヴァルハラで仕え、飲み物を運び、食卓の調度や酒器の世話をする女たちがいる。『グリームニルの歌』では、その名がこう挙げられている。

フリストとミストに
角杯を運んでもらいたい、
スケッギョルドとスコグル、
ヒルドとスルーズ、
フレックとヘルフィヨトル、
ゲッルとゲイラヘズ、
ランドグリーズとラーズグリーズ、
そしてレギンレイヴ、
この者たちがエインヘリヤルにビールを運ぶ。

この者たちはワルキューレと呼ばれる。オーディンは戦いのたびに彼女たちを遣わす。彼女たちは死ぬべき者を選び、勝敗を決める。グズとロータ、そしてスクルドという最も若いノルンは、いつも馬で出向いて戦死者を選び、戦いの行方を決める。トールの母ヨルズと、ヴァーリの母リンドも、女神に数えられる。

37

ギュミルという男がおり、その妻はアウルボザといった。妻は山の巨人の一族だった。二人の娘はゲルズといい、あらゆる女の中で最も美しかった。ある日、フレイはフリズスキャールヴに上り、すべての世界を見渡していた。北の方角に目を向けると、ある屋敷に大きく美しい建物があり、一人の女がそこへ歩いてゆくのが見えた。女が両腕を上げて目の前の扉を開くと、その腕から空にも海にも光が差し、すべての世界が明るくなった。こうして、あの神聖な座に腰を下ろした大それた思い上がりの報いを受け、フレイは悲しみに満ちてそこを立ち去った。家に帰っても何も言わず、眠りもせず、飲みもせずにいた。誰もあえて言葉をかけようとはしなかった。

そこでニョルズは、フレイの従者スキールニルを呼び寄せ、フレイのもとへ行って話しかけ、誰にそれほど腹を立てて、人と口をきかずにいるのか尋ねるよう命じた。スキールニルは行くとは言ったものの、気は進まず、ひどい返事をされるに違いないと言った。それでもフレイのもとへ行くと、なぜそれほどふさぎ込み、人と口をきかないのかと尋ねた。フレイは答えて、美しい女を見たこと、その女のために悲しみに沈み、彼女を得られなければ長くは生きられないことを話した。『だから、お前に行って、私のためにあの女に求婚し、父親が望もうと望むまいと、ここへ連れ帰ってもらいたい。十分に礼はしよう』

スキールニルは答えて、使いには行くが、フレイの剣を渡してもらいたいと言った。それは、ひとりでに戦うほどの名剣だった。だがフレイは、そのために事を滞らせることなく、剣を渡した。そこでスキールニルは出かけ、フレイのためにその女に求婚し、承諾を得た。九夜ののち、女はバルエイというところへ来て、フレイとの婚礼を挙げることになった。スキールニルが使いの結果を告げると、フレイはこう詠んだ。

一夜は長い、
二夜目も長い、
どうして三夜を耐えられよう。
ひと月さえも
短く思えたことが幾度もあった、
この婚礼を待つ半夜よりも。

こういうわけで、フレイはベリと戦ったとき、あれほど武器に乏しく、鹿の角で相手を殺したのだ」

そこでガングレリが言った。「フレイほどの偉大な者が、ほかに同じほど優れた剣を持っていないのに、その剣を手放そうとは、まったく驚いたことだ。ベリという者と戦ったときには、途方もなく困ったことだろう。そのときはきっと、剣を贈ったのを悔やんだに違いない」

ハールが答えた。「ベリと出会ったときには、たいしたことではなかった。フレイは素手でも殺せたのだ。剣を失ったことを、はるかに痛切に思い知るときが来る。ムスペルの息子たちが攻め寄せるときだ」

38

そこでガングレリが言った。「そなたの話では、世界の始まり以来、戦いに倒れた者はみな、今ではヴァルハラのオーディンのもとへ来ているという。この者たちに、どんな食べ物を与えているのか。そこにはずいぶん大勢いるはずだと思うが」

ハールが答えた。「そなたの言うとおり、そこには実に大勢いる。これからさらにずっと多くなるが、それでも狼が来るときには、少なすぎると思われるだろう。だが、ヴァルハラにどれほど大勢いようと、セーフリームニルという猪の肉が足りなくなることはない。毎日煮られても、夕方には元どおりになる。しかし、そなたが今尋ねたことについて、真実を語れるほど物知りな者は、ほとんどいないだろうと思う。料理人はアンドフリームニル、釜はエルドフリームニルという。こう歌われている。

アンドフリームニルは
エルドフリームニルで
セーフリームニルを煮る、
肉の中でも最上の肉を。
だが知る者は少ない、
エインヘリヤルが何に養われているかを」

そこでガングレリが尋ねた。「オーディンもエインヘリヤルと同じ食事をするのか」

ハールが言った。「自分の食卓に出された食べ物は、飼っている二頭の狼、ゲリとフレキに与える。自分には食べ物はいらない。葡萄酒が飲み物でもあり、食べ物でもあるのだ。こう歌われている。

ゲリとフレキを
戦に慣れた、
誉れ高い軍勢の父が満たす。
だが葡萄酒だけで、
武器に栄える
オーディンは常に生きる。

二羽のカラスがその肩にとまり、見聞きした出来事をすべて耳元で語る。その名はフギンとムニンだ。夜明けになると、オーディンはこの二羽を世界中へ飛ばし、二羽は朝の食事どきに帰ってくる。こうして多くの出来事を知るのだ。それゆえ、人々はオーディンをカラスの神と呼ぶ。こう歌われているとおりだ。

フギンとムニンは
毎日飛ぶ、
広大な大地の上を。
フギンが
戻らぬのではと恐れるが、
ムニンのことがなお気がかりだ」

39

そこでガングレリが尋ねた。「エインヘリヤルは何を飲むのか。食べ物と同じように、十分に行き渡る飲み物があるのか。それとも、そこでは水を飲んでいるのか」

ハールが言った。「今度は妙なことを尋ねるものだ。アルフォズルが王やヤルルや、そのほかの権勢ある者たちを招いて、水を飲ませるというのか。確かに、ヴァルハラへ来る者の中には、傷を負い、死ぬまでの苦痛を耐え忍んできた者が大勢いる。そこへ行っても、もっとよいもてなしが受けられないとしたら、水を飲むためにずいぶん高い代償を払ったと思うだろう。そこのことを、もう一つ話してやろう。ヘイズルーンという山羊がヴァルハラの屋根に立ち、レーラズという、たいそう名高い木の枝から葉を食べている。その乳房からは蜜酒が流れ、毎日、大桶をいっぱいにする。それは、エインヘリヤルが全員、十分に酔えるほどの量だ」

そこでガングレリが言った。「彼らには、実にありがたい山羊だ。その山羊が葉を食べている木も、よほどよい木なのだろう」

ハールが言った。「さらに驚くべきは、ヴァルハラに立ち、その木の枝を食べている牡鹿のエイクスュルニルだ。その角からはおびただしい滴が落ちてフヴェルゲルミルに注ぎ、そこから次の名の川が流れ出す。シーズ、ヴィーズ、セーキン、エーキン、スヴェル、グンスロー、フィヨルム、フィンブルスル、ギープル、ゲープル、ゲムル、ゲイルヴィムル。これらはアースの神々の住む地を流れる。さらに、シュン、ヴィーン、セッル、ヘッル、グラーズ、グンスラーイン、ニュト、ネト、ネン、フレン、ヴィーナ、ヴェグスヴィン、ショーズヌマという名の川もある」

40

そこでガングレリが言った。「今の話は、実に不思議なことばかりだ。ヴァルハラは途方もなく大きな館なのだろう。戸口はしばしば大変な混雑になるのではないか」

ハールが答えた。「なぜ、館に戸口がいくつあり、どれほど大きいのかを尋ねないのだ。それを聞けば、望む者が誰でも出入りできないとしたら、そのほうが不思議だと言うだろう。実際、館の中で場所を得るのも、そこへ入るのと同じくらいたやすい。『グリームニルの歌』には、こうある。

