
恐竜肉研究所
恐竜の肉は、どんな肉だったのか
今いる動物 225 種の肉のデータから、恐竜 1,255 種・9 か所の肉を予想。まず今いる動物で、当たるかどうかを確かめました。
表紙の絵:ティラノサウルス・レックスの骨格の 3D 模型を、本物の化石の質感で描いたもの。骨格の 3D:Sellers & Pond (2015) Kinect controlled dinosaur simulations, figshare doi:10.6084/m9.figshare.2008977(CC BY 4.0)
残っていない肉を、今いる動物から予想する
恐竜の肉は残っていない。だから、今いる動物の肉で「体の特徴 → 肉の中身」をコンピュータに学ばせ、当たるか確かめてから恐竜にあてはめた。
- 使う特徴
- 体重・育つ速さ・体温を自分で保てるか・歩き方・水にすむか・食べ物、筋肉の場所と働き
- 使わない
- 動物の名前(恐竜にはあてはめられないから)
研究の流れ
今いる動物の肉
225 種・9,730 個食品の成分表・論文・筋肉のデータ
1特徴から中身を学ぶ
25 種類の成分「木」の方法(質問の枝分かれで答えを出す)
23隠して当てるテスト
当たり具合 0.36〜0.66学習に使わなかった動物でも当たるか
恐竜の特徴を入れる
1,255 種 × 9 か所体重・歩き方・食べ物など
同じしくみで予想
大人・野生・赤身4 つの表のやり方で予想して平均
4予想とお手本の動物
名前と割合つきどの動物をどれだけ参考にしたか
4 つの約束
- 1恐竜にもあてはめられる特徴だけを使う
- 2動物をまるごと隠してテストする
- 3いちばん重い動物を隠しても当たるか試す
- 4お手本にした動物は、名前と割合まで出す
集めたのは、今いる動物の肉のデータ
4 か国の食品成分表・論文・筋肉のデータから、225 種の動物の 9,730 個の数字を集めた。
- 外したデータ
- 乾かして測ったもの 16 個、牧場で飼ったシカなど 93 個
- かたよらない工夫
- ウシのようにデータが多い動物だけが強く効かないよう、1 種ごとの重みをそろえた
データのいちばん多くは日本食品標準成分表から。動物はほ乳類が 193 種で大半
集めたデータ 9,730 個の内訳
動物をまるごと隠して、当たるか試す
1 種類の動物のデータは全部まとめて隠す。コンピュータが「見たことのない動物」を当てられるかを試すため。
- 「木」の方法
- 「はい・いいえ」の枝分かれをたくさん組み合わせて答えを出すやり方。25 成分のうち 20 成分で、直線の式(リッジ回帰)より当たった
5 つのグループに分けて、1 組ずつ隠す
やり方を表した図です(動物の名前は例)
グループ 1
ウシノロジカニワトリグループ 3
ウマアカシカスッポングループ 4
ヒツジキジダチョウグループ 5
ウサギヒグマウシガエル見たことのない動物を、どこまで当てられたか
よく当たった成分の「当たり具合」は 0.36〜0.66。名前を使わずに当てたにしては、まずまずの強さ。
- 当たり具合(相関 r)
- 予想と本当の値が、いっしょに上がり下がりするかを表す数。1 ならぴったり、0 ならでたらめ
- 灰色の棒
- 0.36 より小さい成分。このページでは大きく取り上げない。グリシン(アミノ酸の一つ)は当たらないので使っていない
よく当たった成分は 15 個(当たり具合 0.36 以上)
成分ごとの当たり具合
すべての成分の数字を表で見る
| 成分 | 当たり具合 r | 動物の種類 | データの行 | ずれ(RMSE) | ばらつき(SD) | ずれ ÷ ばらつき | 方法 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| n-6 系(脂の中の %) | 0.66 | 19 | 54 | 7.01 | 9.03 | 0.78 | ランダムフォレスト |
| 灰分(ミネラル)(g/100g) | 0.62 | 33 | 45 | 0.28 | 0.36 | 0.79 | 勾配ブースティング |
| 赤い筋肉(遅い繊維)(%) | 0.60 | 172 | 2,099 | 20.1 | 25.1 | 0.80 | エクストラツリー |
| DHA(脂の中の %) | 0.57 | 35 | 108 | 1.67 | 2.00 | 0.84 | エクストラツリー |
