第1日の記録
第1日。
私は狭い部屋の机で、薄い冊子を開いたまま困り果てている。
部屋の電球を取り替えたり、掲示板の画鋲を直したりする雑用係の私に、おかしな仕事が回ってきたのだ。
「読まれなかった世界の灯りを、毎晩一つずつ消すこと」
冊子――手順書には、ただそれだけが淡々と並んでいた。
差出人の名前はない。
ここには同じ一人の人間が、別々の姿で生きているたくさんの部屋があるらしい。
焦がした卵焼きを前に笑う父親や、空を見上げる宇宙人や、小さな犬の朝。
ページをめくると、九十七行の短い言いつけがばらばらに並んでいた。
「あの子の足を止めないこと」
「大きな声で急かさないこと」
どれも、誰かに宛てた不器用な走り書きのようだ。
そして手順書の受取予定には、こう記されていた。
十六日目に知らせの別紙、二十九日目の夜に差出人の別紙が届く、と。
最後の頁は、真っ白なままだ。
こんな他人の暮らしを、私が勝手に消していいはずがない。
胸の奥が、冷たい水に入ったみたいに落ち着かない。
まだ誰も消していないのに、指先がかすかに震えている。
明日、最初の知らせを届ける。