五百の戸口、
それに四十、
ヴァルハラにはそれだけあると思う。
八百のエインヘリヤルが
一つの戸口から一度に出てゆく、
狼と戦いに向かうときには」

41

そこでガングレリが言った。「ヴァルハラには実に大勢の者がいるのだな。まったく、これほどの軍勢を率いるオーディンは、まことに偉大な君主に違いない。では、エインヘリヤルは酒を飲んでいないとき、何を楽しみにしているのか」

ハールが答えた。「毎日、身支度をすませると武装して庭に出て、戦い、互いを倒す。それが彼らの遊びなのだ。そして朝の食事の時刻が近づくと、馬でヴァルハラへ帰り、酒宴の席に着く。ここにこう語られているとおりだ。

すべてのエインヘリヤルは
オーディンの庭で
日ごとに斬り合う。
討ち死にする者を選び、
戦いを離れて馬を駆り、
そのあとは仲よく席を並べる。

それに、おまえの言ったことは本当だ。オーディンの威勢は大したものだ。それを示す話は数多くある。アースの神々自身の言葉にも、こうある。

トネリコのユグドラシル、
それは木々のうちで最も優れ、
船ではスキーズブラズニル、
アースの神々ではオーディン、
馬ではスレイプニル、
橋ではビフレスト、
詩人ではブラギ、
鷹ではハーブローク、
犬ではガルム」

42

そこでガングレリが言った。「あの馬、スレイプニルは誰のものなのか。また、どんな話があるのか」

ハールが答えた。「おまえはスレイプニルのことを知らず、あれが生まれるもとになった出来事も知らないのだな。だが、これはおまえも聞くかいのある話だと思うだろう。神々が住みついて間もないころ、ミズガルズを築き、ヴァルハラを建てたあとに、ある職人がやって来た。そして、山の巨人や霜の巨人がミズガルズの内側へ入り込んでも、確実に身を守れるほど立派な城壁を、一年半で築いてやろうと申し出た。ただし報酬として、フレイヤを妻に迎え、そのうえ太陽と月をもらいたいと言った。そこでアースの神々は集まって相談し、職人と次の契約を結んだ。一冬で城壁を築き終えられれば、求めたものを与える。しかし夏の最初の日に、城壁に少しでも未完成のところがあれば、報酬を受ける権利を失う。また、仕事にあたって誰の助けも借りてはならない、と。

この条件を伝えられると、職人はスヴァジルファリという自分の馬の助けを借りることだけは許してほしいと頼んだ。ロキが勧めたため、その願いは認められた。職人は冬の最初の日に城壁を築き始め、夜には馬を使って石を引いて来た。アースの神々は、その馬があまりにも大きな岩を引いて来るのを見て、たいそう驚いた。馬のする力仕事は、職人のする仕事の倍にもなった。この契約には確かな証人が立ち、多くの誓いが交わされていた。というのも、巨人は、トールが帰って来た場合、身の安全を保証する約束なしにアースの神々のもとにいるのは危険だと考えていたからだ。そのときトールは、トロルを打ち倒すため東へ出かけていた。

冬が深まるにつれて城壁づくりは大いにはかどり、城壁はとても攻めかかれないほど高く堅固になった。夏まであと三日というときには、城門もほぼ出来上がっていた。そこで神々は裁きの座に着き、方策を探って、いったい誰がフレイヤを巨人の国へ嫁がせ、太陽と月を空から取り去って巨人に与え、大空と天を損なうようなことを決めたのかと、互いに問いただした。そして皆の意見は、これを仕組んだのは、たいていの悪事を仕組むあの者、ラウフェイの息子ロキに違いないということで一致した。職人が報酬を受けられなくなるように策を見つけなければ、惨たらしい死に値すると言い、ロキに詰め寄った。ロキは恐ろしくなり、何を犠牲にしてでも、職人が報酬を失うように取り計らうと誓った。

その晩、職人が馬のスヴァジルファリを連れて石を取りに出ると、ある森から一頭の牝馬が駆け出して来て、馬に近づき、いなないた。馬はそれが牝馬だとわかると、気が狂ったようになり、綱を引きちぎって牝馬に駆け寄った。牝馬は森へ逃げ込み、職人も馬を捕まえようと追いかけた。二頭は一晩じゅう走り回り、その夜の仕事は滞った。翌日も、それまでのようには仕事が進まなかった。

仕事を終えられそうにないと見て取ると、職人は巨人の怒りをあらわにした。ここへ来ていたのが山の巨人だとはっきりわかると、アースの神々は誓いを顧みず、トールを呼んだ。トールはたちまち現れ、すぐさまハンマーのミョルニルが振り上げられた。こうしてトールは仕事の代金を払った。太陽でも月でもなく、巨人の国に住み続けることすら許さず、最初の一撃で頭蓋骨を粉々に砕き、ニヴルヘイムのさらに下へ送り込んだのだ。

一方、ロキとスヴァジルファリとのかかわりは、しばらくしてロキが仔馬を産むという結果になった。その仔馬は灰色で、脚が八本あった。この馬こそ、神々と人間のあいだで最も優れた馬なのだ。『巫女の予言』にはこうある。

そのとき、すべての支配者、
いとも聖なる神々は
裁きの座に赴き、
このことを話し合った。
誰が大空のすべてに
裏切りを混ぜ込んだのか、
また巨人の一族に
オーズの乙女を与えたのかと。

誓約は破られた、
言葉も、誓いも、
交わされた
すべての固い約束も。
ただトールひとりがそこで討った、
怒りに満ちて。
そのようなことを耳にすれば、
彼がじっとしていることはめったにない」

43

そこでガングレリが言った。「船のうちで最も優れたスキーズブラズニルについては、どんな話があるのか。あれほど大きな船はほかにないのか」

ハールが答えた。「スキーズブラズニルは船のうちで最も優れ、並外れた巧みさで造られているが、最も大きい船はナグルファルだ。あれはムスペルが持っている。イーヴァルディの息子たちという小人たちがスキーズブラズニルを造り、フレイに与えた。この船は、アースの神々が全員、武器も軍装も整えて乗り込めるほど大きい。帆を上げれば、どこへ向かおうとも、すぐに順風が吹く。海へ出す必要のないときには、多くの部品を組み合わせ、たいそう巧みに造られているので、布のように折り畳んで、自分の袋に入れておけるのだ。

44

そこでガングレリが言った。「スキーズブラズニルはよい船だが、そのようなものを造り上げるには、よほど大きな魔術が使われたのだろう。トールはどこかへ出かけて、力や魔術のために手に余るほど強大な相手や、強力なものに出くわしたことはないのか」

ハールが言った。「そのことを語れる者はほとんどいないと思うが、トールにも難儀に思えたことは多い。だが、たとえ何かがあまりに強く頑丈で、トールにも打ち勝てなかったことがあったとしても、それを語るいわれはない。トールが最も強いという例は数多くあり、誰もがそう信じるべきなのだから」

そこでガングレリが言った。「どうやら私は、そなたたちの誰にも答えられないことを尋ねてしまったらしい」

するとヤヴンハールが言った。「われわれも、本当のこととは信じがたいと思う出来事を聞いてはいる。だが、その真相を語れる者が、このすぐ近くに座っているはずだ。これまで一度も嘘をついたことのない者が、今になって初めて嘘をつくことはあるまいと、おまえも信じるだろう」

ガングレリが言った。「この問いに何か答えが得られるなら、私はここに立って聞こう。さもなければ、私の尋ねることを語れないのだから、そなたたちは負けたのだと言おう」

そこでスリジが言った。「われわれにはあまり語りたくない話だが、こやつがその出来事を知りたがっているのは、もう明らかだ。この話の始まりは、車を駆るトールが山羊たちを連れて出かけ、その車に乗って旅をしたときのことだ。ロキというアースの神も一緒だった。夕方、ふたりはある農夫の家に着き、そこで一夜の宿を得た。