| リノール酸(脂の中の %) | 0.56 | 40 | 98 | 6.38 | 7.56 | 0.84 | ランダムフォレスト |
| 飽和脂肪酸(脂の中の %) | 0.53 | 36 | 94 | 6.49 | 7.44 | 0.87 | ランダムフォレスト |
| たんぱく質(g/100g) | 0.52 | 68 | 154 | 2.13 | 2.43 | 0.88 | エクストラツリー |
| 亜鉛(mg/100g) | 0.50 | 34 | 109 | 1.11 | 1.28 | 0.87 | エクストラツリー |
| グルタミン酸(総量)(mg/100g) | 0.44 | 30 | 76 | 403 | 421 | 0.96 | エクストラツリー |
| 多価不飽和脂肪酸(脂の中の %) | 0.42 | 36 | 93 | 11.2 | 11.4 | 0.98 | エクストラツリー |
| 水分(g/100g) | 0.42 | 68 | 152 | 5.01 | 5.50 | 0.91 | エクストラツリー |
| 脂質(g/100g) | 0.40 | 68 | 160 | 6.45 | 6.98 | 0.92 | エクストラツリー |
| アスパラギン酸(mg/100g) | 0.38 | 16 | 46 | 268 | 274 | 0.98 | 勾配ブースティング |
| n-3 系(脂の中の %) | 0.37 | 19 | 54 | 4.94 | 5.28 | 0.94 | エクストラツリー |
| 鉄(mg/100g) | 0.36 | 40 | 110 | 1.67 | 1.55 | 1.08 | エクストラツリー |
| 一価不飽和脂肪酸(脂の中の %) | 0.34 | 36 | 94 | 9.79 | 9.90 | 0.99 | エクストラツリー |
| アラキドン酸(脂の中の %) | 0.33 | 36 | 93 | 2.76 | 2.66 | 1.04 | ランダムフォレスト |
| EPA(脂の中の %) | 0.31 | 34 | 107 | 1.42 | 1.48 | 0.96 | エクストラツリー |
| プロリン(mg/100g) | 0.29 | 30 | 76 | 148 | 147 | 1.01 | エクストラツリー |
| ヒスチジン(mg/100g) | 0.20 | 30 | 76 | 171 | 168 | 1.02 | エクストラツリー |
| ビタミン B12(µg/100g) | 0.17 | 27 | 73 | 1.54 | 1.48 | 1.04 | ランダムフォレスト |
| コレステロール(mg/100g) | 0.14 | 34 | 83 | 17.5 | 16.6 | 1.05 | ランダムフォレスト |
| ヒドロキシプロリン(mg/100g) | 0.11 | 11 | 43 | 150 | 123 | 1.22 | 勾配ブースティング |
| α-リノレン酸(脂の中の %) | 0.10 | 42 | 118 | 3.62 | 3.13 | 1.16 | 勾配ブースティング |
| グリシン(mg/100g) | −0.05 | 30 | 76 | 224 | 212 | 1.05 | ランダムフォレスト |
とても重い動物を隠しても、当てられるか
恐竜はとても重い。そこで重い動物 20% を隠し、軽い動物だけで学んでも、12 成分すべてで「平均を答えるだけ」より当たった。
- 隠した動物
- 成分ごとに重い方から 20%(いちばん重くて 7.5 t)。4〜13 種と少ないので、数字はぶれやすい
- 別の方法では
- 直線の式(リッジ回帰)は、恐竜に使うと「脂の 100% をこえる」など、ありえない答えを出した
重い動物を隠しても、12 成分すべてで「平均を答えるだけ」より当たった
重い動物を隠して当てたときのずれ
当たり具合は、成分によって上がったり下がったりした
部位のちがいと言えるのは、赤い筋肉の割合だけ
恐竜と同じ条件にそろえると、部位のちがいは脂では 7%、鉄では 14% しか残らない。赤い筋肉(遅い繊維)の割合だけは 58% 残る。
- 遅い繊維
- 長く動き続けるための赤い筋肉。多いほど赤い肉になる
- なぜ消える?