その晩、トールは山羊を二頭とも屠った。それから皮を剥ぎ、肉を大釜へ入れた。煮えると、トールは連れとともに夕食の席に着いた。トールは農夫とその妻、子供たちも食事に招いた。農夫の息子はシャールヴィ、娘はレスクヴァといった。トールは山羊の皮を火から離れたところに敷き、農夫と家の者たちに、骨は山羊の皮の上へ投げるように言った。農夫の息子シャールヴィは、山羊の腿の骨を手に取り、ナイフの切っ先を差し入れて、骨髄を取り出そうと骨を割った。

トールはそこに泊まった。夜明け前のまだ暗いうちに起きて身支度をし、ハンマーのミョルニルを取って振り上げ、山羊の皮を清めた。すると山羊たちは立ち上がったが、一頭は後ろ脚を引きずっていた。トールはそれに気づき、農夫かその家の者が、山羊の骨をぞんざいに扱ったに違いないと言った。そして腿の骨が折られていることを悟った。

この先を長々と語る必要はない。トールが眉を目の上まで下げるのを見て、農夫がどれほど恐ろしくなったかは、誰にもわかるだろう。その隙間から目を見ただけで、農夫は、その眼差しだけで倒れてしまうと思った。トールはハンマーの柄を握る手に力を込め、指の節が白くなった。農夫も家の者も皆、当然ながら、必死に叫んで命乞いをし、償いとして持ち物をすべて差し出すと言った。

だが、彼らの恐れようを見ると、トールの怒りは去り、気持ちが鎮まった。そして和解の償いとして子供のシャールヴィとレスクヴァを引き取り、ふたりはトールに仕える身となった。それ以来、いつもトールに付き従っている。

45

トールは山羊たちをそこに残し、東の巨人の国へ向けて旅立ち、海まで進むと、その深い海を渡った。陸に着くと岸へ上がり、ロキとシャールヴィとレスクヴァも一緒に進んだ。しばらく歩くと、大きな森に行き当たった。一行はその日じゅう、暗くなるまで歩き続けた。シャールヴィは誰よりも足が速かった。トールの食糧袋を担いでいたが、食べ物には不自由していた。

暗くなると、一夜の宿を探し、行く手にたいそう大きな館を見つけた。入口は端にあり、館と同じ幅があった。そこで夜を過ごすことにした。ところが真夜中ごろ、大きな地震が起きた。足もとの地面が激しく動き、建物が揺れた。トールは起き上がって仲間を呼び、あたりを探ると、館の中ほどの右手に脇部屋が見つかったので、そこへ入った。トールは入口に座り、ほかの者たちはその奥へ入った。皆おびえていたが、トールはハンマーの柄を握り、身を守るつもりでいた。すると、大きなうなりと轟きが聞こえてきた。

夜が明けると、トールは外へ出た。そして、さほど遠くない森の中に、ひとりの男が横たわっているのを見つけた。その男は小さくなどなかった。眠っていて、ひどいいびきをかいていた。トールは、夜中の物音の正体がわかったと思った。力帯を締めると、神の力が増した。ちょうどそのとき男が目を覚まし、さっと起き上がった。そこでトールは、珍しくもハンマーで打ちかかるのをためらい、男に名を尋ねたという。男はスクリューミルと名乗った。

『だが、おまえの名を尋ねる必要はない』と男は言った。『おまえがアースのトールだということはわかる。それはそうと、おまえは私の手袋をどこかへ動かしたのか』

スクリューミルは手を伸ばして手袋を拾い上げた。そこでトールは、夜のあいだ館だと思っていたのがその手袋で、脇部屋は手袋の親指だったのだとわかった。スクリューミルは、旅の道連れにならないかと尋ね、トールは承知した。

スクリューミルは食糧の包みをほどき、朝の食事をしようとした。トールとその仲間たちは、別の場所で食事をした。それからスクリューミルは、食糧を一緒にしようと持ちかけ、トールは承知した。スクリューミルは一行の食糧をすべてひとつの包みにくくり、背中に担いだ。その日は先に立って歩き、ずいぶん大股で進んだ。夕方遅くなると、大きな樫の木の下を一行の寝場所に選んだ。そしてトールに、自分は横になって眠りたいと言った。

『おまえたちは食糧の包みを取って、夕食の支度をするといい』

そう言うと、スクリューミルはすぐに眠り込み、大いびきをかいた。トールは食糧の包みを取ってほどこうとした。信じがたいと思うだろうが、結び目をひとつとしてほどけず、革紐の端も少しも動かせず、もとより緩めることさえできなかった。この仕事がどうにもならないとわかると、トールは腹を立て、ハンマーのミョルニルを両手で握りしめ、スクリューミルの横たわるところへ片足を踏み込み、その頭を打った。するとスクリューミルは目を覚まし、木の葉でも頭に落ちてきたのかと尋ね、もう食事をすませて寝るところなのかと言った。トールは、これから寝るのだと答えた。一行は別の樫の木の下へ行った。正直に言えば、そのときは不安を覚えずに眠ることなどできなかった。

真夜中になると、スクリューミルがぐっすり眠り、森じゅうに響くいびきをかいているのがトールに聞こえた。トールは起き上がって男のそばへ行き、ハンマーを素早く力強く振りかぶって、頭のてっぺんの真ん中へ振り下ろした。ハンマーの頭が男の頭に深くめり込む手応えがあった。だが、その瞬間スクリューミルは目を覚まし、言った。

『今度は何だ。どんぐりでも頭に落ちたのか。それとも、おまえはどうした、トール』

トールは急いで後ろへ退き、今しがた目を覚ましたところだと答え、今は夜中で、まだ眠る時間だと言った。そして、三度目の一撃を加える機会があったら、二度と自分の姿を見ることはできなくしてやろうと考え、横になって、スクリューミルがまた深く寝入るのを待った。

夜明けの少し前、スクリューミルが眠り込んだらしいと聞き取ると、トールは起き上がって駆け寄り、渾身の力を込めてハンマーを振りかぶり、上を向いていたこめかみを打った。ハンマーは柄のところまでめり込んだ。ところがスクリューミルは身を起こし、頬をなでながら言った。

『私の上の木に鳥でもとまっているのか。目が覚めたとき、小枝の屑か何かが頭に落ちてきたように思えた。起きているか、トール。もう起きて身支度をするころだろう。ウートガルズという城までは、もうそう遠くない。おまえたちがひそひそと、私は小柄な男ではないと言い合っていたのは聞こえた。だが、ウートガルズへ行けば、もっと大きな男たちに出会うぞ。そこで、ひとつためになる忠告をしてやろう。大きな顔をしないことだ。ウートガルザ・ロキの家来たちは、おまえたちのようなちっぽけな小僧の大言壮語を、おとなしく聞いてはくれまい。それが嫌なら引き返すことだ。私ならそちらを勧める。だが先へ進みたいのなら、東へ向かえ。私はこれから、今おまえたちに見えているあの山々へ向かって、北へ行く』

スクリューミルは食糧の包みを取って背中へ放り上げ、一行の進む道からそれて、森の中へ立ち去った。アースの神々がそのとき、元気でまた会おうと彼に言ったという話は伝わっていない。

46

トールは仲間たちとともに先へ進み、正午まで歩きつづけた。すると、ある平原に城が立っているのが見えた。その頂を見上げるには、後頭部が背につくほど首を反らさなければならなかった。一行は城へ向かったが、城門には格子戸があり、閉ざされていた。トールは格子戸に取りついたものの、開けることができなかった。それでも城内に入ろうと努めた末に、格子の隙間をくぐり抜けて中へ入った。そこに大きな広間が見えたので、そちらへ向かった。戸は開いていた。中へ入ると、両側の長椅子に大勢の者が座っており、そのほとんどがたいそう大柄だった。

やがて一行は王であるウートガルザ・ロキの前に進み出て、挨拶をした。王はしばらくしてから一行に目を向け、歯を見せてにやりと笑うと言った。「遠いところの噂は、届くまでに時がかかるものだ。それとも、わしの思い違いか。この小僧が、車を駆るトールになったというのか。だが、見かけよりは大した男なのだろう。さて、お前たちはどんな腕前を披露するつもりかな。ここでは、何かの技や心得で並の者より抜きんでていなければ、仲間に加わることはできぬ」