- 食品の表は、部位ごとに赤身か脂身つきかなど測り方がちがい、部位の差と見分けられないから
部位の差として言えるのは、赤い筋肉の割合だけ(58% 残る)
今の動物の、部位ごとのばらつき(SD)を 100% としたとき、恐竜と同じ条件の予想に残る割合
4 本足は首が赤く、2 本足はももが赤い
4 本足の恐竜は首(48%)、2 本足の恐竜はもも(52%)がいちばん赤い肉になる。
- 注意
- データにいる 2 本足の動物はヒトだけ。ティラノのなかまの値は 62% をヒトから借りている
4 本足は首(48%)、2 本足はもも(52%)がいちばん赤い
予想した恐竜の真ん中の値(中央値)。右ほど赤い肉
1 トンをこえると、予想は同じ値になる
体重 1 t をこえる恐竜 649 種では、予想がいくつかの同じ値にそろってしまう。「大きいほど○○」とは言えない。
- なぜ?
- データでいちばん重い動物は 7.5 t(ミンククジラ)。それより重いと、いちばん端の動物の値を使うしかない
- 3 つのなかま
- 鳥盤類=トリケラトプスなど、竜脚形類=首の長い大型恐竜、獣脚類=ティラノなど肉食
1 t をこえると点が横一列に並ぶ=予想が同じ値になる
体重と、もも肉の予想(恐竜 1,255 種)・1 つの点が恐竜 1 種。点にさわると名前と数
予想がお手本にしている、今いる動物
恐竜のなかまごとのちがいの一部は、お手本にした今の動物から来ている。
- なぜ?
- データの「体温を自分で保てない動物」は全部水辺の動物、2 本足はほぼニワトリなど、筋肉のデータの 2 本足はヒトだけだから
なかまの差の一部は、特定の今の動物から借りている
赤い棒=かたよりの元になっている動物(水辺の動物・ニワトリなど・ヒト)、灰色=ほかの動物
鳥盤類の DHA
イグアノドンやカモノハシ竜のなかま
鳥盤類の鉄
小さな鳥盤類。水辺の動物 3 種で合わせて 19%
獣脚類の n-6 系
ティラノのなかま。データの鳥は穀物を食べたニワトリなどが多い
獣脚類の赤い筋肉
ティラノのなかま
「〇〇の肉に近い」は、「同じ」ではない
いちばん近い今の肉でも、使われた割合は真ん中の値で 7.7%(多くて 22%)。残りはたくさんの動物から少しずつ。
いちばん近い肉でも 7.7%
残りの 92.3% は、たくさんの動物から少しずつ
- 野生の動物が多い理由
- 恐竜は全部「大人・野生・赤身」として予想しているから。似ている相手はノロジカやマガモなど
いちばん近い今の肉でも、使われた割合は 6.0〜13.1%
いちばんよく使われた今の肉 3 つと、その他
- ノロジカ(もも(半膜様筋))6.0%
- ヒグマ(もも(半膜様筋))4.9%
- ダチョウ(もも)4.4%
- その他85%
- ノロジカ(もも(半膜様筋))8.9%
- アカシカ(もも(半膜様筋))7.8%
- アオウミガメ(部位を混ぜた値)5.7%
- その他78%
- ノロジカ(もも(半膜様筋))13.1%
- アカシカ(もも(半膜様筋))9.6%
- ワタオウサギ(部位を混ぜた値)4.5%
- その他73%
- ノロジカ(もも(半膜様筋))8.2%
- マガモ・アヒル(胸(野生))4.9%
- ワタオウサギ(部位を混ぜた値)4.5%
- その他82%
ティラノサウルスの、もも肉 100 g
たんぱく質 22.3 g、脂 3.74 g。植物を食べる恐竜より脂が多く、亜鉛は少なめ。
- くらべると
- 脂 3.85 対 1.70〜1.79 g、亜鉛 1.81 対 3.06 mg(肉食の恐竜 対 植物を食べる恐竜)
- グルタミン酸
- たんぱく質にふくまれる全部の量。うま味のもと(遊離グルタミン酸)とは別
ティラノサウルス
Tyrannosaurus rex9.2 t 1 t こえ:大きさの効き目は止まるもも肉 100 g あたり
赤い筋肉の割合(部位ごと・%)
いちばんよく使われた今の肉
- ノロジカもも(半膜様筋)6.0%
- ヒグマもも(半膜様筋)4.9%
- ダチョウもも4.4%
体の大きさがちがっても、同じ答えになることがある
トリケラトプス(11 t)とブラキオサウルス(58 t)のもも肉は、5 つの成分の差が 5.6% 以内。どちらも 1 t をこえて、予想が横ばいだから。
- ヴェロキラプトル
- 13 kg と軽いので、体の大きさの効き目が入っている
トリケラトプスとブラキオサウルス(赤)は、どの成分もほぼ同じ高さ
高さは、成分ごとに 4 種でいちばん高い値を 100% にしたもの。赤は予想が横ばいの 2 種
たんぱく質g/100g
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