すると、最後に入ってきたロキという者が言った。「それなら、すぐにでも試してみせられる技がある。この中に、俺より速く飯を食える者はいない」

ウートガルザ・ロキは答えた。「その言葉どおりなら、立派な技だ。では、その技を試すとしよう」そうして長椅子の奥に向かって声をかけ、ロギという者に、広間の中央へ出てロキと腕を競うよう命じた。

そこで一つの飼葉桶が広間の床に運び込まれ、肉でいっぱいにされた。ロキは一方の端に、ロギはもう一方の端に座り、二人とも大急ぎで食べ進め、桶の真ん中で行き合った。ロキは骨についた肉をすっかり食べていたが、ロギは肉ばかりか骨も食べ、桶まで食べてしまっていた。そこで誰もが、ロキの負けだと認めた。

次にウートガルザ・ロキは、あの若者にはどんな競技ができるのかと尋ねた。シャールヴィは、ウートガルザ・ロキが相手を出してくれるなら、走り競べを何度かしてみようと答えた。ウートガルザ・ロキは、それはよい技だと言った。ただし、その技で勝負しようというからには、よほど足に自信があるのだろうとも言い、それでもすぐに試させることにした。

ウートガルザ・ロキは立ち上がって外へ出た。そこには、平らな野原に走り競べにうってつけの道があった。ウートガルザ・ロキはフギという小僧を呼び寄せ、シャールヴィと走り競べをするよう命じた。二人は一度目の競走を始めたが、フギははるかに先を走り、終点で折り返してシャールヴィを迎えに戻ってきた。

ウートガルザ・ロキは言った。「シャールヴィ、勝つつもりなら、もっと力を出さねばならぬぞ。とはいえ、お前ほど足の速い者がここへ来たためしはない。それは確かだ」

二人は二度目の競走を始めた。フギが終点に着いて折り返したとき、シャールヴィはなお矢の遠く飛ぶほども後ろにいた。

ウートガルザ・ロキは言った。「シャールヴィは見事な走りぶりだと思うが、もう勝てるとは思えぬ。だが、三度目を走れば、はっきりするだろう」

二人はもう一度走った。フギが終点に着いて折り返したとき、シャールヴィはまだ道の半ばにも達していなかった。そこで誰もが、この競技の勝負はついたと言った。

次にウートガルザ・ロキはトールに、人々がお前の大業をあれほど語っているからには、ここでどんな技を披露してくれるのかと尋ねた。トールは、誰かと飲み競べをするのがいちばんよいと答えた。ウートガルザ・ロキは、それもよかろうと言って広間へ入り、給仕を呼び、家来たちがいつも飲むのに使う罰杯の角杯を持ってくるよう命じた。ほどなく給仕が角杯を持って現れ、トールの手に渡した。

ウートガルザ・ロキは言った。「この角杯は、一息で飲み干せば、見事な飲みぶりとされる。二息で飲み干す者もいるが、どれほど酒に弱い者でも、三息で飲み干せぬ者はいない」

トールが角杯を見ると、さほど大きくは思えなかった。ただ、いくらか長かった。トールはひどく喉が渇いていたので、飲み始め、大きくごくごくと喉を鳴らし、二度もこの角杯に口をつける必要はあるまいと思った。だが、息が尽きて角杯から顔を上げ、どれほど飲めたかを見ると、中の酒は前よりほんのわずかしか減っていないように見えた。

ウートガルザ・ロキは言った。「よい飲みぶりだが、量はいささか物足りぬな。アースのトールがこれだけしか飲めぬと聞かされても、わしは信じなかっただろう。だが、次の一息で飲み干すつもりなのはわかっているぞ」

トールは何も答えず、角杯を口に当てた。今度こそもっと飲んでやろうと考え、息のつづくかぎり懸命に飲んだ。それでも角杯の先端は、思うほど上がろうとしなかった。角杯を口から離して中を見ると、今度は初めよりも減り方が少ないように思えた。それでも、今や酒の面と縁の間には、こぼさずに持ち運べるほどの余裕があった。

ウートガルザ・ロキは言った。「どうした、トール。次の一息に備えて、お前のためになる以上に力を惜しんでいるのではないか。三度目で飲み干すつもりなら、今度こそいちばん大きく飲まねばならぬと見える。だが、ほかの競技でも、今の飲み競べから思われる以上の働きができなければ、ここでわしらといる間は、アースの神々が言うほどの大した男とは呼べぬぞ」

そこでトールは怒り、角杯を口に当て、できるかぎり激しく飲み、ありったけの力を注いだ。角杯の中を見ると、今度はどうやら、いくらか目に見えて減っていた。そこでトールは角杯を差し返し、もう飲もうとはしなかった。

ウートガルザ・ロキは言った。「お前の力が、わしらの思っていたほどではないことは、今や明らかだ。だが、ほかの競技も試してみるか。これではお前に何の得もないのは、もうわかっただろう」

トールは答えた。「まだいくつか試してもよい。だが、アースの神々のもとにいたときなら、これほど飲んでもわずかだと言われるなど、奇妙に思っただろうな。さて、今度はどんな競技をさせるつもりだ」

ウートガルザ・ロキは言った。「ここでは幼い子供でもすることで、さほど大したこととは思われまいが、わしの猫を地面から持ち上げるのだ。だが、お前が思ったよりはるかに非力なのを先に見ていなかったら、アースのトールにこんなことを言い出す気にはならなかっただろう」

すると一匹の灰色の猫が、広間の床に走り出てきた。かなり大きな猫だった。トールはそばへ行き、腹の真ん中の下に手を入れて持ち上げた。だが猫は、トールが腕を伸ばすにつれて背を丸めた。トールが届くかぎり高く腕を伸ばしたところで、ようやく猫の片足が床から離れた。それ以上、この技を成し遂げることはできなかった。

ウートガルザ・ロキは言った。「この勝負も、思ったとおりになったな。猫はかなり大きいし、トールはここにいる大男たちに比べれば、背も低く体も小さいのだ」

トールは言った。「お前たちは俺をそれほど小さいと言うのなら、誰でもいい、前へ出て俺と組み打ちをしろ。今や俺は怒っているぞ」

ウートガルザ・ロキは長椅子を見回して答えた。「ここにいる者は誰も、お前と組み合っても張り合いがないと思うだろう」そして、さらに言った。「まずはこうしよう。わしの育ての親である婆さん、エッリをここへ呼べ。トールはその気があるなら、あの婆さんと組み合うがよい。トールに劣らず強そうに見えた男たちを、あの婆さんは倒してきたのだ」

ほどなく、一人の年老いた女が広間へ入ってきた。ウートガルザ・ロキは、アースのトールと組み合うように命じた。この勝負は長々と語るまでもない。トールが力を込めれば込めるほど、老婆はますます揺るぎなく立っていた。やがて老婆が技をかけ始めると、トールは足元が危うくなった。激しいもみ合いとなり、ほどなくトールは片膝をついた。そこでウートガルザ・ロキが歩み寄り、二人に組み打ちをやめるよう命じて、トールはもう自分の家来の誰にも勝負を挑むには及ばないと言った。

そのころには夜も近づいていた。ウートガルザ・ロキはトールとその仲間たちを席に案内し、一行は手厚いもてなしを受けて、そこで一夜を過ごした。

47

翌朝、夜が明けるとすぐにトールと仲間たちは起き上がり、服を着て、出立の支度をした。そこへウートガルザ・ロキが来て、一行に食卓を用意させた。心のこもったもてなしにも、食べ物にも飲み物にも不足はなかった。食事をすませると、一行は旅立った。ウートガルザ・ロキは外まで見送り、城を出てしばらくともに歩いた。別れ際にウートガルザ・ロキはトールに話しかけ、この旅をどう思うか、自分よりも力のある者に出会ったことがあるかと尋ねた。トールは、彼らとの力比べで大いに面目を失ったことは否めないと答えた。「それに、お前たちが俺を大した力もない男だと言うだろうこともわかっている。それが気に食わぬのだ」

そこでウートガルザ・ロキは言った。「城の外へ出た今こそ、本当のことを話そう。わしが生きていて、自分の思いどおりにできるかぎり、お前を二度とあの城に入れるつもりはない。誓って言うが、お前にこれほどの力があると前もって知っていたなら、初めから城には入れなかっただろう。お前はもう少しで、わしらを大変な災難に陥れるところだったのだ。

だが、わしはお前の目を欺いていた。最初に森の中で、お前たちに会いに行ったのもわしだ。お前が食糧袋をほどこうとしたとき、わしはそれを鉄線で縛っておいたので、お前にはどこをほどけばよいのかわからなかったのだ。そのあと、お前はハンマーでわしを三度殴った。最初の一撃がいちばん弱かったが、それでも、当たっていたならわしの命を奪うに十分だった。だが、お前はわしの広間のそばに、頂の平らな岩山を見ただろう。そこには四角い谷が三つあり、そのうち一つがいちばん深かった。あれがお前のハンマーの跡だ。わしはあの岩山を打撃の前に差し出したのだが、お前には見えなかったのだ。

お前たちがわしの家来と競ったときも、同じことだった。初めはロキの勝負だ。あいつはひどく腹をすかせていて、すばやく食べたが、ロギと呼ばれた者は燃え盛る火だった。肉を焼き尽くすのと同じ速さで、桶も焼き尽くしたのだ。シャールヴィがフギという者と走り競べをしたが、あれはわしの思考だった。シャールヴィがそれと速さを競っても、勝ち目はなかった。

お前が角杯から飲んだときは、なかなか減らぬと思っただろう。だが、誓って言うが、そのとき起きたのは、そんなことができるとは信じられぬほどの驚くべきことだった。角杯のもう一方の端は海の中にあったのだが、お前にはそれが見えなかった。これから海辺へ行けば、自分が飲んで海の水をどれだけ減らしたか、見ることができるだろう。それが今、引き潮と呼ばれているものだ」

さらに彼は言った。「お前が猫を持ち上げたのも、それに劣らぬことだった。正直に言うが、お前がその片足を地面から離したとき、それを見ていた者はみな恐れおののいた。あの猫は、お前の目に見えたものとは違っていたのだ。あれは、すべての陸地を取り巻いて横たわるミズガルズの大蛇だった。お前があれほど高く差し上げたので、大蛇は頭と尾を地面につけておくにも、ようやく長さが足りるほどだった。そのときには、天までもうわずかしかなかったのだ。

組み打ちでも、お前があれほど長く持ちこたえ、片膝をついただけで倒れなかったのは、大変な驚きだった。お前が組み合った相手はエッリ、すなわち老いだった。老いを迎えるほど長生きした者で、老いに倒されずにすんだ者はこれまでもなく、これからもない。

さて、本当のところ、わしらはここで別れよう。お前たちが二度とわしに会いに来ぬほうが、互いのためになる。次にもわしは、同じような仕掛けか、また別の仕掛けを使って城を守るだろうから、お前たちがわしをどうにかすることはできぬ」

この話を聞くと、トールはハンマーをつかみ、高々と振り上げた。だが、いざ振り下ろそうとすると、ウートガルザ・ロキの姿はどこにも見えなかった。そこでトールは城のほうへ向き直り、城を打ち壊そうとした。だが、そこには広々とした美しい野原が見えるばかりで、城はなかった。トールは引き返して旅をつづけ、やがてスルーズヴァンガルへ帰り着いた。だが、本当のことを言えば、そのときトールは、ミズガルズの大蛇とどうにか出会う手立てを探そうと、心に決めていたのだ。そして、それはのちに実現した。さて、このトールの旅について、これ以上確かな話をお前にできる者はいないと思う」

48

そこでガングレリが言った。「ウートガルザ・ロキはずいぶん力のある者だが、策略や魔術を大いに使うのだな。とはいえ、あれほど力の強い従者たちを抱えていたのだから、本人も大した者だとわかる。だが、トールはこの仕返しをしなかったのか」

ハールが答えた。「今語った旅の雪辱をトールが果たしたことは、物知りでない者でも知っている。家に長居もせず、あまりに急いで旅支度をしたので、車も山羊たちも、供の者も連れなかった。若者の姿でミズガルズから歩いて出て、ある日の夕暮れ、一人の巨人のもとに着いた。その名をヒュミルという。トールはそこで一夜の宿を取った。

夜明けになると、ヒュミルは起きて服を着、魚を捕りに海へ漕ぎ出す支度をした。トールも跳ね起き、すぐに支度を済ませると、自分も一緒に海へ漕ぎ出させてくれとヒュミルに頼んだ。だがヒュミルは、体も小さく、ほんの若造にすぎないのだから、大して役には立つまいと言った。『わしがいつものように遠い沖で長く粘っていたら、おまえは凍えてしまうぞ』

だがトールは、それでも陸から遠くまで漕いでいけるし、どちらが先に帰ろうと言い出すかはわからないと答えた。トールはこの巨人にひどく腹を立て、今にもハンマーをくらわせそうになったが、その場はこらえた。別のところで自分の力を試すつもりだったからだ。

トールが何を餌にするのかと尋ねると、ヒュミルは自分の餌は自分で手に入れろと言った。そこでトールは、ヒュミルの持ち物である雄牛の群れを見かけた方へ向かった。その中でいちばん大きな、ヒミンフリョーズという牛をつかまえ、頭を引きちぎって海辺へ持っていった。そのときにはヒュミルは小舟を海へ押し出していた。

トールは舟に乗り、船尾の水汲み場に腰を下ろすと、二本の櫂を取って漕ぎ始めた。ヒュミルにも、トールが漕ぐと舟に勢いがつくのがわかった。ヒュミルは船首寄りで漕ぎ、舟はたちまち進んでいった。やがてヒュミルは、いつも腰を据えて平たい魚を釣る漁場に着いたと言ったが、トールはもっとずっと遠くまで漕ぎたいと言い、二人はまた力いっぱい漕いだ。するとヒュミルは、もうこれほど沖へ来たのだから、ミズガルズの大蛇がいるため、この先で舟を止めるのは危険だと言った。だがトールは、もうしばらく漕ぐつもりだと言い、そのとおりにした。ヒュミルはすっかり不機嫌になった。

トールは櫂を上げると、ひときわ丈夫な釣り糸を整えた。釣り針もそれに劣らず大きく、頑丈なものだった。トールはその針に雄牛の頭をつけ、船べりから投げ込んだ。針は海底まで沈んでいった。本当のことを言えば、このときトールがミズガルズの大蛇に仕掛けた罠は、かつてトールがその大蛇を片手で持ち上げたとき、ウートガルザ・ロキがトールに仕掛けた欺きに少しも劣らなかった。

ミズガルズの大蛇は雄牛の頭を大口でのみ込んだが、針がその上顎に突き刺さった。大蛇はそれを感じると激しく身をよじり、トールの両の拳が船べりに打ちつけられた。するとトールは怒り、神の力を奮い起こし、ぐっと踏ん張った。そのため両足が舟底を突き破り、海底に足を踏み据えることになった。そうして大蛇を船べりまで引き上げた。

トールが大蛇をにらみつけ、大蛇が下からにらみ返して毒を吹きつけたその光景を見たのでなければ、真に恐ろしいものを見たとは言えまい。巨人ヒュミルは、大蛇と、舟の内外へと押し寄せる海水を見ると、顔色を変えて青ざめ、恐れおののいたという。トールがハンマーをつかんで振り上げたちょうどそのとき、巨人は手探りで餌切りの刃物を取り、船べりのところでトールの釣り糸を断ち切った。大蛇は海の中へ沈んでいった。

トールは大蛇を追ってハンマーを投げた。波間でその頭を打ち落としたという者もいるが、わしの思うところ、本当はミズガルズの大蛇は今も生きて、世界を取り巻く海に横たわっているのだ。トールは拳を振り上げ、ヒュミルの耳もとに一撃をくらわせた。巨人は足の裏を見せて船べりの向こうへ転げ落ちた。トールは歩いて海を渡り、陸へ戻った」