脂質g/100g
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
グルタミン酸(総量)mg/100g
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
亜鉛mg/100g
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
鉄mg/100g
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
赤い筋肉%
9.2 tトリケラ
11 tブラキオ
58 tヴェロキ
13 kg
なかまごとのもも肉(真ん中の値)の表を見る
鳥盤類 424 種・竜脚形類 366 種・獣脚類 465 種。赤い字は、ほかのなかまと 25% 以上ちがう数
| 成分 | 当たり具合 r | 鳥盤類 | 竜脚形類 | 獣脚類 |
|---|---|---|---|---|
| 脂質g/100g | 0.40 | 1.79 | 1.70 | 3.85 |
| 水分g/100g | 0.42 | 74.2 | 73.1 | 72.3 |
| たんぱく質g/100g | 0.52 | 21.7 | 21.7 | 22.3 |
| 鉄mg/100g | 0.36 | 2.46 | 2.46 | 2.23 |
| 亜鉛mg/100g | 0.50 | 3.06 | 3.06 | 1.81 |
| グルタミン酸(総量)mg/100g | 0.44 | 3,293 | 3,299 | 3,267 |
| 飽和脂肪酸脂の中の % | 0.53 | 36.1 | 36.1 | 32.6 |
| n-6 系脂の中の % | 0.66 | 7.62 | 7.57 | 22.3 |
| DHA脂の中の % | 0.57 | 2.00 | 0.57 | 0.44 |
| 赤い筋肉(遅い繊維)% | 0.60 | 21.2 | 22.2 | 51.9 |
決めきれない前提で、答えはどれだけ変わる?
体温を保てたか、何を食べたかなどは決めきれない。前提を 1 つずつ変えると、魚の油の成分 DHA は +405%、n-3 系の脂は +1,913% も動いた。
- 動いた大きさ
- 前提を変えて予想が変わったデータの、変化の真ん中の値
- n-3 系
- 確かめられた動物が 19 種と少ない(当たり具合 0.37)
DHA は +405%、n-3 系は +1,913%:前提しだいで大きく動く成分がある
棒の長さは変化の大きさ(目もりは 10 倍ずつ)
まだ言えないことも、先に伝えておく
ここの数字は、全部「今いる動物から計算した予想」。本物の恐竜の肉を測った数ではない。
この研究ではまだ言えないこと
1 t をこえる大きな体の効き目
そんなに大きな陸の動物の肉のデータが無い。予想はデータでいちばん重い動物(ミンククジラ・ウシ・ウマ)で止まる。
脂や鉄の部位ごとのちがい
食品の表では、部位と測り方(赤身かどうか)がまざっている。部位の差と言えるのは赤い筋肉の割合だけ。
陸でくらす、体温を保てない動物
トカゲやリクガメの肉のデータが無い。は虫類型の予想は、ワニ・ウミガメ・スッポン・ウシガエルから借りている。
成分どうしの足し算
成分ごとに別々に予想している。そのため、DHA をふくむはずの n-3 系が DHA より小さくなる行が 11,295 行中 8,086 行ある。
飼われた恐竜や脂ののった肉
予想はすべて「大人・野生・赤身」の肉として計算している。
おいしさの点数
予想しているのは肉の中身。中身と味の点数をたくさんの動物でくらべたデータはまだ無い。
もとになった論文と技術ノート
What kind of meat was a dinosaur? Predicting muscle composition from animal and muscle traits, tested by hiding whole species
著者:山本 覚(Satoru Yamamoto)・Independent Researcher, Japan
このページの数字は、論文 v10(2026 年 10 月)と、その計算結果のファイルから自動で作っています。論文はプレプリント(査読前論文)の置き場 PaleorXiv に出して、公開の確認を待っているところです。論文の番号(DOI)はまだ無く、公開したらここに引用のしかたを載せます。データと計算の台本の束は、先に公開しています(DOI 10.5281/zenodo.23122763・Zenodo で見る)。