49

そこでガングレリが言った。「アースの神々には、これより大きな出来事があったのか。この旅でトールは実に大した力業を成し遂げたものだ」

ハールが答えた。「アースの神々が、それよりも重大だと思った出来事を語るとしよう。この物語の始まりは、善きバルドルが、自分の命にかかわる、恐ろしく不吉な夢を幾度も見たことだ。バルドルがその夢をアースの神々に話すと、神々は相談し、あらゆる危険からバルドルを守る約束を取りつけることにした。そこでフリッグは、火と水、鉄とあらゆる金属、石、大地、木々、病、獣、鳥、毒、蛇から、バルドルに害を加えないという誓いを取った。

これが済み、皆に知れ渡ると、バルドルとアースの神々は、集会の席でバルドルを立たせ、ほかの者たちがそれぞれ矢を射たり、斬りつけたり、石を投げつけたりして楽しむようになった。何をされてもバルドルは傷つかず、皆はこれをたいそう誉れなことだと思った。

だが、ラウフェイの息子ロキはこれを見ると、バルドルが傷つかないことを面白く思わなかった。ロキは女の姿に化け、フェンサリルにいるフリッグのもとへ行った。フリッグはその女に、アースの神々が集会で何をしているか知っているかと尋ねた。女は、皆がバルドルを射ているが、バルドルは傷ひとつ負わないと答えた。

そこでフリッグが言った。『武器も木も、バルドルを傷つけはしない。どれからも誓いを受けているからな』

すると女は尋ねた。『すべてのものが、バルドルに害を加えないと誓ったのか』

フリッグは答えた。『ヴァルハラの西に、一本の若い木の芽が生えている。ヤドリギと呼ばれるものだ。あれはまだ若すぎて、誓いを求めるには及ばないと思った』

そのあと女は立ち去った。ロキはヤドリギを引き抜いて取り、集会へ向かった。ヘズは目が見えなかったので、人々の輪の外側に立っていた。ロキはヘズに言った。『どうしてバルドルを射ないのだ』

ヘズは答えた。『バルドルがどこにいるか見えないからだ。それに武器も持っていない』

そこでロキが言った。『それでも、ほかの者たちと同じようにして、皆と同じくバルドルに敬意を表すがいい。どこに立っているか、私が教えてやろう。この枝で射るのだ』

ヘズはヤドリギを取り、ロキに狙いを教えられるまま、バルドルに向けて放った。飛んでいった枝はバルドルを貫き、バルドルは地に倒れて死んだ。これは神々と人間の間で起こった、最も大きな災いだった。

バルドルが倒れると、アースの神々は皆、言葉を失い、助け起こそうにも手さえ動かせず、互いに顔を見合わせた。この仕業を働いた者に対しては、皆が同じ思いを抱いていたが、誰も復讐できなかった。そこはそれほど固く平和を守るべき場所だったのだ。アースの神々は何か言おうとしたが、それより先に涙がこみ上げ、誰も自分の悲しみを言葉にしてほかの者に伝えることができなかった。なかでもオーディンは、誰よりも深くこの災いに苦しんだ。バルドルの死がアースの神々にとってどれほど大きな打撃であり、喪失であるかを、誰よりもよく理解していたからだ。

神々が我に返ると、フリッグが口を開き、アースの神々の中に、自分の愛と好意を残らず得たい者はいないかと尋ねた。その者にはヘルへの道を馬で行き、バルドルを見つけられるか試してもらい、ヘルがバルドルをアースガルズへ帰してくれるなら、その身代金を申し出てもらいたいというのだ。この旅を引き受けたのは、勇敢なヘルモーズと呼ばれるオーディンの息子だった。そこでオーディンの馬スレイプニルが引き出され、ヘルモーズはその馬にまたがって駆け去った。

一方、アースの神々はバルドルの亡骸を取り、海辺へ運んだ。バルドルの船はフリングホルニといい、あらゆる船の中で最も大きかった。神々はこれを海に押し出し、その上でバルドルを火葬しようとしたが、船は少しも動かなかった。そこで巨人の国へ使いを送り、ヒュロッキンという女巨人を呼び寄せた。

ヒュロッキンは狼に乗り、毒蛇を手綱にしてやって来た。彼女がその乗り物から飛び降りると、オーディンは四人の狂戦士を呼んで、それを押さえさせた。だが四人は、狼を倒さなければ押さえておけなかった。ヒュロッキンは船首に歩み寄ると、一押しで船を押し出した。そのため船の下に敷いた丸太から火がほとばしり、大地全体が震えた。トールは怒ってハンマーをつかみ、彼女の頭を叩き割ろうとしたが、神々が皆で彼女の助命を願った。

それからバルドルの亡骸が船に運び上げられた。それを見た妻の、ネプの娘ナンナは、悲しみに胸が張り裂けて死んだ。ナンナも薪の山の上に運ばれ、火が放たれた。トールはそばに立ち、ミョルニルで火葬の火を清めた。その足もとを、リトという小人が走り抜けた。トールは足を突き出して小人を蹴り、火の中へ投げ込んだ。小人は焼け死んだ。

この火葬には、さまざまな種族が集まった。まずオーディンについて言えば、フリッグとワルキューレたち、それに彼のカラスたちが供をしていた。フレイは、グリンブルスティ、またはスリーズルグタンニと呼ばれる猪に引かせた車に乗って来た。ヘイムダルはグルトップという馬に乗り、フレイヤは猫たちに車を引かせて来た。霜の巨人や山の巨人も大勢やって来た。

オーディンはドラウプニルという黄金の腕輪を薪の山に置いた。この腕輪には、九夜ごとに同じ重さの黄金の腕輪が八つ、滴り落ちるという性質があった。バルドルの馬も、馬具をすべてつけたまま薪の山へ引かれていった。

さて、ヘルモーズについて語ろう。彼は九夜にわたり、暗く深い谷々を馬で進んだ。その間何も見えなかったが、やがてギョッル川に着き、ギョッル橋へ馬を乗り入れた。橋は輝く黄金で覆われていた。橋を守っている乙女をモーズグズという。彼女はヘルモーズに名前と家柄を尋ね、前の日には死者の軍勢が五組、橋を渡っていったと言った。『だが、おまえ一人が渡る今も、それに劣らず橋が鳴り響く。それにおまえは死者の顔色をしていない。なぜここで、ヘルへの道を馬で行くのだ』

ヘルモーズは答えた。『バルドルを捜しに、ヘルのもとへ行くのだ。ヘルへの道で、バルドルを見かけなかったか』

彼女は、バルドルはここでギョッル橋を馬で渡ったと答えた。『ヘルへの道は、下へ、北へと続いている』

そこでヘルモーズは馬を進め、ヘルの門まで来た。馬から下りると腹帯を固く締め直し、再びまたがって拍車を当てた。馬は力強く跳び、門のどこにも触れることなく、その上を越えた。

ヘルモーズは館まで馬を進め、馬から下りて広間に入った。そこには兄弟のバルドルが上座に座っていた。ヘルモーズはそこで一夜を過ごした。朝になると、ヘルモーズはヘルに、バルドルを自分と一緒に馬で帰らせてほしいと願い、アースの神々がどれほど泣いているかを語った。だがヘルは、バルドルがそれほど愛されているのか、次のようにして確かめようと言った。

『話に聞くとおりかどうかをな。この世のすべてのものが、生きているものも死んだものも、バルドルのために泣くなら、アースの神々のもとへ帰らせよう。だが誰か一人でも異を唱えるか、泣くのを拒むなら、ヘルのもとにとどまるのだ』

それからヘルモーズは立ち上がった。バルドルは広間の外まで彼を送り、腕輪ドラウプニルを取って、形見としてオーディンに届けさせた。ナンナはフリッグに麻布と、そのほかにも贈り物を送った。フッラには金の指輪を送った。

ヘルモーズは来た道を馬で引き返し、アースガルズに戻ると、見聞きしたことをすべて語った。そこでアースの神々は世界中へ使者を送り、バルドルがヘルから戻れるように泣いてほしいと頼ませた。すべてのものがそのとおりにした。人間も、生き物も、大地も、石も、木も、あらゆる金属も泣いた。おまえも見たことがあろうが、これらのものは、凍てつく寒さから暖かいところへ移ると涙を流すのだ。

使者たちは務めを立派に果たして帰る途中、ある洞窟に女巨人が座っているのを見つけた。女巨人はセックと名乗った。使者たちは、バルドルがヘルから戻れるように泣いてほしいと頼んだ。女巨人は言った。

セックが泣くのは
乾いた涙だ、
バルドルの火葬のためには。
生きていても死んでいても、
あの爺の息子に恩を受けたことはない。
ヘルは手に入れたものを離さずにいるがいい。

人々は、これはラウフェイの息子ロキだったのだろうと言っている。アースの神々の間で、最も多くの悪事を働いた者だ」

50

そこでガングレリが言った。「ロキは、まずバルドルが殺されるようにし、さらにヘルのもとから解き放たれぬようにしたのだから、ずいぶん大きなことをしでかしたものだ。その報いは何か受けたのか。」

ハールが言った。「その報いは受けた。長く身にしみる報いをな。当然のことながら神々がひどく怒ったので、ロキは逃げ出して、とある山に身を隠した。そこに家を建て、家の中からどの方角も見渡せるよう、四つの戸口を設けた。だが昼間はしばしばサケの姿になり、フラーナングの滝と呼ばれるところに隠れていた。そこでロキは、アースの神々が滝の中の自分を捕らえるため、どのような仕掛けを考え出すだろうかと思いを巡らせた。そして家に座っていたとき、亜麻糸を取り、今の網と同じように網目を結んでいった。目の前では火が燃えていた。そのとき、アースの神々がすぐ近くまで来ているのが見えた。オーディンがフリズスキャールヴから、ロキの居場所を見つけたのだ。ロキはすぐさま跳び上がり、網を火に投げ込んで、川へ飛び出した。

アースの神々が家に着くと、誰よりも賢いクヴァシルという者が、最初に中へ入った。そして火の上に、網が燃えて残した灰の跡を見ると、これは魚を捕らえる仕掛けに違いないと悟り、アースの神々にそう告げた。そこで一同は、灰に残った跡からロキの作ったものを見て取り、それを手本に網を作った。網ができあがると、アースの神々は川へ行き、滝に網を投げ入れた。トールが網の一端を持ち、ほかのアースの神々全員がもう一端を持って、網を引いた。ロキは網の先を進み、二つの石の間に身を伏せた。神々はその上を網で引いたが、何か生き物が下にいると気づいた。そこで二度目に滝の上へ行き、網を投げ入れ、その下をくぐれないよう、十分に重いものを結びつけた。するとロキは網の先を泳いだ。だが、海が間近になったのを見ると、網の縁綱を跳び越え、滝へ泳ぎ上った。

今度はアースの神々にも、ロキの行く先が見えた。一同はまた滝の上へ行き、手勢を二手に分けた。トールは川の真ん中を歩いて渡り、こうして皆で海へ向かって進んだ。ロキには二つの道があった。海へ飛び出せば命が危うい。もう一つは、再び網を跳び越えることだった。ロキはそちらを選び、できるかぎり素早く網の縁綱を跳び越えた。トールは手を伸ばしてロキをつかんだが、ロキの体は手の中を滑り、尾のところでようやく手が止まった。このため、サケは尾に近いほうが細いのだ。

こうしてロキは捕らえられ、命の保証も与えられず、とある洞窟へ連れていかれた。神々は三枚の石板を取り、縁を上にして立て、一枚ずつ穴を打ち抜いた。次にロキの息子たち、ヴァーリと、ナリともナルヴィとも呼ばれる者が捕らえられた。アースの神々はヴァーリを狼の姿に変え、ヴァーリは兄弟のナルヴィを引き裂いた。そこでアースの神々はその腸を取り、縁を上にした三枚の石の上にロキを縛りつけた。一枚は肩の下、一枚は腰の下、三枚目は膝の裏の下にある。その縛めは鉄となった。

それからスカジは毒蛇を取り、ロキの顔に毒が滴るよう、その上に吊るした。だが妻のシギュンがそばに立ち、毒の滴の下に鉢を差し出している。鉢がいっぱいになると、シギュンは毒を捨てに行くが、その間は毒がロキの顔に滴る。するとロキは、全大地が震えるほど激しく身をよじる。おまえたちが地震と呼ぶのはこれだ。ロキはラグナロクまで、そこで縛められたまま横たわっている。」

51

そこでガングレリが言った。「ラグナロクについては、どのような出来事が語られているのか。これまで、そのことを聞いたことがない。」

ハールが言った。「大きな出来事が数多く語られている。まず、フィンブルの冬と呼ばれる冬が来る。あらゆる方角から雪が吹きつけ、寒さは厳しく、風は激しい。太陽の恵みも届かない。その冬が三つ続き、間に夏は来ない。だがその前にも三つの冬があり、その間は全世界で大きな戦が起こる。兄弟は欲に駆られて殺し合い、人を殺し、血縁の絆を断つにあたって、父であろうと息子であろうと、誰も容赦しない。『巫女の予言』にはこうある。

兄弟は戦い合い、
互いに命を奪うだろう。
姉妹の子らは
血縁の絆を汚すだろう。
人の世は荒み、
姦淫がはびこる。
斧の時代、剣の時代、
盾は裂け、
風の時代、狼の時代、
やがて世界は崩れ落ちる。

そのとき、大事件と思われることが起きる。狼が太陽を呑み込むのだ。人々には大きな災いと思われるだろう。もう一頭の狼は月を捕らえ、これも大きな害をもたらす。星々は空から消える。さらに、大地と山々がことごとく激しく揺れ、木々は地から根こそぎ抜け、山々は崩れ、あらゆる枷と縛めが砕け、ちぎれる。こうして狼フェンリルが解き放たれる。

すると海が陸地にあふれかかる。ミズガルズの大蛇が巨人の怒りに身をよじり、陸へ上がろうとするからだ。また、ナグルファルという名の船も、つなぎを離れる。この船は死者の爪でできている。そのため、爪を切らぬまま人が死ぬことには、よくよく気をつけねばならない。その者は、ナグルファルを造る材料を大いに増やすことになるからだ。神々も人間も、その船ができあがることなど少しも望んでいない。この海の荒れ狂うさなか、ナグルファルは浮かび出る。これを操る巨人の名はフリュムという。

狼フェンリルは口を大きく開けて進み、下顎は地に、上顎は天に届く。余地があれば、もっと大きく口を開けるだろう。目と鼻の穴からは炎が燃え出る。ミズガルズの大蛇は毒を吐き、空じゅうにも海にもまき散らす。その姿はまことに恐ろしく、狼の片側を進む。

この轟音の中で天が裂け、そこからムスペルの息子たちが馬を駆って来る。スルトが先頭を進み、その前にも後ろにも火が燃え盛る。スルトの剣は非常に優れており、太陽にもまさる光を放つ。一同がビフレストを渡ると、先に話したとおり、橋は崩れ落ちる。ムスペルの子らは、ヴィーグリーズという野へ進む。そこには狼フェンリルとミズガルズの大蛇もやって来る。ロキとフリュムも着き、フリュムには霜の巨人たちが全員つき従い、ロキにはヘルの配下が全員つき従う。だがムスペルの息子たちは、彼らだけで陣を組み、その陣はまばゆく輝く。ヴィーグリーズの野は、どの方角にも百ラストの広さがある。

こうしたことが起きると、ヘイムダルが立ち上がり、ギャラルホルンを力いっぱい吹き鳴らして、神々をことごとく呼び起こす。神々は集まって評議する。次にオーディンはミーミルの泉へ馬を走らせ、自分と味方のためにミーミルの助言を求める。そのときトネリコのユグドラシルが震え、天にも地にも、恐れを抱かぬものは一つもない。

アースの神々とエインヘリヤル全員が武装し、野へ進み出る。先頭を行くオーディンは、黄金の兜と美しい鎖帷子を身につけ、グングニルという槍を携えている。オーディンは狼フェンリルに向かい、トールはその片側を進む。だがトールは、ミズガルズの大蛇と戦うだけで手いっぱいなので、オーディンを助けることができない。フレイはスルトと戦い、激しい打ち合いの末に倒れる。スキールニルに与えた、あの優れた剣を持たぬことが、命取りになるのだ。

このとき、グニパヘリルの前に縛られている犬のガルムも解き放たれている。これはこの上なく恐ろしい怪物だ。ガルムはテュールと戦い、両者は相討ちになる。トールはミズガルズの大蛇を討ち取り、そこから九歩進んだところで、大蛇が吹きかけた毒のため、死んで地に倒れる。狼はオーディンを呑み込み、オーディンはそれで命を落とす。

だがその直後、ヴィーザルが進み出て、狼の下顎を片足で踏みつける。その足には、時の初めから材料を集めてきた靴を履いている。その材料とは、人々が靴の爪先や踵から切り落とす革の端切れだ。だから、アースの神々の力になろうと思う者は、その端切れを捨てるがよい。ヴィーザルは片手で狼の上顎をつかみ、その口を引き裂く。こうして狼は命を落とす。ロキはヘイムダルと戦い、両者は相討ちになる。その後、スルトが大地に火を投げかけ、全世界を焼き尽くす。『巫女の予言』にはこう語られている。

ヘイムダルは高らかに吹く。
角笛は高く掲げられ、
オーディンは語る、
ミーミルの首に。
ユグドラシルの
そびえるトネリコは震え、
老いた大樹はうなり、
巨人は解き放たれる。

アースの神々はどうした。
妖精たちはどうした。
ヨトゥンヘイムはことごとく鳴り響き、
アースの神々は評議の場にいる。
小人たちはうめく、
岩の戸口の前で、
岩壁に住まう賢者たちは。
さらに知りたいか、それともどうか。

フリュムは東から進み来て、
盾を前に掲げる。
ヨルムンガンドは身をよじる、
巨人の怒りに駆られて。
大蛇は波を打ち立て、
鷲は喜びの声を上げる。
青ざめた嘴で死骸を引き裂き、
ナグルファルはつなぎを離れる。

船は東から進み来る。
ムスペルの民は
海を越えて来るだろう。
舵を取るのはロキ。
怪物の子らはそこに
ことごとく狼とともにいる。
彼らの旅の道連れは、
ビューレイストの兄弟だ。

スルトは南から来る、
枝を滅ぼす火を携えて。
その剣から輝き出るのは、
戦の神々の太陽。
岩山はぶつかり鳴り響き、
女巨人たちはよろめく。
人々はヘルへの道を踏み、
天は裂ける。

そのときフリーンに
二度目の悲しみが訪れる。
オーディンが向かうとき、
狼と戦うために。
ベリを倒した輝く者は
スルトへ向かう。
そこでフリッグの愛する者は
倒れるだろう。

オーディンの息子が進む、
狼と戦うために。
ヴィーザルは道を行く、
屍を食らう獣へと。
その手でフヴェズルングの息子の
心臓に
剣を突き立てる。
こうして父の仇は討たれる。

名高い者が歩む、
フロズュンの息子が。
恥を恐れぬ大蛇に
苦しめられながら。
人々はことごとく
住まいを捨て去るだろう、
怒りに駆られて討ち倒すとき、
ミズガルズの守り手が。

太陽は黒くなり、
大地は海に沈む。
空から消える、
明るい星々が。
煙と炎が
荒れ狂い、
高く燃え立つ熱が戯れる、
天そのものに届くまで。

別のところでは、さらにこう語られている。

ヴィーグリーズという名の野で、
戦うために出会う、
スルトと親愛なる神々は。
百ラストの広さがある、
どの方角にも。
そこが彼らに定められた野だ。」

52

そこでガングレリが言った。「全世界が焼け、神々もエインヘリヤルも人間もことごとく死んだあとには、何が残るのか。そなたたちは先ほど、人は誰もが、いずれかの世界で永遠に生きると言ったではないか。」

そこでスリジが答えた。「そのときにも、よい住まいは数多くあり、悪い住まいも数多くある。最もよいのは、天にあるギムレーに住むことだ。また、美酒を楽しみとする者には、ブリミルという館で、よい酒が存分に振る舞われる。その館はオーコールニルに立っている。ニザフィヨッルに立つ、赤い黄金で造られた館もよい。その名をシンドリという。これらの館には、善良で行いの正しい者たちが住むことになる。

ナーストランドには、大きな恐ろしい館があり、戸口は北を向いている。館全体が、枝を編んだ家のように蛇の背骨で編み上げられている。蛇の頭はすべて館の内側を向き、毒を吐く。そのため館の中には毒の川が流れ、誓いを破った者や人殺したちが、その川を歩いて渡る。ここにこう語られているとおりだ。

わたしは館が立つのを知る、
太陽から遠く離れた
ナーストランドに。
戸口は北を向いている。
毒の滴が落ちる、
屋根の明かり取りから中へ。
その館は編まれている、
蛇の背骨で。

そこでは渡らねばならぬ、
激しい流れを、
偽りの誓いを立てた者たちと
人殺したちが。

だが、最もひどいのはフヴェルゲルミルだ。

そこでニーズヘッグは責めさいなむ、
死に果てた者たちの亡骸を。」

53

そこでガングレリが言った。「そのときにも生き残る神々はいるのか。また、大地や天はあるのか。」

ハールが言う。「そのとき大地は海から浮かび上がり、緑に覆われた美しい姿となる。種をまかない畑にも作物が育つ。ヴィーザルとヴァーリは生き残る。海もスルトの炎も二人を損なわず、二人はかつてアースガルズがあったイザヴォッルに住む。そこへトールの息子たち、モージとマグニが来て、ミョルニルを携える。続いてバルドルとヘズがヘルのもとから戻ってくる。皆はともに座って語り合い、自分たちのルーンを思い起こし、かつて起こった出来事や、ミズガルズの大蛇やフェンリル狼について話す。そして草の中に、かつてアースの神々が持っていた黄金の盤上遊戯の駒を見つける。こう語られている。

ヴィーザルとヴァーリは
神々の聖所に住む、
スルトの炎が暗くなるとき。
モージとマグニは
ミョルニルを受け継ぐ、
ヴィングニルの戦いが終わったあとに。

また、ホッドミーミルの森というところには、リーフとリーヴスラシルという二人の人間がスルトの炎を逃れて隠れ、朝露を食べ物とする。この二人から生まれる子孫はたいそう多くなり、世界全体に人が住むようになる。ここにこう語られているとおりだ。

リーフとリーヴスラシル、
この二人は身を隠すだろう、
ホッドミーミルの森に。
朝露を
二人は食べ物とし、
そこから人の世代が生まれ育つ。

もう一つ、おまえが不思議に思うだろうことがある。太陽は自分に劣らず美しい娘を産んでおり、その娘が母の道をたどるのだ。ここにこう語られているとおりだ。

一人の娘を
妖精の光は産む、
フェンリルが彼女を滅ぼす前に。
その乙女は進むだろう、
神々が死ぬとき、
母の通った道を。

だが、さらに先のことまで尋ねられるというなら、おまえのその知恵がどこから来るのか、私にはわからない。世の行く末をこれより先まで語る者を、私は聞いたことがないからだ。さあ、学んだことを役立てるがよい。」

54

その直後、ガングレリは四方から大きな物音がするのを聞き、脇へ目を向けた。さらにあたりを見回すと、自分は平らな野原に立っており、館も城も見えなかった。そこで彼はその場を立ち去って自分の国へ帰り、見聞きした出来事を語った。その話をもとに、人々はこれらの物語を互いに語り伝えた。

一方、アースの者たちは座って話し合い、相談を重ね、彼に語ったこれらの話をすべて思い返した。そして、そこにいた人々やその土地の場所に、先に語られたのと同じ名をつけた。長い年月が過ぎたとき、今語られたアースの神々と、そのとき同じ名を与えられた者たちとは、すべて同一の者だと人々が疑わないようにするためである。そこにはトールと呼ばれた者がおり、それが昔のアースのトールである。